『宇宙大作戦』の「うんちく」集!時代を50年先取りしたスタートレック製作秘話とトリビア
「宇宙大作戦」の概要
『宇宙大作戦』(原題: Star Trek) は、1966年から1969年にかけてアメリカで放送されたSFテレビドラマです。
これは、現在も続く壮大な「スタートレック」フランチャイズの記念すべき第1作目にあたります。
日本では『宇宙大作戦』のタイトルで親しまれ、カーク船長、ミスター・スポック、ドクター・マッコイ(ボーンズ)ら、宇宙船エンタープライズ号のクルーが「人類未踏の宇宙」へ探検の旅に出る物語が描かれました。
放送当時は視聴率に恵まれず3シーズンで終了しましたが、その先進的な内容と製作の裏には、現代の私たちも驚くような多くの「うんちく」が隠されています。
「宇宙大作戦」の詳細と製作秘話
『宇宙大作戦』、すなわち『スタートレック:オリジナルシリーズ(TOS)』を深く知るための、ファン必見のトリビアや製作秘話を紹介します。
シーズン3を生んだ「ファンレター運動」
『宇宙大作戦』は、放送当時、視聴率の低迷に苦しんでいました。
第2シーズンの終了後、放送局のNBCは打ち切りを決定していました。
しかし、この決定を知った熱狂的なファン(後に「トレッキー」と呼ばれる)が、前代未聞の行動を起こします。
SFファンのベティ・ジョー・トリンブル夫妻が中心となり、「Save Star Trek(スタートレックを救え)」と銘打った大規模なファンレター運動を展開したのです。
何万通(一説には十数万通)もの抗議と嘆願の手紙がNBCに殺到しました。
このファンの熱意に押され、NBCは異例の決定を下し、第3シーズンの製作を決定しました。
ファンの力で打ち切りを覆したという事実は、テレビ史上でも伝説的な「うんちく」として知られています。
「知的すぎる」と却下された最初のパイロット版
『宇宙大作戦』には、私たちが知るカーク船長以前の、幻の第1話が存在します。
1965年に製作された最初のパイロット版「歪んだ楽園(The Cage)」の主人公は、ジェフリー・ハンター演じるクリストファー・パイク船長でした。
しかし、NBCの重役たちはこのパイロット版を見て、「知的すぎる」「アクションが足りない」「視聴者に理解されにくい」として却下しました。
唯一、レナード・ニモイ演じるミスター・スポックだけがキャラクターとして残り、カーク船長(ウィリアム・シャトナー)を主人公とする新しいパイロット版が製作され、本放送に至りました。
この「歪んだ楽園」の映像は、後にシーズン1の「タロス星の幻怪人」のエピソード内で、パイク船長の過去の回想として巧みに再利用されました。
予算削減が生んだ「転送装置」
スタートレックの象徴的なガジェットである「転送装置」。
クルーが一瞬で惑星の地表に移動するこの技術は、実は製作予算の都合から生まれた「うんちく」です。
当初の脚本では、エンタープライズ号から小型のシャトルクラフトが発進し、惑星に着陸するシークエンスが想定されていました。
しかし、毎回シャトルが着陸する特撮シーンを製作するのは、当時のテレビドラマの予算では莫大なコストがかかります。
この問題を解決するために、生みの親であるジーン・ロッデンベリーが「低コストでクルーを地上に送る方法」として考案したのが、転送(ビームイン・ビームアウト)だったのです。
スポックの「バルカン殺法」誕生秘話
スポックが相手の首筋に手を当てて気絶させる「バルカン・ネック・ピンチ(バルカン殺法)」。
これも、俳優レナード・ニモイの提案から生まれました。
あるエピソードの脚本で、スポックが敵を殴り倒すシーンが予定されていました。
しかしニモイは、「スポックは高度な知性と論理を持つバルカン人であり、野蛮な暴力は振るわないはずだ」と監督に抗議しました。
そして、暴力的ではなく、かつバルカン人らしい効率的な制圧方法として、彼自身がこの「ネック・ピンチ」を考案し、実演してみせたのです。
テレビ史上初の人種間キス
『宇宙大作戦』が持つ先進性を示す最も有名な「うんちく」が、シーズン3「イオン嵐の恐怖」でのワンシーンです。
このエピソードで、カーク船長(白人男性)とウフーラ(黒人女性)がキスをするシーンが描かれました。
これは、アメリカのテレビドラマ史上、白人キャラクターと黒人キャラクターによる初めてのキスシーンとして知られています。
1960年代後半は、まだ人種差別が根強く残る時代でした。
このシーンは非常に画期的であり、大きな論争を巻き起こす可能性がありました。
実際、放送局の一部(特に南部)では、このシーンがカットされたり、放送自体が見送られたりしました。
ウフーラ役のニシェル・ニコルズは、このシーンを「テレビの歴史を作った」と誇りに思っていたと語っています。
未来を予言した小道具たち
『宇宙大作戦』には、現代の私たちが当たり前に使っている技術を予見したような小道具が多数登場します。
クルーが使用する「コミュニケーター」は、明らかに携帯電話やスマートフォンの原型です。
また、医療室で使われる診断装置や、スポックが使うデータ閲覧用パッドはタブレット端末を彷彿とさせます。
エンタープライズ号の艦橋にある「自動ドア」は、当時は未来の象徴でしたが、撮影現場ではスタッフがドアの陰に隠れ、役者のタイミングに合わせて手動で開閉していたという、微笑ましい「うんちく」も残っています。
参考動画
まとめ
『宇宙大作戦』は、放送当時は低視聴率により3年で終了という不遇の作品でした。
しかし、その真の価値は、放送終了後の再放送で花開きます。
1960年代という冷戦と社会不安の時代に、人種、性別、出身惑星の垣根を超えた多様なクルーが「人類の未来」という理想を共有し、宇宙を探検する姿は、多くの人々に希望を与えました。
本作が提示した「多様性の尊重」や「未知との平和的接触」というテーマは、放送から半世紀以上が経過した現代社会においても、全く色褪せることがありません。
本作の「うんちく」は、単なるトリビアに留まらず、当時の製作陣がいかに困難な状況で革新的な作品を生み出そうと奮闘したかの記録でもあるのです。
関連トピック
新スタートレック (Star Trek: The Next Generation)
『宇宙大作戦』の約100年後を描いた続編シリーズです。
ピカード艦長が指揮する新しいエンタープライズ号の活躍を描き、TOSを超える人気を博しました。
トレッキー (Trekkie)
『スタートレック』シリーズの熱狂的なファンの総称です。
前述のファンレター運動を筆頭に、作品の存続と発展に多大な影響を与えてきた存在です。
ジーン・ロッデンベリー (Gene Roddenberry)
『スタートレック』の生みの親であり、製作総指揮者です。
「人類の肯定的な未来」を描くという彼のヒューマニズムに満ちたビジョンが、シリーズ全体の根幹となっています。
J・J・エイブラムス版スタートレック (ケルヴィン・タイムライン)
2009年から始まったリブート映画シリーズです。
『宇宙大作戦』の若き日のクルーたちを新たな解釈で描いた作品群で、クリス・パインがカークを、ザカリー・クイントがスポックを演じました。
関連資料
宇宙大作戦 コンプリート・シーズン (Blu-ray / DVD)
デジタルリマスターによって映像と特撮(CGI)が一新されたバージョンです。
当時のオリジナル映像と切り替えて視聴できる機能も搭載されており、「うんちく」好きにはたまりません。
スタートレック大図鑑 (書籍)
シリーズ全体の膨大な設定、年表、宇宙船のデータを網羅した公式の資料集です。
各作品の背景を知る上で欠かせない一冊です。
エンタープライズ号 NCC-1701 (プラモデル / 完成品モデル)
『宇宙大作戦』に登場した初代エンタープライズ号の模型です。
その時代を超えた美しいデザインは、今なお多くのファンを魅了しています。

