【神回】『電撃スパイ作戦』「見えない敵 (The Invisible Man)」徹底解説!透明人間の驚愕の正体と「超感覚」バトルの結末
エピソード「The Invisible Man」の概要
1960年代の英国SFスパイドラマ『電撃スパイ作戦(The Champions)』の中でも、SFファンやミステリーファンから特に評価が高いエピソードが、この「見えない敵(原題:The Invisible Man)」です。
ロンドンの銀行で次々と発生する不可解な強盗事件。犯人の姿は監視カメラにも映らず、警報装置も反応しない――。まさに「透明人間」の仕業としか思えない難事件に、ネメシスの超能力エージェントたちが挑みます。
本記事では、古典的なテーマをITC独自のユニークな解釈で描いた本エピソードのあらすじ、犯人のトリック(正体)、そして主人公たちの特殊能力がいかにして見えない敵を追い詰めたのか、その見どころを徹底解説します。
「見えない敵」の詳細と見どころ
ロンドンを震撼させる「見えない強盗」
物語は、ロンドンの金融街シティで発生した奇妙な銀行強盗から幕を開けます。
厳重な警備システムが敷かれた地下金庫から、大量の金塊や紙幣が盗み出されますが、警報は一切鳴らず、閉鎖された金庫の扉が開けられた形跡もありません。唯一の手がかりは、現場に残された「風」のような痕跡と、奇妙な高周波音だけ。
英国警察(スコットランドヤード)はお手上げ状態となり、国際秘密機関ネメシスに捜査協力が要請されます。クレイグ、シャロン、リチャードの3人は現地へ飛び、捜査を開始しますが、彼らの目の前でも新たな犯行が行われてしまいます。
犯人の正体と驚愕のトリック
タイトルの「見えない敵」から、多くの視聴者はH.G.ウェルズのような「光学迷彩(光を屈折させて見えなくなる)」タイプの透明人間を想像します。しかし、このエピソードの秀逸な点は、その予想を裏切るSF的なトリックにあります。
犯人の正体は、優秀な科学者サムナー。彼は、人間の代謝機能を極限まで高め、「常人の目には止まって見えないほどの超高速で移動する」技術を開発していたのです。
つまり、彼は透明になっていたのではなく、あまりにも速すぎて人間の網膜が捉えきれなかっただけでした。監視カメラのフレームレートすらも超越するスピードで動き、警報センサーが反応する前に通り過ぎていたのです。この「加速装置」的な設定は、後の『サイボーグ009』や『仮面ライダーカブト(クロックアップ)』にも通じる先駆的なアイデアでした。
超能力(ESP)vs 科学(加速)
通常の人間には決して捕まえられないこの敵に対し、ネメシスの3人はどう立ち向かったのか。ここが最大の見どころです。
彼らはチベットで授かった「超感覚」をフル活用します。
- 超聴覚: クレイグたちは、犯人が高速移動する際に発する特有の「キーン」という高周波音(代謝亢進による心音や風切り音)を、通常の人間には聞こえない距離から探知します。
- 超反射神経: 視覚では捉えられなくても、研ぎ澄まされた第六感と反射神経で、見えない敵の攻撃を回避し、居場所を特定していきます。
特にクライマックスの攻防戦は圧巻です。目に見えない敵に殴られながらも、音と空気の流れを読んで反撃に出るクレイグのアクションは、スパイアクション史に残る名シーンと言えるでしょう。
「力」の代償と悲劇的な結末
ITC作品らしいビターな結末も印象的です。
犯人のサムナーは、根っからの悪人というよりは、研究資金に行き詰まり、自らの発明に溺れてしまった悲しき科学者として描かれています。
超高速移動は心臓に凄まじい負担をかけるため、彼は常に心臓発作のリスクと隣り合わせでした。ネメシスの追跡により追い詰められた彼は、限界を超えて能力を使用し続け、最後にはその「速すぎる世界」の中で自滅してしまいます。
「過ぎたる力は身を滅ぼす」というテーマは、超能力を持つ主人公たちへの警鐘とも重なり、深い余韻を残します。
演出と特殊効果の妙
CGのない1960年代において、「超高速移動」をどう表現したかという特撮技術も見逃せません。
カメラの早回しや、犯人視点での主観映像(周囲がスローモーションに見える演出)を駆使し、低予算ながらも効果的に「見えない恐怖」を演出しています。また、犯人が近づくと聞こえる不快なノイズ音は、視聴者の不安を煽る優れたサウンドデザインでした。
参考動画
まとめ
エピソード「見えない敵」は、単なる透明人間モノではなく、「時間の概念」を取り入れた傑作SFミステリーでした。
科学の力で神の領域(超スピード)に踏み込んだ犯人と、修行によって神の領域(超能力)に達した主人公たち。似て非なる「超人」同士の対決は、シリーズの中でも屈指の緊張感を誇ります。
広川太一郎氏の名吹き替えとともに、今なお色褪せない英国ドラマの真髄をぜひ味わってください。
関連トピック
加速装置: 『サイボーグ009』などに登場する能力。本エピソードの「高速で動くことで見えなくなる」という設定と類似している。
H.G.ウェルズ: 小説『透明人間』の作者。本エピソードは、ウェルズ的な光学迷彩へのアンチテーゼとも取れる。
特撮技術(VFX): 60年代のドラマにおける視覚効果。フィルムのコマ数調整など、アナログな手法で超常現象を表現していた。
ITCミステリー: 『セイント 天国野郎』や『男爵』など、同時代にITCが制作した一連のミステリー・アクション作品群。
関連資料
DVD『電撃スパイ作戦 コレクターズBOX』: 本エピソードを含む全話を収録。
書籍『SFドラマの特殊効果史』: 60年代英国ドラマにおける視覚効果の工夫を解説した専門書。
ロケ地ガイド: ロンドン・シティ周辺など、ドラマの舞台となった場所を紹介するファンサイトや資料。

