『グリーン・ホーネット』第10話「火を吐く空手」徹底解説!ブルース・リーVSマコ岩松、テレビ史に残る伝説の死闘
第10話「火を吐く空手」の概要
1966年11月18日に放送された『グリーン・ホーネット』第10話「火を吐く空手(原題:The Preying Mantis)」は、全26話あるシリーズの中でも、ブルース・リーのファンにとって「最高傑作」と謳われる伝説のエピソードです。
通常の回では、カトー(ブルース・リー)がチンピラたちを一方的に叩きのめすシーンがほとんどですが、この第10話だけは違います。
敵役として登場するのは、後にハリウッドで確固たる地位を築く名優マコ(マコ・岩松)。
彼が演じる武術の達人とカトーが繰り広げる一騎打ちは、当時のアメリカのテレビドラマの常識を遥かに超えた、本格的なマーシャルアーツ・コリオグラフィー(殺陣)でした。
本記事では、なぜこのエピソードが「神回」と呼ばれるのか、そのストーリーの詳細から、マコとブルース・リーの関係性、そして映像に隠された武術的な見どころまでを徹底的に解説します。
第10話の詳細と見どころ解説
エピソードのあらすじ:チャイナタウンの支配権を巡る抗争
舞台は、チャイナタウン。暗黒街のボスであるデューク・スラヴィックは、この地区での保護料(みかじめ料)徴収を独占しようと画策していましたが、地元の組織「チャイニーズ・トング(秘密結社)」の抵抗に遭い、手を焼いていました。
そこでスラヴィックは、トングを力でねじ伏せるために、香港から一人の男を呼び寄せます。
その男の名はロウ・シング(Low Sing)。
小柄ながら「カマキリ拳法(蟷螂拳)」の使い手である彼は、トングの代表者を決闘で次々と葬り去り、チャイナタウンを恐怖で支配し始めます。
ブリット・リード(グリーン・ホーネット)は、この事態を重く見ますが、うかつに手を出せばチャイナタウン全体を敵に回すことになりかねません。
そこで彼は、グリーン・ホーネットとしてスラヴィックの組織に介入し、ロウ・シングと対峙することになります。
このエピソードの白眉は、物語のクライマックスで訪れる「カトー対ロウ・シング」の直接対決です。
カトーの詠春拳と、ロウ・シングの蟷螂拳。
異なるスタイルを持つ二人の達人が、互いのプライドと命を懸けて激突します。
レジェンド同士の競演:ブルース・リーとマコ岩松
このエピソードを特別なものにしている最大の要因は、ゲストスターであるマコ(マコ・岩松)の存在です。
日本生まれの日系アメリカ人である彼は、この放送と同じ1966年に公開された映画『砲艦サンパブロ』でスティーブ・マックイーンと共演し、アカデミー助演男優賞にノミネートされるという快挙を成し遂げていました。
当時、アジア系俳優がこれほど高い評価を受けることは奇跡的であり、マコはまさに「アジア系俳優の星」でした。
そんな実力派俳優マコと、これからスターになろうとするブルース・リーの共演は、単なるアクションシーン以上の緊張感を画面にもたらしました。
二人は私生活でも親交があり、互いにリスペクトし合う仲でした。
だからこそ、撮影における殺陣の息もぴったりで、テレビドラマとは思えないほどのスピードと技術の応酬が実現したのです。
ちなみに邦題では「火を吐く空手」となっていますが、劇中でマコが使うのは中国武術の「蟷螂拳(マンティス・スタイル)」であり、空手ではありません。当時の日本では格闘技といえば「空手」という認識が一般的だったための意訳と言えます。
武術的見どころ:詠春拳 VS 蟷螂拳
ブルース・リーがこのエピソードの殺陣(コレオグラフィー)に込めたこだわりは並々ならぬものでした。
通常、アメリカのアクションドラマでは「派手な殴り合い」が好まれますが、リーはこの回で「武術の理合い」を見せようとしました。
- 構えのリアリティ: ロウ・シング(マコ)は、両手をカマキリの鎌のように曲げる独特の構え(蟷螂手)を取り、カトー(リー)は正中線を守る詠春拳の構えを取ります。この対比だけで、武術ファンは興奮を禁じ得ません。
- 攻防の一体化: お互いの腕が接触した瞬間、離れずに相手の動きを封じたり、崩したりする「チーサオ(黐手)」のような攻防が見られます。
- 決着の鮮やかさ: 力任せのパンチではなく、相手の死角を突く、あるいは急所を狙うという、東洋武術特有の決着のつけ方が描かれています。
マコ自身は武術の専門家ではありませんでしたが、リーの指導の下、驚くべき身体能力と演技力で「達人」のオーラを見事に表現しました。
カトーが初めて「強敵」と認め、本気で戦ったこの戦いは、後の『燃えよドラゴン』などの映画で見せるファイトシーンの原点とも言えるでしょう。
ドラマの裏側と社会的意義
1960年代のアメリカのテレビで、アジア人同士がメインのストーリーラインで戦い、しかもそれが「カンフー」であるというシチュエーションは極めて異例でした。
通常であれば、白人の主役が最後に悪党を倒して終わるところを、このエピソードでは完全にカトー(とロウ・シング)が主役を食っています。
主役のブリット・リードを演じたヴァン・ウィリアムズも、ブルース・リーの才能を高く評価しており、彼が目立つことを快く受け入れていました。
この第10話は、「アジアのアクションは金になる」「観客はこれを求めている」という事実をハリウッドの製作者たちに知らしめ、後のカンフー映画ブームへの種を蒔いた重要な転換点だったのです。
第10話「火を吐く空手」の参考動画
まとめ
『グリーン・ホーネット』第10話「火を吐く空手」は、単なる娯楽アクションの枠を超え、映画史的な価値を持つエピソードです。
若き日のブルース・リーが見せるキレのある動きはもちろん、名優マコ・岩松の重厚な演技、そして二人が織りなす緊張感あふれる決闘シーンは、半世紀以上経った今も色褪せることがありません。
CGもワイヤーアクションもない、生身の人間同士がぶつかり合う「本物」の迫力。
もし『グリーン・ホーネット』の中から1話だけ選んで見るとしたら、間違いなくこの第10話をおすすめします。
それは、伝説のドラゴンが覚醒した瞬間を目撃することにほかならないからです。
関連トピック
マコ岩松 (Mako): 日本生まれの俳優。本作出演時には既にアカデミー賞候補となる実力派。後に『コナン・ザ・グレート』や『太平洋の地獄』など多数の名作に出演。
蟷螂拳 (Prayer Mantis Kung Fu): 中国武術の一派。カマキリが獲物を捕らえる動きを模した、素早い手技と独特の歩法が特徴。
詠春拳 (Wing Chun): ブルース・リーが習得していた南派少林拳の一種。最短距離での攻撃と防御を同時に行う実戦的な武術。
チャイニーズ・トング: 19世紀から20世紀にかけてアメリカのチャイナタウンに実在した秘密結社や自警団のこと。
ジークンドー (Jeet Kune Do): 後にブルース・リーが創始した武道哲学。このドラマの時期はまだ発展途上であり、古典的な詠春拳の動きが色濃く残っている。
関連資料
Blu-ray『グリーン・ホーネット』: マコとの対決シーンを高画質で確認できる唯一のメディア。
映画『砲艦サンパブロ』: マコ・岩松がアカデミー助演男優賞にノミネートされた名作映画。
書籍『ブルース・リー 格闘術』: リー自身の著書。彼が考える武術の理論が記されており、ドラマのアクションがいかに理にかなっているかが分かる。
DVD『サイドキックス』: マコが晩年に出演したアクション映画。彼のアクション俳優としての側面を知ることができる。

