全能の神か、愛ある人間か?『奥さまは魔女』第17話「特訓!特訓!また特訓!」(A Is for Aardvark)が描く幸せの本質
「特訓!特訓!また特訓!」(A Is for Aardvark)の概要
1960年代にアメリカで放送され、日本でも社会現象を巻き起こした伝説のホームコメディ『奥さまは魔女(Bewitched)』。その記念すべき第1シーズン第17話「特訓!特訓!また特訓!」(原題:A Is for Aardvark)は、シリーズ全254話の中でもプロデューサーや熱心なファンから「最高傑作の一つ」と称される伝説的なエピソードです。
この回では、普段は魔法を嫌う夫・ダーリンが、ある事情から一時的に魔法の力を手に入れ(または行使できるようになり)、欲望のままに世界を操る様子が描かれます。なぜ愛するサマンサがあえて魔法を使わず、不便な人間界で暮らすことを選んだのか。その深い理由をダーリン自身が身をもって体験する、笑いあり涙あり、そして深い哲学が込められた名作です。
本記事では、このエピソードの詳細なあらすじ、見どころ、そして現代にも通じる「便利さと幸福」についてのテーマを徹底解説します。
第17話の詳細解説と見どころ
エピソードの背景と基本情報
『奥さまは魔女』は、美しい魔女サマンサと、真面目な人間の夫ダーリンの結婚生活を描いた物語です。通常のエピソードでは、魔法を使いたがるサマンサや親族をダーリンが諫める構成ですが、第17話はその構図が完全に逆転します。
原題の「A Is for Aardvark(AはツチブタのA)」は、辞書や百科事典の最初の項目を指す言葉遊びであり、「何でも手に入る魔法の世界への入り口」あるいは「人間の欲望の初歩」といった意味が込められていると考えられます。(※日本では「魔法の入門」「ダーリンは魔法使い」といった邦題で放送されることもありますが、本記事ではご指定のタイトルで解説します。)
あらすじ:魔法に溺れるダーリン
物語は、ダーリンが家の階段で足を滑らせ、足首を捻挫してしまうところから始まります。動けないダーリンのため、サマンサは階段を上り下りして甲斐甲斐しく看病しますが、疲労困憊してしまいます。
見かねたダーリンは、「君が僕のために魔法を使うなら許すよ」と提案。サマンサは、家全体がダーリンの願いに反応するように魔法をかけます。手を使わずに飲み物が飛んできたり、カーテンが開閉したりと、ダーリンは初めて体験する「魔法のある生活」の快適さに驚愕します。
最初は遠慮がちだったダーリンですが、次第にその全能感に魅了されていきます。高価なスーツや食事を瞬時に出し、仕事も魔法で片付けようとし、ついには「会社を辞めて世界旅行に行こう」と言い出します。「魔法があればお金も仕事もいらない。君のママ(エンドラ)の言う通りだった」と、これまで頑なに拒否していた魔法の世界を肯定し始めるのです。
転換点:手に入れたものの虚しさ
サマンサは、変わり果てた夫の姿に心を痛めます。エンドラは「人間なんてそんなものよ。欲望にきりがない」と冷ややかに笑いますが、サマンサは諦めません。
ダーリンは魔法で出した豪華なプレゼントをサマンサに贈りますが、彼女の反応は薄いものでした。一方で、サマンサが過去にダーリンから貰った、彼が汗水流して稼いだお金で買った安価なプレゼント(時計や花)を宝物のように大切にしていることを見せます。
「魔法で出したダイヤより、あなたが苦労して選んでくれたこの時計の方が、私には何倍も価値があるの」
サマンサの言葉と涙を見て、ダーリンはハッとします。何でも指先一つで手に入る世界には、「達成感」や「相手を想う過程」が存在しないことに気づいたのです。退屈と虚無感に襲われた彼は、魔法の力を放棄することを決意。「不便でも、努力して生きる人間の生活」こそが素晴らしいのだと悟り、二人は元の日常へと戻っていきます。
見どころと考察
1. ダーリン(ディック・ヨーク)の演技力:
初代ダーリンを演じたディック・ヨークのコミカルかつ繊細な演技が光ります。魔法を手に入れた時の子供のようなはしゃぎぶりから、虚しさを感じた時の哀愁まで、表情豊かに演じ分けています。
2. シリーズの根幹テーマ「努力の尊さ」:
このエピソードは、「なぜ魔女サマンサは人間として生きるのか?」という視聴者の最大の疑問に対する回答になっています。何でも叶うことは、実は何もしていないのと同じ。制限があるからこそ工夫し、努力し、そこに喜びが生まれるという人生哲学が描かれています。
3. サマンサの深い愛情:
魔法でダーリンを操るのではなく、彼自身に体験させ、自分で気づかせるサマンサの賢さと愛情深さが際立ちます。彼女が本当に欲しかったのは、魔法で出せる豪華な宝石ではなく、ダーリンの真心だったのです。
第17話「A Is for Aardvark」参考動画
まとめ:現代に通じる「不便な幸せ」
第17話「特訓!特訓!また特訓!」(A Is for Aardvark)は、単なるドタバタコメディの枠を超えた傑作です。
現代社会において、私たちはスマホ一つで何でも手に入る「魔法のような」生活を送っています。しかし、便利さを追求するあまり、プロセスを楽しむ心や、苦労の先にある達成感を忘れてはいないでしょうか。
このエピソードは、AIやテクノロジーが進化する今だからこそ、私たちに「人間らしく生きることの豊かさ」を問いかけています。ダーリンが最後に選んだ「不便な幸せ」は、現代人が見失いがちな大切な価値観なのかもしれません。
関連トピック
サマンサ・スティーブンス(主人公の魔女。女優エリザベス・モンゴメリーが演じ、鼻を動かす魔法の仕草が世界的に有名になった)
ディック・ヨーク(初代ダーリン役。腰の怪我による激痛と闘いながら撮影を続けたが、シーズン5で降板。その演技力は今も高く評価されている)
エンドラ(サマンサの母。人間を軽蔑しているが、時折真理を突く発言をする。演じたアグネス・ムーアヘッドはこの役でエミー賞にノミネートされた)
ウィリアム・アッシャー(番組のプロデューサーであり、エリザベス・モンゴメリーの実の夫。この第17話をシリーズの「決定版」と評している)
関連資料
DVD BOX『奥さまは魔女 コンプリート・ボックス』(全シーズンを収録。日本語吹き替え版も収録されており、当時の雰囲気を楽しめる)
書籍『奥さまは魔女 公式ファンブック』(エピソードガイドや制作秘話、キャストのインタビューなどが掲載された資料)
ドラマ『バイ・バイ・バーディー』(映画版の監督をウィリアム・アッシャーが務めるなど、当時のシットコム文化を知る上で関連深い作品)
ご注意:これは情報提供のみを目的としています。医学的なアドバイスや診断については、専門家にご相談ください。

