【徹底解説】1960年代版『ポパイ』は何が違う?懐かしのテレビシリーズ全貌!ブルータスとの激闘から制作秘話まで総まとめ
概要
『ポパイ(Popeye the Sailor)』は、アメリカの漫画家E・C・ガーガーによって生み出されたコミック・ストリップを原作とするアニメーション作品です。
中でも1960年から1962年にかけて制作・放送されたキング・フィーチャーズ・シンジケート(King Features Syndicate)制作のテレビシリーズは、ポパイの歴史における大きな転換点となりました。
それまでの劇場用短編映画(パラマウント映画/フライシャー・スタジオ制作)とは異なり、最初から「テレビ放送」を目的に作られたこのシリーズは、2年間でなんと220話という驚異的なペースで量産されました。
そのため、エピソードによって作画のタッチが全く違ったり、キャラクターの名前が変わったり(宿敵ブルートが「ブルータス」になった経緯は後述)と、独特の「ゆるさ」と「勢い」を持っています。
しかし、子供たちに分かりやすい「ピンチ→ほうれん草→逆転勝利」という黄金パターンが徹底されたのはこのシリーズからであり、日本を含む世界中の子供たちが野菜好きになるきっかけを作ったとも言われています。
この記事では、今なお愛される60年代版ポパイの魅力、独自のキャラクター設定、そして大人の事情が絡み合った制作の裏側までを徹底的に解説します。
オープニング
YouTubeにて、懐かしの1960年代版オープニングテーマを確認することができます。
蒸気船の汽笛(Toot-Toot!)から始まる軽快なメロディは、誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。
詳細(徹底解説)
あらすじと黄金パターン:ほうれん草は無敵のスーパーフード
物語の基本構造は非常にシンプルかつ痛快です。
セーラー服にパイプ、極太の腕に錨(いかり)のタトゥーがトレードマークの水兵ポパイ。
彼は恋人のオリーブ・オイルとデートを楽しもうとしますが、そこへ粗野で巨漢の悪漢ブルータス(Brutus)が現れ、オリーブを横取りしたり、ポパイに喧嘩を吹っかけたりします。
前半はブルータスの怪力や卑怯な罠になすすべなくやられてしまうポパイ。
しかし、懐(あるいは至る所)から取り出した缶詰の「ほうれん草(Spinach)」を食べた瞬間、彼の筋肉は鋼鉄のように盛り上がり、超人的なパワーを発揮します。
最後は強烈なパンチでブルータスを空の彼方へ吹き飛ばし、オリーブと仲直りしてハッピーエンド。
この「水戸黄門」的な様式美こそが、ポパイが長年愛される理由です。
60年代版では、このパターンがより簡潔に、テンポよく描かれているのが特徴です。
「ブルート」か「ブルータス」か? 名前の謎
ポパイファンの間でしばしば議論になるのが、宿敵の名前は「ブルート(Bluto)」なのか「ブルータス(Brutus)」なのか、という問題です。
結論から言うと、この1960年代テレビ版の敵役は「ブルータス」です。
実は、以前の劇場版(フライシャー時代)では敵役は「ブルート」という名前でした。
しかし、60年代にテレビシリーズを制作する際、キング・フィーチャーズ社は「ブルート」という名前の権利がパラマウント映画にあると誤解してしまいました(実際には原作者側に権利があったのですが)。
そこで著作権トラブルを避けるために、キャラクターデザインを少し太らせて変更し、名前を「ブルータス」と改名したのです。
性格や役割はほぼ同じですが、60年代版を見て育った世代にとっては「宿敵=ブルータス」という認識が定着しました。
制作体制による「絵柄のバラつき」の面白さ
1960年代版のもう一つの大きな特徴は、エピソードによって絵柄や動きの質が全く異なることです。
短期間で大量のエピソード(220話)を制作する必要があったため、プロデューサーは世界中の複数のアニメーションスタジオに制作を下請けに出しました。
- ジャック・キニー・スタジオ:元ディズニーのアニメーターが設立。滑らかでコミカルな動きが特徴。
- レンブラント・フィルムズ:チェコのプラハにあったスタジオ(『トムとジェリー』のジーン・ダイッチ期も担当)。独特のくすんだ色調と、少し不気味でシュールな効果音が特徴。
- ハラス&バチュラー:イギリスのスタジオ。モダンで平面的かつ、おしゃれなデザインが特徴。
視聴者は「今日のポパイは顔が違うな?」「今日のオリーブは動きがカクカクしているな」といった違いを楽しむことができます。
これは「リミテッド・アニメーション(動画枚数を減らして省力化する手法)」がテレビアニメの主流になり始めた時代の象徴的な現象でもあります。
特筆すべき見どころ:サブキャラクターの活躍
劇場版に比べて尺が長くなり、話数も増えたことで、サブキャラクターたちの出番が大幅に増えました。
- 魔女シーハグ(Sea Hag):ブルータスと並ぶ悪役として頻繁に登場。魔法を使ったり、ペットのハゲタカをけしかけたりしてポパイを苦しめます。
- アリス(Alice the Goon):元々はシーハグの手下だった毛むくじゃらの巨人族ですが、60年代版ではポパイの友人として登場することも。
- ジープ(Eugene the Jeep):犬のような見た目の黄色い不思議な生き物。予知能力やテレポート能力を持ち、ポパイの冒険を助けます。
キャストとキャラクター紹介
ポパイ (Popeye)
声:ジャック・マーサー (Jack Mercer) / 日本語吹替:浦野光 ほか
正義感が強く、曲がったことが大嫌いな水兵。
普段は温厚でお人好しですが、売られた喧嘩は買うタイプ。
「I yam what I yam(俺は俺だ)」などの独特な言い回しや、口の中でモゴモゴと呟くアドリブ(声優ジャック・マーサーの十八番)が特徴です。
オリーブ・オイル (Olive Oyl)
声:メイ・クウェステル (Mae Questel) / 日本語吹替:京田尚子 ほか
ポパイの恋人。極端に痩せた体型と巨大な足が特徴。
非常に惚れっぽく、ブルータスの強引なアプローチにふらついたり、ポパイに助けを求めたりと、トラブルメーカーなヒロイン。
ブルータス (Brutus)
声:ジャックソン・ベック (Jackson Beck) / 日本語吹替:内海賢二 ほか
ポパイの恋敵であり宿敵。黒い髭と巨体がトレードマーク。
力自慢ですが頭はあまり良くありません。オリーブを誘拐してはポパイに殴り飛ばされるのが日課。
ウィンピー (J. Wellington Wimpy)
ハンバーガーをこよなく愛する太った紳士。
「火曜日に払うから、今日ハンバーガーをおごってくれ(I’ll gladly pay you Tuesday for a hamburger today)」という名台詞はあまりにも有名。
常に空腹で、ポパイのトラブルに巻き込まれてもハンバーガーのことしか考えていません。
まとめ(社会的評価と影響)
1960年代版『ポパイ』は、アニメーションの技術的な質(動きの滑らかさなど)では、以前のフライシャー時代には及びません。
しかし、そのキャッチーな主題歌、分かりやすいストーリー、そしてテレビ放送による圧倒的な露出量は、ポパイというキャラクターを「不滅のアイコン」へと押し上げました。
特にアメリカでは、当時の子供たちの野菜嫌いを直すために親たちが「ポパイみたいに強くなれるよ」と言ってほうれん草を食べさせたという逸話が無数にあります(実際に、ポパイの放送のおかげで米国のほうれん草消費量が30%増加したという記録もあります)。
また、任天堂の宮本茂氏が当初『ポパイ』のゲームを作りたかったが版権が降りず、代わりに作ったのが『ドンキーコング』(マリオのデビュー作)だったという有名なエピソードがあるように、ビデオゲーム黎明期にも多大な影響を与えました。
60年代版ポパイは、単なるアニメ作品を超え、ポップカルチャーの歴史を変えた偉大なシリーズなのです。
作品関連商品
- DVD:北米版の『Popeye the Sailor: The 1960s Classics, Volume 1』などが発売されています(リージョンコードに注意)。
- アパレル:BEAMSやユニクロなど、多くのブランドが現在でも60年代版のデザインを元にしたTシャツやグッズを販売しており、ファッションアイコンとしても人気です。
- フィギュア:Boss Fight StudioやMezco Toyzから、可動式のアクションフィギュアが発売されており、コレクターの間で高値で取引されています。

