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【神回】『スタートレック:DS9』最高傑作「月影の裏側」を徹底解説!シスコが堕ちた闇と正義の代償

SF
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【神回】『スタートレック:DS9』最高傑作「月影の裏側」を徹底解説!シスコが堕ちた闇と正義の代償

エピソード概要:「月影の裏側」とは

『スタートレック』の長い歴史の中で、「最もダークで、最も物議を醸し、そして最も完成度が高い」と評されるエピソードがあります。それが『ディープ・スペース・ナイン(DS9)』第6シーズン第19話「月影の裏側(原題:In the Pale Moonlight)」です。
「正義の味方」であるはずの惑星連邦の士官が、宇宙を救うために詐欺、贈収賄、そして暗殺の共犯に手を染める……。ジーン・ロッデンベリーが描いた理想郷(ユートピア)を真っ向から否定するかのようなこの物語は、放送から25年以上経った今でもファンの間で熱い議論を呼んでいます。
本記事では、ベンジャミン・シスコ司令官がなぜその決断に至ったのか、謎多きカーデシア人ガラックとの共謀、そしてラストシーンの独白が意味するものまで、ネタバレ全開で徹底的に解説します。

詳細:理想と現実の狭間で揺れる魂

あらすじ:敗戦濃厚の連邦と、シスコの焦り

物語の背景は、アルファ宇宙域を二分する「ドミニオン戦争」の真っ只中です。惑星連邦とクリンゴン帝国の同盟軍は、圧倒的な物量を誇るドミニオンとカーデシア連合軍に対し、敗色濃厚となっていました。
シスコ司令官は、毎週のように届く戦死者リスト(その中には知った顔も含まれている)を見つめ、追い詰められていきます。
この状況を打開する唯一の方法は、中立を保っている大国「ロミュラン帝国」を味方に引き入れること。しかし、慎重なロミュランは動こうとしません。
そこでシスコは、ある決断をします。「ドミニオンがロミュランへの侵攻を計画している」という『偽の証拠』をでっち上げ、ロミュランを無理やり参戦させるという、連邦の理念に反する極秘作戦です。

悪魔の契約:ガラックという男

シスコが頼ったのは、ステーションで仕立屋を営む元スパイ、エリム・ガラックです。
ガラックは協力を快諾しますが、その要求はエスカレートしていきます。犯罪者への裏取引、危険な生体物質(バイオミメティック・ジェル)の譲渡……。シスコは良心の呵責に苦しみながらも、「800億人の命を救うためなら」と、一線を越え続けます。
そして、ついに偽造されたデータロッド(記録媒体)が完成します。

緊迫の対決:ブリーナック議員と「It’s a fake!」

シスコはロミュランの有力者ブリーナック議員をDS9に極秘裏に招き、偽造したデータロッドを渡します。
「ドミニオンがロミュランを裏切って攻撃しようとしている証拠だ」と。
しかし、ブリーナックは鋭く、データが偽造であることを見抜きます。有名なセリフ「It’s a fake!(偽物だ!)」を言い放ち、激怒してロミュランへ帰国しようとします。
作戦は失敗し、シスコはロミュランに事実を暴露される恐怖に震えます。しかし、その直後、ブリーナックの乗ったシャトルが爆発したという報告が入ります。

衝撃の結末:ガラックの真の計画

シスコはガラックを問い詰めます。ガラックは最初から、データ偽造がバレることを見越していたのです。
「不完全な偽造データと、爆殺された議員。ロミュランの鑑識官は、爆発の残骸から損傷したデータロッドを発見し、残ったデータから『ドミニオンの侵攻計画を知ったために口封じで殺された』と解釈するでしょう」
ガラックは、最初からブリーナックを暗殺し、その死をもって「最強の証拠」にするつもりでした。
激昂するシスコに対し、ガラックは冷徹に言い放ちます。
「司令官、これこそあなたが望んだことでしょう? ロミュランは参戦し、連邦は救われる。その代償は、たった一人のロミュラン議員の命と、犯罪者の命、そしてあなたの自尊心だけです。……安いものでしょう?」

ラストシーンの独白:「I can live with it.」

このエピソードは全編を通して、シスコがカメラ(日誌)に向かって事の顛末を告白する形式で進みます。
ロミュランが宣戦布告し、戦況が好転したことを確認したシスコは、最後にこう語ります。
「私は嘘をついた。騙した。賄賂を贈った。……そして殺人の共犯者になった」
「だが、もしやり直すことになっても、私は同じことをするだろう」
そして、自分に言い聞かせるように、あるいは画面の向こうの視聴者を睨みつけるように言います。
私はこの罪を背負って生きていける(I can live with it.)
そして彼は、「コンピューター、この日誌を全消去せよ」と命じ、闇の中に真実を葬り去るのです。

なぜ「神回」なのか:スタートレックの脱構築

従来の『スタートレック(特にTNG)』では、ピカード艦長のような高潔な人物が、高い倫理観をもって問題を解決してきました。
しかし、DS9は「理想論だけでは戦争には勝てない」という冷厳な現実を突きつけました。
「善なる目的(宇宙の平和)のために、悪なる手段(詐欺と殺人)は許されるのか?」
この究極の功利主義的問いに対し、主人公が「Yes」と答え、その汚れ仕事を一人で背負う覚悟を決める。その重苦しくも人間臭いドラマが、視聴者の心を深くえぐったのです。

参考動画

まとめ

「月影の裏側」は、スペースオペラの皮を被った、極上の政治サスペンスであり、フィルム・ノワールです。
エイヴリー・ブルックス(シスコ役)の鬼気迫る演技と、アンドリュー・ロビンソン(ガラック役)の不気味なほどの説得力は、シリーズ屈指の名演と言えます。
「平和な時代にはヒーローが必要だが、乱世には怪物が必要になる」。シスコは自らその怪物になることを選びました。
このエピソードを見た後、あなたはシスコを軽蔑するでしょうか? それとも、汚れた手で平和を守った彼に敬意を表するでしょうか? それが、この作品が私たちに投げかける永遠の問いなのです。

関連トピック

エリム・ガラック
「ただの仕立屋」を自称する元オブシディアン・オーダー(カーデシアの諜報機関)のエージェント。DS9で最も複雑かつ人気のあるキャラクターの一人。彼の嘘と真実が入り混じる言動は、物語に常に緊張感を与える。

ドミニオン戦争
DS9の後半を支配する長大なストーリーアーク。創設者(可変種)率いるガンマ宇宙域の覇権国家ドミニオンと、アルファ宇宙域連合軍との星間戦争。スタートレック史上初めて本格的な「戦争」を描いた。

セクション31
惑星連邦の影の諜報組織。「連邦の存続のためなら手段を選ばない」という理念を持つ。今回のシスコの行動は、まさにセクション31の思想に近いものであり、彼らが暗躍する伏線とも言える。

関連資料

DVD『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン シーズン6』
本エピソードを収録。日本語吹き替え版(玄田哲章氏のシスコ)も素晴らしい迫力です。

ドキュメンタリー『What We Left Behind』
DS9の制作陣とキャストが振り返るドキュメンタリー。「月影の裏側」についても深く語られており、脚本家たちが「シスコをどこまで追い詰めるか」議論した裏話などが明かされています。

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