【徹底解説】映画『スター・トレック』(1979) 伝説の幕開け!ヴィジャーの謎、改装型エンタープライズの美学、制作秘話まで総まとめ
概要
1979年に公開された映画『スター・トレック』(原題:Star Trek: The Motion Picture / 略称:TMP)は、1960年代にカルト的な人気を博したテレビドラマ『宇宙大作戦(Star Trek: The Original Series)』の、初の劇場版映画です。
監督は『ウエスト・サイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』の巨匠ロバート・ワイズ。特撮は『2001年宇宙の旅』のダグラス・トランブルが担当しました。
本作が製作された背景には、1977年の『スター・ウォーズ』の大ヒットによるSFブームがあります。
しかし、派手な宇宙戦闘を描いたスター・ウォーズに対し、本作が目指したのは「センス・オブ・ワンダー(驚異の感覚)」でした。
地球に迫りくる正体不明の巨大な雲状エネルギー体「ヴィジャー(V’Ger)」。
その圧倒的なスケールと、それに立ち向かうカーク船長らエンタープライズ号のクルーたちの知的な探求を描いた本作は、公開当時「退屈だ」「動きが少ない(The Motionless Picture)」と批判されることもありました。
しかし、現在ではその重厚なハードSFとしてのテーマ性、ジェリー・ゴールドスミスによる壮大なスコア、そして何より「改装型エンタープライズ号(Refit Enterprise)」の息を呑む美しさにおいて、シリーズ屈指の芸術作品として高く評価されています。
2022年には、ロバート・ワイズ監督が本来意図した形に近づけた「ディレクターズ・エディション」が4Kリマスターで完成。
半世紀近く前の作品とは思えない映像美で蘇った本作について、そのあらすじから「ヴィジャー」の正体、そして難産だった制作の裏側まで徹底的に解説します。
オープニング
YouTubeにて、本作の最大の見せ場の一つである「エンタープライズ号の発進(ドライドック離脱)」シーンや、ジェリー・ゴールドスミスの名曲が流れるオープニングを確認できます。
カーク船長が愛する船と再会する、映画史上最も長く、最も美しいと言われる約5分間のシーンは必見です。
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:謎の電子雲と再結集
23世紀後半。銀河系深部から、直径82天文単位(地球と太陽の距離の82倍)というとてつもない大きさの「雲」状のエネルギー体が、地球へ向かって進路を取っていることが判明します。
その雲は進路上のクリンゴン艦隊や宇宙ステーションを次々と消滅させ、地球への通信で謎の信号を発し続けていました。
この未曾有の危機に対し、宇宙艦隊は大規模な改装工事を終えたばかりの最新鋭艦「U.S.S.エンタープライズ(NCC-1701)」の出撃を決定します。
地上勤務の提督となっていたジェームズ・T・カークは、この機に乗じて現場復帰を画策。
エンタープライズの指揮権を持っていたウィラード・デッカー艦長を降格させ、自ら指揮を執ります。
さらに、バルカン星で感情を捨てる修行「コリナー」に励んでいたスポックも、雲からの「意識」を感じ取り、修行を中断して帰還。
ドクター・マッコイも予備役から強制招集され、かつての伝説のクルーたちが再びブリッジに集結しました。
エンタープライズは雲の内部へ侵入。そこには想像を絶する巨大な機械惑星のような構造物が広がっていました。
中心部に鎮座する知的存在「ヴィジャー(V’Ger)」とは何者なのか?
なぜ地球(クリエイター)を求めているのか?
カークたちは、人類の存亡を懸けた対話(コンタクト)に挑みます。
究極の美:改装型エンタープライズ(Refit)
本作の主役は、カークやスポックではなく、エンタープライズ号そのものだと言っても過言ではありません。
テレビ版のシンプルなデザインから一新され、アンドリュー・プロバートらによってリファインされた「改装型(Refit)」のデザインは、アール・デコ調の優雅な曲線と、パールホワイトの船体、自発光するワープナセルが特徴です。
劇中、カークがシャトルでエンタープライズに接近するシーンは、セリフなしで約5分間続きますが、これは製作者たちの「この美しい船を見てくれ!」という強烈な自負の表れです。
ダグラス・トランブルによる精密なミニチュアワークと光学合成は、CG全盛の今見ても鳥肌が立つほどの存在感を放っています。
「ヴィジャー」の正体と哲学的テーマ
(※以下、ネタバレを含みます)
物語の核心である敵「ヴィジャー(V’Ger)」の正体。
それは、20世紀末に地球から打ち上げられ、ブラックホールに吸い込まれて行方不明になっていた無人探査機「ボイジャー6号(Voyager VI)」でした。
機械生命体の惑星に漂着したボイジャーは、そこで改造・強化され、膨大な知識を蓄積しながら、創造主(クリエイター=人間)にそのデータを届けるために戻ってきたのです。
しかし、知識だけで感情を持たないヴィジャーは、「私はすべてを知ったが、これだけなのか?」という虚無感に苛まれています。
「論理だけの存在」であるスポックは、ヴィジャーの孤独に触れ、「論理だけでは不完全だ」という答えに辿り着きます。
最終的にヴィジャーは、人間(デッカー副長)と融合し、新たな次元の生命体へと進化して宇宙へ旅立ちます。
「敵を倒す」のではなく「理解し、融合する」という結末は、スタートレックならではの知的な解決法として高く評価されています。
制作秘話:公開寸前までペンキが乾かなかった?
本作の制作現場は、まさにカオスでした。
- ドラマ企画からの変更:元々は『スタートレック:フェイズII』という新テレビシリーズとして企画されていました。セットや脚本、キャスト(デッカーやアイリーア)はその名残です。
- 終わらない特撮:当初雇われた特撮会社が成果を出せず、公開9ヶ月前にダグラス・トランブルに交代。トランブルは24時間体制で作業を行いましたが、それでも時間は足りず、ワールドプレミア上映の際、スタッフが持ち込んだプリントは「まだ現像液で濡れていた」という伝説が残っています。
- 完成版の変遷:1979年の劇場公開版は、編集が荒く、ワイズ監督にとって不本意な出来でした。2001年にCGで特撮を修正・追加したDVD版「ディレクターズ・エディション」が発売され、さらに2022年にはそれが4Kリマスター化され、ようやく監督が夢見た「完全版」が世に出ることになりました。今見るなら間違いなく2022年版(4K版)がおすすめです。
キャストとキャラクター紹介
ジェームズ・T・カーク提督
演:ウィリアム・シャトナー (William Shatner) / 吹替:矢島正明
地上勤務に飽き飽きし、現場復帰のチャンスを虎視眈々と狙っていた。
デッカーから指揮権を奪うなど強引な面が目立つが、それは未知への探求心と責任感ゆえ。
ミスター・スポック
演:レナード・ニモイ (Leonard Nimoy) / 吹替:菅生隆之(新録)/久松保夫(旧)
感情を捨てる儀式に失敗し、自分の人間性と向き合うために戻ってきた。
ヴィジャーとの精神融合を通じて、論理を超えた「何か」の重要性を悟る。
レナード・”ボーンズ”・マッコイ
演:ディフォレスト・ケリー (DeForest Kelley) / 吹替:小川真司(新録)/田中明夫(旧)
髭を蓄え、ディスコ風の私服で登場。「石器時代の医者」と自嘲しながらも、カークの良き相談役として活躍。
ウィラード・デッカー
演:スティーブン・コリンズ (Stephen Collins)
エンタープライズの新艦長だったが、カークに降格させられる。
後の『新スタートレック(TNG)』のライカー副長のモデルとなったキャラクター。
アイリーア
演:パーシス・カンバッタ (Persis Khambatta)
デルタ星人のナビゲーター。スキンヘッドが特徴。
途中でヴィジャーに取り込まれ、機械のプローブ(探査端末)となってしまう。
キャストの代表作品と経歴
- ウィリアム・シャトナー
-
本作以降も映画版全7作(『ジェネレーションズ』まで)に出演。
90歳を超えて実際にブルーオリジンのロケットで宇宙へ行った「最高齢の宇宙飛行経験者」としても話題になりました。 - ロバート・ワイズ(監督)
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『地球の静止する日』『アンドロメダ…』などSF映画の傑作も手掛けた巨匠。
彼の完璧主義が、本作の格調高い映像美を生み出しました。
まとめ(社会的評価と影響)
公開当初は『スター・ウォーズ』と比較され「退屈」と評されることもありましたが、興行的には大成功を収め、その後の映画シリーズ化(『カーンの逆襲』以降)への道を切り拓きました。
また、ジェリー・ゴールドスミスが作曲したテーマ曲は、後に『新スタートレック(TNG)』のメインテーマとしても採用され、シリーズを象徴する音楽となりました。
何より、「未知なるものへの畏敬」と「人類の進化」を真正面から描いた本作は、SF映画が単なる活劇ではなく、哲学的な問いを投げかける芸術になり得ることを証明した一作です。
大画面と高音質で、ゆっくりと「宇宙に浸る」体験をしたい方には、これ以上の作品はありません。
作品関連商品
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- サントラ:ジェリー・ゴールドスミス『Star Trek: The Motion Picture (Complete Score)』。ブラスター・ビームという特殊楽器を使った独特の音響は必聴です。
