『スタートレック 叛乱』の概要
1998年に公開された『スタートレック 叛乱』(原題:Star Trek: Insurrection)は、映画版シリーズ第9作目です。
監督は前作に続きジョナサン・フレイクス(ライカー副長役)が務めました。
本作のテーマは「不老不死」と「強制移住」、そしてタイトルの通り「叛乱(反逆)」です。
惑星連邦は、ある惑星が持つ「永遠の若さ」をもたらすエネルギーを採取するため、先住民族を強制的に移住させる計画を極秘に進めていました。
その事実を知ったピカード艦長は、「たとえ上層部の命令であっても、間違った正義には従えない」と決断。
エンタープライズのクルーたちと共に、愛する組織であるスターフリート(宇宙艦隊)に対して反旗を翻します。
派手な宇宙戦争よりも、美しいロケーションでの地上戦や、クルーたちの若返りによるコミカルな人間ドラマに焦点が当てられており、シリーズの中で最も牧歌的かつ、ジーン・ロッデンベリーが掲げた理想主義に近い作品として、ファンの間で大切にされている一作です。
『スタートレック 叛乱』の予告編
『スタートレック 叛乱』の詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:危険な領域「ブライヤー・パッチ」
物語の舞台は、星雲やガスが入り乱れ、通信や航行が困難な宇宙域「ブライヤー・パッチ(茨の園)」の中に隠された惑星です。
そこには、高度な科学技術を捨て、自然と調和して暮らす「バクー人」という種族が住んでいました。
一見するとわずか600人の小さな農村ですが、彼らはこの星を取り巻く特殊な放射線(メタ・フェイズ放射線)の恩恵により、何百年もの時を若々しいまま生き続ける不老不死の民だったのです。
一方、顔の皮を引っ張り上げる美容整形で延命している醜悪な種族「ソンア人」は、連邦提督と結託し、この放射線を独占しようと企んでいました。
しかし、その採取方法は惑星環境を破壊し、バクー人を死滅させるものでした。
ピカードの怒りと「叛乱」の理由
本作の核心は、ピカード艦長の倫理的な怒りにあります。
「たった600人のために、何十億もの人々が救える不老不死の技術を捨てるのか?」というダワティ提督の功利主義的な主張に対し、ピカードは静かに、しかし力強く反論します。
「何人ならいいんですか?(How many people does it take, Admiral, before it becomes wrong?)」
1000人なら? 100万人なら?
「多数の利益のために少数を犠牲にする」という論理が、いかに危険で、過去の歴史において多くの悲劇(ホロコーストや強制移住)を生んできたか。
ピカードが提督の制止を振り切り、制服の記章(コムバッジ)を剥ぎ取ってテーブルに置くシーンは、彼の高潔な精神が組織の論理を超えた瞬間であり、シリーズ屈指の名場面です。
若返りの魔法とロマンス
シリアスなテーマの一方で、ブライヤー・パッチの放射線はエンタープライズのクルーにも影響を与え、楽しい副作用をもたらします。
- ライカーとトロイ:久しく友人関係にあった二人の情熱が再燃。ライカーはトレードマークの髭を剃り落とし、ツルツルの顔で登場します。
- ウォーフ:クリンゴン人特有の「第二次性徴期(思春期)」が訪れ、顔にニキビができたり、情緒不安定になって暴れたりと、コミカルな姿を見せます。
- ジョーディ・ラ=フォージ:生まれつき盲目の彼の視神経が再生し、バイザー無しで初めて「本物の日の出」を見るシーンは感動的です。
そしてピカード自身も、バクーの女性アニージと恋に落ちます。
時間を遅らせる能力を持つ彼女と共に、「今この瞬間」を大切にする精神的な愛を育む姿は、大人のロマンスとして美しく描かれています。
制作秘話:CG時代の到来
本作は、『スタートレック』映画史上初めて、宇宙船の模型(ミニチュア)を一切使わず、すべての宇宙船描写をフルCGIで制作した作品です。
エンタープライズEの優雅な動きや、ブライヤー・パッチのカラフルな星雲の表現は、デジタル技術の進化を象徴しています。
また、ライカーがジョイスティックを使ってエンタープライズを操縦するシーン(通称:ライカー・マニューバ)は、「宇宙船の操縦っぽくない」とファンの間で物議を醸しましたが、今となってはご愛嬌的な名シーンとなっています。
『スタートレック 叛乱』のキャストとキャラクター紹介
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ジャン=リュック・ピカード:パトリック・スチュワート/麦人
本作ではアクションヒーローとしてだけでなく、ダンスを踊ったり、冗談を言ったりと、若返りの影響で非常に生き生きとした姿を見せます。
組織への忠誠心よりも、自身の良心に従う彼の決断は、リーダーとしての理想像です。 -
データ:ブレント・スパイナー/大塚芳忠
冒頭で暴走し、透明スーツを着て「いないいないばあ」をするなど、子供のような純粋さが強調されています。
バクーの少年アーティムとの交流を通じ、「遊ぶこと」の意味を学びます。 -
アニージ:ドナ・マーフィ/塩田朋子
バクー人のリーダー格の女性。
実年齢は300歳を超えていますが、外見は美しい中年女性です。
時間を操る特殊な能力を持ち、ピカードに「急ぐことだけが人生ではない」と教えます。
演じるドナ・マーフィはトニー賞を2度受賞したブロードウェイの大スターです。 -
ルアフォ:F・マーリー・エイブラハム/富田耕生
ソンア人のリーダー。
皮膚が腐り落ちるのを防ぐため、定期的に皮膚を引っ張り上げる手術を受けています。
その正体は、かつてバクーから追放された若者たちの一人であり、復讐心と死への恐怖に囚われた悲しい悪役です。
演じるエイブラハムは映画『アマデウス』のサリエリ役でアカデミー主演男優賞を受賞した名優です。 -
ダワティ提督:アンソニー・ザーブ/小林修
連邦の提督。
「連邦の利益」を盾に非人道的な計画を進めますが、根っからの悪人ではなく、ルアフォに利用されている官僚的な人物として描かれます。
キャストの代表作品と経歴
F・マーリー・エイブラハム(ルアフォ役)
映画『アマデウス』でアントニオ・サリエリ役を演じ、アカデミー主演男優賞を受賞した名優です。
その圧倒的な演技力で、醜い特殊メイクの下からでも伝わるルアフォの悲哀と狂気を表現しました。
ドナ・マーフィ(アニージ役)
ブロードウェイ・ミュージカルのスターとして知られ、『王様と私』などでトニー賞を2度受賞しています。
その気品あふれる佇まいと、時を超越したような演技は、不老不死のバクー人に説得力を与えました。
『スタートレック 叛乱』のまとめ(社会的評価と影響)
『スタートレック 叛乱』は、前作『ファースト・コンタクト』の興奮を期待した層からは「地味だ」「テレビエピソードを引き伸ばしただけ」という批判を受けることもありました。
しかし、本作が描いた「強制移住への抵抗」や「自然との共生」というテーマは、現代社会においても極めて普遍的で重要です。
また、ジェリー・ゴールドスミスによる音楽は、牧歌的で優しく、聴く者の心を癒やします。
「楽園とは場所ではなく、心のあり方だ」というメッセージを残した本作は、派手さこそありませんが、見るたびに味わいが増す「スルメ映画」として、多くのトレッキーに愛され続けています。
ピカード艦長が最もピカードらしくある映画、それが『叛乱』なのです。
作品関連商品
- Blu-ray:『スター・トレック 叛乱 4K UHD MovieNEX』
(カリフォルニアの高地で撮影された美しいロケーションや、CGIによる宇宙戦闘が鮮明に楽しめます) - サントラ:ジェリー・ゴールドスミス作曲『Star Trek: Insurrection』
(バクーの村のテーマなど、優美でロマンティックな旋律が多く、作業用BGMとしても最適です) - フィギュア:プレイメイツ スタートレック 9インチフィギュア シリーズ
(本作特有の「正装(ドレスユニフォーム)」を着たピカードたちのフィギュアなどが発売されていました)

