【完全考察】映画『続・夕陽のガンマン』はなぜ世界最高の実写映画なのか?タランティーノが崇拝する「3人の悪党」と伝説のサッドヒル
概要:マカロニ・ウエスタンの頂点にして、映画芸術の極致
1966年に公開された映画『続・夕陽のガンマン(原題:The Good, the Bad and the Ugly / 伊題:Il buono, il brutto, il cattivo)』。
セルジオ・レオーネ監督による「ドル箱三部作」の完結編であり、西部劇というジャンルを超えて「映画史上の最高傑作」の一つとして数えられる不朽の名作です。
タイトルには「続」とありますが、時系列的には第1作『荒野の用心棒』の前日譚にあたります。
南北戦争の混乱を背景に、「善玉(THE GOOD)」「悪玉(THE BAD)」「卑劣漢(THE UGLY)」という3人のならず者が、墓場に隠された20万ドルの金貨を巡って騙し合い、殺し合い、そして奇妙な共闘を繰り広げます。
3時間近い長尺(完全版)でありながら、一瞬たりとも飽きさせない編集のテンポ、エンニオ・モリコーネによる神懸かった音楽、そして広大なロケーション撮影。
クエンティン・タランティーノ監督が「映画製作の教科書」と崇める本作の魅力を、ラストの伝説的な決闘シーン(トライアングル・スタンドオフ)まで余すところなく徹底解説します。
オープニング映像(メインテーマ)
「アーアアー(ワァーオワァーオワァー)」という強烈な叫び声と口笛。
コヨーテの遠吠えを模したとされる、映画史上最もアイコニックなテーマ曲はこちらです。
詳細解説:3人の悪党、20万ドル、1つの墓場
あらすじと世界観:南北戦争という「地獄」の中の宝探し
舞台は南北戦争末期のアメリカ。
賞金首のトゥーコ(卑劣漢)と、彼を捕まえては賞金を半分こして逃がす賞金稼ぎのブロンディ(善玉)は、腐れ縁のパートナーでした。
ある日、二人は砂漠で瀕死の南軍兵士ビル・カーソンに遭遇します。
彼は死ぬ間際に、20万ドルの金貨が隠された「サッドヒル墓地」の場所と、その金が眠る「墓の名前」をそれぞれ二人に言い残して息絶えます。
墓地の場所を知るトゥーコと、墓の名前を知るブロンディ。
互いに相手を殺せない状況の中、二人は嫌々ながら協力して墓地を目指します。
しかし、その情報を冷酷な殺し屋エンジェル・アイズ(悪玉)も嗅ぎつけていました。
北軍と南軍の血みどろの戦争を横目に、3人の男たちの欲望が交錯する壮大なロードムービーが幕を開けます。
特筆すべき見どころ:編集と音楽の魔法「エクスタシー・オブ・ゴールド」
本作が単なる娯楽映画の枠を超えている理由は、映像と音楽の完璧な融合にあります。
特にクライマックス直前、トゥーコが広大なサッドヒル墓地を走り回り、金貨の隠し場所を探すシーン。
ここで流れる楽曲『ゴールドの恍惚(The Ecstasy of Gold)』は、映画音楽の歴史を変えた一曲です。
カメラは旋回し、音楽は高揚感を煽り、観客もまたトゥーコと共に「金を見つけた!」という狂喜乱舞の感覚に陥ります。
メタリカがライブの入場曲に使用していることでも有名な、鳥肌必至の名シーンです。
伝説の決闘:メキシカン・スタンドオフ(トライエロ)
そして訪れるラストシーン。
円形の石畳の中央で、3人の男が三角形に立ち、互いに銃を向け合う「トライアングル・スタンドオフ(Triello)」。
このシーンの編集技術は神業です。
ロングショットで全体を映しつつ、徐々にカット割りが細かくなり、男たちの目元、指先、銃のアップが高速で切り替わっていきます。
音楽がクレッシェンド(最高潮)に達した瞬間、静寂が訪れ、銃声が響く。
この数分間の緊張感こそが、セルジオ・レオーネが映画史に残した最大の遺産と言えるでしょう。
制作秘話:本当に死にかけた役者たち
CGのない時代、撮影は命がけでした。
特にトゥーコ役のイーライ・ウォラックは、撮影中に3度も命を落としかけています。
1度目は誤って劇薬(酸)の入った瓶を飲みそうになり、2度目は首にかけたロープがついたまま馬が走り出し、3度目は走る列車の車輪のすぐそばに寝転がり、あわや断頭という事故に見舞われました。
画面から伝わるあの必死の形相は、演技だけでなく、本物の恐怖から来ていたのかもしれません。
キャストとキャラクター紹介
原題の「Good, Bad, Ugly」に対応する3人の主人公たち。
彼らは全員が悪党ですが、その「悪」の種類が異なります。
ブロンディ(THE GOOD / 善玉)
演:クリント・イーストウッド / 吹替:山田康雄
寡黙で冷静沈着な賞金稼ぎ。
「善玉」と呼ばれていますが、詐欺の片棒を担いだり、瀕死の兵士を見捨てたりと、決して清廉潔白なヒーローではありません。
しかし、最後に瀕死の兵士にタバコを恵んでやるなど、独自の美学と僅かな慈悲の心を持っています。
本作のラストで、あの有名なポンチョを手に入れ、『荒野の用心棒』の姿へと完成します。
エンジェル・アイズ(THE BAD / 悪玉)
演:リー・ヴァン・クリーフ / 吹替:納谷悟朗
依頼主さえも平気で殺す冷酷無比な殺し屋。
前作『夕陽のガンマン』では頼れる相棒役でしたが、本作では完全なヴィランとして登場。
その爬虫類のような冷たい視線と、目的のためには拷問も辞さない残虐性は、物語に強烈な緊張感を与えています。
「ハゲタカ」という愛称で呼ばれることもあります。
トゥーコ(THE UGLY / 卑劣漢)
演:イーライ・ウォラック / 吹替:大塚周夫
強盗、殺人、詐欺などありとあらゆる罪を犯している賞金首。
「卑劣漢」と訳されますが、人間臭く、欲深く、そして生命力に溢れた本作の裏の主役です。
イーストウッドが静の演技なら、ウォラックは動の演技。
十字を切った直後に悪態をつくようなコミカルなキャラクターで、観客から最も愛される存在です。
キャストの代表作品と経歴
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クリント・イーストウッド(ブロンディ役)
本作でマカロニ・ウエスタン三部作を完走し、世界的なスターの地位を不動のものにしました。
後に監督として『許されざる者』を撮った際、「レオーネに捧ぐ」とクレジットを入れるほど、この時期の経験を大切にしています。 -
イーライ・ウォラック(トゥーコ役)
メソッド演技法の大家であり、舞台俳優としても名高い名優。
『荒野の七人』の悪役カルヴェラや、『ゴッドファーザー PART III』のドン・アルトベロ役など、晩年まで重要な役どころで活躍し続けました。
2010年にはアカデミー名誉賞を受賞しています。
まとめ:世の中には2種類の人間がいる
「世の中には2種類の人間がいる。銃を掘る奴と、掘らせる奴だ」
この有名なセリフに代表されるように、『続・夕陽のガンマン』は男たちの欲望とプライドがぶつかり合う、極上のエンターテインメントです。
160分を超える長尺ですが、一度見始めれば、その圧倒的な画力と音楽の魔法にかかり、あっという間に時間が過ぎてしまいます。
タランティーノ、スコセッシ、ジョージ・ルーカスなど、名だたる監督たちが影響を受けた「映画の教科書」。
未見の方は、ぜひ人生で一度はこの「ゴールドの恍惚」を体験してください。
作品関連商品
本作はバージョンによって収録時間が異なるため、選ぶ際は注意が必要です。
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続・夕陽のガンマン 地獄の決斗 [Blu-ray]
179分の完全版が収録されているものを強く推奨します。
カットされたシーンには、トゥーコとブロンディの関係性を深める重要な描写が含まれています。
もちろん、山田康雄、納谷悟朗、大塚周夫による伝説の日本語吹替も必聴です。 -
The Good, The Bad & The Ugly (Original Motion Picture Soundtrack)
エンニオ・モリコーネの最高傑作。
「メインテーマ」や「ゴールドの恍惚」だけでなく、叙情的な「兵士の物語」など、アルバムを通して聴くことで映画の感動が蘇ります。 -
クリント・イーストウッド ポンチョ(レプリカ)
コスプレやインテリアとして人気のアイテム。
これを羽織って葉巻を噛めば、誰でも気分はブロンディです。
