【ヒッチコック劇場 うんちく】テーマ曲は葬送行進曲だった?巨匠が仕掛けたブラックユーモアの神髄
『ヒッチコック劇場』の概要
『ヒッチコック劇場』(原題: Alfred Hitchcock Presents)は、1955年からアメリカで放送された、サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックがホスト兼(一部)監督を務めたテレビアンソロジーシリーズです。
毎回、人間の欲望、恐怖、狂気が渦巻く一話完結のミステリーやサスペンスが展開されました。
日本でもその洗練された映像と、ブラックユーモアに満ちた結末で高い人気を博しました。
何より、ヒッチコック本人が登場するユーモラスな解説が、この番組を唯一無二のものにしています。
この伝説的な番組には、多くの「うんちく」が隠されています。
『ヒッチコック劇場』の詳細うんちく
巨匠の登場とブラックユーモア
本作を象徴するのは、番組の冒頭(Prologue)と結末(Epilogue)に必ず登場するアルフレッド・ヒッチコック本人です。
彼は、自身のシルエットのラインアートにゆっくりと体を重ねるという有名なオープニングの後、冷静な面持ちで非常に皮肉の効いたジョークや、その日の物語に関するブラックユーモアあふれる解説を披露しました。
例えば、恐ろしい事件が起きた後でも「さて、今夜の教訓は……特にありませんでしたね」と平然と言ってのけたり、スポンサーの商品(当時はタバコなど)を紹介する際も、どこか皮肉めいた言い回しをしたりするのが常でした。
この「怖い本編」と「ユーモラスな解説」のギャップこそが、ヒッチコック流のサスペンスの真骨頂でした。
有名なテーマ曲は「操り人形の葬送行進曲」
あの「♪タラララ~」という、一度聴いたら忘れられないユーモラスで少し不気味なテーマ曲。
この曲は、フランスの作曲家シャルル・グノーが1872年に作曲した『操り人形の葬送行進曲』というピアノ小品(後に管弦楽曲に編曲)です。
「葬送行進曲」という重々しいタイトルとは裏腹に、コミカルで軽快な曲調は、まさに『ヒッチコック劇場』のブラックユーモアな世界観と完璧に一致していました。
ヒッチコックはこの曲を非常に気に入り、番組のテーマとして採用しました。
ヒッチコックが監督したエピソードは意外と少ない
『ヒッチコック劇場』は、ヒッチコックが製作総指揮を務め、彼の名を冠した番組ですが、彼自身が監督したエピソードはそれほど多くありません。
30分版の『Alfred Hitchcock Presents』(全268話)で監督したのは、わずか17話。
後に放送時間が60分に拡大された『The Alfred Hitchcock Hour』(全93話)で監督したのは、たったの1話(「I Saw the Whole Thing」)だけです。
しかし、彼はすべての脚本に目を通し、制作全体を厳しく管理していました。
彼の美学と思想が全編に行き渡っていたからこそ、「ヒッチコック劇場」というブランドが確立されたのです。
30分版と60分版の存在
『ヒッチコック劇場』には、大きく分けて二つのシリーズが存在します。
1955年から1962年まで放送されたのが、30分枠の『Alfred Hitchcock Presents』です。
その後、1962年から1965年までは、放送枠を60分に拡大した『The Alfred Hitchcock Hour』(邦題:新ヒッチコック劇場、ヒッチコック・サスペンス)が放送されました。
一般的に『ヒッチコック劇場』として記憶されているのは、テンポの良い30分版の方が多いようです。
若き日のスターたちが多数出演
本作は、アンソロジー(一話完結)形式だったため、毎回多くの俳優がゲストとして出演しました。
その中には、後にハリウッドを代表する大スターとなる若き日の俳優たちが数多く含まれています。
スティーブ・マックイーン、ロバート・レッドフォード、バート・レイノルズ、ピーター・フォーク、クリストファー・リー、ロバート・ヴォーン、ヴェラ・マイルズ(『サイコ』)など、その顔ぶれは非常に豪華です。
また、監督としても、後に『M★A★S★H』や『ナッシュビル』で巨匠となるロバート・アルトマンや、『フレンチ・コネクション』のウィリアム・フリードキンらがキャリアの初期に腕を磨いていました。
参考動画
まとめ
『ヒッチコック劇場』は、アルフレッド・ヒッチコックという稀代の映画監督が、テレビというメディアの可能性を最大限に引き出した実験場でした。
彼は、映画では表現しきれないような皮肉な結末や、後味の悪いブラックユーモアを、お茶の間の視聴者に届けました。
「サスペンスの神様」自らが案内人を務めるという贅沢なスタイルは、日本の『世にも奇妙な物語』(タモリが案内役)など、後世の多くのアンソロジー番組に決定的な影響を与えています。
今見ても古びない洗練された恐怖とユーモアは、まさにテレビ史の傑作と呼ぶにふさわしいものです。
関連トピック
アルフレッド・ヒッチコック: 本作のホストであり製作総指揮者。映画『サイコ』『鳥』『めまい』などで知られる「サスペンスの神様」。
『操り人形の葬送行進曲』: シャルル・グノー作曲の有名なテーマ曲。この曲=ヒッチコックというイメージを定着させました。
『世にも奇妙な物語』: 日本の長寿テレビ番組。一話完結のオムニバス形式や、タモリによる案内人のスタイルなど、本作から強い影響を受けています。
『ミステリー・ゾーン』(トワイライト・ゾーン): 『ヒッチコック劇場』と同時期に放送された、もう一つの伝説的なSF・ミステリーアンソロジー番組。
関連資料
ヒッチコック劇場 [DVD-BOX]: 各シーズンごとにまとめられたDVDボックス。巨匠が厳選した珠玉のサスペンスを楽しめます。
『ヒッチコック映画術』フランソワ・トリュフォー著 [書籍]: ヒッチコック自身が自らの映画哲学について語った伝説的なインタビュー本。彼の作品を深く理解する上での必読書です。
映画『サイコ』 (1960年) [Blu-ray/DVD]: 『ヒッチコック劇場』のテレビスタッフと低予算で撮影され、映画史を変えた傑作。テレビでの経験が映画製作に活かされた例として有名です。