【徹底解説】映画『ボレロ/愛欲の日々』はなぜ伝説の駄作と呼ばれるのか?あらすじからボー・デレクの美貌、伝説のラジー賞独占の裏側まで総まとめ
概要
1984年に公開された映画『ボレロ/愛欲の日々』(原題:Bolero)は、1920年代を舞台に、究極の「初めての体験」を求めて世界を旅する大富豪のお嬢様の姿を描いたエロティック・ロマンス映画です。
1979年の大ヒット映画『テン(10)』で一躍世界的なセックス・シンボルとなった女優ボー・デレクが主演を務め、彼女の夫であるジョン・デレクが監督・脚本・撮影監督の三役をこなした、まさに「究極の夫婦のプライベート・フィルム」とも呼べる作品として知られています。
製作を担ったのは、1980年代に数々のB級アクション映画や過激な娯楽作品を世に送り出し、映画ファンから熱狂的に愛された独立系映画会社「キャノン・フィルムズ(メナヘム・ゴーラン&ヨーラム・グローバス)」です。
風光明媚なモロッコやスペインでの豪華な海外ロケ、エキゾチックな衣装、そしてジョン・デレク監督の執念とも言える「妻ボー・デレクをいかに美しくエロティックに撮るか」に特化した映像美は、公開当時大きな話題を呼びました。
しかし、肝心のストーリー展開はあまりにも荒唐無稽でツッコミどころに満ちており、セリフ回しも不自然の極みであったため、映画批評家たちからは歴史的な大バッシングを浴びることになります。
その結果、その年の最低映画を決定する「第5回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)」において、最低作品賞、最低主演女優賞、最低監督賞、最低脚本賞、最低新人賞、最低作曲賞の計6部門を総なめにするという、不名誉な伝説を打ち立ててしまいました。
現在では、その突き抜けた自己顕示欲と、真面目に作られたからこそ醸し出される極上のコメディ感(キャンプ・クラシック)から、一部のカルト映画ファンの間で「愛すべきおバカ映画の最高峰」として熱烈に支持され続けています。
この記事では、そんな映画史に燦然と輝く迷作『ボレロ/愛欲の日々』のあらすじやヤバすぎる見どころ、豪華(?)キャスト陣の紹介、そして公開当時のレーティング騒動などの制作裏話を徹底的に深掘りして解説します。
オープニング・予告編動画
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:究極の初体験を求めて世界を巡るお嬢様の珍道中
物語の舞台は1920年代。
イギリスの厳格な全寮制の女学校を卒業したばかりのアメリカ人令嬢、マック(ボー・デレク)は、亡き父親から莫大な遺産を受け継いだ若き大富豪です。
彼女は学校生活の中で純潔を守り抜いてきましたが、卒業を機に「自分の処女を捧げるにふさわしい、完璧な男性」を見つけ出すための旅に出ることを決意します。
マックのお目付け役であり、亡き父親の親友でもある屈強な運転手のコットン(ジョージ・ケネディ)と、女学校からの親友であるカタリナ(アナ・オブレゴン)を伴い、彼女の壮大かつ極めて個人的な目的のための世界旅行が幕を開けます。
一行がまず向かったのは、エキゾチックな魅力に溢れるモロッコ(アラビア)でした。
マックは砂漠の地で、理想の相手として若く美しいシーク(アラブの族長)に目を付け、ロマンチックな夜を共にしようと試みます。
しかし、緊張したマックが彼に大量の酒を飲ませすぎた結果、なんと肝心のベッドシーンの直前でシークが泥酔して眠りこけてしまうという、前代未聞の肩透かしを食らってしまいます。
初めての相手選びに失敗したマックは気を取り直し、次なる情熱の国・スペインへと向かいます。
物語の展開:悲劇の闘牛士と、愛と音楽の奇跡
スペインのアンダルシア地方に到着したマックは、そこで国民的スターである若き闘牛士、アンヘル(アンドレア・オキピンティ)と運命的な出会いを果たします。
彼は非常にハンサムですが、自意識過剰で傲慢なプレイボーイであり、最初はマックとも衝突を繰り返します。
しかし、彼の闘牛場での勇姿や、男らしい魅力に惹かれたマックは、ついに彼を「完璧な男」として選び、身も心も捧げる決意を固めました。
ところが、二人の関係が深まろうとした矢先、闘牛の試合中にアンヘルは牛の角で下半身(それも男性にとって最も重要な部分)を激しく突かれるという、致命的な重傷を負ってしまいます。
医師からは「二度と男としての機能は回復しない」と宣告され、絶望のどん底に突き落とされるアンヘル。
しかし、マックは彼を見捨てることはありませんでした。
彼女は特注のベッドを用意し、モーリス・ラヴェルの名曲『ボレロ』の官能的な旋律をレコードで流しながら、献身的な愛と独自のボディータッチ(?)によるリハビリを開始します。
そして映画のクライマックス、医学の常識を覆すほどの「愛の奇跡」が起こり、二人は煙が立ち込める幻想的な部屋の中で、ついに究極のエクスタシーへと到達するのです。
特筆すべき見どころ:無駄に豪華な映像美と「愛すべき迷シーン」の数々
本作の最大の特徴は、ストーリーの馬鹿馬鹿しさと、映像のクオリティの高さというアンバランスさにあります。
ジョン・デレク監督は元々優れた写真家でもあり、妻であるボー・デレクの肢体をいかに美しくスクリーンに映し出すかという一点において、異常なまでの情熱を注いでいます。
砂漠の夕陽を背景にしたロマンチックな乗馬シーンや、柔らかな光に包まれたベッドシーンは、まるで高級な『プレイボーイ』誌のグラビアがそのまま動き出したかのような洗練された美しさを誇ります。
しかし、その美しい映像の中で繰り広げられるのは、「全裸で馬に乗って荒野を駆け抜けるボー・デレク」や、「闘牛士の急所が牛の角で破壊される(という設定の)悲劇」など、シュールすぎる迷シーンの連続です。
さらに、劇中のクライマックスで流れるラヴェルの『ボレロ』は、本来は徐々に熱を帯びていく芸術的な楽曲ですが、本作ではその使い方があまりにも直接的かつ露骨すぎて、観客の笑いを誘う装置になってしまっています。
真面目な顔をして演じる俳優たちと、大真面目にポルノまがいの演出をする監督の自己陶酔っぷりが、極上のキャンプ映画としての魅力を生み出しているのです。
制作秘話・トリビア:X指定騒動とキャノン・フィルムズの野望
本作の公開にあたり、ハリウッドで大きな物議を醸したのがアメリカ映画協会(MPAA)による「レーティング(年齢制限)騒動」です。
映画が完成した際、MPAAは本作の過激な性描写を問題視し、ポルノ映画と同じ「X指定」を下しました。
ジョン・デレク監督とキャノン・フィルムズは、R指定(17歳未満は保護者の同伴が必要)を獲得するためにシーンをカットすることを断固として拒否しました。
メナヘム・ゴーランとヨーラム・グローバスのプロデューサーコンビは、これを逆手にとって大規模な宣伝キャンペーンを展開し、あえてレーティングを拒否した「Unrated(無審査版)」として全米1,000館以上で大規模公開に踏み切ったのです。
この「X指定相当の過激な映画」というスキャンダラスな煽り文句が功を奏し、酷評の嵐にもかかわらず、公開初週は興行収入ランキングの上位に食い込むというスマッシュヒットを記録しました。
キャノン・フィルムズの商魂の逞しさと、ボー・デレクという女優が当時持っていた圧倒的な集客力(好奇心の的)を証明する、1980年代ならではの豪快な制作秘話です。
キャストとキャラクター紹介
- マック・マクギルヴレイ:ボー・デレク
莫大な遺産を相続した若く美しいアメリカ人のお嬢様です。
「完璧な相手に初めてを捧げる」というロマンチックな理想を胸に世界を旅する、純真で好奇心旺盛な性格の持ち主です。
しかし、相手が泥酔したり、大怪我を負ったりと次々に想定外のトラブルに見舞われます。
ボー・デレクの神々しいまでのプロポーションと、どこか浮世離れした大根演技が、このトンデモ設定のヒロインに妙な説得力(?)を与えています。 - コットン:ジョージ・ケネディ
マックの亡き父親の親友であり、現在は彼女の専属運転手兼ボディーガードを務める初老の男です。
マックを実の娘のように愛し、彼女の無謀でエキセントリックな世界旅行に文句を言いながらも付き従う、非常に優しく頼りになる存在です。
なぜアカデミー賞俳優である名優ジョージ・ケネディが、このようなエロティック・コメディで真面目に運転手役を演じているのか、映画ファンを長年悩ませている謎のキャスティングでもあります。 - アンヘル:アンドレア・オキピンティ
スペインの国民的英雄である美貌の若き闘牛士です。
プライドが高く傲慢な態度でマックを振り回しますが、闘牛の最中に急所を牛の角にえぐられるという、映画史上稀に見る悲惨なアクシデントに見舞われます。
絶望の淵から、マックの「ボレロ療法」によって奇跡の復活を遂げるという、本作のトンデモ展開を一身に背負った哀れなヒーローです。 - カタリナ:アナ・オブレゴン
マックの全寮制学校時代からの親友で、彼女の初体験旅行に同行する明るく自由奔放な女性です。
マックの良き相談相手として、旅先での様々なトラブルや恋の悩みにアドバイスを送りますが、彼女自身も旅の途中でしっかりとちゃっかり恋愛を楽しんでいます。
キャストの代表作品と経歴
ボー・デレク(Bo Derek)
1956年生まれのアメリカの女優、モデルです。
1979年にブレイク・エドワーズ監督の映画『テン(10)』に出演し、コーンロウのヘアスタイルでビーチを走る姿が世界中に衝撃を与え、1980年代を代表するセックス・シンボルとなりました。
私生活では16歳の時に、当時すでに有名監督であったジョン・デレク(当時40代後半・女優リンダ・エヴァンスの夫)と恋に落ち、大きなスキャンダルを巻き起こした末に結婚しています。
彼女の映画キャリアの大半は夫ジョン・デレクの監督作品(『類猿人ターザン』や『ゴースト・キャント・ドゥ・イット』など)であり、そのどれもがラジー賞の常連となる歴史的な駄作として知られています。
しかし、後年は自然保護活動や動物愛護運動に熱心に取り組み、現在でもその美しいルックスを保ちながら、セレブリティとして穏やかな生活を送っています。
ジョージ・ケネディ(George Kennedy)
1925年生まれ、2016年に没したアメリカを代表する名バイプレーヤーです。
1967年の映画『暴力脱獄(Cool Hand Luke)』でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、その後も『大空港』シリーズのパトローニ役や、『裸の銃を持つ男』シリーズのトニー署長役など、シリアスからコメディまで幅広く活躍しました。
圧倒的な演技力と存在感を持つ彼が本作『ボレロ/愛欲の日々』に出演した理由は「完全なギャラ目当て」であったと言われていますが、どんな駄作に出演しても決して手を抜かず、堂々とした演技を披露する彼のプロフェッショナリズムには頭が下がります。
アンドレア・オキピンティ(Andrea Occhipinti)
1957年生まれのイタリアの俳優であり、現在は映画プロデューサーとして大成功を収めている人物です。
俳優としては本作のようなB級映画や、ルチオ・フルチ監督のホラー映画『ニューヨーク・リッパー』などに出演していましたが、後に映画配給会社「ラッキー・レッド」を設立。
現在ではアレハンドロ・アメナーバル監督の『海を飛ぶ夢』などを手掛けるなど、ヨーロッパ映画界における重要なプロデューサーの一人として高い評価を得ており、本作での「急所を破壊された闘牛士」という黒歴史を完全に払拭しています。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『ボレロ/愛欲の日々』は、公開された1984年の映画界において「いかに美しく、かつ中身が空っぽな映画を作れるか」の極致として語り継がれる作品となりました。
第5回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)で6部門を制覇したことは、本作の「ポンコツ具合」を証明する輝かしい勲章となっています。
特にボー・デレクの演技は「マネキンのようだ」と酷評され、ジョン・デレクの脚本と演出も「妻のヌードを見せびらかしたいだけのビデオグラファー」と散々な言われようでした。
しかし、時代が経つにつれて、この「大真面目に作られたエロティシズムの空回り」が、独特の笑いを生み出す極上のコメディ映画として再発見されました。
映画という総合芸術において、莫大な予算と美しいロケーション、そしてトップクラスの美女を用意しても、監督の自己満足と崩壊した脚本があれば、見事なまでの「愛すべきクズ映画」が誕生してしまうという事実。
本作は、1980年代という享楽的でバブルな時代の空気をそのまま真空パックしたような、映画史に残る貴重な遺産(カルト・クラシック)であると言えます。
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長らくソフト化の機会に恵まれなかった本作ですが、近年になって海外のニッチな映画を復刻するレーベル(Kino Lorberなど)から、なんと『ボレロ/愛欲の日々』のHDリマスターBlu-ray版がリリースされています。
ジョン・デレク監督が異常な執念で撮影したモロッコやスペインの風景、そしてボー・デレクの神々しい肢体が、驚くほどの高画質で堪能できるため、B級映画ファンやグラビア映像のコレクターからは高い需要があります。
また、本作のオリジナル・サウンドトラックも隠れた人気アイテムです。
ピーター・バーンスタインが作曲したエキゾチックな劇伴に加えて、映画のクライマックスを爆笑の渦に巻き込んだ(?)モーリス・ラヴェルの『ボレロ』もしっかりと収録されており、聴くたびに劇中のシュールな名シーンが脳裏に蘇る、危険な中毒性を持った一枚となっています。
