【徹底解説】映画『シカゴ』(2002)の評価とあらすじ!狂騒のジャズ・エイジと最高峰のミュージカルを総まとめ
概要
2002年に公開された映画『シカゴ』(原題: Chicago)は、犯罪すらもエンターテインメントとして消費される狂騒の時代を、極上のジャズとダンスで官能的に描き出したミュージカル映画の最高傑作です。
メガホンを取ったのは、ブロードウェイの演出家・振付師として名を馳せ、本作が映画監督デビュー作となったロブ・マーシャル。
伝説的な振付師ボブ・フォッシーが手掛けた同名の舞台ミュージカルをベースに、現実の物語と主人公の脳内で繰り広げられる華やかなショーの妄想を交錯させるという、映画ならではの画期的な演出手法を取り入れました。
主演を務めたのは、レネー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、そしてリチャード・ギアというハリウッドを代表する超豪華スターたちです。
彼らは長期間にわたる猛特訓の末、吹き替えなしで圧巻の歌とダンスを披露し、世界中の観客を熱狂させました。
本作は第75回アカデミー賞において、作品賞、助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)、美術賞、衣装デザイン賞、編集賞、音響賞の計6部門を独占するという偉業を達成しました。
ミュージカル映画がアカデミー作品賞を受賞するのは、1968年の『オリバー!』以来実に34年ぶりの快挙であり、ハリウッドにおけるミュージカル映画復活の決定的な狼煙となりました。
マスメディアの熱狂や大衆の移り気をブラックユーモアたっぷりに風刺した本作のテーマは、「バズること」が正義とされる現代のSNS社会において、かつてないほど生々しく、そして痛烈に響き渡ります。
予告編
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:殺人が極上のショーになる街
物語の舞台は、ジャズと酒とスキャンダルが渦巻く1920年代のアメリカ、イリノイ州シカゴです。
スターを夢見る平凡な人妻ロキシー・ハートは、自分をショービジネスの世界へ売り込んでくれると約束していた愛人の家具売りが、実はただの嘘つきであったことを知り、激昂して彼を射殺してしまいます。
逮捕され、女子刑務所へと送られたロキシーでしたが、そこで彼女は憧れのスターであり、不倫した夫と妹を射殺して収監されていたヴェルマ・ケリーと出会います。
当時のシカゴは、美しくミステリアスな女性の犯罪者がマスメディアによって持ち上げられ、大衆のアイドルとして消費されるという、異常なスキャンダル文化が蔓延していました。
本作の世界観は、この「真実や道徳よりも、いかに派手で面白いストーリーを提供できるか」という、現代にも通じるメディアの狂乱と大衆の軽薄さを、毒の効いたユーモアで描き出しています。
腐敗した刑務所の看守ママ・モートンや、法廷をまるでサーカスのように操る悪徳敏腕弁護士ビリー・フリンの手を借り、ロキシーは自らの犯罪すらもスターになるためのステップボードとして利用していくのです。
章ごとの展開:メディアを操る虚飾のシンデレラストーリー
映画の前半は、スターを夢見る無名の人妻ロキシーが、刑務所というどん底に落ちながらも、持ち前の野心と図太さで這い上がっていく過程がスピーディーに描かれます。
彼女は敏腕弁護士ビリー・フリンを雇い、彼が描いた「悲劇のヒロイン」という嘘のストーリーをマスコミに語ることで、シカゴ中の同情と注目を一身に集めることに成功します。
それまで刑務所の女王として君臨し、メディアの注目を独占していたヴェルマは、突如現れたロキシーにスターの座を奪われ、激しい嫉妬と焦燥感に駆られます。
中盤以降、二人の悪女による「メディアの関心と世間の同情」を巡る醜くも華麗なマウント合戦が、極上のミュージカル・ナンバーに乗せて展開されていきます。
ロキシーは「妊娠した」という新たな嘘をつくことで再び世間の耳目を集め、ついには無罪を勝ち取るための裁判へと臨みます。
しかし、クライマックスの法廷劇において見事に無罪放免となったまさにその瞬間、裁判所の外で新たな凶悪殺人事件が発生し、マスコミも大衆も一斉にロキシーの存在を忘れてそちらへと群がっていきます。
昨日までの大スターが、今日は見向きもされない「ただの人」へと転落する、ショービジネスとメディアの残酷な真実が提示されるのです。
しかし、物語は単なる没落では終わりません。
生き残るために手を組んだロキシーとヴェルマが、最高のデュエット・ダンスを披露して再び熱狂を巻き起こすラストシーンは、悪女たちの逞しさと生命力に満ち溢れています。
特筆すべき見どころ:妄想と現実が交錯する革新的な演出
本作を語る上で絶対に外せないのが、ロブ・マーシャル監督が発明した「現実と妄想(ショー)をシームレスに行き来する」という画期的な演出手法です。
従来のミュージカル映画において観客が抱きがちな、「普通の会話をしていた登場人物が、なぜ突然路上で歌い踊り出すのか」という違和感を、本作は完璧に払拭しました。
映画内の歌とダンスのシーンは、すべて「スターを夢見るロキシーの脳内で繰り広げられる、華やかなキャバレーのショー」として描かれているのです。
現実世界での薄汚れた刑務所や法廷のやり取りが、ロキシーの頭の中のフィルターを通すことで、きらびやかな照明と官能的な衣装に彩られた極上のエンターテインメントへと変換されます。
例えば、悪徳弁護士ビリー・フリンが記者会見でロキシーを操り人形のように扱うシーンは、脳内妄想ではビリーが腹話術師となり、ロキシーを膝に乗せて歌う「We Both Reached for the Gun」という皮肉たっぷりのナンバーとして表現されます。
また、6人の女囚たちがそれぞれの殺人の動機を語る「Cell Block Tango」は、真っ赤な照明と黒い衣装のコントラスト、そしてタンゴの激しいリズムが融合した、映画史に残る最高にクールでセクシーな群舞となっています。
一瞬の隙もない完璧なカット割りで現実と妄想をリンクさせるこの編集手法は、ミュージカル映画の新たなスタンダードを確立しました。
制作秘話・トリビア:豪華キャストの猛特訓と幻のキャスティング
本作のキャスティングの裏側には、映画ファンを驚かせる数々のトリビアが隠されています。
敏腕弁護士ビリー・フリン役は、当初ジョン・トラボルタにオファーされていましたが、彼は「女性映画の添え物になるのは嫌だ」とこれを断り、結果的にリチャード・ギアがこの役を射止めました。
トラボルタは後に、このオファーを断ったことが俳優人生における最大の後悔の一つであると語っています。
また、ヴェルマ役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、実は撮影当時妊娠の初期段階にありました。
彼女のトレードマークである長い黒髪をバッサリと切り、アイコニックなショートボブのカツラを被ったのは、「顔の輪郭をはっきりさせ、ダンスの動きをよりシャープに見せるため」という監督の提案によるものでした。
そして、ロキシー役のレネー・ゼルウィガーは、これまで本格的な歌やダンスの経験が全くありませんでした。
彼女は撮影前の数ヶ月間、毎日長時間の過酷なボイストレーニングとダンスレッスンを受け、マメだらけの足でこの難役を完璧にモノにしたという、女優としての凄まじい執念を見せつけました。
リチャード・ギアもまた、タップダンスのシーンのためにゼロから猛特訓を重ね、吹き替えなしで見事なステップを披露しており、俳優たちの血の滲むような努力がこの名作を根底で支えているのです。
キャストとキャラクター紹介
ロキシー・ハート:レネー・ゼルウィガー/吹替:松本梨香
- スターになることを夢見る、自己顕示欲の塊のような平凡な人妻。
倫理観に欠け、自分の利益のためなら平気で嘘をつき人を裏切りますが、どこか憎めない愛嬌と逞しさを持っています。
レネー・ゼルウィガーのコケティッシュな魅力と、徐々に洗練されたスターへと変貌していく圧倒的な表現力は必見です。
ヴェルマ・ケリー:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/吹替:深見梨加
- 不倫した夫と妹を殺害した罪で収監されている、シカゴで一番ホットな元ヴォードヴィル・スター。
プライドが高く冷酷な性格ですが、プロのエンターテイナーとしての圧倒的な実力と矜持を持っています。
ゼタ=ジョーンズのシャープで官能的なダンスと力強い歌声は、彼女にアカデミー助演女優賞をもたらしました。
ビリー・フリン:リチャード・ギア/吹替:津嘉山正種
- 法廷をショーの舞台に変え、莫大な依頼料と引き換えにどんな犯罪者でも無罪にしてしまう悪徳敏腕弁護士。
「世の中すべてショービジネスだ」と言い放つ彼の底知れぬカリスマ性と胡散臭さを、リチャード・ギアが色気たっぷりに演じ切っています。
「ママ」・モートン:クイーン・ラティファ/吹替:高乃麗
- クック郡女子刑務所を牛耳る看守であり、賄賂を払う者には手厚い見返りを与える女帝。
力強くソウルフルな歌声で「When You’re Good to Mama」を歌い上げるシーンは、彼女のラッパーとしての圧倒的な実力を証明しています。
エイモス・ハート:ジョン・C・ライリー/吹替:相沢正輝
- ロキシーの夫であり、彼女の嘘に振り回され、利用され続ける気のいい自動車修理工。
誰からも存在を認識されない透明人間のような自身の悲哀を歌う「Mr. Cellophane」は、本作の中で唯一、嘘偽りのない純粋な感情が表現された切ないナンバーです。
キャストの代表作品と経歴
ロキシー役のレネー・ゼルウィガーは、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズで世界中の女性から愛される等身大のヒロインを演じ、不動の人気を獲得しました。
後に映画『ジュディ 虹の彼方に』でジュディ・ガーランドの晩年を熱演し、見事アカデミー主演女優賞を獲得したハリウッドのトップ女優です。
ヴェルマ役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、『マスク・オブ・ゾロ』や『エントラップメント』でその圧倒的な美貌とアクションを披露し、本作でのオスカー受賞によって実力派女優としての地位を確固たるものにしました。
ビリー役のリチャード・ギアは、『愛と青春の旅だち』や『プリティ・ウーマン』で世界的なセックス・シンボルとして一時代を築き、本作ではダンディな魅力とコミカルさを融合させた新境地を開拓しました。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『シカゴ』は、当時の映画界に蔓延していた「ミュージカル映画は時代遅れであり、ヒットしない」というジンクスを完全に打ち破り、空前の大ヒットを記録しました。
アカデミー賞6部門受賞という輝かしい結果は、その後の『オペラ座の怪人』や『レ・ミゼラブル』『ラ・ラ・ランド』といったミュージカル映画の大作ラッシュを引き起こす、歴史的な転換点となりました。
1920年代のシカゴを舞台にしながらも、本作が描いた「大衆の承認欲求」「マスメディアによる情報操作」「炎上と消費のサイクル」といったテーマは、インターネットとSNSが普及した現代社会において、かつてないほどのリアリティと説得力を持って迫ってきます。
ボブ・フォッシーのDNAを受け継ぐセクシーでスタイリッシュなダンス、洗練されたジャズの調べ、そして人間の欲望を容赦なく笑い飛ばす極上のブラックユーモア。
映像、音楽、脚本、そして俳優たちのパフォーマンスが奇跡的な次元で融合した本作は、すべての映画ファンが一生に一度は体験すべき、圧倒的なエネルギーに満ちた永遠のマスターピースです。
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