概要
1998年に公開された映画『ダークシティ』(Dark City)は、『クロウ/飛翔伝説』で知られる鬼才アレックス・プロヤス監督が手掛けた、極めて独創的なネオ・ノワールSFスリラーです。
太陽が一切昇らない漆黒の巨大都市を舞台に、記憶を失った男が世界の恐るべき真実に迫っていく姿を、息をのむようなダークな映像美とともに描き出しました。
公開当時はその先駆的すぎる設定や難解な世界観から興行的には苦戦したものの、後に登場した『マトリックス』をはじめとする後続のSF映画群に決定的な影響を与えた伝説的作品として、現在も世界中の映画ファンから熱狂的な支持を集めています。
哲学的なテーマ、洗練されたゴシック・ビジュアル、そして驚愕のツイストが融合した、90年代SF映画屈指の金字塔です。
予告編
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
見知らぬホテルのバスタブで目覚めた主人公ジョン・マードックは、自分が誰なのか、なぜここにいるのかという一切の記憶を失っていました。
部屋には惨殺された女性の死体が横たわり、彼は身に覚えのない連続殺人容疑で警察に追われることになります。
彼を追うのは警察だけでなく、「ストレンジャー(異邦人)」と呼ばれる青白くコートをまとった不気味な集団でした。
彼らは毎夜0時になると街中の時間を止め、人々の記憶と街の構造そのものを物理的に改変・再構築する超能力(チューニング)を行使していたのです。
太陽が決して昇らない永遠の夜が続くこの都市の正体とは何なのか、そして人間性とはどこに宿るのかという実存的な問いが、重厚なサスペンスとともに展開していきます。
特筆すべき見どころ
本作の最大の魅力は、ドイツ表現主義や1940〜50年代のフィルム・ノワール、そしてスチームパンクを融合させた圧倒的な美術デザインと映像美です。
真夜中にビル群が生き物のように変形・増殖していくダイナミックなビジュアルエフェクトは、CG全盛期直前の精巧なミニチュアワークと最新VFXの融合によって見事に具現化されました。
また、アイデンティティの根幹である「記憶」と「魂」の在り処をめぐる哲学的探求は、観る者に深い余韻と知的興奮を与えます。
制作秘話・トリビア
本作で建造・使用された巨大な屋上や建物のセットの一部は、翌年1999年に公開された映画『マトリックス』のオープニングシーン(トリニティが警官隊から逃走する屋上のシークエンスなど)で再利用されたという有名な逸話があります。
また、劇場公開版ではスタジオ側の意向により冒頭にナレーションが追加され、世界の謎がある程度説明されてしまう形となりましたが、後にリリースされた「ディレクターズ・カット版」ではそのナレーションが排され、監督本来の意図通りのミステリアスな構成へと復元されています。
キャストとキャラクター紹介
- ジョン・マードック:ルーファス・シーウェル/吹替:堀内賢雄
記憶を失った状態で目覚めた本作の主人公。なぜかストレンジャーたちの催眠に耐性を持ち、彼らと同じ念動力(チューニング能力)を発現させ、世界の謎を解き明かすために奔走します。
- エマ・マードック:ジェニファー・コネリー/吹替:井上喜久子
クラブシンガーであり、ジョンの妻とされる女性。夫の記憶喪失と失踪に戸惑いながらも、深い愛で彼を支えようとします。切なくも美しい歌唱シーンが印象的です。
- フランク・バムステッド警部:ウィリアム・ハート/吹替:佐々木勝彦
連続殺人事件の容疑者としてジョンを追う実直な刑事。捜査を進めるうちに、街そのものが抱える狂気と違和感に気づき始め、次第にジョンと共鳴していきます。
- ダニエル・P・シュレーバー博士:キーファー・サザーランド/吹替:大塚芳忠
ストレンジャーたちに協力し、人間の記憶を注射器で抽出・再注入する実験を担わされている精神科医。足を引きずり、吃音交じりに喋る独特の怪演が光ります。
- ミスター・ハンド:リチャード・オブライエン/吹替:麦人
人間を観察し支配する異星人集団「ストレンジャー」の冷酷なリーダー格。ジョンの記憶を自身に注入することで彼を追いつめようとします。
キャストの代表作品と経歴
主演のルーファス・シーウェルは、本作での印象的な演技を皮切りに『A.I.』『ROCK YOU!』やドラマ『高い城の男』などで確固たる地位を築きました。
ヒロインを演じたジェニファー・コネリーは、後に『ビューティフル・マインド』でアカデミー助演女優賞を受賞する名女優であり、本作でもその透明感あふれる美貌と存在感を発揮しています。
キーファー・サザーランドは後に世界的大ヒットドラマ『24 -TWENTY FOUR-』で一世を風靡することになりますが、本作で見せた神経質で屈折した科学者役は彼のキャリア屈指の演技として高く評価されています。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『ダークシティ』は、公開直後こそ興行的に恵まれなかったものの、著名な映画評論家ロジャー・イーバートが「1998年最高の映画」と絶賛したことを機に再評価が進みました。
仮想現実、記憶の改変、造られた世界からの脱出というテーマ設定は、後の『マトリックス』『インセプション』『トゥルーマン・ショー』などのSF映画に多大なインスピレーションを与えたとされています。
今なお色褪せない独創性とダークな美意識に満ちた、90年代SF映画の隠れた最高傑作です。
作品関連商品
- 『ダークシティ ディレクターズ・カット』Blu-ray / DVD
- 『ダークシティ』オリジナル・サウンドトラック(トレヴァー・ジョーンズ作曲)
- 『The Art of Dark City』(メイキング・アートブック)

