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【徹底解説】映画『ドクトル・ジバゴ』(1965)の評価とあらすじ!ロシア革命に翻弄された愛と名曲「ラーラのテーマ」を総まとめ

ヒューマンドラマ
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【徹底解説】映画『ドクトル・ジバゴ』(1965)の評価とあらすじ!ロシア革命に翻弄された愛と名曲「ラーラのテーマ」を総まとめ

概要

1965年に公開された映画『ドクトル・ジバゴ』(原題: Doctor Zhivago)は、ロシア革命という激動の歴史の波に翻弄されながらも、真実の愛と芸術への情熱を貫いた医師であり詩人のユーリ・ジバゴの生涯を描いた壮大な大河ロマンです。
原作は、ソ連の作家ボリス・パステルナークが執筆し、ノーベル文学賞に選ばれながらも国家からの圧力で辞退を余儀なくされたという、いわくつきの同名世界的ベストセラー小説です。
監督は『戦場にかける橋』や『アラビアのロレンス』で歴史スペクタクル映画の頂点を極めたイギリスの巨匠、デヴィッド・リーンが務めました。
主人公のユーリ・ジバゴを演じたのは、『アラビアのロレンス』で世界的なスターとなったエジプト出身の俳優オマー・シャリフ
そして、彼の生涯のミューズとなる運命の女性ラーラを、当時イギリスの新しい波(フリー・シネマ)を牽引していた若きミューズ、ジュリー・クリスティが美しくも儚く演じています。
本作は、雪と氷に覆われたロシアの広大な風景を70ミリの大型スクリーンに描き出し、第38回アカデミー賞では脚色賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、そして作曲賞の5部門を受賞する快挙を成し遂げました。
特に、モーリス・ジャールが作曲し、バラライカの音色が胸を打つ「ラーラのテーマ」は、映画音楽の歴史に残る世界的な大ヒット曲となりました。
政治思想や国家のイデオロギーよりも、個人の「心」や「愛」の尊さを高らかに謳い上げた本作は、公開から半世紀以上が経過した現在でも、数多くの映画ファンから愛され続ける永遠のマスターピースです。

予告編

詳細(徹底解説)

あらすじと世界観:凍てつくロシアの大地と革命の嵐

物語の舞台は、20世紀初頭の帝政ロシアから始まり、第一次世界大戦、そして国家を根底から覆すこととなるロシア革命(十月革命)とそれに続く内戦の時代です。
幼くして孤児となったユーリ・ジバゴは、モスクワの裕福なグロメーコ家に引き取られ、立派な医師へと成長すると同時に、優れた才能を持つ詩人としても活動を始めていました。
彼は育ての親の娘である心優しいトーニャと結婚し、平穏な家庭を築くことを誓います。
一方、貧しい仕立て屋の娘であるラーラは、母の愛人であるブルジョワの悪徳弁護士コマロフスキーに肉体関係を強要され、深い絶望と自己嫌悪の中で生きていました。
ラーラは現状から抜け出すため、熱血漢の学生パーシャと結婚します。
しかし、第一次世界大戦が勃発すると、ユーリは軍医として、ラーラは従軍看護婦として前線に赴くことになり、過酷な野戦病院で二人は運命的な再会を果たします。
本作の世界観は、個人のささやかな幸福が、戦争や革命という巨大な歴史の暴力によって容赦なく踏みにじられていく残酷さを、極めて美しく、かつ冷徹な視点で描き出しています。
革命政府によって財産を没収され、詩を書くことすら「反革命的」と非難される過酷な監視社会の中で、ユーリは医師としての良心と、ラーラへの抑えきれない愛の間で激しく葛藤することになるのです。

章ごとの展開:ウラルへの逃避行と氷の宮殿

物語の中盤、ボリシェヴィキ(共産党)による支配が強まる飢餓状態のモスクワを逃れるため、ユーリは家族を連れてウラル地方の田舎町バールイキノへと過酷な疎開の旅に出ます。
家畜用の貨車にすし詰め状態にされ、何週間もかけて雪原を横断するこの列車移動のシークエンスは、革命の暗部と民衆の苦難を浮き彫りにする非常に重苦しい場面です。
バールイキノに到着したユーリは、近くの町ユリアティンで図書館司書として働いていたラーラと再び偶然の再会を果たし、二人はついに結ばれてしまいます。
しかし、ユーリはパルチザン(赤軍ゲリラ)によって強制的に軍医として拉致され、何年もの間、家族やラーラと引き離されて雪中を行軍するという地獄を味わいます。
命からがらパルチザンから脱走し、雪原を歩き通してラーラの元へたどり着いたユーリでしたが、すでに正妻のトーニャたちは国外へと追放されていました。
後半の最大のハイライトは、ユーリとラーラがコマロフスキーの魔の手から逃れ、バールイキノの廃屋(氷の宮殿)で過ごす、美しくも短い最後の蜜月です。
完全に凍りついた室内で、ユーリがラーラへの愛を込めた「ラーラ詩集」を書き上げるシーンは、死の危険が迫る絶望的な状況下にあっても、人間の魂と芸術は決して凍りつかないという究極のロマンティシズムを体現しています。

特筆すべき見どころ:デヴィッド・リーン監督の映像美学と「ラーラのテーマ」

本作の魅力は、デヴィッド・リーン監督の徹底した完璧主義が生み出した、息を呑むような映像美に尽きます。
雪の結晶一つ一つから、広大なヒマワリ畑、そして燃え上がるような夕焼けの空に至るまで、70ミリカメラで撮影された風景はすべてが絵画のような美しさを誇っています。
特に、ラーラという女性の美しさと儚さを象徴するテーマ曲「ラーラのテーマ」の使い方は絶妙です。
ロシアの民族楽器であるバラライカのトレモロ演奏が、広大な雪景色の中で鳴り響くとき、観客はユーリの抱える切ない愛情を視覚と聴覚の双方から疑似体験することになります。
また、革命によって人間性を失い、冷酷な赤軍の指揮官「ストレルニコフ」へと変貌してしまったラーラの夫パーシャが乗る装甲列車など、美術セットのスケールの大きさも圧倒的です。
CGが存在しなかった時代に、これほどまでに緻密で巨大なロシアの情景を作り上げた美術スタッフの執念は、映画史における奇跡の一つと言って過言ではありません。

制作秘話・トリビア:灼熱のスペインで作られた「極寒のロシア」

本作の最も有名な制作裏話は、極寒のロシアの情景の大部分が、実は真夏のスペイン・マドリード近郊で撮影されたという驚くべき事実です。
当時、東西冷戦の真っ只中であり、反ソ連的な内容を含むパステルナークの原作をソ連国内で撮影することは絶対に不可能でした。
そこで製作陣は、マドリード郊外にモスクワの巨大なオープンセットを建設しました。
なんと大理石の粉や白いプラスチック、蜜蝋などを大量に撒き散らすことで、灼熱の太陽の下に「一面の銀世界」を創り上げたのです。
冬の衣装を着込んで汗だくになりながら演技をする俳優たちの苦労は並大抵のものではありませんでしたが、画面からは見事にロシアの凍てつく寒さが伝わってきます。
また、エジプト人のオマー・シャリフがロシア人のユーリを演じるにあたり、彼の目を少しつり上がらせてスラブ人風に見せるため、毎日テーピングで皮膚を引っ張る特殊メイクが施されていました。
さらに、原作者のボリス・パステルナークは小説の出版とノーベル賞受賞騒動の後にソ連国内で激しい迫害を受け、映画の完成を見る前の1960年に失意の中でこの世を去っています。
彼の魂の叫びとも言える原作の精神は、この映画を通じて鉄のカーテンを越え、世界中の人々の心に届けられたのです。

キャストとキャラクター紹介

ユーリ・ジバゴ:オマー・シャリフ

  • 優れた医師であり、繊細な心を持つ詩人。
    革命という暴力的な嵐の中で、イデオロギーに染まることを拒み、ただ一人の人間としての誠実さと、ラーラへの純粋な愛を貫こうとします。
    シャリフの憂いを帯びた黒い瞳が、過酷な運命に耐え忍ぶ詩人の哀愁を見事に表現しています。

ラーラ・アンティポワ:ジュリー・クリスティ

  • ユーリの生涯のミューズとなる、美しくも数奇な運命を辿る女性。
    少女時代のトラウマを抱えながらも、気高く、そして母性的な深い愛情でユーリを包み込みます。
    クリスティの透き通るような金髪と青い瞳は、まさに「雪の中の妖精」のような神秘的な魅力を放っています。

トーニャ・グロメーコ:ジェラルディン・チャップリン

  • ユーリの育ての親の娘であり、彼の貞淑で心優しい妻。
    夫の心がラーラへと傾いていくのを感じながらも、最後まで家族を守り、ユーリを愛し抜く芯の強い女性です。
    喜劇王チャールズ・チャップリンの実の娘である彼女の、気品あふれる演技が涙を誘います。

ヴィクトル・コマロフスキー:ロッド・スタイガー

  • ラーラの運命を狂わせる、狡猾で好色なブルジョワの悪徳弁護士。
    革命前は特権階級として甘い汁を吸い、革命後も巧みに体制に取り入って生き延びる、ゴキブリのようなしぶとさを持つ男です。
    名優スタイガーが持つ圧倒的な威圧感と、時折見せるラーラへの歪んだ愛情が、物語に強烈な毒を与えています。

パーシャ・アンティポフ(ストレルニコフ):トム・コートネイ

  • ラーラの夫であり、純粋な理想に燃える若き学生でしたが、戦争と革命を経て冷酷無比な赤軍の指揮官「ストレルニコフ」へと変貌します。
    「個人の感情」を完全に捨て去り、革命の処刑人として生きる彼の姿は、イデオロギーが人間性をいかに破壊するかを象徴しています。

エフグラフ・ジバゴ:アレック・ギネス

  • ユーリの異母兄であり、ソ連共産党の秘密警察(KGB)の高官。
    物語の語り部としての役割を担い、体制側に身を置きながらも、密かにユーリとラーラを援助し続ける複雑な立ち位置の人物です。

キャストの代表作品と経歴

主人公を演じたオマー・シャリフは、『アラビアのロレンス』のアリ首長役で国際的にブレイクし、本作のユーリ役で名実ともにハリウッドのトップスターとなりました。
ラーラ役のジュリー・クリスティは、本作と同じ1965年に公開された映画『ダーリング』で見事アカデミー主演女優賞を受賞しており、当時の映画界における「最も旬な女優」としての輝きを本作でも存分に発揮しています。
トーニャ役のジェラルディン・チャップリンは本作が英語圏での本格的な映画デビュー作であり、偉大な父の名に恥じない堂々たる演技でゴールデングローブ賞の新人女優賞にノミネートされました。
そして、冷酷なコマロフスキーを演じたロッド・スタイガーは、後に映画『夜の大捜査線』でアカデミー主演男優賞を獲得する、アメリカを代表する性格俳優の一人です。

まとめ(社会的評価と影響)

映画『ドクトル・ジバゴ』は公開当時、一部の批評家からは「歴史の描き方が感傷的すぎる」「メロドラマに偏りすぎている」といった批判的な声も聞かれました。
しかし、一般の観客はその圧倒的な映像美と、涙なしには見られないロマンティックな愛の物語に熱狂し、結果として映画史に残る空前の大ヒットを記録しました。
インフレ調整後の歴代興行収入ランキングにおいて、本作は現在でも常にトップ10前後に顔を出すほどのモンスター級の成功を収めています。
また、冷戦時代には長らくソ連国内での上映が禁止されていましたが、ペレストロイカによる民主化が進んだ1994年になって、ついにロシアでの公式上映が実現し、熱狂的な喝采で迎えられました。
巨大な歴史のうねりの中で、愛というささやかな、しかし決して消えることのない「光」を守り抜こうとした男女の姿は、いつの時代も人々の心を深く揺さぶります。
美しい音楽とともに永遠に記憶に刻まれる、映画の魔法が詰まった至高の歴史メロドラマです。

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  • Blu-ray / DVD:『ドクトル・ジバゴ アニバーサリー・エディション [Blu-ray]』。
    デジタルリマスターによって復元された70ミリフィルムの驚異的な高画質は、雪原の白さとラーラの赤い衣装のコントラストを息を呑むほど鮮やかに蘇らせており、必携のソフトです。
  • 原作本:ボリス・パステルナーク著『ドクトル・ジバゴ』。
    映画では描ききれなかった哲学的な思索や、ロシアの自然描写、そしてユーリが書き遺した数々の美しい詩が収められており、ノーベル賞に輝いた文学の深みを堪能できます。
  • オリジナル・サウンドトラック:モーリス・ジャール作曲。
    「ラーラのテーマ」をはじめ、革命軍の力強い合唱曲など、映画音楽の枠を超えて愛され続ける歴史的傑作アルバムです。
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