概要
1939年に公開され、映画という芸術フォーマットにおける「究極の到達点」として今日まで語り継がれている不滅の歴史的超大作『風と共に去りぬ』(原題:Gone with the Wind)。
本作は、アメリカの作家マーガレット・ミッチェルが1936年に発表し、ピュリッツァー賞を獲得した同名の世界的ベストセラー小説を原作としています。
稀代の天才プロデューサーであるデヴィッド・O・セルズニックが、当時のハリウッドが持てるすべての財力、技術、そして才能を注ぎ込んで製作した、上映時間約4時間にも及ぶ桁外れの巨大プロジェクトです。
1940年に開催された「第12回アカデミー賞」においては、最優秀作品賞、最優秀監督賞(ヴィクター・フレミング)、最優秀主演女優賞(ヴィヴィアン・リー)、最優秀助演女優賞(ハティ・マクダニエル)など、当時の史上最多となる10部門(特別賞を含む)を独占するという伝説的な記録を打ち立てました。
さらに驚くべきことに、本作が記録した興行収入は、インフレーション(物価上昇率)を調整した実質的な観客動員数および収益において、現在のアベンジャーズやアバターといったメガヒット作をも凌ぎ、「映画史上最もヒットした作品」としてギネス世界記録に認定され続けています。
物語の舞台は、19世紀後半、南北戦争の勃発によって激動の時代を迎えたアメリカの南部地方です。
古き良き南部の伝統と誇りに生きる人々が戦争によってすべてを失い、それでもなお力強く立ち上がっていく姿を、美しくも自己中心的なヒロイン、スカーレット・オハラの波乱に満ちた半生を通して描き出しています。
しかし、本作はその圧倒的な映画的価値の裏側で、黒人奴隷制度を美化し、南部連合を郷愁の念とともに描いているという批判も絶えず、現代のポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)の観点からは非常に多くの議論を呼んでいる「問題作」でもあります。
この記事では、エンタメ情報サイト「tvtomovie.com」の視点から、映画『風と共に去りぬ』のあらすじや息を呑むテクニカラーの映像美、狂気すら感じる過酷な撮影裏話、そして現代社会における複雑な評価までを徹底的に深掘りして解説していきます。
時代を超えて世界中の人々の心を揺さぶり続ける、ハリウッド黄金期の絶対的な頂点に迫りましょう。
オープニング
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
物語の始まりは1861年、アメリカ南部のジョージア州にある広大な大農園(プランテーション)「タラ」。
この農園の主の長女であるスカーレット・オハラは、息を呑むほどの美貌と、男たちを思いのままに操る小悪魔的な魅力を持ち、南部社交界の花形として我が世の春を謳歌していました。
彼女は近隣の農園の跡取り息子である思慮深い青年アシュレー・ウィルクスを深く愛していましたが、彼はスカーレットではなく、彼女とは正反対の心優しい従妹メラニー・ハミルトンと婚約してしまいます。
激しい嫉妬とプライドを傷つけられたスカーレットは、当てつけで別の男と結婚しますが、おりしも南北戦争が勃発し、彼女の夫はあっけなく戦死してしまいます。
若き未亡人となったスカーレットは、アトランタへと移り住みますが、そこで彼女の前に現れたのが、以前から彼女の気性の荒さと本性を面白がって見抜いていた、型破りな無法者のならず者、レット・バトラーでした。
戦況は次第に南軍にとって絶望的なものとなり、北軍の侵攻によってアトランタの街は紅蓮の炎に包まれます。
スカーレットはレットの助けを借りて、妊娠中のメラニーを連れて炎上するアトランタを脱出し、故郷のタラへと命からがら逃げ帰ります。
しかし、かつての優雅なタラの農園は北軍に略奪されて荒れ果て、母親は病死し、父親は精神を病んでしまっていました。
飢えと絶望のどん底で、スカーレットは泥にまみれた大地の土を握りしめ、「神を証人に誓います。
私は二度と飢えはしない!」と天に向かって宣言し、生き抜くためならどんな手段でも選ぶ冷徹な女性へと変貌を遂げていくのです。
本作の世界観は、黒人奴隷の労働によって成り立っていた「古き良き南部の貴族社会」の栄華と、それが戦争という暴力によって完全に破壊されていく喪失のプロセスを、極めてノスタルジックかつ残酷に描き出しています。
美しいドレスや優雅な舞踏会から一転して、死体と血にまみれた野戦病院の泥臭い現実へと引きずり込まれるコントラストは、観る者に途方もないスケール感を与えます。
シーズン/章ごとの展開
本作は約4時間という長大なストーリーラインを持ち、映画の途中でインターミッション(休憩)が挟まれる明確な2部構成となっています。
第1部(前半)は、平和な南部社会の崩壊と、スカーレットの生き残りを賭けたサバイバルを描く「動乱の時代」のパートです。
スカーレットのわがままな少女時代から始まり、戦争の勃発、未亡人としての生活、そして最大のクライマックスである「アトランタ炎上」の脱出劇までが、息もつかせぬ怒涛の展開で描かれます。
タラへと帰り着き、焼け焦げた荒野を背にして彼女が不屈の誓いを立てるシルエットのシーンは、映画史に燦然と輝く前半のハイライトです。
第2部(後半)は、戦後の凄惨な南部再建時代(リコンストラクション)を背景に、愛と金に翻弄される人間ドラマを描く「愛憎の時代」へとシフトします。
タラを守るために莫大な税金が必要となったスカーレットは、妹の婚約者であった裕福な商人を横取りして再婚し、さらに彼が死ぬと、ついに大富豪となっていたレット・バトラーと三度目の結婚を果たします。
しかし、スカーレットの心の中には未だにアシュレーへの幻想的な愛が残っており、心から彼女を愛そうとするレットとの間には致命的なすれ違いが生じ続けます。
娘の悲劇的な死や、最大の理解者であったメラニーの死を経て、スカーレットはついに自分が本当に愛していたのはレット・バトラーであったことに気がつきます。
しかし時すでに遅く、愛想を尽かしたレットは彼女を捨てて去っていき、一人取り残されたスカーレットが「明日は明日の風が吹く(Tomorrow is another day)」と涙の中で立ち上がるラストシーンは、観客に永遠の余韻を残して幕を閉じます。
特筆すべき見どころ
本作の最大の見どころは、当時の最先端技術であった「スリーストリップ式テクニカラー」によって撮影された、絵画のように美しく、そして暴力的なまでに鮮やかな映像美です。
特に有名なのが、アトランタ駅の広場に何千人もの南軍の負傷兵が横たわっている壮絶なシーンです。
カメラがスカーレットの視点から徐々に上空へと引き(クレーン・ショット)、画面いっぱいに無数の傷ついた兵士たちの姿と、たなびく南部連合の旗を映し出すこのカットは、戦争の悲惨さを一瞬にして視覚化する奇跡的な映像表現として高く評価されています。
また、マックス・スタイナーが作曲した映画音楽「タラのテーマ(Tara’s Theme)」の存在も忘れてはなりません。
故郷の赤い大地への愛着と、壮大な歴史のロマンを見事に表現したこのメインテーマは、映画音楽の歴史上最も有名で、最も人々の心を震わせる名曲の一つとして、映画の品格を決定づけています。
そして何と言っても、ヴィヴィアン・リー演じるスカーレットと、クラーク・ゲーブル演じるレット・バトラーの、スクリーンから火花が散るような激しい愛憎の駆け引きは本作の真髄です。
わがままで傲慢でありながら、生命力に溢れ、決して運命に屈しないスカーレットのキャラクターは、当時の映画のヒロイン像を根本から覆す、極めて現代的で強烈なアンチヒーロー(ヒロイン)としての魅力に満ち溢れています。
制作秘話・トリビア
本作の裏側には、「映画本編よりもドラマチック」と言われるほどの壮絶な制作秘話が隠されています。
最も有名なのが、主人公スカーレット・オハラ役を決めるための、全米を巻き込んだ前代未聞のオーディション「スカーレット・ハント」です。
キャサリン・ヘプバーンやベティ・デイヴィスといった当時のハリウッドのトップ女優たちがこぞって名乗りを上げ、何千人もの候補者がテストを受けましたが、プロデューサーのセルズニックは誰にも納得しませんでした。
撮影が開始され、アトランタの炎上シーン(実際に古い映画の巨大セットを燃やして撮影された)を撮り終えてもなお主演女優が決まっていないという異常事態の中、炎を背にしてセルズニックの前に現れたのが、イギリスからやってきた無名の女優ヴィヴィアン・リーでした。
彼女の猫のような緑の瞳を見た瞬間、セルズニックは「スカーレットを見つけた!」と叫んだというエピソードは、ハリウッド最大の伝説として語り継がれています。
また、監督の交代劇も凄まじいものでした。
当初監督を務めていたジョージ・キューカーは、クラーク・ゲーブルとの不和やセルズニックの過干渉によって途中で解任され、後任として『オズの魔法使』の撮影を終えたばかりのヴィクター・フレミングが急遽メガホンを取ることになりました。
フレミングもまた過労で倒れ、さらに別の監督が代役を務めるなど、現場は常に地獄のような混乱状態にありました。
極めつけは、映画のラストシーンでレット・バトラーが言い放つ名ゼリフ「Frankly, my dear, I don’t give a damn(率直に言って、俺の知ったことか)」にまつわる検閲の逸話です。
当時の厳しい映画倫理規定(ヘイズ・コード)では「damn(ちくしょう、いまいましい)」という汚い言葉をスクリーンで使うことは絶対に禁止されていましたが、セルズニックはこの一言がレットのキャラクターを決定づける最重要のセリフであると譲らず、巨額の罰金を支払ってでもこのセリフを使用するという執念を見せ、見事に検閲を突破しました。
さらに、マミー役を演じたハティ・マクダニエルは、アフリカ系アメリカ人として史上初めてアカデミー賞(助演女優賞)を受賞するという歴史的快挙を成し遂げました。
しかし、授賞式の会場は人種隔離政策(セグリゲーション)によって白人と黒人の席が分けられており、彼女は共演者たちと同じテーブルに座ることを許されず、会場の隅の席からオスカーを受け取りに向かったという、当時のアメリカ社会の残酷な差別構造を示す悲しい裏話も残されています。
キャストとキャラクター紹介
- スカーレット・オハラ:ヴィヴィアン・リー / 栗原小巻、日野由利加など
- タラ農園の美しき令嬢であり、映画史における最強にして最凶のヒロインです。
- わがままで計算高く、目的のためなら平気で嘘をつき、他人の夫すら奪い取ろうとする道徳的に欠陥だらけの女性として描かれています。
- しかし、戦争によってすべてを失った極限状態において、家族を守るために自ら泥にまみれて働き、銃で人を殺してでも生き抜こうとするその圧倒的な生命力とバイタリティは、観る者に強烈な畏敬の念を抱かせます。
- レット・バトラー:クラーク・ゲーブル / 若山弦蔵、大塚明夫など
- 北軍の封鎖を突破して密貿易を行う、金儲け主義の危険で魅力的なアウトローです。
- 南部の伝統や紳士の建前を軽蔑し、常に皮肉ばかりを口にしていますが、本質的には誰よりも現実を直視し、スカーレットの偽善と強さを深く理解している唯一の男です。
- スカーレットを心から愛し、彼女の愛を勝ち取ろうと尽くしますが、彼女の心の奥底にある幻影(アシュレー)に阻まれ続け、最後には絶望して去っていく哀愁に満ちた男の美学を体現しています。
- アシュレー・ウィルクス:レスリー・ハワード / 堀勝之祐など
- スカーレットが長年想いを寄せ続ける、教養豊かで高潔な南部の紳士です。
- メラニーを妻に選びますが、スカーレットの情熱的なアプローチを完全に拒絶することもできず、彼女の心を永遠に縛り付け続ける罪作りな存在でもあります。
- 戦争によって彼が信じていた美しい世界が破壊され、戦後の厳しい現実社会に適応できずに衰弱していく姿は、滅びゆく南部社会の優雅さと無力さを象徴しています。
- メラニー・ハミルトン:オリヴィア・デ・ハヴィランド / 鈴木弘子など
- アシュレーの妻であり、スカーレットにとっては恋の最大のライバルとなる女性です。
- スカーレットの自己中心的な性格とは正反対の、誰に対しても無償の愛と優しさを注ぐ、まるで聖母のような純真な魂を持っています。
- スカーレットの本性を知りながらも、彼女がタラを守り抜いた強さを誰よりも尊敬し、最後まで彼女の最大の擁護者であり親友であり続けるという、本作における真の強さと高潔さを体現する重要なキャラクターです。
- マミー:ハティ・マクダニエル / 中村紀子子など
- オハラ家に長年仕える黒人のメイドであり、スカーレットの乳母です。
- スカーレットのわがままを誰よりも厳しく叱りつけ、同時に誰よりも深く彼女を愛し、見守り続ける母親代わりのような存在です。
- ハティ・マクダニエルの威厳と愛情に満ちた圧倒的な演技は、物語に深い人間味と安心感を与えています。
キャストの代表作品と経歴
- ヴィヴィアン・リー
- イギリス出身の舞台俳優であり、無名に近い状態で本作のスカーレット役に抜擢され、一夜にして世界最大のトップスターへと上り詰めました。
- 類まれなる美貌と、狂気を孕んだような憑依型の演技力を持ち合わせており、のちに『欲望という名の電車』のブランチ役でも二度目のアカデミー賞主演女優賞を獲得するという偉業を成し遂げました。
- しかし、実生活では双極性障害(躁うつ病)に苦しみ、夫ローレンス・オリヴィエとの波乱の結婚生活など、スカーレット以上に激しく孤独な人生を歩んだことでも知られています。
- クラーク・ゲーブル
- 『或る夜の出来事』でアカデミー賞を受賞し、1930年代のハリウッドを「キング・オブ・ハリウッド」として牽引した絶対的なスターです。
- 本作のレット・バトラー役は、当時のアメリカ国民の誰もが「彼以外には絶対にあり得ない」と認めた完璧なキャスティングであり、彼のキャリアにおける最高の金字塔となりました。
- 男らしさとニヒルな笑顔、そして内に秘めたロマンチシズムは、映画史における理想の男性像として永遠に語り継がれています。
- オリヴィア・デ・ハヴィランド
- 1930年代からハリウッドで清純派として活躍し、のちに『遥かなる我が子』や『女相続人』で二度のアカデミー賞主演女優賞を獲得した大女優です。
- 本作の主要キャストの中では最も長生きし、2020年に104歳で亡くなるまで、ハリウッド黄金期の生き証人として敬愛され続けました。
- 実の妹である女優ジョーン・フォンテインとの、生涯にわたる激しい確執とライバル関係もハリウッドの有名な伝説となっています。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『風と共に去りぬ』は、映画というメディアが「人間の人生のすべてを描き切ることができる」という壮大な可能性を証明した、歴史上最も偉大なマスターピースです。
インフレーションを考慮した興行収入で世界第1位の座を半世紀以上にわたって守り続けているという事実が、この作品がいかに時代を超えて大衆の心を捉え、映画館へと足を運ばせ続けてきたかを如実に物語っています。
スカーレット・オハラという、欠点だらけでありながら圧倒的な生命力で困難を乗り越えていくヒロインの姿は、大恐慌と迫り来る世界大戦の影に怯えていた当時の人々に「生き抜く力」という最大のエールを送りました。
しかし、現代の観点から本作を語る上で避けて通れないのが、奴隷制度や南部社会に対する美化という批判です。
黒人奴隷たちが「白人の主人に喜んで仕える幸せな人々」としてステレオタイプに描かれており、奴隷制の悲惨な現実や、クー・クラックス・クラン(KKK)を彷彿とさせる南部の自警団を擁護するような描写が存在することは、歴史的な事実に対する明らかな歪曲であると厳しく指摘されています。
近年では、アメリカの動画配信サービスにおいて、本作を配信する際に「本作には歴史的・人種的な偏見が含まれており、当時のアメリカ社会の誤った認識を反映している」という免責事項(ディスクレイマー)の解説映像が冒頭に追加されるなど、作品の歴史的価値と倫理的な問題点をどう折り合いをつけるかという議論が続いています。
『風と共に去りぬ』は、決して無邪気に賛美されるだけの映画ではなくなりました。
しかし、だからといってこの作品が映画史に残した芸術的達成、圧倒的な映像美、そして人間の業を深くえぐり出したドラマの熱量が否定されるわけではありません。
美しい光と、拭い去れない影。
その両方を内包したこの巨大な映画は、ハリウッドという夢の工場の最高傑作として、そしてアメリカという国家の複雑な歴史の鏡として、これからも永遠に観られ、語り継がれ、議論され続ける運命にある、究極の歴史的遺産だと言えるでしょう。
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