『バッドランド~最強の戦士~』のウンチク!西遊記と香港武術が融合した世界の製作秘話
「バッドランド~最強の戦士~」の概要
『バッドランド~最強の戦士~』(原題: Into the Badlands) は、2015年から2019年にかけてアメリカのAMC局で放送されたSF・武術アクションドラマです。
物語の舞台は、文明が崩壊し、銃が忌避された数百年後の未来。
「バッドランド」と呼ばれる無法地帯は、「バロン(男爵)」と呼ばれる領主たちによって支配されています。
主人公のサニー(ダニエル・ウー)は、最強の「クリッパー(戦士)」として領主に仕えていましたが、謎の少年M.K.との出会いをきっかけに、バッドランドの外にあるという伝説の地を目指すことになります。
本作は、アメリカのドラマとしては異例なほど本格的な「香港スタイルの武術(ワイヤー・アクション)」を全面的に取り入れたことで、世界中のアクションファンを熱狂させました。
その製作の裏には、多くの興味深い「うんちく」が隠されています。
「バッドランド」を深く知るための詳細ウンチク
『バッドランド~最強の戦士~』を語る上で欠かせない、製作の裏側やトリビアを紹介します。
原作は中国古典『西遊記』
本作の最大の「うんちく」は、このディストピア的な物語が、中国の古典小説『西遊記』を(非常にゆるやかに)ベースにしている点です。
主人公のサニーは「孫悟空(Sun Wukong)」がモデルであり、彼が探す極楽浄土「アズラ」は「天竺」にあたります。
サニーを導く少年M.K.は、三蔵法師の役割を担っています。
さらに、シーズン2以降に登場するキャラクター、ニック・フロスト演じるバジーは「猪八戒(Zhu Bajie)」、未亡人(ザ・ウィドウ)は「蜘蛛の妖怪」から着想を得ているとされています。
香港映画界のレジェンドが集結したアクション
本作のアクションが他のドラマと一線を画すのは、製作総指揮に『少林サッカー』や『カンフーハッスル』で知られるチャウ・シンチー作品の常連である製作総指揮スティーヴン・フン(馮徳倫)が参加しているためです。
さらに、アクション指導(武術指導)には、ジャッキー・チェンやジェット・リーの作品を手掛けた「マスター・ディーディー」ことクウ・フエンチウ(谷軒昭)が招かれました。
アメリカの撮影チームは、1日数分のアクションを撮るのが限界でしたが、香港チームは1日に5分以上のアクションシーンを撮影するスピード感を持っていたと言います。
この香港トップチームの参加こそが、本作の命でした。
主演ダニエル・ウーは、当初「出演拒否」していた
主人公サニーを演じたダニエル・ウー(呉彦祖)は、香港や中国で絶大な人気を誇るスターですが、当初は製作総指揮(プロデューサー)としてのみ参加する予定でした。
彼は、アメリカのテレビドラマで本格的な武術を披露する企画の実現に尽力していました。
しかし、製作陣はサニー役に求められる「高度な武術スキル」と「英語での演技力」を両立できるアジア系俳優を見つけられずにいました。
最終的に、ダニエル・ウー自身に出演が打診されましたが、当時40歳を目前にしていた彼は、キャリアで最も過酷な肉体を要求される役を演じることに難色を示しました。
しかし、プロジェクトを成功させるため、彼は自ら主演することを決意。
撮影で肋骨を折るなどの大怪我を負いながらも、全編にわたる激しいアクションを演じきりました。
「銃」を意図的に排除した世界観
本作の世界では、銃火器がほとんど登場しません。
これは、単に「弾薬が尽きた」のではなく、「大粛清」と呼ばれる過去の出来事によって、銃の所持が意図的に禁止されたという設定に基づいています。
この「銃の排除」というルールは、物語の根幹をなす「うんちく」です。
なぜなら、銃が存在しない世界だからこそ、剣や槍、そして何よりも「武術(マーシャルアーツ)」が最強の力として君臨するという、本作独自の世界観が成立したのです。
『ウォーキング・デッド』の兄弟番組としてのスタート
本作が放送されたAMCは、当時『ウォーキング・デッド』という歴史的な大ヒット作を抱えていました。
『バッドランド』のシーズン1は、その『ウォーキング・デッド』の直後の放送枠という、全米で最も注目される時間帯に配置されました。
その結果、シーズン1は非常に高い視聴率を記録し、幸先の良いスタートを切りました。
しかし、シーズン2以降は放送枠が移動し、徐々に視聴率が低下。
最終的にシーズン3をもって、物語が完結しないまま(クリフハンガーの状態で)打ち切りが決定してしまいました。
参考動画
まとめ
『バッドランド~最強の戦士~』は、アメリカのテレビドラマ界において、本格的な香港スタイルの武術アクションを最前線に持ち込んだ、非常に野心的な作品でした。
ダニエル・ウーをはじめとするキャストと製作陣の情熱は、他に類を見ない密度のアクションシーンを生み出しました。
物語が未完のまま終了したことは多くのファンを落胆させましたが、その斬新な世界観と、ワイヤー・アクションと残酷描写が融合した独特のスタイルは、カルト的な人気を誇り続けています。
本作は、もし『西遊記』がポストアポカリプスの世界でハードなカンフー映画になったら、という壮大な「if」を描いた作品と言えるでしょう。
関連トピック
西遊記
本作のインスピレーションの源となった中国の古典小説です。
サニー(悟空)やバジー(八戒)など、多くのキャラクターが西遊記の登場人物をモデルにしています。
ダニエル・ウー (Daniel Wu)
本作の主演および製作総指揮を務めた俳優です。
香港映画界のトップスターであり、本作でアメリカのドラマ界に本格進出しました。
スティーヴン・フン (Stephen Fung)
本作の製作総指揮とアクション監督の一部を務めた香港の俳優・監督です。
彼の存在が、本作の香港映画的なクオリティを担保しました。
AMC (テレビ局)
本作を放送したアメリカのケーブルテレビ局です。
『ウォーキング・デッド』や『ブレイキング・バッド』など、質の高いドラマで知られています。
関連資料
バッドランド~最強の戦士~ (Blu-ray / DVD)
全シーズンを収録した物理メディアです。
特典映像には、本作の「うんちく」の核心である、過酷なアクションシーンのメイキングやトレーニング風景が収録されています。
西遊記 (岩波文庫 ほか)
本作の元ネタとなった原作小説です。
ドラマとの設定の違いを比較しながら読むと、新たな発見があるかもしれません。
香港映画各種 (DVD / 配信)
ダニエル・ウーやスティーヴン・フンが関わった他の香港映画(例:『香港国際警察/NEW POLICE STORY』など)を観ることで、本作に流れるアクションの系譜をより深く理解できます。

