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【徹底解説】『或る夜の出来事』の評価は?あらすじからアカデミー賞主要5部門独占の理由、キャストまで総まとめ

コメディー
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概要

1934年にアメリカで公開され、今日に至るまでロマンチック・コメディの最高峰として燦然と輝き続ける不朽の名作映画『或る夜の出来事』(原題:It Happened One Night)。
本作は、巨匠フランク・キャプラ監督がメガホンを取り、コロンビア・ピクチャーズによって製作された歴史的なロードムービー・コメディです。
映画史における本作の最大の功績は、1935年に開催された「第7回アカデミー賞」において、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞、そして最優秀脚色賞という「主要5部門(ビッグ・ファイブ)」を史上初めて完全独占するという前人未到の偉業を成し遂げた点にあります。
この主要5部門独占という快挙は、長いアカデミー賞の歴史においても、本作と『カッコーの巣の上で』(1975年)、『羊たちの沈黙』(1991年)のわずか3作品しか達成していないという事実からも、その圧倒的な完成度と評価の高さが窺い知れるでしょう。
物語は、世間知らずの大富豪の令嬢と、失業中のぶっきらぼうな新聞記者が、マイアミからニューヨークへと向かう長距離バスの旅の中で偶然出会い、反発し合いながらも次第に惹かれ合っていくという王道のボーイ・ミーツ・ガールです。
常識外れで風変わりな登場人物たちがテンポの良い洒落た会話劇(スクリューボール・コメディ)を繰り広げ、大恐慌時代で打ちひしがれていた当時のアメリカ国民に、底抜けの笑いと希望を与え、爆発的な大ヒットを記録しました。
また、ヒッチハイクのシーンや「ジェリコの壁」といった映画史に残る名シーンの数々は、のちに製作される数え切れないほどのラブコメディ映画の絶対的なお手本(雛形)となりました。
この記事では、エンタメ情報サイト「tvtomovie.com」の視点から、映画『或る夜の出来事』のあらすじや胸を打つ見どころ、語り草となっている数々の制作秘話、そして映画界の伝説となった名優たちの魅力までを徹底的に深掘りして解説していきます。
約90年という長い年月が経過した今もなお全く色褪せることのない、奇跡のロマンチック・コメディの裏側に迫りましょう。

予告編

詳細(徹底解説)

あらすじと世界観

物語の始まりは、フロリダ州マイアミの海上に停泊する豪華なヨットの上です。
ウォール街を牛耳る大富豪アレクサンダー・アンドリュースの一人娘であるエリーは、プレイボーイとして名高い飛行家ウェストリーとの結婚を父親から猛反対され、ヨットの船室に軟禁状態に置かれていました。
しかし、勝ち気で意志の強いエリーは、食事の最中に隙を見てヨットから海へとダイブし、父親の追手を逃れてニューヨークにいる婚約者ウェストリーの元へと向かう深夜の長距離バスに乗り込みます。
一方、その同じバスには、上司と大喧嘩をして新聞社をクビになったばかりの、失業中の敏腕記者ピーター・ウォーンが乗り合わせていました。
偶然にも隣の席になった二人は、育った環境も価値観も全く正反対であるため、事あるごとに衝突し、皮肉を言い合う最悪の出会いを果たします。
しかし、道中でエリーの荷物が盗まれたり、バスに乗り遅れたりといったトラブルに見舞われる中、ピーターは彼女が「行方不明の大富豪の令嬢」であることを知ります。
ピーターは、エリーのニューヨークへの逃避行を無事に手助けする代わりに、彼女の道中を独占記事にして新聞社に売り込み、自分のキャリアを挽回しようという「特ダネの契約」を彼女と結ぶのでした。
本作の世界観は、1930年代の古き良きアメリカの風景と、大恐慌時代を生き抜く庶民のたくましさが色濃く反映されたロードムービーの体裁をとっています。
質素なモーテルでの宿泊や、雨の夜の野宿、ヒッチハイクといった道中の苦労を共に乗り越えていく中で、上流階級の温室育ちだったエリーが庶民の温かさや自由の尊さに触れ、同時にピーターという不器用ながらも頼りになる男の魅力に気づいていくという、極めてロマンチックな心の変化が丁寧に描かれています。

シーズン/章ごとの展開

本作のストーリーラインは、旅の行程と二人の心の距離がシンクロして縮まっていく、完璧な3幕構成で展開されます。
第1幕は、マイアミからの逃亡と二人の最悪の出会いを描く、ドタバタ喜劇の導入部です。
大富豪の娘であることを隠してツンケンするエリーと、世間知らずな彼女を小馬鹿にするピーターの、まるで子供の喧嘩のような軽妙な会話劇が、見事なテンポで繰り広げられます。
第2幕では、バスの旅が本格化し、トラブルの連続によって二人が協力せざるを得なくなるロードムービーのパートに入ります。
モーテルの同室に泊まることになった二人が、ベッドの間にロープを張り、毛布を掛けて部屋を二つに仕切る「ジェリコの壁(旧約聖書に由来する決して崩れない壁の例え)」のシークエンスは、当時の厳格な倫理規定(ヘイズ・コード)を逆手にとった、知的で最高にセクシーな演出として知られています。
また、資金が底をつき、飢えをしのぐためにニンジンをかじりながら歩くシーンや、車を止めるための有名なヒッチハイクのシーンなど、映画史に残る名場面の数々がこの中盤に惜しげもなく詰め込まれています。
そして第3幕のクライマックスは、お互いに愛し合っていることに気づきながらも、些細な誤解から二人の関係が引き裂かれてしまう切ないすれ違いのドラマです。
ピーターは結婚資金を稼ぐために記事を書きに急いでニューヨークへ向かいますが、エリーは自分が見捨てられたと勘違いし、父親に連絡してかつての婚約者ウェストリーとの盛大な結婚式を挙げることになってしまいます。
結婚式当日の祭壇の前で、父親から「君を本当に愛しているのはあの記者だ」と背中を押されたエリーが、ウェディングドレスを翻して花婿から逃げ出し、本物の愛の元へと走り出す大逆転の結末は、ラブコメディの究極のカタルシスをもたらしてくれます。

特筆すべき見どころ

本作の最大の見どころは、やはり主演のクラーク・ゲーブルとクローデット・コルベールが織りなす、スクリューボール・コメディの真骨頂とも言える「小粋な会話劇」と「名シーンの連続」です。
中でも最も有名なのが、お金を失った二人が道路沿いで通りすがりの車を止めようとするヒッチハイクのシーンです。
ピーターが親指を立てて「俺の完璧なヒッチハイク術を見せてやる」と豪語し、様々なポーズで車を止めようとしますが、通り過ぎる車には全く相手にされず、砂埃を浴びるだけの惨めな結果に終わります。
それを見かねたエリーが、「私に任せて」と道路脇に立ち、スカートの裾を少しだけ持ち上げて美しい「足」をチラリと見せると、次の瞬間に車が急ブレーキをかけて止まるという、極めてユーモラスで色気のある名シーンです。
このシーンは、女性の魅力が男性の理屈をあっさりと凌駕するという本作のテーマを、たったワンカットで雄弁に物語っています。
また、ドーナツをコーヒーに浸す「ダンク」の正しいやり方をピーターがエリーにレクチャーするシーンや、ピギーバック(おんぶ)で川を渡るシーンなど、日常の些細な動作の中に恋の芽生えを感じさせるフランク・キャプラ監督の緻密で温かい人間描写が、画面の至る所に溢れています。
結末において、二人が結ばれたことを直接的なキスシーンではなく、「ジェリコの壁」に見立てた毛布が床に落ちる(壁が崩れ去る)という暗喩的なカットで表現したラストシーンの粋な余韻も、本作を名作たらしめている重要な要素です。

制作秘話・トリビア

本作が歴史的な大成功を収めた裏側には、実は「誰もこの映画に出たがらなかった」という嘘のような奇跡のドラマが隠されています。
当時、コロンビア・ピクチャーズは「貧乏スタジオ」と揶揄される小規模な映画会社であり、フランク・キャプラ監督が本作の企画を持ち込んでも、大物スターたちはこぞって出演を断りました。
エリー役のクローデット・コルベールは、かつてキャプラ監督の作品に出演してひどい目に遭った経験があったため、「絶対にキャプラとは仕事をしたくない」と拒否し、高額なギャラと「撮影をわずか4週間で終わらせること」という無理難題を条件に突きつけ、渋々承諾したと言われています。
一方のピーター役のクラーク・ゲーブルも、当時彼が所属していたMGMの社長ルイス・B・メイヤーと反発した結果、「お灸を据えるための罰(左遷)」として弱小スタジオのコロンビアに貸し出され、不貞腐れた態度で撮影現場にやってきたという逸話が残っています。
しかし、いざ撮影が始まると、二人のスターが持つ天性の魅力と反骨精神が、いがみ合う男女というキャラクター設定に見事なまでに合致し、映画に奇跡的なケミストリーを生み出すことになったのです。
さらに、本作にまつわる最も有名な都市伝説の一つが「アンダーシャツ(下着)伝説」です。
モーテルの部屋でピーターが服を脱ぐシーンにおいて、ゲーブルがワイシャツのボタンを外すと、その下にはアンダーシャツ(肌着)を着ておらず、彼のたくましい裸の胸板が直接露わになるという演出がありました。
このゲーブルのワイルドで男らしい姿を見た全米の男性たちが、「肌着を着ないのがクールだ」と一斉に真似をし始めた結果、アメリカ全土でアンダーシャツの売上が激減し、肌着業界の経営者たちがパニックに陥って映画会社に抗議の手紙を送ってきたという、凄まじい社会的影響力を持つエピソードとして語り継がれています。
また、道中でゲーブルがニンジンをかじりながら早口で喋るシーンは、のちにワーナー・ブラザースの人気アニメキャラクター「バッグス・バニー」が生み出される際の重要なインスピレーションの元(モデルの一つ)になったとも言われています。

キャストとキャラクター紹介

  • ピーター・ウォーン:クラーク・ゲーブル
    • 新聞社をクビになったばかりの、口は悪いが腕の立つ敏腕の新聞記者です。
    • 最初はエリーの逃避行を特ダネ記事として利用するためだけに近づきますが、彼女の純粋さや、時折見せる弱さに触れるうちに、特ダネよりも彼女自身の幸せを願うように心が変化していきます。
    • 荒っぽく男尊女卑的な態度の裏に、ロマンチストで誠実な本性を隠し持っているという、当時としては非常にモダンで魅力的な男性像を体現しており、ゲーブルの野性的な魅力が爆発しています。
  • エリー・アンドリュース:クローデット・コルベール
    • ウォール街の巨大な富と権力を持つ父親に過保護に育てられた、ワガママで世間知らずな大富豪の令嬢です。
    • 飛行家ウェストリーへの愛を貫くために深夜バスで逃亡しますが、それは本当の愛というよりも、父親への反発心から来る意地のようなものでした。
    • ピーターとの旅を通じて庶民の現実を知り、自分の足で立ち、本当に愛するべき男を見極める力強い女性へと成長していく姿が、コルベールの洗練されたコメディセンスによって見事に演じられています。
  • アレクサンダー・アンドリュース:ウォルター・コノリー
    • エリーの父親であり、ニューヨークを牛耳る厳格な大富豪です。
    • 娘を愛するあまりに過干渉になり、彼女の結婚を力で阻止しようとしますが、本質的には娘の幸せを誰よりも第一に願っている心優しい父親でもあります。
    • 物語の終盤、ピーターという男の誠実さと「娘への本当の愛情」を見抜き、結婚式の祭壇の前で娘の逃亡を後押しするという、映画史上最も粋でカッコいい父親の一人として活躍します。

キャストの代表作品と経歴

  • クラーク・ゲーブル
    • 「キング・オブ・ハリウッド」の異名を取り、1930年代から50年代にかけてハリウッドの頂点に君臨し続けた絶対的な大スターです。
    • 本作での野性的でコミカルな演技により、見事に第7回アカデミー賞主演男優賞を獲得し、俳優としての評価を不動のものにしました。
    • その後、映画史に残る歴史的超大作『風と共に去りぬ』(1939年)のレット・バトラー役という彼の代名詞とも言える生涯最高の役柄を演じ、映画ファンにとって永遠のアイコンとなりました。
  • クローデット・コルベール
    • フランス・パリ生まれのエレガントな美貌と、丸みを帯びた愛らしい顔立ちで絶大な人気を誇った、1930年代のハリウッドを代表するトップ女優の一人です。
    • 本作の嫌々ながらの出演が結果的に彼女に初のアカデミー賞主演女優賞をもたらすという、幸運と実力を兼ね備えたエピソードを持っています。
    • 同年にはセシル・B・デミル監督の歴史超大作『クレオパトラ』でも主演を務めるなど、コメディから歴史劇まで幅広いジャンルでその才能を遺憾なく発揮しました。
  • フランク・キャプラ(監督)
    • 「キャプラ・タッチ」と呼ばれる、善良な庶民の視点から描かれる心温まるユーモアとヒューマニズムに満ちた作風で、大恐慌時代のアメリカ国民に最も愛された巨匠監督です。
    • 本作の成功を皮切りに、『オペラハット』や『我が家の楽園』などでアカデミー賞監督賞を計3回も受賞するという偉業を達成しました。
    • 後年に製作されたクリスマスの定番映画『素晴らしき哉、人生!』(1946年)は、現在でも世界中で愛され続ける彼自身の最高傑作として広く知られています。

まとめ(社会的評価と影響)

映画『或る夜の出来事』は、映画というエンターテインメントが人々の心にどれほど豊かで温かい感情をもたらすことができるかを証明した、ハリウッド黄金期の最も輝かしい奇跡の一つです。
「身分違いの男女が出会い、反発しながらも恋に落ちる」という本作が確立した物語のフォーマットは、「スクリューボール・コメディ」という新しいジャンルを誕生させ、のちの『ローマの休日』や『プリティ・ウーマン』など、現代に至るまでの無数のロマンチック・コメディ映画の絶対的な教科書として受け継がれています。
1934年という、アメリカ全土が世界大恐慌による深刻な貧困と失業の暗雲に包まれていた時代において、富や権力よりも「真実の愛」と「個人の自由」が高らかに勝利を収めるこの映画は、観客にとって何よりの救いであり、希望の光でした。
貧乏スタジオで作られ、出演者すら嫌がっていたという逆境からスタートしながらも、ユーモアと人間愛という普遍的な武器によってアカデミー賞主要5部門を完全制覇するという現実のシンデレラ・ストーリー自体が、まさにキャプラ監督の映画そのもののような痛快な結末です。
ピーターの軽妙な口ぐせや、エリーがふと見せる寂しそうな瞳、そして夜の雨音の中でそびえ立つ「ジェリコの壁」。
すべてが完璧な計算と奇跡的な偶然の産物によって織りなされた本作は、およそ90年という悠久の時を経た現代の私たちが観ても、新鮮な笑いと甘い胸の高鳴りを与えてくれます。
映画を愛し、ロマンスを信じるすべての人々にとって、一生に一度は必ず体験しておくべき、永遠に幸福な「或る夜の出来事」だと言えるでしょう。

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    • 最新のデジタル技術で修復された美しいモノクロ映像により、コルベールの洗練された衣装のディテールや、ゲーブルの男らしい表情をクリアな画質で楽しむことができ、当時のハリウッドの熱気を現代の画面に鮮やかに蘇らせてくれます。
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    • 本作の原作となった短編小説『夜行バス(Night Bus)』を収録した書籍です。
    • キャプラ監督と脚本家のロバート・リスキンが、この短い物語をいかにして長編映画の傑作脚本へと膨らませていったのかという、映画製作のプロセスと優れた脚色の魔法を、文章を読み比べることで深く理解することができます。
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    • フランク・キャプラ監督の作家性の集大成であり、アメリカ映画協会が選ぶ「最も感動的な映画」第1位にも輝いた不朽のヒューマンドラマの傑作です。
    • 『或る夜の出来事』でキャプラ・タッチの温かさに触れてすっかり魅了されてしまった方は、ぜひ本作もセットで鑑賞し、人間の善意と人生の素晴らしさを高らかに謳い上げるキャプラ監督の圧倒的なメッセージに、心ゆくまで涙を流していただきたいと思います。
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