【マッドメン】ジョーン・ハリスの華麗なる逆襲!オフィスのお飾りから経営者へ登り詰めた女王の全貌
「マッドメン」におけるジョーン・ハリスの概要
1960年代のニューヨーク広告業界を舞台に、欲望と嘘、そして時代の変化を描いたドラマ『マッドメン(Mad Men)』。
この作品において、圧倒的なカリスマ性と美貌で「スターリング・クーパー」社のオフィスを取り仕切るのが、ジョーン・ハリス(演:クリスティーナ・ヘンドリックス)です。
当初は「男性社員の目の保養」や「有能な秘書室長」として登場した彼女ですが、シリーズを通して最も劇的な変化を遂げたキャラクターの一人です。男尊女卑が当たり前の時代に、自身の「女性としての武器」と「卓越した実務能力」を駆使して、単なる秘書から会社のパートナー(共同経営者)、そして自らの会社を立ち上げるCEOへと進化していく彼女のサクセスストーリーと、その裏にある痛みについて解説します。
詳細:ガラスの天井を突き破った「女王蜂」
ジョーン・ハリスは、ペギー・オルソンとは対照的な「もう一つのフェミニズム」を体現したキャラクターです。彼女の魅力を紐解くには、その美しさと冷徹なまでのプロフェッショナリズムに注目する必要があります。
1. スターリング・クーパーの「女王蜂」
物語の序盤、ジョーン・ホロウェイは秘書室長として登場します。
豊満なボディラインを強調したタイトなドレスを纏い、ペンをネックレスのように首から下げた姿は、オフィスの誰もが振り返るアイコンでした。
彼女は新入りのペギーに対し、「男をつかまえて結婚するのがゴール」だと教えますが、それは彼女自身が社会の限界を感じていたからこその処世術でした。
彼女はオフィスの力学を完全に理解しており、男性幹部たちも彼女の機嫌を損ねることを恐れるほど、実質的な現場の支配者(女王蜂)として君臨していました。
2. 崩れ去った結婚幻想とグレッグとの悲劇
ジョーンは理想の結婚相手として医師のグレッグ・ハリスを選びますが、この結婚は彼女にとって地獄の始まりでした。
グレッグは医師としての才能に欠け、プライドだけが高い人物であり、ジョーンをオフィスでレイプするという許されざる行為に及びます。
「結婚すれば幸せになれる」という彼女の信条は粉々に砕かれました。しかし、この絶望が彼女を目覚めさせます。彼女は自分の価値が「誰かの妻」であることではなく、「仕事ができる自分」にあることに気づき始めるのです。
3. 「ジャガー」の取引とパートナーへの昇格
ジョーンのキャリアにおける最大の転機であり、最も議論を呼んだのがシーズン5のエピソードです。
会社が大手自動車メーカー「ジャガー」との契約を獲得するために、ある有力者がジョーンとの一夜を要求しました。
彼女は迷った末、報酬として現金ではなく「会社のパートナー(共同経営権)の地位」を要求し、その条件を飲みます。
この決断は、彼女が自身の身体を商品として利用した最も暗い瞬間であると同時に、男社会のルールを逆手にとって権力を手に入れた瞬間でもありました。ドン・ドレイパーだけは彼女を止めようとしましたが、彼女は覚悟を決めてその一線を超えたのです。
4. ロジャー・スターリングとの腐れ縁
ジョーンの人生に長く影を落とし、かつ愛し続けたのが、会社の創業者の一人であるロジャー・スターリングです。
二人は長年愛人関係にあり、ジョーンの息子ケヴィンの実の父親はロジャーです。
二人は決して結婚することはありませんでしたが、互いに最も理解し合える「戦友」のような関係を築きました。最終的にロジャーは遺産の一部をケヴィンに残すことで責任を果たし、ジョーンも彼との関係に決着をつけて自立の道を選びます。
5. クリスティーナ・ヘンドリックスの功績
ジョーンを演じたクリスティーナ・ヘンドリックスは、この役で世界的なセックスシンボルとなりました。
しかし、彼女の功績は単にセクシーだったことではありません。痩せていることが正義とされた当時のファッション界に対し、豊満な女性の美しさと威厳を再認識させたことです。
彼女の演じるジョーンは、歩き方一つ、タバコの吸い方一つにまで「隙のない完璧な女性」としての美学が貫かれていました。
「ジョーン・ハリス」参考動画
まとめ
ジョーン・ハリスの物語は、60年代の女性がいかにして「ガラスの天井」と戦ったかの記録です。
彼女はペギーのように男と同じ土俵で戦うのではなく、女であることを最大限に利用し、時には泥にまみれながらも、最終的には「ホロウェイ・ハリス」という自分の名前を冠した会社を設立するに至りました。
ラストシーン、自宅のダイニングで仕事を始める彼女の背中は、どんな男性キャラクターよりも逞しく、希望に満ちていました。マッドメンを見る際は、ドンの転落だけでなく、ジョーンの静かなる革命にもぜひ注目してください。
関連トピック
ペギー・オルソン(ジョーンの部下から始まり、良きライバル、そして理解者となるコピーライター)
ロジャー・スターリング(ジョーンの長年の愛人であり、息子の父親。軽薄だが憎めない経営者)
ドン・ドレイパー(主人公。ジョーンとは互いにプロとしてリスペクトし合う特別な距離感を持つ)
ピート・キャンベル(野心家の営業マン。ジョーンに「ジャガー」との取引を持ちかけた張本人)
関連資料
DVD『マッドメン コンプリート・ボックス』(全7シーズンを収録。ジョーンのファッションの変化も楽しめる)
書籍『Mad Men: The Illustrated World』(60年代のデザインやカルチャーを解説したファンブック・洋書)

