概要
ハリウッドを代表する超豪華なA級スターたちが大挙して出演しているにもかかわらず、「映画史に残る最低のコメディ」として悪名高いのが、2013年に公開されたアンソロジー映画『ムービー43』(原題:Movie 43)です。
ピーター・ファレリーや『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン、女優のエリザベス・バンクスなど、総勢10名以上の監督がそれぞれ独立した短編(スケッチ)を制作し、それらを一つの作品としてまとめ上げた前代未聞のオムニバス・コメディとなっています。
しかし、その内容はあまりにも下品で、常軌を逸したブラックジョークやスカトロジー、放送禁止ギリギリの性的なパロディのオンパレードでした。
ヒュー・ジャックマン、ケイト・ウィンスレット、ハル・ベリー、エマ・ストーン、リチャード・ギアといったアカデミー賞常連の名優たちが、信じられないような下ネタや不謹慎なギャグに真顔で挑んでいます。
なぜこれほどのトップスターたちがこぞって出演を承諾したのか、ハリウッド最大の謎の一つとも言われ、公開当時は世界中の映画ファンを大いに困惑させました。
本記事では、この「ある意味で奇跡の映画」のあらすじや独自の世界観、豪華すぎるキャスト陣の経歴、そして公開後に巻き起こった酷評の嵐とラジー賞三冠獲得の裏側まで、徹底的に深掘りして解説していきます。
予告編
あらすじと狂気の世界観
本作は、複数の過激な短編ストーリーを繋ぎ合わせる「ラップアラウンド(額縁)」と呼ばれる手法をとって構成されています。
劇場公開版や国によってこの額縁部分のストーリーは異なりますが、インターナショナル版として主に知られているのは、落ちぶれた映画プロデューサーのチャーリー(デニス・クエイド)が、大手映画スタジオの重役であるグリフィン(グレッグ・キニア)に対し、銃を突きつけながら強引に自らの狂った新作映画のアイデアを売り込むという展開です。
チャーリーがピッチ(プレゼン)するアイデアの数々が、そのままオムニバス形式の短編映画として次々とスクリーンに映し出されていくというメタ的な構造になっています。
アメリカ公開版では、3人のオタク少年たちがインターネット上に隠された幻の禁断映像「ムービー43」を探し出そうとハッキングを行うというストーリーが軸になっており、彼らが見つける動画が各短編となっているのです。
どちらのバージョンにせよ、映し出される短編の一つ一つが、ハリウッドのタブーをすべて詰め込んだような倫理観を完全に無視した過激な設定ばかりであり、観客の度肝を抜く狂気に満ちた世界観がノンストップで展開されます。
狂気のスケッチ群と特筆すべき見どころ
『ムービー43』の最大の見どころは、やはり「あの名優がこんな下品なことを真剣に演じている」という強烈なギャップと背徳感に尽きます。
最初のスケッチである「The Catch(キャッチ)」では、ヒュー・ジャックマンが首から立派な睾丸をぶら下げた富豪を演じ、オスカー女優のケイト・ウィンスレットがそれにドン引きしながらもディナーを続けるという、正気の沙汰とは思えない映像が流れます。
また、クロエ・グレース・モレッツが出演する「Middleschool Date(中学生のデート)」では、初潮というデリケートなテーマを扱いながら、周囲の男性陣が過剰にパニックに陥るという不謹慎極まりないドタバタ劇が繰り広げられます。
ナオミ・ワッツとリーヴ・シュレイバーが実生活同様の夫婦役で出演した「Homeschooled(ホームスクール)」では、息子を自宅学習させながらも「現実の過酷な学校生活」を教え込むために、両親が自ら息子を執拗にいじめ抜くというブラックすぎる教育方針が描かれます。
さらに、当時実生活でも夫婦だったクリス・プラットとアンナ・ファリスが出演する「The Proposition(プロポーズ)」では、愛する彼女からの異常なスカトロジー的欲求に応えるため、彼氏がとんでもない食生活を送るという目を覆いたくなるような展開が待っています。
コメディとしての質や笑いのツボは極端に観る人を選びますが、絶対に他では見られない豪華スターたちの捨て身の演技は、ある意味で非常に希少価値が高いと言えるでしょう。
制作秘話と俳優たちの悲鳴・ファン必見のトリビア
本作の企画から完成までには、なんと約10年という途方もない歳月が費やされています。
プロデューサーのチャールズ・B・ウェスラーは、自身が持つハリウッドの幅広い人脈や、俳優たちへの「過去の恩」を巧みに利用し、数年がかりで少しずつキャストを口説き落としていきました。
しかし、いざ台本を読んだ俳優たちはその内容があまりにもひどかったため、多くの大スターたちが出演を後悔し、撮影現場から逃げ出そうとしたり、契約の穴を探して降板しようと画策したりしたという逸話が残っています。
リチャード・ギアは撮影を意図的に1年近く先延ばしにして逃げ切ろうと試みましたが、結局はプロデューサーの執念と契約に縛られて出演を果たす羽目になりました。
また、ジョージ・クルーニーやコリン・ファレルなど、オファーをきっぱりと断った賢明なスターたちも多数存在します。
公開前のプロモーション活動では、出演俳優たちが揃いも揃って映画の宣伝インタビューやプレミアを拒否するという異例の事態に発展し、ハリウッド中がこの作品から距離を置こうとする異様な空気が漂っていました。
ジェームズ・ガンが監督したアニメーションと実写の合成スケッチ「Beezel(ビーゼル)」では、エリザベス・バンクスが下品なCGアニメの猫とドロドロの愛憎劇を繰り広げますが、これもガン監督の狂ったユーモアセンスが爆発した怪作として、後年カルト的な注目を集めました。
キャストとキャラクター紹介
- デイビス: 演 – ヒュー・ジャックマン / 吹替 – 山路和弘
完璧なルックスと莫大な財力を持つ魅力的な独身男性ですが、首の真下に立派な睾丸がぶら下がっているという致命的で衝撃的な特徴を持っています。
どんなシリアスな演技もこなす名優が、この全く笑えない設定に一切の照れを見せず、終始真顔で紳士的に振る舞い続ける姿は、本作を象徴する屈指の名(迷)シーンです。
- ベス: 演 – ケイト・ウィンスレット / 吹替 – 林真里花
デイビスとのブラインドデートにやってきた、知性あふれる美しい独身女性です。
相手の首にある異形のものから必死に目を逸らし、平静を装いながらディナーを続けようとするも、最終的にはスープに「それ」が浸かってしまうという悲劇に見舞われ、顔面蒼白になる姿を熱演しています。
- エミリー: 演 – ハル・ベリー / 吹替 – 本田貴子
レストランでのブラインドデート中に、「真実か挑戦か(Truth or Dare)」という過激なゲームに異常なまでのめり込んでいく女性を演じています。
ゲームがエスカレートするにつれ、他人の誕生日ケーキに手をつっこんだり、巨大で不格好な胸のタトゥーを入れたりと、アカデミー賞女優のプライドを完全に投げ捨てた狂演を見せています。
- アマンダ: 演 – クロエ・グレース・モレッツ / 吹替 – 潘めぐみ
気になっている男の子の自宅での初デート中、予期せず初潮を迎えてしまい、パニックに陥る中学生の少女という役どころです。
周囲の無知でデリカシーのない男の子たちや、事態を悪化させる大人たちに囲まれ、ひたすら悲鳴を上げ続けるというカオスなシチュエーションを見事に演じ切りました。
- サマンサ: 演 – ナオミ・ワッツ / 吹替 – 岡寛恵
自宅学習(ホームスクール)で息子を育てる献身的な母親と思いきや、公立学校の過酷な環境を疑似体験させるため、夫と共に息子を徹底的にいじめ抜く狂気の母親です。
息子の初恋相手のフリをしてからかったり、ロッカーに閉じ込めたりと、サイコパスじみた教育論を大真面目に展開する姿が恐怖すら覚えるほど秀逸です。
- ボス(スティーブ・ジョブズ風のCEO): 演 – リチャード・ギア / 吹替 – 菅生隆之
「iBabe」と呼ばれる、女性の等身大の形をした画期的な音楽プレイヤーを開発した企業のCEOを演じています。
その製品には「冷却ファン」という名の危険な穴が空いており、そこに男性器を入れて切断される事故が多発しているという重大な報告に対し、全く的外れな対応をするシュールな上司を熱演しました。
キャストの代表作品と経歴
本作に出演している俳優陣の豪華すぎる経歴を振り返ると、いかにこの映画が「ハリウッド史上最大の規格外の無駄遣い」であるかがよく分かります。
首に睾丸をつけた男を演じたヒュー・ジャックマンは、『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役で世界的アクションスターとなり、『レ・ミゼラブル』では圧倒的な歌唱力と演技力でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど、ハリウッドの頂点に君臨する名優です。
本作と同じ2013年には、世界中を感動の渦に巻き込んでおり、なぜ同時にこんな作品に出てしまったのかとファンを大いに困惑させました。
彼のデート相手を演じたケイト・ウィンスレットは、『タイタニック』で大ブレイクを果たし、『愛を読むひと』でアカデミー賞主演女優賞を受賞した、現代最高峰の演技派女優の一人です。
気品あふれる役柄が多い彼女が、本作で見せた顔面蒼白のリアクション芸は、ある意味で彼女のキャリアにおいて最もレアで体を張った映像と言えるかもしれません。
過激なゲームに挑んだハル・ベリーもまた、『チョコレート』でアフリカ系アメリカ人として初のアカデミー賞主演女優賞を受賞した歴史的なスターであり、『X-MEN』シリーズなどで絶大な人気を誇ります。
さらに、本作に出演したエマ・ストーン(後に『ラ・ラ・ランド』や『哀れなるものたち』でオスカーを複数回受賞)、クロエ・グレース・モレッツ(『キック・アス』で大ブレイク)、クリス・プラット(後に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ジュラシック・ワールド』で世界的スターに)など、本作の出演後にさらに大きく飛躍を遂げた俳優も多数おり、「彼らの隠したい黒歴史」として本作の価値が逆に高まっているという奇妙な現象も起きています。
まとめ(社会的評価と影響)
公開されるや否や、『ムービー43』は世界中の映画評論家や一般の観客から総スカンを食らいました。
辛口レビューサイトとして知られるRotten Tomatoesでは、批評家支持率がわずか「5%」という歴史的な低水準を叩き出し、「映画というメディアへの冒涜」「誰も得をしない悲惨な失敗作」「才能の恐ろしいほどの無駄遣い」とまで徹底的に酷評されました。
その年の最低映画を決めるゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)では、最低作品賞、最低監督賞、最低脚本賞という主要3部門を見事に(不名誉にも)受賞し、堂々の「その年最低の映画」に認定されています。
しかし、これだけの激しい酷評を浴びながらも、一部のカルト的な映画ファンやB級・Z級コメディ愛好家からは、「ここまで振り切った下品さとバカバカしさは逆に清々しい」「ハリウッドのトップスターたちが真面目に下ネタをやっているという構図だけで笑える」と、一種の歪んだ愛を込めて支持されているのも事実です。
後世の映画界に与えた影響としては、「どんなに豪華なA級キャストを集めようとも、脚本と構成が破綻していれば映画は救えない」という、映画作りの根本的な教訓を残した巨大な反面教師としての役割が挙げられます。
今日でも、「信じられないほどの豪華キャストが出演している絶対に見るべきではない駄作」を語る上で、真っ先に名前が挙がる伝説的なカルト映画として、映画史の片隅に強烈な爪痕を残し続けています。
作品関連商品
本作に関連する商品は、そのカルト的な立ち位置や「怖いもの見たさ」から、コアなファンの間でひそかな人気を集めています。
- DVD / Blu-ray ソフト: 本編に加えて、劇場公開時には過激すぎてカットされてしまった未公開スケッチや、別バージョンのエンディングなどが収録されたセル版のDVDおよびBlu-rayが発売されています。
これほどの大スターたちがパッケージに顔を揃えているにもかかわらず、内容は全く保証できないという強烈なギャップが魅力のコレクターズアイテムです。
- デジタル配信(VOD): Amazon Prime VideoやU-NEXT、各種レンタルサービスでも定期的に配信ラインナップに加わっており、「本当にそこまでひどい映画なのか?」と自らの目で確かめるために視聴に挑むチャレンジャーが後を絶ちません。
友人と集まってツッコミを入れながら観賞する「パーティームービー」としては最適な一本です。
- 出演スターたちの「本当の名作」群: 本作のあまりの下品さにショックを受けた後、口直しとしてヒュー・ジャックマンの『グレイテスト・ショーマン』や、ケイト・ウィンスレットの『タイタニック』、エマ・ストーンの『ラ・ラ・ランド』のDVD・Blu-rayを併せて鑑賞し、彼らの本当の素晴らしさと演技力を再確認するという楽しみ方も、映画ファンの間で定番となっています。
