【哲学SFの最高峰】『スペース1999』第10話「黒い太陽」徹底解説!死を前にした男たちの対話と神秘体験
『スペース1999』第10話「黒い太陽」の概要
『スペース1999』第1シーズンの中でも、屈指の名作として名高い第10話「黒い太陽(原題:Black Sun)」。
このエピソードは、派手なアクションや宇宙人との戦闘ではなく、回避不可能な「死」の運命に直面した人間たちの心理描写と、科学を超越した形而上学的なテーマを扱った、極めて知的で静謐な物語です。
進行方向に突如現れた巨大な重力天体(ブラックホール)。
飲み込まれれば全滅必至という絶望的な状況下で、コーニッグ司令官とバーグマン教授が交わす「最後の会話」は、SFドラマ史に残る名シーンとして語り継がれています。
本記事では、当時の視聴者に深い感銘を与え、シリーズの評価を決定づけたこのエピソードのあらすじ、哲学的テーマ、そしてブラックホールを描いた先駆的な映像表現について徹底解説します。
第10話「黒い太陽」の詳細解説
絶望の出現:死を呼ぶ「黒い太陽」
物語は、ムーンベース・アルファのセンサーが、前方に巨大な重力源を探知するところから始まります。
それは光さえも脱出できない死の天体、「黒い太陽(ブラックホール)」でした。
月はこのままの軌道を進めば、数日以内にこの黒い太陽に吸い込まれ、原子レベルまで粉砕されてしまいます。
コーニッグ司令官は軌道変更を試みますが、相手の引力が強すぎて、アルファの動力では蟷螂の斧に過ぎません。
衝突、すなわち「死」は確定的な未来となりました。
「ノアの方舟」作戦と究極の選択
全滅を避けるため、コーニッグは苦渋の決断を下します。
それは、比較的航続距離の長い「サバイバル・イーグル(救命艇仕様のイーグル号)」に物資を積み込み、選抜された6名の隊員だけを脱出させるという計画でした。
残される300人以上の隊員は、月と運命を共にすることになります。
誰を生かすべきか? コンピュータ(通称:コンピュータ)が選出したリストには、コーニッグ自身の名前はありましたが、愛するヘレナ博士の名前はありませんでした。
コーニッグは自らの名前を消し、ヘレナをリストに加えます。
この「誰が生き残るべきか」という極限の選択を巡るドラマは、リーダーとしての孤独と責任を浮き彫りにします。
静寂の対話:ブランデーと神
イーグル号が飛び立った後、基地には静寂が訪れます。
死を待つのみとなったコーニッグと、科学顧問のバーグマン教授は、司令室で二人きりになります。
バーグマンは、とっておきの年代物のブランデー(コニャック)を取り出し、二人はグラスを傾けます。
「ヴィクター、君は神を信じるか?」
科学者でありながら不可知論的な視点を持つバーグマンと、現実的なコーニッグ。
二人は死の恐怖を超え、宇宙の意志や運命について静かに語り合います。
このシーンは、名優マーティン・ランドーとバリー・モースの演技力が光る、シリーズ屈指の名場面です。
特撮ドラマでありながら、舞台劇のような重厚さと知性が漂っています。
事象の地平線へ:神秘的な結末
ついに月が黒い太陽の重力圏(事象の地平線)に突入します。
バーグマンが考案した「反重力フォースフィールド」を展開し、一縷の望みをかけて防御しますが、強烈な重力が基地をきしませます。
その時、不思議な現象が起こります。
コーニッグとバーグマンの身体が透け始め、二人は奇妙な空間で「老いた自分自身」と対面します。
そして、女性の声のような、あるいは意識そのもののような「未知の存在」からの語りかけを聞きます。
「あなたたちはまだ旅の途中。ここで終わるわけではない」
気がつくと、月は黒い太陽を通過し、反対側の宇宙へと抜け出ていました。
時間は歪み、彼らにとっては数時間の出来事でしたが、先行して脱出したはずのイーグル号は、遥か彼方で「老朽化した状態」で発見されます(相対性理論による時間のズレ)。
彼らはイーグル号を回収し、再び終わりのない旅へと戻っていくのでした。
ブラックホール映像の先駆け
本作が放送された1975年は、ブラックホールという言葉が一般に定着し始めた時期でした。
黒い円盤の周囲にガスが渦巻くような視覚効果や、重力レンズ効果による歪みなど、当時の限られた技術で表現された「黒い太陽」の描写は、非常に不気味で美しく、後のSF映画にも影響を与えたと言われています。
『スペース1999』第10話 参考動画
第10話「黒い太陽」のまとめ
第10話「黒い太陽」は、『スペース1999』という作品が持つ「哲学性」を象徴するエピソードです。
単なるパニックものではなく、死生観や宇宙における人間の存在意義を問いかける内容は、子供向け番組の枠を完全に超えていました。
「科学ですべてが解決できるわけではない」というこの時代のSF特有の無力感と、それでも前を向く人間の強さ。
大人になった今こそ、ブランデーを片手にじっくりと鑑賞したい一作です。
関連トピック
ヴィクター・バーグマン教授:ムーンベース・アルファの頭脳であり、コーニッグの良き理解者。彼の発明した「バーグマン・シールド(フォースフィールド)」が基地を救う鍵となった。
バリー・モース:バーグマン教授を演じた俳優。ドラマ『逃亡者』のジェラード警部役でも有名だが、本作では温厚で知的な科学者を好演した。
事象の地平線(イベント・ホライゾン):ブラックホールの境界線。ここを超えると光でも脱出できなくなる。劇中でも重要なキーワードとして登場する。
2001年宇宙の旅:スタンリー・キューブリック監督の映画。本作の特撮スタッフの多くがこの映画に関わっており、「黒い太陽」の形而上学的な演出にもその影響が見られる。
関連資料
DVD『Space: 1999 – Season 1』:本エピソードを含むシーズン1を収録。
書籍『Destination: Moonbase Alpha』:各エピソードの詳細な解説や脚本の初期案などが記されたファンブック(洋書)。

