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【社会派SFの金字塔】『スタートレック:DS9』屈指の名作「遠い星の彼方に」徹底解説!差別に抗う魂の叫びと「夢」の真実

SF
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【社会派SFの金字塔】『スタートレック:DS9』屈指の名作「遠い星の彼方に」徹底解説!差別に抗う魂の叫びと「夢」の真実

第6シーズン第13話「遠い星の彼方に(Far Beyond the Stars)」の概要

『スタートレック』シリーズは未来の理想郷を描く作品ですが、その歴史の中で最も現実社会の暗部に深く切り込み、視聴者の魂を揺さぶったエピソードがあります。
それが『ディープ・スペース・ナイン(DS9)』第6シーズン第13話「遠い星の彼方に(原題:Far Beyond the Stars)」です。
この回では、宇宙ステーションもエイリアンも登場しません(幻覚として描かれます)。舞台は1953年のアメリカ・ニューヨーク。主人公シスコは、人種差別の根強い時代に生きる「SF作家」として目覚めます。

黒人であるがゆえに作品を否定され、社会から抹殺されそうになりながらも、「黒人の船長が宇宙ステーションを指揮する物語(=DS9)」を描き続けようとする男の苦悩。
主演のエイヴリー・ブルックス自らが監督を務め、レギュラーキャスト全員が「特殊メイクなし」の素顔で登場することでも話題となった、シリーズ屈指の社会派エピソードを解説します。

詳細:1950年代の差別と「想像する権利」

あらすじ:1953年のニューヨークへ

ドミニオン戦争で友人を失い、心身ともに疲弊したシスコ司令官は、艦隊を辞めることさえ考えていました。そんな彼に、預言者(ワームホールのエイリアン)がビジョンを見せます。
気がつくと彼は、1953年のニューヨークに住むSF雑誌のライター、ベニー・ラッセルになっていました。
そこには、DS9のクルーたちと同じ顔をした人々がいました。キラやダックスは同僚のライター、クワークやオドは口うるさい編集者、そしてウォーフはプロ野球選手として、それぞれの「人間としての人生」を生きていました。

描かれた「正義なき時代」のリアル

ベニー(シスコ)は、ある日インスピレーションを受け、遥か未来の宇宙ステーションを舞台にした小説を書き上げます。その主人公は、自分と同じ黒人の司令官「ベンジャミン・シスコ」でした。
編集部の仲間はその傑作を絶賛しますが、編集長は掲載を拒否します。
「読者は受け入れない。黒人が宇宙基地の司令官? 嘘くさすぎる」
「最後は白人だったという夢オチにしろ」
1950年代当時、有色人種がヒーローになることは、フィクションの世界でさえ許されなかったのです。ベニーは才能があるにもかかわらず、肌の色だけで存在を否定され、理不尽な警察の暴力にも晒されます。

ファン歓喜!「素顔」のキャストたち

このエピソードのもう一つの見どころは、普段は重厚な特殊メイクをしている異星人役の俳優たちが、素顔で出演していることです。

  • マイケル・ドーン(ウォーフ): 額の隆起がないハンサムな野球選手として登場。
  • アーミン・シマーマン(クワーク): 大きな耳のない、保守的な編集者として登場。
  • ルネ・オーベルジョノワ(オド): 変形能力を持たない、皮肉屋の編集長として登場。
  • ジェフリー・コムズ(ウェイユン/ブラント): 悪徳警官として登場し、ベニーを追い詰めます。

彼らの「人間としての演技」を見ることができる貴重な機会であり、俳優たちの演技力の高さを再確認できるエピソードでもあります。

クライマックス:魂の叫び「It’s REAL!」

理不尽な圧力により、雑誌の発行停止と解雇を言い渡されたベニーは、ついに感情を爆発させます。
泣き崩れながら叫ぶエイヴリー・ブルックスの演技は、スタートレック史に残る名演です。
「君たちは私を否定できる。だが、この物語は否定できない!」
「未来に生きる私の姿は、もう誰にも消せない! あれは現実なんだ!(It’s REAL!)
この叫びは、単なるドラマのセリフを超え、現実世界で差別と戦ってきたすべての人々の叫びとして響き渡ります。

メタフィクションとしての結末

ビジョンから覚めたシスコは、父に問いかけます。
「このDS9での生活こそが、あの作家が見ている夢なのではないか?」
スタートレックという作品世界そのものが、過去の誰かが抱いた「平等な未来への夢」であるというメタフィクション(虚構の中に現実を持ち込む構造)を提示し、物語は幕を閉じます。
シスコは「だとしても、我々はその夢を現実にするために戦う」と決意を新たにし、再び戦争へと身を投じます。

参考動画

まとめ

「遠い星の彼方に」は、SFというジャンルが持つ「現在への批評性」を極限まで高めた傑作です。
なぜ24世紀に黒人の司令官がいることが重要なのか。それは、1950年代には「想像すること」さえ許されなかった夢だからです。
エイヴリー・ブルックスが監督・主演として込めた情熱は、このエピソードを単なるエンターテインメントから、人権と尊厳を問う芸術作品へと昇華させました。
DS9を見るなら、決して避けては通れない、心に深く突き刺さる一話です。

関連トピック

エイヴリー・ブルックス
ベンジャミン・シスコ役の俳優であり、本エピソードの監督。ラトガース大学の教授(演劇学)でもあり、黒人文化や歴史への造詣が深い。彼の知性と情熱がなければ、このエピソードは成立しなかったと言われる。

パルプ・マガジン
1950年代のアメリカで流行した、安価な紙を使った大衆向け小説誌。SF、ミステリー、ホラーなどのジャンルが育った場所であり、劇中の編集部もこの雰囲気を忠実に再現している。

ハーレム・ルネサンス
1920年代から始まったアフリカ系アメリカ人の文化・芸術運動。ベニー・ラッセルの物語は、この文化的な背景と、その後の公民権運動前夜の抑圧された空気を色濃く反映している。

関連資料

DVD『スタートレック:ディープ・スペース・ナイン シーズン6』
本エピソードを収録。特典映像には、キャストたちが「素顔」で演じた時の興奮や、撮影の裏話が収録されていることが多い。

書籍『Star Trek: Deep Space Nine Companion』
エピソードガイドの決定版。脚本が完成するまでの経緯や、当時の社会情勢との関連についての詳細な解説が読める。

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