涙腺崩壊の最高傑作!『スタートレック:エンタープライズ』第10話「類似」が問う命の期限と究極の決断
エピソード「類似(Similitude)」の概要
『スタートレック:エンタープライズ』全4シーズンの中で、ファンから「最も泣けるエピソード」「シリーズ屈指の傑作」として名高いのが、シーズン3第10話「類似(原題:Similitude)」です。
地球を救うための過酷な旅(ズィンディ・アーク)の途中で描かれるこの物語は、単なるSFアクションではありません。「親友の命を救うために、別の命を作り出し、そして犠牲にすることは許されるのか?」という、重く、切ない生命倫理のテーマを突きつけます。
本記事では、視聴者の心を揺さぶり続けるこのエピソードのあらすじ、見どころ、そして結末の意味について深く解説します。
詳細:「類似」が描く愛と倫理のドラマ
1. 絶望的な状況と禁断の選択
物語は、エンタープライズ号の機関長であり、アーチャー船長の親友でもあるトリップ(チャールズ・タッカー三世)が、ワープ・エンジンの爆発事故により昏睡状態に陥るところから始まります。彼の脳神経は回復不能なダメージを受けており、余命はあとわずか。
しかし、地球存亡をかけたズィンディ探査任務において、優秀な機関長トリップの不在は、そのまま人類の滅亡を意味しかねない危機的状況でした。
そこで医師のフロックスは、ある「禁断の治療法」を提案します。それは、フロックスの故郷デノビュラ星の幼生「ライサリアン砂漠幼生」を使用し、トリップの遺伝子をコピーした「シム(Sim)」というクローンを作り出すことでした。
この生物は急速に成長し、トリップと全く同じ臓器を持つようになります。その脳組織を移植すればトリップは助かりますが、それは同時に「シムの死」を意味していました。アーチャー船長は苦渋の決断の末、クローン作成を許可します。
2. 「シム」という名の、もう一人のトリップ
生まれたばかりのシムは、驚異的なスピードで成長していきます。数日で子供になり、少年になり、そして青年の姿へ。
しかし、ここで予期せぬ事態が起こります。シムはトリップの身体的特徴だけでなく、「記憶」までも受け継いでいたのです。彼はトリップの幼少期の思い出を語り、エンジニアとしての才能を発揮し、クルーたちと友情を育んでいきます。
視聴者の心を最も締め付けるのは、シムと副長トゥポルの関係です。トリップの中に芽生え始めていたトゥポルへの淡い恋心までも、シムは受け継いでいました。
「僕の命はあと数日しかないけれど、君への想いは本物だ」。
本来のトリップが伝えられなかった言葉を紡ぐシムと、論理的でありながらも動揺を隠せないトゥポル。彼の存在は、単なる「医療用の道具」ではなく、紛れもない「一人の人間」として確立されていきます。
3. 生きたいと願う叫び、そして「英雄」の選択
移植手術の時が迫る中、青年となったシムは自らの運命に抗います。「死にたくない」「生き延びる方法があるはずだ」と主張し、脱出さえ画策します。
アーチャー船長にとって、これは究極の試練でした。「地球を救うためにはトリップが必要だ」という大義と、「罪のないシムを殺していいのか」という倫理観の間で引き裂かれます。アーチャーはシムに対し、命令ではなく、状況を静かに語りかけます。
最終的にシムが出した答えは、涙なしには見られません。彼はトリップの記憶を持っているからこそ、「エンタープライズにはトリップが必要だ」という事実を誰よりも理解していました。
「彼は幸運だ。僕には数日の人生しかなかったが、彼には続きがある」
シムは自ら手術台に上がることを選びます。ラストシーン、復活したトリップの横で静かに執り行われる葬儀は、SFドラマの枠を超えた深い感動と喪失感を残しました。
参考動画
まとめ
「類似」は、クローン技術や生命倫理という重いテーマを扱いながら、その中心にあるのは「愛」と「自己犠牲」の物語です。
コナー・トリニアー(トリップ役)が、オリジナルとクローンという二役を見事に演じ分け、特に死を受け入れたシムの儚くも美しい表情は圧巻です。また、常に冷徹な判断を下さねばならないアーチャー船長の苦悩も浮き彫りになりました。
「正しい選択とは何だったのか?」視聴後も長く心に残るこのエピソードは、スタートレックが持つ哲学的深さを象徴する一本と言えるでしょう。
関連トピック
生命倫理(バイオエシックス):クローン人間の作成や臓器移植に伴う倫理的問題。SF作品で頻繁に問われる永遠のテーマです。
ズィンディ・アーク:シーズン3全体を貫く、地球攻撃を目論む異星人連合との戦い。シリーズで最もシリアスで連続性の高いストーリーライン。
トリップとトゥポル:論理的なバルカン人と感情豊かな人間。二人の関係はこのエピソードを機に急速に深まっていきます。
コナー・トリニアー:トリップ役の俳優。本作での演技が高く評価され、エンタープライズ屈指の人気キャラクターとなりました。
関連資料
DVD『スタートレック:エンタープライズ』シーズン3:本エピソードを含む全話を収録。特典映像でのキャストインタビューも必見。
小説『Star Trek: Enterprise – The Good That Men Do』:番組終了後の展開を描いた小説。トリップの運命についてさらに深く掘り下げられています。
SFドラマの哲学:スタートレックをはじめとするSF作品がいかに現代社会の倫理的問題を予見していたかを解説した考察本。

