『ネメシス/S.T.X』の概要
2002年に公開された『ネメシス/S.T.X』(原題:Star Trek Nemesis)は、映画版シリーズ第10作目にして、パトリック・スチュワート率いる『新スタートレック(TNG)』キャストによる最後の劇場版作品です。
タイトルの「ネメシス」とは、ギリシャ神話の「復讐の女神」であり、「逃れられない罰」や「強敵」を意味します。
本作のテーマは「鏡像」と「自己決定」です。
ピカード艦長の前に現れたのは、ロミュラン帝国の新執政官シンゾン。
彼はなんと、ピカード自身のDNAから作られた「若きクローン」だったのです。
同じ遺伝子を持ちながら、全く異なる環境で育った二人の対決を通じ、「人の運命を決めるのは生まれか、それとも生き方か」という重厚な問いが投げかけられます。
そして何より、ファンにとって忘れられないのが、アンドロイドのデータ少佐に訪れる衝撃的な結末です。
『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』と公開時期が重なり、興行的には苦戦を強いられましたが、若き日のトム・ハーディの鬼気迫る演技や、シリーズ屈指の艦隊戦、そして涙なしには見られないラストシーンは、TNGの幕引きに相応しい壮大さを備えています。
ドラマ『スタートレック:ピカード』を見る上でも必修科目となる本作を徹底解説します。
『ネメシス/S.T.X』の予告編
『ネメシス/S.T.X』の詳細(徹底解説)
あらすじ:ロミュランの政変とシンゾンの影
物語は、アラスカで行われたライカー副長とトロイカウンセラーの結婚式という、幸福なシーンから始まります。
しかし、その裏でロミュラン帝国では恐るべき政変が起きていました。
元老院の議員たちが謎の生物兵器によって石化・殺害され、帝国の支配権は「シンゾン」と名乗る人間に奪われます。
シンゾンは、ロミュランの支配下にあった闇の種族「リーマン人」を率い、惑星連邦への和平を申し出ます。
エンタープライズEがロミュランへ向かうと、そこにはピカードの若き日の写真をそのまま実体化させたような青年、シンゾンが待っていました。
彼はかつて連邦へのスパイとして作られたピカードのクローンでしたが、計画の中止により、過酷な鉱山惑星レムスへと捨てられた過去を持っていたのです。
シンゾンの真の目的は、自身の肉体の崩壊を止めるためにピカードの血液(DNA)を奪うこと、そして超大型戦艦「シミター号」で地球を攻撃し、全生物を抹殺することでした。
ピカード対シンゾン:鏡の中の自分
本作の最大の見どころは、パトリック・スチュワート(ピカード)とトム・ハーディ(シンゾン)の演技合戦です。
シンゾンは、ピカードと同じ知性と戦略眼を持ちながら、愛を知らずに育った「憎悪の塊」です。
「私があなたの人生を歩んでいれば、あなたのようになった。だが、あなたが私の人生を歩んでいれば、私になったはずだ」と迫るシンゾンに対し、ピカードは「我々は過去ではなく、行動によって定義される」と諭します。
自分自身の暗黒面(あり得たかもしれない最悪の未来)と対峙するピカードの苦悩は、シリーズを通しても最も深い人間ドラマの一つです。
データの「兄弟」と「自己犠牲」
エンタープライズは道中、バラバラに分解されたアンドロイド「B-4(ビフォア)」を発見します。
彼はデータ以前に作られたプロトタイプですが、知能は低く未熟です。
データは自分自身の記憶をB-4にコピーし、弟のように接しますが、B-4はシンゾンに利用されてしまいます。
そしてクライマックス。
エンタープライズEは、圧倒的な火力を持つ最強戦艦シミター号との戦いで大破し、武器も転送装置も失います。
地球への攻撃を阻止する最後の手段として、ピカードは敵艦への「特攻(ラミング)」を決行。
両艦が大破した後、敵艦に残された大量破壊兵器を破壊するため、データはある決断を下します。
彼がピカードに最後に残した言葉と行動は、第2作『カーンの逆襲』におけるスポックのそれを踏襲しつつも、人間になることを夢見続けたピカードへの「究極の愛」を示しました。
衝撃の艦隊戦と「ラミング・スピード」
本作の宇宙戦闘は、シリーズ屈指の迫力と絶望感があります。
敵艦シミター号は、遮蔽(姿を消した)状態で攻撃が可能という反則的な強さを持ち、エンタープライズEを一方的に蹂躙します。
シールドがなくなり、ブリッジの窓ガラスが割れて宇宙空間が露出するほどのダメージ表現は圧巻です。
そして、ピカードがトロイに指示した「全速前進で衝突せよ(Ramming speed!)」の命令。
優雅なエンタープライズEが、鋭利なナイフのようなシミター号に物理的に突き刺さる映像は、CG技術の極致であり、ファンの度肝を抜きました。
制作秘話:監督の無知とトム・ハーディの苦悩
監督のスチュアート・ベアードは、『ダイ・ハード2』の編集などで知られるアクション映画のベテランでしたが、『スタートレック』に関しては全くの素人でした。
そのため、キャラクターの性格(特にジョーディの義眼の設定など)を把握しておらず、キャストとの衝突が絶えなかったと言われています。
また、当時無名だったトム・ハーディは、この大役のプレッシャーと興行的な失敗により、深刻なアルコール依存と鬱に苦しむことになりました。
しかし、彼の演技力はこの頃からすでに完成されており、今見返すとその凄みに圧倒されます。
『ネメシス/S.T.X』のキャストとキャラクター紹介
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ジャン=リュック・ピカード:パトリック・スチュワート/麦人
自身の「死」と「継承」に向き合います。
クローンであるシンゾンに同情しつつも、連邦を守るために彼を殺さねばならないという悲劇的な決断を迫られます。 -
シンゾン:トム・ハーディ/猪野学
若き日のピカードのクローン。
スキンヘッドに静かな口調、しかし内側に燃えるような復讐心を秘めた悪役です。
トム・ハーディの出世作であり、その肉体改造と繊細な表情演技は見事です。 -
データ:ブレント・スパイナー/大塚芳忠
本作の実質的な主役。
歌(Blue Skies)を歌い、弟B-4を導き、そして最後には自身の命を捧げて艦長を救います。
人間以上に人間らしい彼の最期は、TNGという物語の終着点となりました。 -
ウィリアム・T・ライカー:ジョナサン・フレイクス/大塚明夫
ついにトロイと結婚し、自らの艦「タイタン」の艦長として独立することが決まっています。
暗い回廊で敵の副官と格闘戦を行うシーンなど、タフガイぶりは健在です。 -
ディアナ・トロイ:マリーナ・サーティス/高島雅羅
シンゾン(のテレパシー部隊)から精神的なレイプ攻撃を受けますが、逆にその繋がりを利用して敵艦の位置を特定するという強さを見せます。
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B-4(ビフォア):ブレント・スパイナー/大塚芳忠
データのプロトタイプ。
ラストシーンで、データの記憶の断片(歌)を口ずさむ姿は、データの復活の可能性を示唆する、切なくも希望のあるエンディングを演出しました。
『ネメシス/S.T.X』のキャストの代表作品と経歴
トム・ハーディ(シンゾン役)
本作での挫折を経て、後に『インセプション』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『ヴェノム』などで世界的なスターとなりました。
『ダークナイト ライジング』のベイン役で見せた圧倒的な悪役像の原点は、このシンゾンにあると言えます。
ロン・パールマン(副官役)
シンゾンの腹心であるリーマン人総督を演じました。
『ヘルボーイ』などで知られる個性派俳優ですが、本作では厚い特殊メイクの下で不気味な存在感を放っています。
『ネメシス/S.T.X』のまとめ(社会的評価と影響)
『ネメシス/S.T.X』は、「シリーズの息の根を止めた作品」として長く批判されてきました。
暗すぎるトーン、説明不足なB-4の存在、そして監督のシリーズへの愛の欠如などが理由です。
しかし、近年のドラマ『スタートレック:ピカード』において、本作の出来事(データの死、B-4のその後、ロミュランの政情不安)が物語の核として扱われたことで、評価は一変しました。
「ピカードの物語を理解するために不可欠なエピソード」として、重要度が増しています。
何より、15年間旅を共にしてきた「エンタープライズ・ファミリー」が解散し、それぞれの道へ進むラストシーンは、寂しくも美しい、一つの時代の終わりを感じさせます。
TNGファンならば、涙なくしては見られない鎮魂歌(レクイエム)です。
作品関連商品
- Blu-ray:『スター・トレック ネメシス/S.T.X 4K UHD MovieNEX』
(暗いシーンが多い本作こそ、黒色が引き締まる4K HDRでの鑑賞が推奨されます) - サントラ:ジェリー・ゴールドスミス作曲『Star Trek Nemesis』
(ゴールドスミスが手掛けた最後のスタートレック音楽。「Blue Skies」の使い方が印象的です) - プラモデル:AMT 1/1400 USSエンタープライズE
(戦闘ダメージを受けた状態を再現するモデラーも多い、E型の最終形態を楽しめるキット)
