『生存者たち (Survivors)』のウンチク!「ドクター・フー」の父が描いたパンデミックと衝撃の製作秘話
「生存者たち」の概要
『生存者たち』(原題: Survivors) は、イギリスBBCで制作されたSFドラマシリーズです。
このタイトルには、1975年に放送されたオリジナル版と、2008年に放送されたリメイク版の2つの主要な作品が存在します。
どちらのシリーズも、謎のウイルス性パンデミックによって人類の99%以上が死滅した「その後」の世界が舞台です。
物語は、免疫を持って生き残ったわずかな人々が、文明の崩壊した世界でいかにして新たな社会を築き、そして人間性を保っていくかという過酷な現実を、非常にリアルに描いています。
特にオリジナル版は、その後のポストアポカリプス作品に多大な影響を与えました。
「生存者たち」の詳細と製作秘話
『生存者たち』がカルト的な人気を誇る理由と、その製作の裏に隠された「ウンチク」を紹介します。
「ドクター・フー」の父による原作
本作の最大の「ウンチク」は、1975年のオリジナル版を生み出したのが、テリー・ネイションであるという点です。
テリー・ネイションは、イギリスSF史における最重要人物の一人であり、あの『ドクター・フー』に登場する最恐の敵「ダーレク(Daleks)」の生みの親として知られています。
彼は『ドクター・フー』の脚本家として名を馳せた後、自身のオリジナル作品として『生存者たち』と、同じくカルト的人気を誇る『ブレイクス7』を世に送り出しました。
ゾンビのいないリアルな終末世界
1970年代当時、本作が衝撃的だったのは、その徹底したリアリズムです。
『生存者たち』には、ゾンビやミュータントといったSF的なモンスターは一切登場しません。
人類の最大の敵は、食料の不足、病気、寒さ、そして「他の生存者」です。
文明社会のルールが全て失われた時、人間がいかにして協力し、あるいは裏切り、略奪に走るかを冷徹な視点で描きました。
この「本当の敵は人間」というテーマは、後の『ウォーキング・デッド』などに多大な影響を与えています。
原作者とプロデューサーの対立
1975年版の製作には、有名な対立の「ウンチク」が残っています。
原作者のテリー・ネイションは、文明が崩壊した後の過酷なサバイバルと人間同士の暗い対立を徹底的に描きたかったと言われています。
しかし、当時のプロデューサーは、視聴者にもっと「希望」を見せるべきだと考え、農業や共同体の再建といったポジティブな側面を重視しました。
この製作方針の違いから、テリー・ネイションはシーズン1の途中でプロジェクトを離脱してしまいました。
そのため、シーズン2以降は彼の構想とは異なる、より穏健な共同体ドラマへと路線変更していきます。
2008年版の悲劇的な「打ち切り」
2008年、BBCは本作を現代的な視点でリメイクしました。
オリジナル版の暗く重いテーマはそのままに、よりスピーディーでアクション要素の強い展開となり、新たなファン層を獲得しました。
特に「トム・プライス」という、冷酷だが非常に有能な生存者を演じたパターソン・ジョセフの演技は高く評価されました。
しかし、物語が最高潮に達し、主人公たちがウイルスの「陰謀」の核心に迫ろうとしたシーズン2の最終回。
シリーズ最大のクリフハンガー(衝撃的な引き)で終了した直後、BBCは視聴率の低下を理由に、非情にもシーズン3の製作中止を発表しました。
残された多くの謎は未解決のままとなり、ファンに大きな衝撃と失望を残した打ち切りとして知られています。
コロナ禍による再評価
2008年版の放送当時は、まだパンデミックの恐怖はフィクションのものでした。
しかし、2020年に新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に流行した際、本作の描写があまりにも現実と酷似しているとして、再評価されることとなりました。
都市のロックダウン、マスクの着用、ウイルスの恐怖による人間の分断、ワクチンを巡る対立など、ドラマで描かれた光景が、十数年の時を経て現実のものとなったのです。
参考動画
まとめ
『生存者たち』は、単なるSFパニックドラマではなく、「社会とは何か」「法とは何か」を問い直す、非常に哲学的な作品です。
1975年版は、その後の終末ものの「お手本」となり、2008年版は、そのリアルな描写が期せずして未来を予見する形となりました。
特に2008年版は、未完に終わったとはいえ、その緊張感と重厚な人間ドラマは一見の価値があります。
パンデミックを経験した現代の私たちが観ると、また違った恐怖とリアリティを感じ取れるはずです。
関連トピック
テリー・ネイション (Terry Nation)
本作の原作者であり、『ドクター・フー』の「ダーレク」の生みの親です。
彼の功績を知ることは、イギリスSF史を知る上で欠かせません。
ウォーキング・デッド (The Walking Dead)
本作と同じく、文明崩壊後の人間関係に焦点を当てたドラマとして、世界的な大ヒットを記録しました。
『生存者たち』のテーマを最も成功させた作品と言えます。
デイ・オブ・ザ・トリフィド (The Day of the Triffids)
同じくイギリス発祥の古典的SFパニック小説(および映像化作品)です。
謎の光で人類の大半が失明し、歩く植物トリフィドに襲われるという終末を描いています。
28日後… (28 Days Later…)
イギリスを舞台にしたパンデミック・ホラー映画の傑作です。
『生存者たち』のリアルな絶望感に、現代的なスピード感を加えています。
関連資料
『生存者たち』 (2008年版 / DVD-BOX)
リメイク版の全2シーズン(全12話)を収録したボックスセットです。
衝撃のクリフハンガーをその目で確かめることができます。
『Survivors』 (1975年版 / 英国版DVD)
オリジナル版の全3シーズンを収録したDVDです(日本版の入手は困難な場合があります)。
イギリスSFドラマの原点として非常に資料価値の高い作品です。
『Survivors』 (テリー・ネイション著 / 英語小説)
テリー・ネイションが、自身の構想に基づきシーズン1の出来事を小説化したものです。
ドラマから離脱した彼の「本来の結末」のヒントが隠されているかもしれません。

