【徹底解説】『世界の料理ショー』伝説の酔っ払い料理人グラハム・カー!黒沢良の爆笑吹替からカロリー度外視レシピまで総まとめ
概要
『世界の料理ショー』(原題:The Galloping Gourmet)は、1969年から1971年にかけて制作・放送された、カナダ・オタワ発の料理バラエティ番組です。
ホストを務めるのは、イギリス生まれニュージーランド育ちの料理研究家、グラハム・カー(Graham Kerr)。
この番組が伝説となっている理由は、単に美味しい料理を紹介したからではありません。
グラハムは、スタジオのキッチンにある椅子を飛び越えて登場し、料理を作る合間にワインをガブ飲みし(「料理用に1カップ、私用に1カップ」がお約束)、ジョークを連発しながら、大量のバターと生クリームを投入して高カロリーな料理を完成させます。
そして番組の最後には、観客席から女性を一人招き入れ、満面の笑みで試食を楽しむ――。
その破天荒で自由なスタイルは、当時の日本の視聴者にとって、まさに「見たこともない欧米の豊かな食卓」そのものでした。
さらに日本版においては、声優・黒沢良による吹き替えが決定的な役割を果たしました。
原語にはないアドリブや、スタッフ(スティーブ)への勝手なツッコミ、そして視聴者の「奥様」への語りかけなど、独自の演出が加えられ、コメディ番組としての人気を不動のものにしました。
「カロリーなんて気にするな!」と言わんばかりの豪快なレシピの秘密や、グラハム・カーの波乱万丈な人生、そして番組終了後の意外な転身まで、本作の魅力を余すところなく徹底解説します。
オープニング
YouTubeにて、あの軽快なテーマ曲と共にグラハムが椅子を飛び越えるオープニング映像が確認できます。
詳細(徹底解説)
あらすじと番組スタイル:キッチンは彼のステージ
番組の構成は、基本的に毎回同じ流れですが、そのライブ感が魅力です。
- オープニング:グラハムが客席の後ろから走り込み、キッチンの高い椅子を軽やかに飛び越えて(またいで)着席。
- 世界旅行のVTR:グラハムが世界各地(フランス、イタリア、アジアなど)を訪れ、現地のシェフから料理を学ぶショートフィルムが流れます。彼のユーモラスなレポートも見どころです。
- クッキング:スタジオに戻り、その料理をグラハム流にアレンジして再現。
ここで重要なのが「飲みながら作る」こと。ワイングラスを片手に、少し酔っ払ったような千鳥足で調理が進みます。
「澄ましバター(ギー)」や「生クリーム」が頻出アイテム。カロリー計算など存在しないかのような豪快な使いっぷりに、視聴者は釘付けになりました。 - 試食(エンディング):完成した料理を、観客席の女性客とシェア。グラハムのエスコートでテーブルにつき、至福の表情で食事を楽しみます。
伝説の日本語吹き替え:黒沢良の「超訳」
日本での放送(東京12チャンネル/現テレビ東京など)において、この番組を国民的人気にしたのは、間違いなく声優・黒沢良の功績です。
彼は単に英語を翻訳するのではなく、グラハムの動きに合わせて、日本人にウケるジョークや軽妙な語り口を即興で当てていきました。
- 「おいスティーブ、カメラの寄りすぎだぞ!」:実際には何も言っていないシーンでも、スタッフいじりを入れる。
- 「奥様、これですよこれ!」:画面の向こうの主婦層に直接語りかけるスタイル。
- 「ん〜まい!」:試食シーンでの独特な感嘆詞。
これらの演出により、グラハム・カーは「陽気で親しみやすいおじさん」として日本のお茶の間に定着しました。
料理の特徴:古き良きハイカロリー時代
1960年代後半は、まだ健康ブームが到来する前夜であり、フランス料理の影響を受けた「リッチ」な味が最上とされていました。
グラハムの料理は、素材の味を活かしつつも、ソースにとにかくこだわります。
肉汁(ドリップ)を余すことなく使い、大量のバターでコクを出し、ワインで香りをつけ、最後にクリームでまとめる。
現代の健康志向とは真逆を行くスタイルですが、それゆえに「背徳的な美味しさ」が画面から伝わってきます。
特に彼が愛用した「澄ましバター(Clarified Butter)」は、番組を見て真似した視聴者も多いはずです。
制作秘話・トリビア:光と影
- 椅子の飛び越え:あの有名なオープニングのアクションは、実は妻のトリーナ・カーのアイデアでした。しかし、1971年にトラックに追突される交通事故に遭い、グラハムは背骨を損傷。番組打ち切りの原因の一つとなり、それ以降、椅子を飛び越えることはできなくなりました。
- 「スティーブ」の正体:日本語吹き替えで頻繁に名前が出るスタッフの「スティーブ」。彼は実在するプロデューサーのスティーブ・パーキンスです。実際にグラハムと仲が良く、現場の良き相棒でした。
- ミニマックス料理への転向:番組終了後、妻トリーナが脳卒中や心臓病に倒れ、グラハム自身も健康問題を抱えました。これを機に、彼は「高脂肪・高カロリー」な料理を封印。味を損なわずにカロリーを最小限(Min)に、栄養を最大限(Max)にする「ミニマックス料理」を提唱する健康料理家へと華麗なる転身を遂げました。
キャストとキャラクター紹介
グラハム・カー (Graham Kerr)
日本語吹替:黒沢良
1934年ロンドン生まれ。底抜けに明るいキャラクターと確かな料理技術を持つエンターテイナー。
常にワイングラスを手放しませんが、実は番組収録中は「薄めたワインやジュース」を飲んでいたこともあったとか(それでも結構飲んでいたようですが)。
妻トリーナを深く愛しており、彼女の健康のために料理スタイルを180度変えた愛妻家でもある。
黒沢良 (Ryo Kurosawa)
日本語版の声優。俳優としても活躍。
彼のアドリブ芸は、後の広川太一郎などにも通じる「声優が作品の面白さを倍増させる」成功例として語り継がれています。
まとめ(社会的評価と影響)
『世界の料理ショー』は、料理番組の概念を変えました。
「レシピを教える」のではなく、「料理する楽しさを見せる」ことに特化したスタイルは、後のジェイミー・オリヴァーや『料理の鉄人』など、多くの料理エンターテインメント番組に多大な影響を与えました。
また、当時の日本人にとっては、分厚いステーキやエスカルゴ、見たこともないハーブなど、海外の食文化への憧れを象徴する番組でもありました。
現在は健康的なおじいちゃんとして活動するグラハム・カーですが、あの頃のバターたっぷりの料理と、黒沢良の「奥様!」という呼びかけは、私たちの記憶の中で永遠に色褪せることはありません。
作品関連商品
- DVD:『世界の料理ショー DVD-BOX』などが過去に発売されていましたが、現在は廃盤のため中古市場でプレミア化しています。
- 書籍:『グラハム・カーの料理ショー』などの翻訳レシピ本も古書として入手可能です。また、現在の彼が提唱する健康レシピ本も多数出版されています。

