【名作解説】ドラマ『超人ハルク』すべての始まり!パイロット版「The Incredible Hulk」の衝撃とあらすじ
「超人ハルク」パイロット版の概要
1977年から1982年にかけて世界中で放送され、今なおアメコミ実写ドラマの金字塔として語り継がれる『超人ハルク(The Incredible Hulk)』。
その記念すべき第1作目となるパイロット版(2時間のテレビ映画)は、単なるヒーローアクションの枠を超え、深い哀愁と人間ドラマを描いた傑作として知られています。
科学者デビッド・バナーがいかにして緑色の巨人「ハルク」へと変貌し、終わりのない逃亡の旅に出ることになったのか。
本記事では、シリーズの原点となるパイロット版のあらすじ、製作秘話、そしてなぜこれほどまでに人々の心を打つのか、その魅力を徹底解説します。
「超人ハルク」パイロット版の詳細
悲劇の幕開け:愛する人を救えなかった後悔
物語は、主人公の科学者デビッド・バナー博士(演:ビル・ビクスビー)が抱える深いトラウマから始まります。
彼は交通事故で愛する妻ローラを亡くしており、その際、横転した車から彼女を助け出そうとしましたが、自分の筋力が足りず、目の前で車が爆発するという悲劇を経験していました。
「なぜ火事場の馬鹿力を発揮できる人と、できない人がいるのか?」
その疑問に取り憑かれたバナーは、同僚のエレイナ・マークス博士と共に、人体に秘められた潜在能力の研究に没頭します。
運命の実験とハルクの誕生
研究の結果、バナーは「怒りや極度のストレス」と「太陽フレア(ガンマ線)の活動レベル」に相関関係があることを突き止めます。
妻を救えなかった自分への怒りと焦りから、彼は自らの体を実験台にし、理論上安全とされる量のガンマ線を自分に照射する決意を固めます。
しかし、機器の調整ミスにより、彼は致死量に近い大量のガンマ線を浴びてしまいます。
その夜、帰宅途中のパンク修理で指を負傷し、激しい怒りと痛みを覚えた瞬間、彼の肉体に変異が起こります。
瞳は白く濁り、筋肉は隆起し、身長2メートルを超える緑色の巨人「ハルク」(演:ルー・フェリグノ)へと変身してしまったのです。
孤独な逃亡者へ
バナーの変身を知ったエレイナは、彼をかくまい、治療法を探そうとします。
しかし、三流ゴシップ記事を専門とするナショナル・レジスター紙の記者、ジャック・マクギーが彼らの周囲を嗅ぎ回り始めます。
マクギーの不法侵入がきっかけで研究所が大爆発を起こし、エレイナは命を落とします。
バナーはハルクに変身して彼女を抱きかかえて脱出しますが、マクギーは「緑の怪物が二人を殺した」と誤解し、その怪物を「ハルク」と名付けて報道します。
法的には死んだことになったバナーは、自分の無実を証明することもできず、内なる怪物を抑え込む治療法を求め、名前を変え、場所を変え、孤独な放浪の旅へと出るのでした。
作品の特筆すべき点
「逃亡者」の影響
製作総指揮のケネス・ジョンソンは、本作を単なる子供向け番組にしないため、名作ドラマ『逃亡者』やヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を意識した構成にしました。
名前の変更
原作コミックの主人公は「ブルース・バナー」ですが、ドラマ版ではより現実的な響きを持たせるため、また当時の慣習的な理由から「デビッド・バナー」に変更されました。
ハルクの造形
当時はCGIが存在しなかったため、ボディビルダーのルー・フェリグノが緑色のペイントをして演じました。彼の圧倒的な肉体美と、言葉を発さないからこそ伝わる「悲しきモンスター」の演技は、視聴者に強烈なインパクトを与えました。
ビル・ビクスビーの名演
誠実で知的なバナー博士が、逃れられない運命に苦悩する姿を、ビル・ビクスビーが圧倒的な説得力で演じています。彼の演技こそが、このドラマを大人の鑑賞に堪えうる作品に押し上げました。
「超人ハルク」の参考動画
まとめ
パイロット版『超人ハルク』は、派手なアクションよりも、主人公の喪失感と孤独に焦点を当てた、極めてシリアスな人間ドラマです。
「怒ってはいけない」という極限の制約の中で生きるバナーの姿は、現代社会でストレスを抱えて生きる私たちの共感を呼びます。
ラストシーンで流れる「The Lonely Man Theme(孤独な男のテーマ)」のピアノの旋律は、彼の終わりのない旅路を象徴しており、涙なしには見られません。
このパイロット版の成功があったからこそ、後の5シーズンにわたるシリーズ化、そして今日のMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)におけるハルクの人気へと繋がっているのです。
関連トピック
超人ハルク(ドラマシリーズ)(1978年から1982年まで全5シーズン82話が放送された本編シリーズ)
ビル・ビクスビー(主役デビッド・バナーを演じ、演出家としても活躍した名優)
超人ハルクの死(The Death of the Incredible Hulk)(1990年に放送された、シリーズの完結編となるテレビ映画)
アメイジング・スパイダーマン(1977年のドラマ)(ハルクと同じ時期に実写化されたマーベル作品)
関連資料
DVD「超人ハルク オリジナル・パイロット」(本エピソードを収録した映像ソフト)
書籍「You Wouldn’t Like Me When I’m Angry: A Hulk Companion」(ドラマ版ハルクの詳細な制作背景を記したファンブック)
サントラCD「The Incredible Hulk: Original Soundtrack Recording」(ジョー・ハーネルによる名曲「The Lonely Man Theme」を収録)

