【徹底解説】映画『ロンリー・レディ』はなぜ伝説の駄作と呼ばれるのか?あらすじから最悪の裏話、若きレイ・リオッタの怪演まで総まとめ
概要
1983年に公開された映画『ロンリー・レディ』(原題:The Lonely Lady)は、アメリカのベストセラー作家ハロルド・ロビンズの同名小説を原作としたハリウッドの裏側を描くドラマ映画です。
本作は、華やかなショービジネスの世界で脚本家として成功を夢見る若きヒロインが、権力者たちに利用され、心身ともにズタボロになりながらも栄光を掴もうとする姿を描いています。
しかし、本作を映画史に永遠に刻み込むことになったのは、その感動的なストーリーではなく、「ハリウッド史に残る愛すべき大失敗作」としての悪名高さです。
主演を務めたのは、当時大富豪の夫の絶大な資金力をバックに芸能界を席巻していた女優であり歌手のピア・ザドラです。
彼女のあまりにも不自然な演技と、ツッコミどころ満載の破綻した脚本、そして過剰なお色気演出が奇跡的な化学反応を起こし、公開直後から批評家たちの間で歴史的な大酷評の嵐を巻き起こしました。
その年の最低映画を決定する「ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)」では、最低作品賞、最低主演女優賞、最低監督賞など主要部門を総なめにし、後年には「1980年代の最低作品賞」にまで選ばれるという不名誉な偉業を達成しています。
しかし、その突き抜けたダメっぷりと常軌を逸した演出の数々は、時代を経るごとに「キャンプ・クラシック(悪趣味だが強烈な魅力を持つカルト映画)」として再評価され、現在でも一部の映画ファンの間で熱狂的に愛され続けています。
この記事では、そんな奇跡の怪作『ロンリー・レディ』のあらすじやヤバすぎる見どころ、後に大スターとなる若き日のレイ・リオッタの衝撃的な映画デビュー作としての裏話まで、余すところなく徹底解説します。
予告編動画
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:野心と欲望が渦巻くハリウッドの闇
物語の主人公は、映画の脚本家になるという純粋な夢を抱く女子高生のジェリリー・ランドール(ピア・ザドラ)です。
彼女は学校の演劇コンクールで才能を認められ、高名な初老の脚本家ウォルター・ソーントンに見出されます。
ジェリリーはウォルターの指導を受けるうちに彼と恋に落ち、周囲の反対を押し切って歳の差結婚を果たします。
しかし、ウォルターは次第に執筆のスランプに陥り、若く才能あふれる妻に嫉妬して冷たく当たるようになります。
結婚生活が破綻した後、ジェリリーは自らの力でハリウッドでの成功を掴もうとしますが、そこは男性中心の権力と欲望が支配するドロドロの弱肉強食の世界でした。
プロデューサーや俳優たちに肉体を要求され、利用され、裏切られ続ける中で、彼女は次第に精神のバランスを崩し、ドラッグとアルコールに溺れていきます。
精神病院での過酷なリハビリを経て、ついに自らの実力で書き上げた脚本が映画化され、アカデミー賞にノミネートされるという栄光を手にするジェリリー。
しかし、授賞式のスピーチの壇上に立った彼女が口にしたのは、ハリウッドの偽善と醜悪さを暴き出す、痛烈で復讐に満ちた言葉でした。
特筆すべき見どころ:狂気の演出と伝説の「ホース事件」
本作の最大の見どころは、シリアスな人間ドラマを目指したはずが、結果的に爆笑必至のコメディになってしまっている「壮大な空回り」にあります。
特に語り草となっているのが、ジェリリーがハリウッドのパーティで出会った若手俳優ジョー(レイ・リオッタ)から受ける、常軌を逸した暴行シーンです。
ジョーはジェリリーをプールサイドに誘い込み、なんと「庭の水撒き用ホース」を使って彼女を凌辱するという、映画史に残る意味不明かつトラウマ級の迷シーンを展開します。
また、ピア・ザドラが高校生を演じている序盤の不自然さ(当時彼女は20代後半)や、インスピレーションが湧いた瞬間に突然タイプライターを狂ったように叩き始める謎の演技プランなど、画面から目が離せない珍場面のオンパレードです。
クライマックスの授賞式でのスピーチも、感動的になるはずが、彼女の甲高い声と大げさな身振り手振りのせいで、まるでコントのようなシュールな空間を生み出しています。
真面目に作れば作るほどおかしな方向へ転がっていく、これぞ「愛すべきB級映画」の真骨頂と言えるでしょう。
制作秘話・トリビア:大富豪の夫による「妻のための映画」
本作の狂気を生み出した最大の要因は、ピア・ザドラの当時の夫であり、大富豪の実業家であったメシュラム・リクリスの存在です。
彼は妻をハリウッドの大スターにするために莫大な資金を投じ、本作の映画化権を獲得し、彼女を主演に据えました。
実は前年の1982年、ピア・ザドラは映画『Butterfly(原題)』に出演し、ゴールデングローブ賞の新人女優賞を受賞するという大番狂わせを起こしています。
しかし、これは夫のリクリスが審査員たちをラスベガスのカジノ旅行に招待するなどして「賞を買った」という露骨な接待の噂が広まり、ハリウッド中から大バッシングを浴びる大スキャンダルとなりました。
その直後に公開されたのがこの『ロンリー・レディ』であったため、批評家たちは「今度こそ徹底的に叩きのめしてやる」と手ぐすねを引いて待っていたのです。
結果として、本作は批評家たちの格好の標的となり、歴史的な酷評を受けることになりましたが、皮肉なことにその悪名のおかげで、40年以上経った今でも語り継がれる伝説の作品となりました。
キャストとキャラクター紹介
- ジェリリー・ランドール:ピア・ザドラ
本作の主人公で、脚本家としての成功を夢見る野心的な女性です。
純真な少女から、ハリウッドの毒牙にかかり転落していく姿、そして不死鳥のように蘇るまでをピア・ザドラが全力で(しかし非常に大げさに)演じきっています。
彼女の独特のオーラと、時に見せる虚ろな表情が、本作に奇妙な中毒性をもたらしています。 - ウォルター・ソーントン:ロイド・ボックナー
ジェリリーの才能を見出し、後に夫となる初老の有名脚本家です。
最初は知的で頼りになる存在として描かれますが、自身の才能の枯渇と若き妻への劣等感から、次第にモラハラ気質の嫌な男へと変貌していきます。
ハリウッドの古き良き権威主義を象徴するようなキャラクターです。 - ジョージ・バランタイン:ジャレッド・マーティン
ハリウッドで絶大な権力を持つ、冷酷で計算高い映画プロデューサーです。
ジェリリーの脚本の才能を利用しながら、彼女を肉体的にも精神的にも支配しようと企む、本作における明確な悪役の一人です。 - ジョー・ヘロン:レイ・リオッタ
ジェリリーをパーティで誘惑し、後にとんでもない暴挙に出る若手俳優です。
出番は短いものの、その異常なキャラクター設定と、レイ・リオッタのギラギラとした鋭い眼光のせいで、観客の脳裏に強烈なトラウマを植え付ける存在となっています。
キャストの代表作品と経歴
ピア・ザドラ(Pia Zadora)
1953年生まれのアメリカの女優、歌手です。
子役としてブロードウェイの舞台などで活動後、前述の通り大富豪メシュラム・リクリスとの結婚を機に、強引なプロモーションでスターダムに押し上げられました。
『ロンリー・レディ』でのラジー賞受賞により「演技ができない女優」というレッテルを貼られてしまいましたが、実は歌手としての実力は高く評価されています。
フランク・シナトラのツアーに同行したり、ジャーメイン・ジャクソンとのデュエット曲『When the Rain Begins to Fall』がヨーロッパで大ヒットを記録するなど、音楽分野では確かな足跡を残しました。
現在でも、カルト映画のアイコンとして、ポップカルチャーの中で愛され続ける稀有な存在です。
レイ・リオッタ(Ray Liotta)
1954年生まれのアメリカを代表する名優であり、2022年に惜しまれつつこの世を去りました。
マーティン・スコセッシ監督の歴史的傑作マフィア映画『グッドフェローズ』(1990年)の主人公ヘンリー・ヒル役や、『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)のシューレス・ジョー役など、数々の名作で圧倒的な存在感を放ちました。
そんな彼にとって、なんとこの『ロンリー・レディ』が記念すべき長編映画デビュー作なのです。
「ホースでヒロインを襲う狂気の若手俳優」という、キャリアの汚点になりかねない強烈すぎる役柄でしたが、その圧倒的な眼力と狂気の片鱗は、後の大スター誕生を予感させるには十分すぎるほどでした。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『ロンリー・レディ』は、1983年の第4回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)において、史上初となる「主要部門総なめ」に近い快挙(?)を成し遂げました。
最低作品賞、最低主演女優賞、最低監督賞、最低脚本賞、最低作曲賞、最低オリジナル主題歌賞の6部門を受賞し、さらに1990年には「1980年代の最低作品賞」にもノミネートされるという、まさにダメ映画の金字塔です。
真面目な文芸作品を作ろうとした結果、製作陣の意図とは裏腹に、自己顕示欲と的外れな演出が大渋滞を起こし、極上のブラックコメディが誕生してしまった奇跡の作品と言えます。
映画評論家からは「フィルムの無駄遣い」とまで酷評されましたが、ビデオの普及とともに「ツッコミながら仲間と見るのに最適な映画」として口コミで広まりました。
現在でも、ミッドナイト上映や映画ファンのオフ会などで上映されると、画面に向かって歓声と爆笑が沸き起こる、最高にエンターテインメントなカルト作として独自の地位を確立しています。
「完璧な映画」だけが映画史に残るわけではないということを、身をもって証明してくれた愛すべき一本です。
作品関連商品
長らく廃盤状態が続き「幻の駄作」とされていましたが、なんとカルト映画の復刻で知られる海外のレーベルから『ロンリー・レディ』のBlu-ray版が奇跡のリリースを果たしました。
高画質になったことで、ハリウッドの豪華なセットや、ピア・ザドラの過激な衣装、そして伝説のホース事件のディテールまでがクリアに蘇り、マニアにはたまらないコレクターズアイテムとなっています。
また、原作となったハロルド・ロビンズの小説『The Lonely Lady』も、ハリウッドの闇を暴いたベストセラーとして有名です。
映画版では滑稽になってしまったストーリー展開が、小説版ではどのようにシリアスに描かれていたのかを比較してみるのも、この作品のディープな楽しみ方の一つです(日本語翻訳版も古書店などで探すことができます)。
