「新プリズナーNo.6」のうんちく解説!砂漠の「村」でジム・カヴィーゼルとイアン・マッケランが対峙した理由
「新プリズナーNo.6」の概要
「新プリズナーNo.6」(原題: The Prisoner)は、2009年にアメリカのAMCとイギリスのITVによって共同製作された、全6話のミニシリーズ(リミテッド・シリーズ)です。
これは、1967年にパトリック・マクグーハンが制作・主演した伝説的カルトドラマ「プリズナーNo.6」を、現代的な視点で「リ・イマジニング(再構築)」した作品として大きな注目を集めました。
物語の概要は、ニューヨークで暮らしていた男(ジム・カヴィーゼル)が、ある日突然、見知らぬ砂漠の共同体「村(The Village)」で目覚めるところから始まります。
彼は名前を奪われ「No.6」と呼ばれ、そこで暮らす人々は「No.2」(イアン・マッケラン)と名乗る管理者に徹底的に監視されていました。
No.6は失われた記憶と「なぜ自分がここにいるのか」という謎を解き明かすため、そして「村」から脱出するために孤独な戦いを挑みます。
この記事では、この野心的なリメイク版にまつわる「うんちく」を深く掘り下げていきます。
「新プリズナーNo.6」の詳細
豪華キャストによる「静かなる心理戦」
本作の最大の「うんちく」は、その豪華なキャスティングにあります。
主人公No.6を演じたのは、映画『パッション』や、後にドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』で世界的に知られることになるジム・カヴィーゼルです。
彼は、オリジナルのパトリック・マクグーハンのような激しい怒りや反抗心とは異なる、より内省的で、常に不安と疑心暗鬼に苛まれる現代的なNo.6像を演じました。
対する「村」の管理者No.2を演じたのは、『ロード・オブ・ザ・リング』のガンダルフ役や『X-MEN』のマグニートー役で知られる、イギリスの名優サー・イアン・マッケランです。
彼の演じるNo.2は、単なる圧政者ではなく、時にはNo.6の良き理解者であるかのように振る舞う、老獪でカリスマ的な魅力を持つ人物として描かれました。
この二人の実力派俳優による、アクションではなく「心理戦」に重きを置いた静かな対立が、2009年版の最大の見どころでした。
ウェールズから「砂漠の村」へ、舞台の大きな変更
1967年のオリジナル版の「村」は、イギリス・ウェールズに実在するカラフルで美しい(しかし閉鎖的な)リゾート地「ポートメリオン」で撮影されました。
しかし、この「新プリズナーNo.6」では、舞台が大きく変更されています。
撮影は、アフリカ南西部・ナミビアの「スワコプムント」という、砂漠と大西洋に挟まれた都市で行われました。
この変更により、「村」のイメージは一変しました。
オリジナルの「カラフルな牢獄」とは対照的に、広大な砂漠の真ん中にある「孤立無援の真っ白な牢獄」となったのです。
逃げようにも、そこには見渡す限りの砂漠しかありません。
この荒涼とした風景は、No.6の感じる心理的な絶望感と閉塞感を、視覚的に強烈に訴えかける役割を果たしました。
謎の変更点とオリジナルへのオマージュ
「新プリズナーNo.6」は、オリジナル版のテーマを現代に蘇らせようとしましたが、その解釈は大きく異なっています。
オリジナルの最大の謎であった「なぜ(スパイを)辞職したのか?」という問いは、2009年版ではあまり重要視されていません。
代わりに、「No.6の失われた記憶」や「No.2とNo.6の過去の因縁」、「『村』とは現実なのか、それとも精神世界なのか」といった、より哲学的・内面的な問いかけが中心となっています。
このため、オリジナル版の政治的・社会的な風刺を期待したファンからは賛否両論を呼びました。
一方で、オリジナルへの「うんちく」的なオマージュも随所に見られます。
「村」のシンボルであるペニー・ファージング(前輪の大きな自転車)のロゴは健在です。
また、脱走者を捕らえる謎の番人「ローバー」も登場しますが、オリジナルの「白い気球」とは異なり、より抽象的で、時にはNo.6の恐怖心の象徴として描かれるなど、解釈が変更されています。
「新プリズナーNo.6」の参考動画
「新プリズナーNo.6」のまとめ
「新プリズナーNo.6」(2009年版)は、1967年の金字塔的傑作を、あえて真正面からリメイクするのではなく、「再構築」という非常に野心的なアプローチを取った作品です。
ジム・カヴィーゼルとイアン・マッケランという二大スターを起用し、舞台を砂漠に移してまで描こうとしたのは、1960年代の「社会的抑圧」から、2000年代の「監視社会」や「内面的な不安」へと移行した、新しい時代の「プリズナー(囚人)」の姿でした。
オリジナル版のファンからは多くの批判も受けましたが、その難解さも含めて、「プリズナーNo.6」という作品が持つ普遍的なテーマについて、改めて深く考えさせられるきっかけとなった意欲作と言えるでしょう。
関連トピック
プリズナーNo.6 (1967年版): パトリック・マクグーハン制作・主演のオリジナル作品。テレビドラマ史に残るカルト的な傑作として知られ、本作と比較する上で必見です。
ジム・カヴィーゼル: 本作の主人公No.6を演じた俳優。後に主演したドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』でも、高度な監視社会の中で戦う男を演じており、テーマ的に通じるものがあります。
イアン・マッケラン: No.2を演じたイギリスの国民的俳優。彼の演じるカリスマ的な管理者は、本作のドラマ性を高めています。
ナミビア (スワコプムント): 本作の「村」のロケ地となった場所。砂漠と海が接する独特の風景が、作品の孤独な雰囲気を生み出しました。
ローバー (Rover): オリジナル版から引き継がれた「村」の番人。白い球体という概念は同じですが、本作ではその解釈が大きく異なっています。
関連資料
『プリズナーNo.6 (2009年版)』 (DVD / Blu-ray): ジム・カヴィーゼル主演のミニシリーズ本編。全6話で完結しています。
『プリズナーNo.6 (1967年版)』 (DVD / Blu-ray BOX): パトリック・マクグーハン主演のオリジナル版。リメイク版の元ネタやテーマの違いを理解するために欠かせない作品です。
『パーソン・オブ・インタレスト』 (テレビドラマ): ジム・カヴィーゼル主演のドラマ。本作のテーマの一つである「監視社会」を、よりエンターテイメントとして描いた作品。