【自己喪失の恐怖】『プリズナーNo.6』第5話「分裂」徹底解説!自分そっくりの偽物と戦う究極の心理サスペンス
『プリズナーNo.6』第5話「分裂」の概要
カルト的人気を誇る『プリズナーNo.6』の中でも、第5話「分裂(原題:The Schizoid Man)」は、SFやサスペンスの古典的なテーマである「ドッペルゲンガー(分身)」を扱った傑作エピソードとして知られています。
今回のNo.2が仕掛ける罠は、物理的な拷問ではなく、No.6の精神を根底から破壊することでした。
「君はNo.6ではない、No.12だ」と洗脳され、さらに自分の目の前に「本物のNo.6」を名乗る瓜二つの男が現れたら、人間は正気を保てるのか?
主演のパトリック・マクグーハンが一人二役を演じ、画面上で自分自身と対決する演出は、当時の特撮技術としても画期的であり、その鬼気迫る演技は見る者を圧倒します。
本記事では、アイデンティティの崩壊と再構築を描いたこのスリリングな心理戦のあらすじ、トリックの種明かし、そして物語の鍵を握る「爪の傷」について徹底解説します。
第5話「分裂」の詳細あらすじ
新たなNo.2の計画:アイデンティティの破壊
今回のNo.2(アントン・ロジャース)は、心理学を応用した冷酷な作戦を実行します。
No.6を特殊な装置で洗脳し、以下の条件付けを行います。
- 左利きへの矯正: 右利きであるNo.6を、無意識に左手を使うように訓練する。
- 身体的特徴の変更: 髪型を変え、口髭を生やさせ、古い傷跡を消し、新しい偽の傷跡を作る。
そして、彼を「君はNo.12という名の、No.6に似せて作られた替え玉だ」と思い込ませようとするのです。
目覚めと対面:二人のNo.6
目を覚ました主人公(本来のNo.6)は、鏡を見て自分の姿が変わっていること(口髭など)に驚きます。
さらに、自分が自然と左手を使ってしまうことに違和感を覚えます。
そこへ、髭のない、以前の自分と全く同じ姿をした男(偽物のNo.6/正体はNo.12)が現れます。
偽物は尊大な態度で「私がNo.6だ。君は私の影武者として雇われたNo.12だ」と言い放ちます。
村の住人や監視システムも、偽物を「本物」として扱い、主人公を「偽物(No.12)」として扱います。
周囲のすべてが自分の記憶を否定する状況下で、主人公は徐々に「自分は本当にNo.6なのか?」と自問自答し始め、精神的に追い詰められていきます。
反撃の狼煙:爪の傷
自信を喪失しかけていた主人公ですが、ふとした瞬間に自分の指先を見つめます。
そこには、拉致される直前に自分で挟んでしまった「爪のあざ」が残っていました。
No.2たちは全身の身体的特徴を完璧にコピーしましたが、爪の小さな内出血だけは見落としていたのです。
「この痛みは本物だ。私が本物だ」。
確信を取り戻した主人公は、No.12のふりを続けながら、反撃の機会を窺います。
決闘と正体の露見
物語のクライマックスでは、主人公と偽物の間で、フェンシング、射撃、格闘などの能力テストが行われます。
主人公はわざと失敗したり、利き手ではない左手を使ったりしてNo.2を欺きますが、最後の心理テストで偽物の正体を暴くための罠を仕掛けます。
最終的に、主人公は電気ショックを与えて偽物(No.12)から「本性」を引き出し、彼を倒します。
偽物は「私は誰だ…?」と混乱したまま息絶えます。
悲劇の結末:パスワードの壁
邪魔者がいなくなった主人公は、死んだNo.12になりすまし、No.2に対して「作戦は成功した。No.6の精神は崩壊した」と報告。
褒美として村からの退去(護送)を求め、ヘリコプターに乗り込むことに成功します。
しかし、離陸の直前、護送担当のスーザンという女性から、とある確認を求められます。
「将軍へのパスワード(合言葉)は?」
当然、主人公はNo.12だけが知っているパスワードを知りません。
答えに窮した瞬間、ヘリコプターは引き返し、彼は再び村へと連れ戻されてしまうのでした。
『プリズナーNo.6』参考動画
第5話「分裂」のまとめ
第5話「分裂」は、「自分を自分たらしめているものは何か?」という哲学的な問いを投げかけるエピソードです。
記憶、身体的特徴、周囲の承認、そのすべてが奪われた時、最後に残ったのは「痛み(爪の傷)」という生々しい感覚でした。
この展開は、管理社会における個人の拠り所とは何かを象徴しているようにも感じられます。
スリリングな心理サスペンスとして楽しめるだけでなく、No.6の精神的な強靭さが際立つ、シリーズ屈指の人気回です。
関連トピック
ドッペルゲンガー:自分とそっくりの姿をした分身。本来は死の前兆とされる超常現象だが、本作では科学的な洗脳と整形による替え玉として描かれる。
条件付け(パブロフの犬):特定の刺激に対して無意識に反応するように訓練すること。No.6に対する「左利き矯正」などに用いられた。
スプリットスクリーン:一つの画面を分割して、別々に撮影した映像を合成する技術。一人二役の演技を実現するために多用された。
関連資料
DVD『プリズナーNo.6 Collector’s BOX』:本エピソードを含む全話を収録。
書籍『The Prisoner: The Official Companion』:撮影当時の合成技術の裏話や、脚本上の演出意図などが解説されている。

