映画「セイント」(1997年)のうんちく徹底解説!ヴァル・キルマーの変装術とロジャー・ムーアの隠れた出演
映画「セイント」の概要
1997年に公開された映画「セイント」(原題: The Saint)は、ヴァル・キルマーが主演し、フィリップ・ノイス監督がメガホンを取ったサスペンス・アクション大作です。
この映画は、レスリー・チャータリスの原作小説シリーズであり、特にロジャー・ムーア主演のテレビドラマ「セイント 天国野郎」として世界的に知られる作品を、1990年代の現代風にリブートしたものです。
物語の概要は、サイモン・テンプラーという変装の達人である怪盗「セイント」が、ロシアの新興財閥(オルガルヒ)から、ある画期的なエネルギー開発の秘密を盗み出すよう依頼されるところから始まります。
そのターゲットは、美しき科学者エマ・ラッセル博士(エリザベス・シュー)でした。
当初は金のためと割り切っていたサイモンですが、エマと行動を共にするうちに、ロシアを揺るがす巨大な陰謀と、自身の過去に向き合うことになります。
このスタイリッシュな映画には、旧作ファンや映画好きの心をくすぐる多くの「うんちく」が隠されています。
映画「セイント」の詳細
ヴァル・キルマーの七変化と「聖人」のコードネーム
この映画の「セイント」に関する最大のうんちくであり、見どころの一つが、主人公サイモン・テンプラーの「変装」です。
彼は単なる怪盗ではなく、完璧な変装によって別人になりすます達人として描かれています。
主演のヴァル・キルマーは、この役を演じるにあたり、長髪の芸術家、メガネの学者、厳格な軍人、さらには掃除夫まで、十数種類にも及ぶ多様なキャラクターを演じ分けました。
さらに深いうんちくとして、彼が劇中で使用する偽名(コードネーム)は、すべてカトリックの「聖人(Saint)」の名前から取られています。
例えば、「トーマス・モア」や「マーティン・デ・ポレス」といった具合です。
これは、彼が「サイモン・テンプラー」という名前を与えられたカトリック系の孤児院での過酷な過去と、彼が「セイント」と呼ばれるようになった由来に深く関わっています。
新旧「セイント」夢の(?)共演
映画「セイント」ファン、特にテレビドラマ版からのファンにとって最も有名な「うんちく」が、ロジャー・ムーアのカメオ出演です。
テレビドラマ「セイント 天国野郎」で、ダンディかつユーモラスなサイモン・テンプラーを演じ、世界的なスターとなったロジャー・ムーア。
彼はこの1997年の映画版にも、密かに出演しています。
ただし、それは姿を見せる形ではありませんでした。
映画の終盤、サイモンが愛車のボルボC70に乗っているシーンで、カーラジオからニュースが流れます。
このラジオニュースを読み上げているニュースキャスターの「声」こそが、ロジャー・ムーア本人なのです。
この粋な演出は、新旧の「セイント」が時代を超えて共演を果たした瞬間として、ファンの間で語り草になっています。
伝説の「セイント・カー」ボルボの系譜
テレビドラマ版の「セイント」を象徴するアイテムが、主人公が乗り回す白いボルボ「P1800」でした。
当時、ボルボといえば頑丈だが地味なファミリーカーというイメージが強かった中、このスポーティなクーペの登場は「セイント・カー」として絶大な人気を博しました。
映画版「セイント」も、この「ボルボ」の伝統をしっかりと受け継いでいます。
映画の制作と同時期に、ボルボはラインナップのイメージを一新する、流麗なデザインの新型クーペ「C70」を発表しました。
映画「セイント」は、この新型ボルボC70(劇中では鮮やかなガーネットレッド)の格好のデビューの場となりました。
ボルボ社による大々的なプロダクトプレイスメント(作品内広告)であり、テレビ版のクラシックなP1800とは対照的な、90年代のモダンなC70がモスクワの街を疾走するシーンは、映画のハイテクな雰囲気を強烈に印象付けました。
テレビ版とは異なるダークな主人公像
ロジャー・ムーアが演じたテレビ版のサイモン・テンプラーは、常にジョークを忘れず、法で裁けない悪を懲らしめる「現代のロビン・フッド」的な義賊でした。
しかし、映画版でヴァル・キルマーが演じた「セイント」は、その設定が大きく変更されています。
彼はより複雑で影のある人物、金のためなら非情な仕事も請け負うプロフェッショナルな「怪盗」として描かれています。
ヒロインのエマ博士と出会い、彼女の純粋さに触れることで、忘れていた人間性や愛を取り戻していく過程が、映画の大きなテーマとなっています。
このダークでシリアスな主人公像は、テレビ版の明るい冒険活劇を期待していたファンからは賛否が分かれましたが、90年代のアクション・スリラーとしてのリアリティを追求した結果とも言えるでしょう。
映画「セイント」の参考動画
映画「セイント」のまとめ
映画「セイント」(1997年)は、ヴァル・キルマーのキャリアの中でも特に変幻自在な演技が光る、90年代を代表するスパイ・スリラーの一つです。
冷戦終結後のロシアを舞台にした壮大な陰謀、常温核融合(コールド・フュージョン)というSF的な科学技術、そして主人公の心の葛藤が巧みに織り交ぜられています。
興行的な成功を収めた一方で、往年のテレビドラマファンからの評価が分かれたのも事実です。
しかし、ロジャー・ムーアへのリスペクトが込められた「声」の出演、ボルボC70の鮮烈なデビュー、そしてヴァル・キルマーの徹底した役作りといった数々の「うんちく」を知ることで、この映画が持つ独自の魅力と、時代を映し出すリブート作品としての意義を再発見できるはずです。
関連トピック
ヴァル・キルマー: 本作の主演俳優。『トップガン』のアイスマン役でブレイクし、『ドアーズ』『トゥームストーン』『バットマン フォーエヴァー』などで90年代を代表するスターとして活躍。「セイント」での多彩な変装術は彼の真骨頂です。
ボルボ C70 (初代): 映画版「セイント・カー」として登場したクーペ。この映画での活躍により、ボルボのスポーティでスタイリッシュなブランドイメージを世界に知らしめました。
ロジャー・ムーア: テレビドラマ版「セイント 天国野郎」の主演俳優としてあまりにも有名。後に3代目ジェームズ・ボンドとしても活躍。映画版「セイント」ではラジオの声でカメオ出演し、新旧ファンを喜かせました。
エリザベス・シュー: ヒロインの科学者エマ・ラッセル博士を演じた。『ベスト・キッド』『カクテル』などで人気を博し、『リービング・ラスベガス』ではアカデミー主演女優賞にノミネートされた実力派女優。
フィリップ・ノイス: 本作の監督。『今そこにある危機』『ボーン・コレクター』など、骨太なサスペンス映画で知られる名匠。
関連資料
『セイント』 (1997年) (DVD/Blu-ray): 映画本編。ヴァル・キルマーの変装と、ボルボC70の活躍、そしてロジャー・ムーアの「声」をぜひ確認してみてください。
『セイント 天国野郎』 (DVD-BOX): ロジャー・ムーア主演のテレビドラマシリーズ。映画版との雰囲気の違いや、オリジナルのボルボP1800の活躍を見比べるのも一興です。
『The Saint』 (サウンドトラックCD): Orbitalによるテクノアレンジされたテレビ版テーマ曲のほか、スティング、デュラン・デュラン、デヴィッド・ボウイなど、非常に豪華なアーティストが参加したサウンドトラック。90年代の雰囲気が詰まっています。