【懐かしのSF】『タイムトンネル』のあの渦巻きはどこまで続いているのか?果てしなき時間の旅と撮影の裏側
概要
1960年代後半、日本のお茶の間をSF色に染め上げた伝説の海外ドラマ『タイムトンネル(原題:The Time Tunnel)』。
白黒と極彩色の縞模様が渦を巻き、その中心に向かって主人公たちが落下していくオープニング映像は、一度見たら忘れられない強烈なインパクトを残しました。
「あのトンネルはいったいどこまで続いているのか?」「出口はあるのか?」
当時、テレビの前で固唾をのんで見守っていた少年少女たちにとって、それは最大の謎であり、恐怖と好奇心の対象でもありました。
結論から言えば、物語上の設定では「過去と未来のあらゆる瞬間」へと無限に続いており、物理的な終わりはありません。
しかし、現実の撮影セットとしての「トンネル」には、驚くべき視覚トリックと「壁」が存在しました。
本記事では、主人公トニーとダグが挑んだ果てしない時間の旅の行方と、当時の特撮技術が作り出した「無限の奥行き」の正体、そして彼らが最終的にどこへ辿り着いたのかについて徹底解説します。
【物語上の設定:無限に広がる「時間の回廊」】
ドラマ『タイムトンネル』におけるあのトンネルは、アメリカ政府の極秘プロジェクト「チック・タック計画(Project Tic-Toc)」によって、アリゾナ州の砂漠の地下深く(地下800階層とも言われます)に建造された巨大な装置です。
トンネルの入口は「現在(1968年当時)」に固定されていますが、その奥は「無限の過去」と「無限の未来」へと繋がっています。
つまり、トンネルの物理的な「距離」という概念はそこにはなく、奥へ進めば進むほど空間的な移動ではなく、時間的な移動をすることになります。
主人公である若き科学者トニー・ニューマンとダグ・フィリップスは、このトンネルを通ってタイタニック号の船上や、トロイの木馬の戦場、ハレー彗星が接近する未来など、ありとあらゆる時代へと放り出されました。
物語の中では、トンネルは「時間の回廊(Infinite Corridors of Time)」として描かれており、文字通り「終わりなき旅路」そのものを可視化した存在です。
【撮影の裏側:実は「絵」だった?無限の奥行きの正体】
では、現実世界において、あの巨大なセットはどこまで続いていたのでしょうか?
当時の視聴者は「テレビ局にはものすごく長いトンネルのセットがあるに違いない」と思ったものですが、実はこれには「強制遠近法」という高度な視覚トリックが使われていました。
実際のセットの奥行きは、見た目ほど長くはありませんでした。
トンネルの手前部分は実際に人間が立てる巨大なセットで作られていましたが、奥に行けば行くほどリングのサイズを極端に小さくし、一番奥の「出口」に見える部分は、なんと「書き割り(絵)」や写真パネルで処理されていたのです。
カメラアングルと照明、そしてあの独特な「オプ・アート(錯視芸術)」のような白黒の縞模様が、人間の目に「無限に続いている」という錯覚を起こさせていました。
当時の20世紀フォックスのスタジオ技術の粋を集めたセットであり、その美術的評価は非常に高く、後のSF作品にも多大な影響を与えています。
つまり、現実のトンネルは「スタジオの壁」までしか続いていなかったのです。
【物語の結末:二人の旅はどこで終わったのか?】
視聴者が最も気になっていたのは、「二人はいつ現代のトンネルの出口に戻ってこられるのか?」という点でしょう。
残念ながら、テレビシリーズは全30話で打ち切りとなってしまったため、明確な「完結(現代への帰還)」は描かれませんでした。
最終回である第30話「恐怖の町(Town of Terror)」のラストシーンでも、二人は現代に帰還することなく、再びタイムトンネルの渦の中へと吸い込まれていきます。
そして、彼らが転送された先は……なんと、第1話の「タイタニック号の甲板」でした(あるいは再放送の順序によってはパールハーバーなど)。
これは「物語はループし、彼らの旅は永遠に続く」ということを示唆しているようでもあり、制作側の「またいつか続きを作りたい」という意思表示だったのかもしれません。
結果として、あのトンネルは物語上、彼らを永遠に時間の放浪者として閉じ込める「終わりのない迷宮」として機能し続けているのです。
【2002年のリメイク版での解釈】
実は2002年に、一度だけ『タイムトンネル』のパイロット版(リメイク)が制作されたことがあります。
この現代版では、トンネルの描写はCGIを駆使したより科学的な「ワームホール」として描かれました。
ここでは「トンネル」はより不安定な「データストリーム」のような空間として定義され、どこまで続いているかという物理的な感覚よりも、次元の裂け目としての性質が強調されていました。
しかし、オリジナル版が持っていた「巨大な人工建造物が無限に奥まで続いている」という、あの独特の物理的な威圧感と不気味さは、やはり1966年版に軍配が上がると多くのファンが語っています。
『タイムトンネル』の参考動画
『タイムトンネル』のまとめ
『タイムトンネル』のあのトンネルは、物理的には「スタジオの書き割り」で終わっていましたが、物語とファンの心の中では、今もなお「無限」に続いています。
あの白黒の渦巻き模様は、単なるセットデザインを超えて、「過去を変えることはできないのか?」「未来は決まっているのか?」という人類普遍の問いかけを象徴するアイコンとなりました。
トニーとダグは、今もあのトンネルの中をさまよい続けているのかもしれません。
現代のVFX技術を使えば、もっとリアルで長いトンネルを作ることは容易でしょう。
しかし、アナログな特撮とアイデア勝負で作られたあの「底なしの穴」のような恐怖感は、当時の映像だからこそ表現できた唯一無二の芸術です。
もし、あのような巨大なトンネルが目の前に現れたら、あなたはその奥に何があるか確かめる勇気がありますか?
それは、現代への帰還か、それとも永遠の迷子か。
あのトンネルは、私たちの冒険心を吸い込み続ける、永遠のブラックホールなのかもしれません。
関連トピック
アーウィン・アレン
『タイムトンネル』の生みの親であり、『原子力潜水艦シービュー号』『宇宙家族ロビンソン』そしてパニック映画『ポセイドン・アドベンチャー』などを手掛けた「パニック映画の巨匠」。彼の作品には常に、巨大なセットと極限状態の人間ドラマという共通点があります。
親殺しのパラドックス
タイムトラベルものでは避けて通れない論理的矛盾。タイムトンネル内でも、過去を変えようとして失敗したり、変えてしまった影響を恐れたりする葛藤が描かれます。「歴史は変えられるのか」というテーマは、本作の根幹をなすものです。
オプ・アート(オプティカル・アート)
錯視を利用した抽象芸術。タイムトンネルのセットデザインは、当時流行していたこのオプ・アートの影響を色濃く受けており、静止していても動いて見えるような不安定な視覚効果が、タイムトラベルの不安感を煽るのに一役買っています。
関連資料
DVD-BOX タイムトンネル-メモリアル・ボックス
全30話を収録したDVDボックス。日本語吹き替え版(トニー:広川太一郎、ダグ:小林修)も収録されており、往年のファン感涙のアイテムです。特典映像には当時の撮影風景が含まれていることも。
書籍『アーウィン・アレンの世界』
プロデューサーであるアーウィン・アレンの生涯と作品を網羅した研究本。タイムトンネルのセット図面や、特撮技術の解説、未公開のエピソード案などが詳細に記されています。
サウンドトラック『The Time Tunnel』
巨匠ジョン・ウィリアムズ(当時はジョニー・ウィリアムズ名義)などが手掛けた劇伴音楽集。緊迫感あふれるオーケストラサウンドは、聞くだけであの渦巻き模様を脳裏に蘇らせます。
