『トータル・リコール』(1990)のうんちく4選!火星の夢は現実か?制作秘話と革新的SFXを徹底解説。
『トータル・リコール』(1990) 概要
『トータル・リコール』(1990)は、アーノルド・シュワルツェネッガー主演、ポール・ヴァーホーヴェン監督によるSFアクション映画の金字塔です。
「火星の記憶」を植え付けようとした主人公が、自分が何者なのか、どこまでが現実でどこからが虚構なのか分からないまま、巨大な陰謀に巻き込まれていきます。
原作はSF界の巨匠、フィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』です。
その衝撃的なビジュアル、過激なバイオレンス、そして「これは夢か現実か」という観客を惑わす巧妙なストーリーテリングは、公開から30年以上経った今もなお語り草となっています。
この記事では、そんな『トータル・リコール』(1990)の知られざるうんちくや、制作の裏側に迫ります。
『トータル・リコール』詳細:知られざる制作秘話とうんちく
長きにわたる「企画地獄」とシュワルツェネッガーの執念
本作はフィリップ・K・ディックの短編『追憶売ります』を原作としています。
映画化の権利は1970年代から存在していましたが、映像化の難しさから長年「デベロップメント・ヘル(企画地獄)」と呼ばれる状態に陥っていました。
一時期はデヴィッド・クローネンバーグ監督(『ザ・フライ』)のメガホンで企画が進んでおり、その内容は原作により忠実で、さらにダークで奇妙なミュータントが登場する予定だったと言われています。
しかし、その企画は製作会社の倒産により頓挫してしまいました。
この脚本の存在を知り、惚れ込んだのがアーノルド・シュワルツェネッガーでした。
彼は当時『レッドブル』でタッグを組んだ製作会社カロルコ・ピクチャーズに、自身の主演作としてこの権利を買い取るよう強く説得したのです。
さらに、監督として『ロボコップ』のポール・ヴァーホーヴェンを自ら指名し、この最強のタッグが実現しました。
シュワルツェネッガーの情熱がなければ、この映画は全く違う形で世に出ていたかもしれません。
CG黎明期と実写特撮の融合
『トータル・リコール』は、CGI(コンピューターグラフィックス)が映画界を席巻する直前の、実写特撮(SFX)が最も進化した時期の作品です。
火星の広大な風景は、息をのむほど精巧なミニチュアワークで撮影されました。
本作のうんちくとして外せないのが、特殊メイクの巨匠ロブ・ボッティン(『遊星からの物体X』)によるアニマトロニクス技術です。
体から分離するクアトー、顔が割れるギミック、そして有名な「3つのおっぱい」のミュータントなど、彼のグロテスクでありながら独創的な造形は、観客に強烈な印象を与えました。
一方で、本作はCGIの革新的な使用例としても知られています。
それが、駅のセキュリティゲートを通過する際の「X線スキャナー」のシーンです。
あのリアルに動く骸骨の映像は、俳優の動きをデータ化してCGIで骨格を描画するという、当時最先端だった初期の「モーションキャプチャ技術」が使われています。
本作は、偉大な実写特撮への賛辞であると同時に、CGI時代の幕開けを告げる作品でもあったのです。
「3つのおっぱい」の女性の裏話
映画の象徴的なシーンとして、火星のミュータントである「3つのおっぱい」の女性が登場します。
このわずかな登場シーンは、映画のポスターや予告編でも多用され、本作の「うんちく」の代表格となりました。
この役を演じたのは、女優のリシア・ナフです。
彼女のインタビューによると、この特殊メイク(プロステティクス)の装着には約8時間もかかり、非常に重く不快なものだったと語っています。
当初はこの役を演じることに抵抗があったそうですが、結果として世界中の映画ファンに記憶される、非常にアイコニックなキャラクターとなりました。
夢か現実か? 議論を呼ぶラストシーン
本作の最大の魅力であり、最大の「うんちく」は、その解釈が観客に委ねられているラストシーンです。
主人公クエイドは火星の陰謀を阻止し、空気を解放して惑星を救い、ヒロインとも結ばれます。
しかし、これは本当に「現実」に起きたことなのでしょうか。
それとも、映画の冒頭で彼がリコール社に注文した「秘密諜報員になり、火星を救い、美女を手に入れる」という記憶プログラム(エゴ・トリップ)が、装置の不具合によって見続けている「夢」なのでしょうか。
ポール・ヴァーホーヴェン監督は、インタビューで「これは全て夢である」という解釈を好むと発言しています。
映画の最後、青空になった火星を見てクエイドが「今、夢が覚めたらどうする?」と問い、メリーナが「じゃあ、覚める前にキスして」と答えるシーンは、この両義性を完璧に示しています。
この答えの出ない問いこそが、『トータル・リコール』を単なるアクション映画以上の傑作にしているのです。
参考動画
まとめ
『トータル・リコール』(1990)は、アーノルド・シュワルツェネッガーという当代きってのアクションスターと、ポール・ヴァーホーヴェン監督の容赦ないバイオレンス描写、そして強烈な社会風刺が見事に融合した奇跡的な作品です。
実用的な特殊効果の限界を押し広げると同時に、CGI技術の未来を垣間見せました。
そして何より、「アイデンティティとは何か」「現実とは何か」というフィリップ・K・ディックの哲学的な問いを、超一流のエンターテイメントとして昇華させた功績は計り知れません。
この映画が問いかける「夢か現実か」の答えは、もしかしたら観客自身の心の中にあるのかもしれません。
久しぶりに、この強烈な「火星の記憶旅行」へ出かけてみてはいかがでしょうか。
関連トピック
フィリップ・K・ディック: 本作の原作者。
『ブレードランナー』『マイノリティ・リポート』『アジャストメント』など、彼の小説は数多く映画化されています。
現実と虚構の境界線や、人間のアイデンティティの脆さをテーマにすることで知られています。
ポール・ヴァーホーヴェン: 本作の監督。
『ロボコップ』『スターシップ・トゥルーパーズ』『氷の微笑』など、過激な暴力描写と強烈な社会風刺を込める作風で世界的に有名なオランダ出身の監督です。
トータル・リコール (2012): コリン・ファレル主演、ケイト・ベッキンセール共演で制作されたリメイク版。
舞台は火星ではなく、地球上の富裕層と貧困層の対立に焦点が当てられています。
シュワルツェネッガー版へのオマージュとして、「3つのおっぱい」の女性もカメオ出演しています。
関連資料
トータル・リコール 4K Ultra HD Blu-ray: 最新技術でリマスターされた高画質版。
90年代の精緻なミニチュアワークや、ロブ・ボッティンによる特殊メイクの凄まじさを再確認するのに最適です。
『追憶売ります フィリップ・K・ディック短篇傑作選』: 本作の原作小説『追憶売ります』が収録された短編集。
映画とは設定や結末が大きく異なるため、読み比べることで「うんちく」がさらに深まります。
映画『ロボコップ』(1987): ポール・ヴァーホーヴェン監督が本作の前にハリウッドで手掛けた大ヒット作。
本作と同様、強烈なバイオレンスと資本主義への痛烈な風刺が効いたSFアクションの傑作です。

