【徹底解説】映画『キャットピープル』の官能と恐怖。1982年版のあらすじ・結末から1942年オリジナル版との違いまで総まとめ
概要
1982年に公開された映画『キャットピープル』(原題: Cat People)は、エロティシズムとホラーを見事に融合させた、映画史に残る官能的スリラーの傑作です。
メガホンを取ったのは、『タクシードライバー』の脚本や『アメリカン・ジゴロ』の監督として知られる鬼才、ポール・シュレイダー。
本作は、1942年にジャック・ターナー監督が手掛けた同名の古典的サイコロジカル・ホラーを、大胆かつ現代的な解釈でリメイクした作品です。
主演を務めたのは、当時圧倒的な美貌で世界を魅了していた若き日のナターシャ・キンスキー。
共演には『時計じかけのオレンジ』で伝説となったマルコム・マクダウェルが名を連ね、妖しくも狂気に満ちた兄妹の愛憎劇を演じきりました。
「性的興奮を覚えると黒豹に変身してしまう」という呪われた血族の悲劇を描いた本作は、特殊メイク技術の進化を背景に、オリジナル版では暗示に留められていた「性」と「獣性」のテーマを、視覚的かつ直接的に描き出しています。
さらに、ジョルジオ・モロダーが手掛けた幻想的な音楽や、デヴィッド・ボウイが歌う主題歌「Cat People (Putting Out Fire)」も大ヒットを記録しました。
ただのホラー映画という枠を超え、抗えない運命と人間の奥底に潜む欲望を美しく描き出した本作は、今なおカルト的な人気を誇り、多くの映画ファンを魅了し続けています。
予告編
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:呪われた血族とニューオーリンズの熱気
物語の舞台は、ジャズとヴードゥー教の文化が色濃く残る、アメリカ南部の都市ニューオーリンズです。
主人公の若い女性イリーナ(ナターシャ・キンスキー)は、幼い頃に離れ離れになった兄のポール(マルコム・マクダウェル)と再会するため、この街を訪れます。
しかし、彼女の周囲では、黒豹によるものと思われる凄惨な連続殺人事件が起こり始めます。
実は彼ら兄妹は、古代から続く「キャットピープル」と呼ばれる呪われた種族の末裔でした。
彼らは、自分たちと同じ種族(つまり血の繋がった近親者)以外の人間と肉体関係を持つと、性的興奮によって恐ろしい黒豹へと変身してしまうという宿命を背負っていたのです。
そして、一度豹になってしまうと、人間の姿に戻るためには「人間を殺してその肉を喰らう」しか方法がありません。
この恐ろしい真実を兄から告げられたイリーナは、自らの内に眠る獣の血と、動物園で出会った人間の男性オリバー(ジョン・ハード)への純粋な愛との間で、激しい葛藤に引き裂かれていきます。
湿気を帯びたニューオーリンズの空気感と、ネコ科の動物たちが放つ野性的なフェロモンが画面全体を覆い、観る者を妖しい世界へと引き込みます。
オリジナル版(1942年)との違い:心理的恐怖から官能的ホラーへ
本作を深く理解する上で欠かせないのが、1942年のオリジナル版『キャット・ピープル』との比較です。
オリジナル版は、当時の厳しい検閲(ヘイズ・コード)や予算の都合もあり、豹に変身する決定的な瞬間や残酷なシーンを一切画面に映し出しませんでした。
代わりに、影の動きや音響効果だけで「見えない恐怖」を煽る心理的ホラーの金字塔として、今なお映画の教科書に載るほど高く評価されています。
一方、ポール・シュレイダー監督による1982年版は、オリジナル版のプロットを借りながらも、そのアプローチは全く異なります。
シュレイダー監督は、オリジナル版では隠喩であった「性への恐怖」や「抑圧された欲望」を、過激なエロティシズムと流血描写によって直接的に映像化しました。
キンスキーの惜しげもないヌードや、兄ポールの近親相姦への執着など、タブーに踏み込んだ描写が連続します。
オリジナル版が「想像力の恐怖」であるならば、リメイク版は「肉体と血の官能美」を追求した作品と言えるでしょう。
特筆すべき見どころ:哀しき結末とデヴィッド・ボウイの歌声
本作の最大の見どころは、クライマックスから結末にかけての、悲しくも美しい展開です。
愛するオリバーと結ばれたい、しかし結ばれれば彼を殺してしまうことになる。
その絶望的なジレンマの末に、イリーナは究極の選択をします。
彼女はオリバーに自らをベッドに縛り付けさせ、彼と愛し合った直後に黒豹へと姿を変えます。
人間の姿に戻るための殺人を拒否した彼女は、自らの意思で永遠に獣として生きる道を選んだのです。
ラストシーン、動物園の檻の中で美しい黒豹となったイリーナに、オリバーが静かに餌を与え、見つめ合う場面は、映画史に残る切ない愛の結末として語り継がれています。
そして、この余韻を決定的なものにしているのが、エンディングで流れるデヴィッド・ボウイの主題歌です。
「火を消し止める(Putting Out Fire)」という歌詞は、抑えきれない情熱と呪われた運命を見事に表現しており、ジョルジオ・モロダーのエレクトロニックなサウンドと相まって、観客の心に深い爪痕を残します。
制作秘話・トリビア:本物の猛獣と特殊メイクの融合
劇中に登場する黒豹は、もちろん本物の動物が使用されています。
ナターシャ・キンスキーは撮影前に何ヶ月も本物の豹や虎と触れ合い、彼らの動きや習性を徹底的に身につけました。
彼女のしなやかな歩き方や、獲物を狙うような鋭い視線は、まさに「キャットピープル」そのものです。
また、人間が豹へと変身する、あるいは豹から人間へと戻る(皮膚を突き破って人間の姿が現れる)というグロテスクな特殊メイクシーンも、当時の最新技術を駆使して撮影されました。
CGが存在しなかった時代のアナログな特殊造形だからこそ生み出せる、生々しい質感と痛々しさが、作品のホラー要素を力強く支えています。
キャストとキャラクター紹介
イリーナ・ガリエ:ナターシャ・キンスキー
- 幼い頃に両親を亡くし、孤児院で育った美しい女性。
自らの血筋を知らずにニューオーリンズへやって来ますが、次第に内なる獣性に目覚めていきます。
無垢な少女のような脆さと、抗えない色気を併せ持つヒロインを、キンスキーが神がかり的な魅力で演じ切りました。
ポール・ガリエ:マルコム・マクダウェル
- イリーナの兄。
キャットピープルとしての宿命を受け入れ、人間の娼婦を抱いては豹に変身し、殺戮を繰り返しています。
呪いを解くために、実の妹であるイリーナとの肉体関係を強烈に渇望する、狂気に満ちたキャラクターです。
オリバー・イェーツ:ジョン・ハード
- ニューオーリンズの動物園で働く動物学者。
黒豹の檻の前でスケッチをしていたイリーナに一目惚れし、彼女を愛するようになります。
彼女の恐ろしい秘密を知ってもなお、その愛を貫こうとする誠実な男性です。
アリス・ペリン:アネット・オトゥール
- オリバーの同僚であり、密かに彼に想いを寄せる女性。
イリーナの登場によって心境を乱されますが、物語の後半ではキャットピープルの脅威に直接巻き込まれることになります。
プールサイドでの彼女の緊迫したサスペンスシーンは、本作屈指の名場面です。
キャストの代表作品と経歴
主演のナターシャ・キンスキーは、巨匠ロマン・ポランスキー監督の『テス』で世界的ブレイクを果たし、本作の直後にはヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』で映画史に残る名演を披露しています。
1980年代を代表するミューズとして、その妖艶な美貌は多くのクリエイターを刺激しました。
兄ポールを演じたマルコム・マクダウェルは、スタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』のアレックス役で映画史に永遠に名を刻んだ名優です。
本作でも、その底知れぬ狂気とカリスマ性を存分に発揮しています。
オリバー役のジョン・ハードは、後年『ホーム・アローン』シリーズで主人公ケビンの優しい父親役を演じたことで広く知られることになりますが、本作では運命に翻弄されるナイーブな青年を好演しています。
まとめ(社会的評価と影響)
1982年版『キャットピープル』は、公開当時、その過激な性描写と残酷なホラー描写から賛否両論を巻き起こしました。
しかし、時間が経つにつれて、ポール・シュレイダー監督の作家性や、ナターシャ・キンスキーの奇跡的な美しさ、そして秀逸な音楽が高く再評価され、現在ではエロティック・ホラーの金字塔として確固たる地位を築いています。
人間の根源的な欲望である「性」と「暴力」を神話的なレベルにまで昇華させた本作は、後世の多くのクリエイターに影響を与えました。
クエンティン・タランティーノ監督も本作の大ファンであることを公言しており、自身の監督作『イングロリアス・バスターズ』の劇中でデヴィッド・ボウイの主題歌をオマージュとして使用したことはあまりにも有名です。
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夜のニューオーリンズの街並みや、キンスキーの透き通るような肌の質感を楽しむためには、デジタルリマスターされた高画質Blu-rayでの鑑賞が推奨されます。 - オリジナル・サウンドトラック:ジョルジオ・モロダー作曲。
デヴィッド・ボウイが歌う主題歌のフルバージョンは必聴です。
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ジャック・ターナー監督によるオリジナル版。
本作と見比べることで、ホラー映画の表現手法の歴史と進化をより深く学ぶことができます。
