概要
2009年から2010年にかけてアメリカのABCネットワークで放送された『フラッシュフォワード(FlashForward)』は、世界中で凄まじい初期熱量を生み出した大型SFサスペンスドラマです。
原作はカナダの著名なSF作家であるロバート・J・ソウヤーによる同名小説であり、鬼才デヴィッド・S・ゴイヤーとブラノン・ブラーガの手によって壮大なスケールのTVドラマへとアダプテーションされました。
物語の起点となるのは、ある日突然、地球上の全人類が同時に2分17秒間だけ意識を失うという未曾有の大災害です。
その失神の最中、人々は「半年後の自分の未来」の断片を目撃(フラッシュフォワード)するという、極めてキャッチーでスリリングなプロットが特徴となっています。
サスペンス、謎解き、そして緻密な群像劇としての要素をハイレベルに融合させた、まさに海外ドラマ黄金期を象徴する野心作として制作されました。
予告編
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
2009年10月6日、突如としてその「事件」は発生しました。
ロサンゼルスで激しいカーチェイスを繰り広げていたFBI捜査官、手術室で執刀中だった医師、高所で送電線の保守作業を行っていた作業員など、例外なくすべての人間が同時に137秒(2分17秒)の間、ブラックアウトに陥ったのです。
走行中の車両は激突し、航空機は墜落し、世界中で甚大な被害と数百万人の死者が発生するという地獄絵図が広がります。
しかし、本当の恐怖と混乱はその後に訪れました。
失神していた人々は単に眠っていたわけではなく、誰もが共通して「2010年4月29日午後10時」という、約半年後の全く同じ瞬間の「自分の未来の映像」を視ていたのです。
ある者は幸せな家庭を築き、ある者は見知らぬ相手とベッドを共にし、そしてある者は「何も視えなかった(=半年後に自分が死んでいることを意味する)」という残酷な現実を突きつけられます。
FBIのロサンゼルス支局に所属するマーク・ベンフォード捜査官は、自身のフラッシュフォワードの中で、自分が謎の武装集団に襲撃されながらも、ホワイトボードに貼られた「モザイク(Mosaic)」と呼ばれる謎の事件捜査資料を必死に追っている姿を目撃します。
目覚めたマークは、世界中の人々が視た未来の記憶をウェブ上に集約するシステム「モザイク・コレクティブ」を立ち上げ、この未曾有の超常現象を引き起こした黒幕の正体と、その原因の解明に乗り出すことになります。
未来はあらかじめ決定されている変えられない宿命なのか、それとも人間の意思によって書き換えることができる選択肢なのかという、壮大な哲学的・科学的テーマが緻密なタイムラインと共に描かれていきます。
シーズン/章ごとの展開と視聴率の推移
本作は全24話からなるシーズン1のみで構成されていますが、そのドラマチックな展開の裏では、TVドラマ史に残る激しいアップダウンが存在していました。
第1話のプレミア放送時には、かつての大ヒット作『LOST』の後継者を探していた全米のドラマファンが殺到し、驚異的な高視聴率を叩き出して華々しいロケットスタートを切ることに成功しました。
緻密に張り巡らされた伏線、次々と提示される謎、そして登場人物たちがそれぞれの過酷な未来に抗おうとする緊迫したドラマは、序盤において完璧なまでのエンターテインメントとして機能していました。
しかし、物語の中盤に差し掛かると、あまりにも膨大に広げすぎた風呂敷と、数多くの登場人物たちのサイドストーリーが乱立したことにより、本筋である「なぜブラックアウトが起きたのか」という核心へのアプローチが停滞し始めます。
さらに、制作陣の内部でクリエイティブ面における方向性の対立が発生し、中心人物であったショーランナーが途中で交代するというトラブルが勃発します。
この影響によるクオリティのブレや、アメリカ国内での数ヶ月に及ぶ長期の放送休止(インターバル)が災いし、再開後にはコアなファン以外のライト層が急速に離れていく結果となりました。
終盤に向けてストーリーのギアが再び上がり、第1話から張り巡らされていた伏線が驚異的なスピードで回収され、最高潮のテンションのまま「運命の日」である4月29日へと突入していったものの、急落した視聴率を完全に回復させるには至りませんでした。
特筆すべき見どころ
本作の最大の見どころは、やはり「2分17秒の失神」がもたらした世界規模のパニックを圧倒的なスケール感で描き出した映像美と、緻密に計算されたタイムリミット・サスペンスとしての構造です。
第1話の冒頭、マークが意識を取り戻したロサンゼルスの街並みは、ひっくり返った車から煙が立ち上り、あちこちで火災が発生しているという、まるで終末映画のような臨場感で視聴者の心を一瞬で掴み取ります。
また、群像劇としてのシナリオが非常に秀逸であり、それぞれのキャラクターが抱える「未来のビジョン」が、ジグソーパズルのピースのように1つずつ組み合わさっていく快感は格別です。
未来を知ってしまったがゆえに狂い始める人間関係や、運命を回避しようと足掻く姿が心理学的なアプローチも交えて深く掘り下げられていきます。
特に、未来の映像の中で自分が「死んでいる」ことを知った人物が抱く底知れない絶望感や、逆に幸せな未来を確信して傲慢になっていく姿など、人間の本質を鋭くえぐるドラマ性が全編にわたって緊張感をキープし続けています。
さらに、中盤以降に明かされていく、量子もつれを利用した先進的な科学デバイスや、世界中で暗躍する謎の組織の存在など、SFギミックとしてのクオリティの高さもガチのSFファンを唸らせるに十分な仕上がりとなっています。
制作秘話・トリビア
本作の制作背景には、海外ドラマの歴史におけるいくつかの非常に興味深いトリビアが隠されています。
実はこの『フラッシュフォワード』は、当初は大手ケーブル局である「HBO」によって企画・開発が進められていたプロジェクトでした。
しかし、HBO側が「この壮大なスケールと万人受けするハイコンセプトな内容は、ニッチなケーブル局よりも地上波のメジャーネットワークで大々的に放送した方が、より大きな社会的ムーブメントを起こせるだろう」と判断し、最終的にABCに放映権が譲渡されたという経緯があります。
また、原作小説を執筆したロバート・J・ソウヤー自身も、ドラマ版の数エピソードで脚本監修として直接的に参加しており、小説版とは異なるドラマオリジナルの設定やキャラクター展開に対して柔軟かつクリエイティブなアイデアを提供していました。
さらに、劇中で未来の断片を追うために使用されるウェブサイト「モザイク(Mosaic)」は、ドラマの放送と連動して現実のインターネット上にも実際のファンコミュニティサイトとして開設され、視聴者がリアルタイムで劇中の謎解きに参加できるという、当時としては最先端のメディアミックス手法が取り入れられていたことも大きな話題となりました。
キャストとキャラクター紹介
マーク・ベンフォード
演:ジョセフ・ファインズ/吹替:森川智之
本作の絶対的な主人公であり、FBIロサンゼルス支局を率いる有能な特別捜査官です。
過去にアルコール依存症に苦しんだ経験を持ち、現在は克服して最愛の妻と娘を深く愛する良き父親ですが、自身のフラッシュフォワードで「酒を再飲し、謎の武装集団にオフィスを襲撃されている姿」を視てしまい、深い苦悩に陥ります。
未来の破滅を防ぐため、私生活の崩壊の危機に直面しながらも、事件の核心である「モザイク捜査」に文字通り命を懸けて没頭していくことになります。
デミトリ・ノウ
演:ジョン・チョー/吹替:浪川大輔
マークの相棒であり、共に事件を追いかける若く情熱的なFBI捜査官です。
ブラックアウトの際、彼は唯一「何も未来の映像を視なかった」人間であり、それは半年後の運命の日に自分が既にこの世に存在していない(死亡している)ことを意味していました。
美しいフィアンセとの結婚を控えながら、刻一刻と迫りくる自分自身の「死の予定日」の恐怖と戦い、運命を覆すためにマークと共に命がけの捜査へと身を投じていきます。
オリビア・ベンフォード
演:ソーニャ・ヴァルゲル/吹替:湯屋敦子
マークの妻であり、ロサンゼルスの大病院に勤務する極めて優秀な高名な外科医です。
夫であるマークを心から愛しているものの、自身のフラッシュフォワードにおいて「見知らぬ男性(ロイド)と自宅で親密に愛し合っている姿」を目撃してしまい、強い罪悪感と恐怖に苛まれます。
絶対にその未来を現実にしたくないと強く願いながらも、運命の悪戯によってその男性と現実の世界で出会ってしまい、激しく心が揺れ動くことになります。
ロイド・シムコー
演:ジャック・ダヴェンポート/吹替:木下浩之
スタンフォード大学の天才的な理論物理学者であり、ブラックアウト現象の科学的要因に深く関わっている最重要人物のひとりです。
自身の研究が未曾有の大災害を引き起こした可能性に気付き、科学者としての激しい贖罪の念に駆られながらも、オリビアのフラッシュフォワードに登場した「見知らぬ男」として、彼女の人生と交錯していく運命を辿ります。
サイモン・キャンポス
演:ドミニク・モナハン/吹替:久保田恵
ロイドと共に量子物理学の研究を行っていた、若くして圧倒的な頭脳を持つ天才科学者です。
一見すると傲慢で不遜、掴みどころのないシニカルな性格をしていますが、ブラックアウト現象の裏で動く巨大な陰謀の本質を初期から見抜いており、物語の展開を大きく左右するトリガーとして独自の単独行動を続けていきます。
キャストの代表作品と経歴
本作を支える役者陣は、映画界や他のメガヒットドラマで圧倒的な実績を持つ実力派ばかりがキャスティングされています。
主演のジョセフ・ファインズは、アカデミー賞作品賞を受賞した不朽の名作映画『恋におちたシェイクスピア』で若き日のウィリアム・シェイクスピアを演じ、世界的なスター大賞にのし上がった英国の正統派名優です。
近年ではディストピアドラマの傑作『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』での冷酷なフレッド・ウォーターフォード司令官役としても凄まじい演技力を披露しています。
主人公の相棒を演じたジョン・チョーは、映画『スター・トレック』シリーズのヒカル・スールー役や、全編PC画面のみで展開する革新的サスペンス映画『search/サーチ』での主演など、ハリウッドにおけるアジア系俳優の地位を大きく向上させたカリスマです。
また、天才科学者サイモンを演じたドミニク・モナハンは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのメリアドク(メリー)役や、伝説的海外ドラマ『LOST』のチャーリー・ペース役として世界中のファンから絶大な愛を受けている名バイプレイヤーであり、本作でもその独特の怪演が光っています。
まとめ(社会的評価と影響)
『フラッシュフォワード』は、結果としてシーズン1という短い期間でその幕を閉じることになってしまいましたが、彼がTVドラマ界に与えたインパクトと、提示した「ハイコンセプトSF」の方向性は、後世の作品に多大な影響を与えました。
IMDbやRotten Tomatoesなどの海外大手レビューサイトでも、序盤の完璧なプロットと、終盤の怒涛の伏線回収・クライマックスの緊張感に関しては現在でも非常に高いスコアと評価を維持しています。
打ち切りという形にはなったものの、最終話で見せたあまりにも衝撃的で鳥肌が立つようなクリフハンガー(次への引き)は、いまなお多くの海外ドラマファンの間で「もしシーズン2が制作されていたら、間違いなく歴史的な神作になっていた」と語り継がれる伝説となっています。
全人類が同時に未来を視るというプロットの斬新さは、その後に制作される多くのSFタイムトラベル系、ディストピア系のドラマにおけるひとつの大いなる教科書となりました。
短期間で濃密なサスペンスを味わいたい、上質なSFミステリーの伏線回収を体験したいという視聴者にとって、今からでも絶対にチェックすべき隠れた名作であることは間違いありません。
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また、ドラマ版の原点であり、ドラマとは異なるアプローチでの結末や、より純度の高いハードSFとしての設定が緻密に描かれているロバート・J・ソウヤーによる原作小説「フラッシュフォワード」(ハヤカワ文庫SF)も、ドラマの補完として、また独立した珠玉のSF文学として強くおすすめしたい1冊となっています。

