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【徹底解説】映画『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』は早すぎたマーベル映画?あらすじから大爆死の理由、ジョージ・ルーカス最大の悲劇まで総まとめ

アクション・冒険
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【徹底解説】映画『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』は早すぎたマーベル映画?あらすじから大爆死の理由、ジョージ・ルーカス最大の悲劇まで総まとめ

概要

1986年に公開された映画『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』(原題:Howard the Duck)は、アメリカン・コミックスの金字塔「マーベル・コミック」の同名キャラクターを主人公に据えた、記念すべきマーベル原作初の長編実写映画です。
『スター・ウォーズ』シリーズで世界を熱狂させたハリウッドの巨星、ジョージ・ルーカスが製作総指揮を務め、彼が率いる特撮工房ILM(インダストリアル・ライト&マジック)が視覚効果を担当するという、当時としては規格外の超大作として鳴り物入りで製作されました。
しかし、いざ公開されるや否や、主人公のアヒルの着ぐるみの不自然さや、子供向けのようなビジュアルに反して大人向けのブラックジョークや性的暗示が飛び交うという「ターゲット層の迷子状態」が災いし、批評家や一般客から歴史的な大バッシングを浴びてしまいます。
結果として、莫大な製作費(約3,700万ドル)を回収できないまま興行的に大爆死を記録し、その年の最低映画を決定する「第7回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)」では、最低作品賞、最低脚本賞、最低視覚効果賞、最低新人賞の4部門を制覇するという不名誉な伝説を残しました。
この作品の大失敗は、ジョージ・ルーカスの財政状況を著しく悪化させ、後のハリウッドの歴史を大きく変える「ある大事件」の引き金になったことでも知られています。
しかし、公開から数十年の時を経た現在、ヒロインを演じたリー・トンプソンのキュートな魅力や、80年代特有の独特な空気感、そして何より「初期マーベル映画の異端児」としての歴史的価値が見直され、熱狂的なファンを持つカルト・クラシック(愛すべきB級映画)として独自の地位を確立しています。
近年ではMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品にハワードがカメオ出演を果たしたことで、再び世界中の映画ファンから熱い視線を浴びている本作。
この記事では、そんな愛すべき迷作『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』のあらすじや見どころ、豪華キャストの若き日の姿、そして映画史を揺るがしたヤバすぎる制作秘話までを徹底的に深掘りして解説します。

オープニング・予告編動画

詳細(徹底解説)

あらすじと世界観:アヒル惑星からクリーブランドへの不時着

物語は、地球から遥か遠く離れた平行宇宙に存在する、人類の代わりにアヒルが独自の進化を遂げた星「ダックワールド」から幕を開けます。
地球の人間社会と瓜二つ(ただしすべてが鳥類仕様)の世界で、主人公のハワードは葉巻をふかしながら平凡な生活を送っていました。
しかしある夜、彼が自宅の椅子でくつろいでいると、突然謎の強力なレーザー光線が宇宙の彼方から照射され、ハワードは椅子ごと宇宙空間へと吸い込まれてしまいます。
彼が墜落したのは、なんとアメリカのオハイオ州クリーブランドの裏路地でした。
見知らぬ「毛のない猿(人間)」だらけの世界に放り出され、チンピラに絡まれていたハワードは、たまたま通りかかった女性ロックシンガーのビバリー(リー・トンプソン)を、持ち前の「クワック・フー(アヒル拳法)」で救い出します。
命を救われたビバリーは、言葉を話す奇妙なアヒルのハワードに興味を持ち、彼を自分のアパートに居候させることにしました。
ハワードは地球の生活に悪戦苦闘しながらも、ビバリーの紹介で変わり者の科学者フィル・ブランバート(ティム・ロビンス)と出会い、自分が地球に引きずり込まれた原因が、ジェニング博士(ジェフリー・ジョーンズ)らが行っていた巨大レーザー兵器の実験の失敗によるものだと突き止めます。

物語の展開:暗黒魔王の降臨と、種族を超えた愛と戦い

ハワードをダックワールドへ帰すため、ジェニング博士は再びレーザー発生装置を起動させようと試みます。
しかし、この二度目の実験が最悪の事態を引き起こしてしまいます。
レーザーの力によって、ハワードの代わりに宇宙の彼方から「宇宙の暗黒魔王(ダーク・オーバーロード)」と呼ばれる邪悪なエネルギー生命体が地球に呼び寄せられ、なんとジェニング博士の肉体を乗っ取ってしまったのです。
暗黒魔王は、他の仲間たちを地球に呼び寄せて人類を滅ぼし、この星を支配するという恐るべき野望を抱いていました。
ジェニング博士の姿をした暗黒魔王は、圧倒的な念動力で研究所を破壊し、ビバリーを人質に取ってレーザー装置へと向かいます。
「自分は地球の面倒事には巻き込まれたくない」と一度は逃げ腰になったハワードでしたが、愛するビバリーを救い出すため、そして地球の危機を救うために、フィルと共に手作りの武装を施した超軽量飛行機に乗って最終決戦の地へと向かいます。
アヒルと人間が力を合わせ、巨大なエイリアンへと変貌を遂げた暗黒魔王に立ち向かう、ド派手なクライマックスへと物語は突き進んでいくのです。

特筆すべき見どころ:アニマトロニクスの限界と、80年代の空気感

本作の最大の特徴であり、同時に最大の弱点ともなってしまったのが、主人公ハワードのビジュアルです。
当時はまだフルCGでキャラクターを描く技術が存在しなかったため、小人症の俳優がアヒルの精巧な着ぐるみ(スーツ)を着て、顔の表情をリモートコントロールのアニマトロニクスで動かすという手法がとられました。
ILMの技術者たちが数百万ドルをかけて開発したこのスーツでしたが、悲しいかな、アヒルの顔がどうにも可愛くなく、動きもどこかぎこちない「不気味の谷」に陥ってしまいました。
しかし、その不器用な着ぐるみのアヒルが、タバコを吸い、ビールを飲み、人間の女性であるビバリーとベッドでイチャイチャするというシュールな映像は、一度見たら脳裏に焼き付いて離れない強烈なインパクトを持っています。
また、劇中でビバリーがボーカルを務めるガールズ・ロックバンド「チェリー・ボム」のライブシーンは、本作のハイライトの一つです。
80年代特有のネオンカラーや過激なヘアスタイル、そしてシンセサイザーの効いたキャッチーな音楽は、映画のB級感を極上のポップカルチャーへと昇華させており、現在でも音楽ファンから高い評価を得ています。
クライマックスに登場する「暗黒魔王」のグロテスクなストップモーション・アニメーションも、CGにはない生々しい不気味さがあり、特撮映画ファンにはたまらない見どころとなっています。

制作秘話・トリビア:ピクサー誕生のきっかけとなった大赤字

本作『ハワード・ザ・ダック』の製作裏話として、ハリウッド史に永遠に語り継がれる最大のトリビアがあります。
それは本作の歴史的な大赤字が、現在のCGアニメーションの絶対王者である「ピクサー(Pixar)」誕生の直接的な引き金となったという事実です。
当時、製作総指揮のジョージ・ルーカスは莫大な私財を投じて「スカイウォーカー・ランチ(広大なスタジオ施設)」を建設したばかりであり、さらに自身の泥沼の離婚裁判による多額の慰謝料の支払いも重なり、深刻な資金難に陥っていました。
そこへ追い打ちをかけたのが、本作の興行的な大爆死です。
文字通り首が回らなくなったルーカスは、現金を手に入れるために、自らの会社ルーカスフィルムの一部門であった「コンピュータ・グラフィックス部門」を売却せざるを得なくなりました。
この部門を約500万ドルという(当時の価値としても)破格の安値で買い取ったのが、なんとアップルコンピュータを追放された直後のスティーブ・ジョブズだったのです。
ジョブズの手によって独立したこの小さなCG部門こそが、後に『トイ・ストーリー』を生み出すことになる「ピクサー・アニメーション・スタジオ」の正体です。
もし『ハワード・ザ・ダック』が大ヒットしていれば、ピクサーはルーカスフィルムの一部門のままであり、映画の歴史は全く違うものになっていたかもしれません。
そういった意味でも、本作は決して無視することのできない、映画史における重要な「特異点」なのです。

キャストとキャラクター紹介

  • ハワード・ザ・ダック:チップ・ジアン(声)/エド・ゲイルほか(スーツアクター)/吹替:所ジョージ、中尾隆聖など
    本作の主人公で、ダックワールドから地球のクリーブランドにやってきたシニカルなアヒルです。
    口が悪く、葉巻を愛用し、女性の胸の谷間に目がないという、ディズニーのドナルドダックとは対極にある「おっさん臭いアヒル」として描かれています。
    しかし根は優しく、ビバリーを身を挺して守り抜くという男気(アヒル気?)に溢れたハードボイルドな一面も持ち合わせており、次第に観客の目にもカッコよく見えてくる不思議な魅力を持ったキャラクターです。
  • ビバリー・スウィッツラー:リー・トンプソン/吹替:佐々木優子など
    ガールズ・ロックバンド「チェリー・ボム」のボーカル兼ギターを務める、セクシーで心優しい人間の女性です。
    不良たちに絡まれていたところをハワードに助けられ、彼を自宅に匿ううちに、種族の壁を越えた奇妙な愛情を抱くようになります。
    演じたリー・トンプソンのキュートなルックスと弾けるような笑顔は本作における一筋の光であり、彼女目当てで本作を鑑賞するファンも後を絶ちません。
  • フィル・ブランバート:ティム・ロビンス/吹替:井上和彦など
    博物館の清掃員として働きながら、独学で宇宙や次元の研究をしている風変わりな青年です。
    ハワードを宇宙人の一種だと信じ込み、彼を元の星へ帰すために奔走する、オタク気質だが非常に優秀な相棒です。
    当時まだ無名に近かったティム・ロビンスが、驚くほどハイテンションでコミカルな演技を披露しており、彼のキャリアの原点を知る上でも貴重な映像となっています。
  • ウォルター・ジェニング博士 / 暗黒魔王:ジェフリー・ジョーンズ/吹替:阪脩など
    ハワードを地球に引きずり込んだレーザー実験の責任者である科学者です。
    最初は良心的な人物としてハワードに協力しますが、二度目の実験の事故によって邪悪な「暗黒魔王」に肉体を乗っ取られてしまいます。
    肉体が変異していく過程のグロテスクな特殊メイクと、ジェフリー・ジョーンズの狂気に満ちた怪演は、本作のコメディテイストをぶち壊すほどの本気のホラー演出として語り草になっています。

キャストの代表作品と経歴

リー・トンプソン(Lea Thompson)

1961年生まれのアメリカの女優です。
本作公開の前年である1985年に、歴史的傑作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公マーティの母親(ロレイン・ベインズ)役を演じ、世界的なトップアイドル女優として絶大な人気を誇っていました。
彼女は「ロレインのようないい子の役ではなく、ロックの女王になりたかった」という理由で本作の出演を熱望し、劇中の楽曲では実際に彼女自身が力強いボーカルを披露しています。
本作の大失敗によって映画界でのキャリアは一時的に停滞しましたが、後にテレビドラマ『キャロライン in N.Y.』などでコメディエンヌとしての才能を開花させ、現在も第一線で活躍を続けています。

ティム・ロビンス(Tim Robbins)

1958年生まれのアメリカを代表する名優、映画監督です。
『ハワード・ザ・ダック』でコメディリリーフとして強い印象を残した後、『さよならゲーム』(1988年)や『ジェイコブス・ラダー』(1990年)などで演技派としての地位を確立しました。
そして1994年の映画『ショーシャンクの空に』における主人公アンディ役で世界中の映画ファンの涙を誘い、映画史に永遠にその名を刻むことになります。
2003年の『ミスティック・リバー』では念願のアカデミー賞助演男優賞を受賞するなど、本作の泥臭い役柄からは想像もつかないほど輝かしいキャリアを歩んだ、ハリウッドの真の実力派です。

ジョージ・ルーカス(George Lucas) ※製作総指揮

言わずと知れた『スター・ウォーズ』シリーズ、『インディ・ジョーンズ』シリーズの生みの親であり、ハリウッドの特撮の歴史を変えた偉大なクリエイターです。
彼がなぜこれほどまでに本作に入れ込んだのかは多くの謎を呼んでいますが、コミック原作のユニークな世界観に特撮の可能性を見出したのではないかと言われています。
本作での大失敗とピクサーの売却という屈辱を味わいましたが、後にCG技術が飛躍的に進歩した1999年に『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』で完全復活を果たし、自らのビジョンが時代を先取りしすぎていたことを証明してみせました。

まとめ(社会的評価と影響)

映画『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』は、1980年代を代表する「ラジー賞銘柄」として、長らく映画ファンから嘲笑の的となってきました。
「アヒルが主人公なのに子供向けではない」「特撮のクオリティにムラがある」「物語のトーンが支離滅裂」と、映画のセオリーから見事に逸脱してしまった本作の欠点は数え切れません。
しかし、ビデオやDVDの普及とともに、この「誰にも真似できない奇妙なテイスト」が、逆に他に類を見ない個性として再評価されるようになりました。
さらに2014年、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のエンドクレジット後のおまけシーンに、なんとフルCGで現代に蘇ったハワード・ザ・ダックがサプライズ登場し、映画館の観客を熱狂させました。
その後も『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)の最終決戦にこっそりと参戦していたり、アニメシリーズ『ホワット・イフ…?』で活躍したりと、マーベル公式もこの「黒歴史」を愛すべきレガシーとして完全に受け入れています。
時代を先取りしすぎた「早すぎたマーベル映画」として、本作は今なおポップカルチャーの中で唯一無二の輝き(と笑い)を放ち続けているのです。

作品関連商品

本作の愛すべきB級感と、ILMによる狂気の特撮技術を楽しむには、キングレコードなどから定期的にリリースされている『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』のBlu-ray版がおすすめです。
高画質になったことで、暗黒魔王のストップモーション・アニメーションの緻密さや、リー・トンプソンの魅力的なステージ衣装の細部までを存分に堪能することができます。
また、音楽ファンには、トーマス・ドルビーがプロデュースし、リー・トンプソンが歌い上げた劇中バンドの楽曲や、巨匠ジョン・バリーのスコアが収録されたオリジナル・サウンドトラックも非常に高い人気を誇ります(アナログレコード版はコレクターズアイテムです)。
そして、本作の原点を知りたい方は、近年日本でも翻訳版が刊行された原作コミック『ハワード・ザ・ダック』を読んでみるのも一興です。
映画版以上に風刺が効いており、1970年代のアメリカ社会をアヒルの視点からシニカルに斬りまくる、マーベル・コミックの奥深さを知ることができる隠れた名作です。

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