概要
『ジャックとジル』(原題:Jack and Jill)は、2011年に公開されたアメリカ合衆国のコメディ映画です。
ハリウッドを代表するコメディアンであるアダム・サンドラーが、主人公のジャックとその双子の妹であるジルの「一人二役」に挑んだ意欲作として話題を集めました。
メガホンを取ったのは、サンドラー作品の常連監督であり、『ビッグ・ダディ』や『エージェント・ゾーハン』など数多くのヒットコメディを手掛けてきたデニス・デューガンです。
ロサンゼルスで成功を収めた広告代理店社長のジャックのもとに、感謝祭の時期に合わせて強烈な個性を持つ妹のジルが訪れることから巻き起こる大騒動を描いています。
しかし、本作はコメディ映画としての笑いよりも、映画史に残る「伝説的な酷評」を受けた作品としてあまりにも有名です。
2011年の第32回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)において、最低作品賞、最低主演男優賞、最低主演女優賞(アダム・サンドラーが男女両部門で受賞)を含む、なんと「全10部門を完全制覇」するという前代未聞の偉業(?)を成し遂げました。
さらに、名優アル・パチーノが本人役で出演し、ジルに本気の恋をしてしまうという狂気の展開は、公開当時から現在に至るまで多くの映画ファンを困惑させ続けています。
本記事では、なぜ本作がここまで歴史的なバッシングを受けることになったのか、その振り切れたあらすじや見どころ、そして名優たちの無駄遣いとも言える豪華キャストについて徹底的に解説していきます。
予告編
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
主人公のジャック・サデルスタインは、ロサンゼルスで広告代理店を営み、美しい妻と可愛い子供たちに囲まれて完璧なセレブ生活を送っていました。
しかし、彼には毎年「感謝祭」の時期になると頭を悩ませる大きな問題がありました。
それは、ニューヨークのブロンクスに住む双子の妹、ジルが実家から遊びに来ることです。
ジルは声が大きく、無神経で、空気が全く読めないトラブルメーカーであり、ジャックは彼女の滞在期間中、常に胃を痛める思いをしていました。
今年の感謝祭も例に漏れず、ジルはジャックの家に転がり込み、数日間の予定だった滞在を勝手に無期限に延長してしまいます。
一方、仕事面でもジャックは大きな壁にぶつかっていました。
大手ドーナツチェーン「ダンキンドーナツ」の新作CMを作るため、大物俳優のアル・パチーノを起用しなければ、最大のクライアントを失ってしまうという危機に瀕していたのです。
なんとかパチーノに接触を図るジャックでしたが、偶然出会ったパチーノは、なんと粗野で風変わりな妹のジルに一目惚れしてしまいます。
ジャックはCM出演の契約を取り付けるため、パチーノの恋を成就させようと、嫌がるジルを説得してあの手この手で二人のデートをセッティングするという、予測不能なドタバタ劇が展開されていきます。
特筆すべき見どころと考察
本作の最大の見どころは、良くも悪くもアル・パチーノの「一線を越えた怪演」に尽きます。
『ゴッドファーザー』や『スカーフェース』で映画史に名を刻んだ大御所俳優が、本人役として登場し、アダム・サンドラーの女装姿(ジル)に本気で欲情し、ストーカーのように追い回す姿は、まさにシュールの極みです。
特に映画の終盤、ジャックが苦労して完成させたダンキンドーナツの架空のCM「ダンカチーノ(Dunkaccino)」のシーンは必見です。
パチーノが自身の出演作のパロディを交えながら、ドーナツとコーヒーを手にノリノリでラップとダンスを披露するこの映像は、後年インターネット上で巨大なミーム(ネタ)として大流行し、若い世代にも本作の存在を広く知らしめることになりました。
また、アダム・サンドラーのアクの強い女装演技も強烈なインパクトを残します。
ガッチリとした体格のサンドラーが、不自然なウィッグと派手なドレスを身に纏い、甲高い声で下品なジョークを連発する姿は、観客の生理的な不快感と爆笑の境界線を激しく攻め立てます。
制作秘話・トリビア
本作は、ラジー賞史上初にして唯一の「ノミネートされた全10部門を単一の映画がすべて受賞する」というパーフェクト・ゲームを達成したことで、永遠に映画史に語り継がれる存在となりました。
最低作品賞をはじめ、監督、脚本、アンサンブル、前日譚・リメイク・盗作・続編賞など、あらゆる賞を総なめにしました。
特にアダム・サンドラーは、ジャック役で最低主演男優賞を、ジル役で最低主演女優賞を同時に受賞するという奇跡を起こしています。
さらに、カメオ出演したジョニー・デップがパチーノと絡むシーンや、同じくコメディアンのデヴィッド・スペードが女装して最低助演女優賞を受賞するなど、キャストの使い方の荒っぽさも話題を呼びました。
また、本作は「ロイヤル・カリビアン(クルーズ船)」や「ダンキンドーナツ」など、実在の企業名が過剰なまでに頻出する露骨なプロダクト・プレイスメント(劇中広告)が行われており、批評家からは「映画の皮を被った2時間の長大なCMである」と酷評される一因となりました。
キャストとキャラクター紹介
- ジャック・サデルスタイン / ジル・サデルスタイン:アダム・サンドラー
(ジャック)ロサンゼルスで成功を収めた広告代理店の社長です。
神経質で自己中心的な面があり、妹のジルを疎ましく思いながらも、仕事のために彼女を利用しようとするしたたかさを持っています。
(ジル)ジャックの双子の妹で、ブロンクスからやって来た無神経な女性です。
オウムを溺愛しており、腕力が異常に強く、周囲を破壊と混乱に巻き込みますが、本人は至って純粋で悪気がないという厄介な性格です。 - アル・パチーノ(本人役):アル・パチーノ
オスカー俳優であるアル・パチーノ本人が、極度のスランプと精神的な迷走に陥っているという設定で登場します。
演劇『ドン・キホーテ』の役作りにのめり込むあまり現実との区別がついておらず、粗野なジルを「私のドゥルシネア(理想の女性)」と崇め、熱烈なアプローチを仕掛けます。 - エリン・サデルスタイン:ケイティ・ホームズ
ジャックの妻であり、二人の子供の心優しい母親です。
夫とは対照的に、風変わりな義妹であるジルに対しても寛容で優しく接し、家族の絆を大切にしようと努める常識人としての役割を担っています。
キャストの代表作品と経歴
- アダム・サンドラー
国民的コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で人気を獲得し、自身の制作会社「ハッピー・マディソン・プロダクションズ」を通じて数多くの大ヒットコメディ映画を世に送り出してきました。
本作のようなおバカ映画で酷評される一方で、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランク・ラブ』や、サフディ兄弟監督の『アンカット・ダイヤモンド』などのシリアスな作品では、天才的な演技力を披露し、各国の映画賞で絶賛されるという特異なキャリアを持っています。 - アル・パチーノ
言わずと知れたハリウッドの生ける伝説です。
『ゴッドファーザー』シリーズのマイケル・コルレオーネ役や、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』でのアカデミー賞主演男優賞受賞など、その輝かしい経歴は枚挙にいとまがありません。
そんな彼が本作で見せた自虐的なコメディ演技は、ファンを「なぜ出演をOKしたのか?」と大いに困惑させましたが、同時に彼の懐の深さを示すエピソードとしても語られています。 - ケイティ・ホームズ
青春ドラマ『ドーソンズ・クリーク』のジョーイ・ポッター役でブレイクし、世界中の若者のアイドルとなりました。
クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』でヒロインのレイチェル・ドーズ役を務めるなど、ハリウッドの第一線で活躍しました。
私生活ではトム・クルーズとの結婚・離婚がメディアを大きく騒がせました。
まとめ(社会的評価と影響)
『ジャックとジル』は、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」において批評家スコア3%という、大手スタジオが巨額の予算を投じた映画としては信じられないほどの低評価を記録しました。
「最初から最後まで一つも笑えない」「アダム・サンドラーの才能の底が抜けた」「アル・パチーノのキャリアの汚点」など、あらゆるメディアから言葉のサンドバッグ状態にされました。
しかし、これほどまでに振り切れた駄作であるからこそ、本作は単なる失敗作の枠を超え、一種の「都市伝説」や「カルト映画」として特異な地位を確立しています。
特にアル・パチーノが踊り狂う「ダンカチーノ」のシーンは、YouTubeやTikTokなどで何度もリミックスされ、映画本編を観たことがない若い世代にまで広く認知されるという奇妙な逆転現象を引き起こしました。
「どれほど酷い映画なのか、一生に一度は怖いもの見たさで鑑賞してみたい」と思わせる謎の引力を持った本作は、コメディ映画の歴史におけるある種の「特異点」として、今後も語り継がれていくことでしょう。
作品関連商品
- DVD/Blu-ray
ソニー・ピクチャーズから日本国内向けのDVDおよびBlu-rayがリリースされています。
特典映像として未公開シーンやNG集が収録されており、アル・パチーノがいかに真剣にこのふざけた役に向き合っていたかを確認することができる、非常に貴重な資料となっています。 - ストリーミング配信
Amazon Prime VideoやU-NEXTなど、主要な動画配信サービスでレンタルまたは見放題での視聴が可能な場合があります。
友人と集まってツッコミを入れながら鑑賞する「パーティームービー」としては、これ以上ないポテンシャルを秘めた作品です。
