【徹底解説】映画『ビル・コスビーのそれ行けレオナルド』はなぜ伝説の駄作なのか?あらすじから狂気の動物パニック、主演本人のネガキャン騒動まで総まとめ
概要
1987年に製作された映画『ビル・コスビーのそれ行けレオナルド』(原題:Leonard Part 6)は、全米で絶大な人気を誇っていたコメディアンのビル・コスビーが主演・製作・原案を務めたスパイ・コメディ映画です。
当時、テレビシリーズ『ザ・コスビー・ショー』でアメリカの国民的スターとなっていた彼が、満を持して映画界に乗り込んだ肝煎りのプロジェクトとして約2,400万ドル(当時のレートで約40億円)もの巨額の製作費が投じられました。
本作の最大の特徴は、タイトルに「パート6」と付いているにもかかわらず、過去にパート1から5までの作品は一切存在しないという点です。
「過去の任務はすべて極秘扱い(機密情報)になっているため、いきなりパート6から始まる」というスパイ映画のパロディとしてのジョーク設定なのですが、観客の多くを混乱させることになりました。
そして本作を映画史に永遠に刻み込むことになったのは、その内容のあまりのひどさから、主演のビル・コスビー本人が公開前に「絶対にお金を出して見ないでくれ」とメディアで呼びかけるという前代未聞のネガティブ・キャンペーンを行ったという事実です。
結果として興行収入はわずか460万ドルという歴史的な大爆死を記録し、日本では劇場公開が見送られ「ビデオスルー」という形でひっそりとリリースされました。
その年の最低映画を決定する「第8回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)」では最低作品賞を含む3部門を受賞し、現在でも「史上最低の映画」のリストに必ず名を連ねるカルト的な駄作として語り継がれています。
この記事では、そんな奇跡のトンデモ映画『ビル・コスビーのそれ行けレオナルド』のあらすじやヤバすぎる見どころ、豪華キャスト陣の無駄遣いっぷり、そして映画史に残るラジー賞授賞騒動の裏側までを徹底的に深掘りして解説します。
予告編動画
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観:最強のスパイと「凶暴化した動物たち」の戦い
物語の主人公は、かつてCIAの最強の諜報員として数々の危機から世界を救ってきた男、レオナルド・パーカー(ビル・コスビー)です。
彼はすでにスパイ稼業を引退し、現在はサンフランシスコで大成功を収めたレストランのオーナーとして、優雅で平和な億万長者の生活を満喫していました。
しかし、そんな彼の元に、かつての所属組織から「世界規模の緊急事態が発生したため、現場に復帰してほしい」という要請が舞い込みます。
世界中の秘密諜報員たちが、次々と不審な死を遂げているというのです。
しかもその暗殺の手口は、ニジマスやカエルといった「ごく普通の小動物」による襲撃という、到底信じられないものでした。
事件の黒幕は、過激なベジタリアン(菜食主義者)であり、世界征服を企む悪女メデューサ・ジョンソン(グロリア・フォスター)でした。
彼女は独自の特殊な薬品(フォーミュラ)を開発し、ロブスターやダチョウ、カエルなどのあらゆる動物を「殺人マシーン」へと変え、人類を自分に従わせようとしていたのです。
レオナルドは人類の危機を救うため、そして動物たちを操るメデューサの野望を阻止するため、重い腰を上げて再び過酷な戦いへと身を投じていきます。
特筆すべき見どころ:狂気のギャグとツッコミ不在のアクション
本作の最大の見どころ(であり最大の欠点)は、全編を覆い尽くす「観客を置いてけぼりにする不条理なギャグ」の数々です。
例えば、レオナルドが敵の拠点に潜入するシーンでは、なんと「戦車の砲塔が乗った改造ポルシェ」という、スパイの隠密行動とは無縁のド派手で意味不明なビークルが登場します。
また、殺人ロブスターの群れに襲われた際のレオナルドの対抗手段は、銃やナイフではなく「大量の溶かしバターで相手を怯ませる」という、正気の沙汰とは思えないコメディ演出が真顔で繰り広げられます。
他にも、敵の戦闘員を倒すための武器が「食べると頭が爆発する魔法のホットドッグ(ボローニャ・ソーセージ)」であったりと、ジェームズ・ボンドをパロディにしているのは分かりますが、そのセンスがあまりにも斜め上を行き過ぎています。
ビル・コスビーは終始「面倒くさそうな無表情」でこれらのアクションをこなしており、その演技のやる気のなさが、結果的に本作をシュールな前衛芸術のように見せてしまっているのが恐ろしいところです。
予算だけは無駄に潤沢であったため、動物のパニックシーンなどの特撮はやたらと手が込んでおり、その「映像の豪華さと脚本の空っぽさ」のアンバランスさが、カルト映画ファンにとってはたまらない魅力となっています。
制作秘話・トリビア:主演本人がメディアで「見るな」と警告
映画史において本作が伝説となっている最大の理由は、主演であり原案・プロデューサーでもあるビル・コスビー本人が、完成した映画を見て激怒し、公開前に自らネガティブ・キャンペーンを行ったことです。
コスビーは、監督のポール・ウェイランドの演出があまりにも自分の意図と異なっていたことに深く失望しました。
公開の数週間前、彼はアメリカの各メディアのインタビューに対し、「この映画はひどすぎる。
お願いだから、私のファンは絶対にお金を出して劇場に見に行かないでくれ」と公言して回ったのです。
主演スターが自らの映画の不買運動をするなど前代未聞の事態であり、当然のごとく映画は歴史的な大爆死を遂げました。
その後、本作は第8回ゴールデンラズベリー賞において最低作品賞、最低主演男優賞(コスビー)、最低脚本賞の3部門を受賞します。
さらに驚くべきことに、コスビーは数週間後にテレビ番組『ザ・レイト・ショー』や『ザ・トゥナイト・ショー』に出演した際、なんとラジー賞のトロフィーを自らスタジオに持ち込み、「私が賞を総なめにしたぞ!」と大喜びでトロフィーを掲げてみせたのです。
彼は「受賞するなら、純金(24K)とイタリア産の大理石で作った本物のトロフィーを用意しろ」と要求し、テレビ局(Fox)がわざわざその特注トロフィーを作成して彼に贈呈したという逸話が残っています。
これにより、彼は「ラジー賞のトロフィーをテレビの前で自ら受け取った史上初のスター」として、ハリウッドの歴史にその名を刻むことになりました。
キャストとキャラクター紹介
- レオナルド・パーカー:ビル・コスビー/吹替:なし(ビデオスルーのため字幕版が主流)
本作の主人公であり、引退した元・超一流のCIAスパイです。
現在はサンフランシスコでレストランの経営者として大成功し、贅沢で怠惰な生活を送っています。
世界を救うために現場復帰しますが、終始「なぜ自分がこんなことをしなければならないのか」という嫌々オーラを放っており、やる気のない表情のまま奇想天外な秘密兵器(ソーセージなど)を駆使して戦います。
ビル・コスビーのコミカルな顔芸だけが唯一の救いとなっています。 - メデューサ・ジョンソン:グロリア・フォスター
本作のメインヴィラン(悪役)であり、狂気に満ちた菜食主義者の女性です。
人類を屈服させるため、独自の薬品でカエルやニジマスなどの小動物を凶暴化させ、世界中のスパイを次々と暗殺していきます。
部下に「私にブドウを食べさせなさい!」と命令するような、典型的なオーバーアクトの悪役を大真面目に演じており、その堂々とした姿が逆に笑いを誘います。 - フレイン:トム・コートネイ
レオナルドの身の回りの世話をする、忠実で礼儀正しいイギリス人の執事です。
奇想天外なトラブルに巻き込まれる主人を、冷静かつドライな態度で見守りサポートします。
全編がアフリカ系アメリカ人の主要キャストで占められる中、唯一の白人メインキャストとして異彩を放っています。 - ニック・スナイダーバーン:ジョー・ドン・ベイカー
CIAの幹部であり、引退したレオナルドを現場に復帰させるために奔走する人物です。
国家の危機に対して非常にシリアスな態度をとっていますが、彼が説明する危機の内容(カエルが人を襲うなど)があまりにも馬鹿馬鹿しいため、そのギャップが本作のシュールさを際立たせています。 - ジョルジオ・フランコッツィ:モーゼス・ガン
CIAの関係者であり、レオナルドの作戦をサポートするベテランのエージェントです。
重厚な演技派俳優がキャスティングされていますが、本作の破綻した脚本の前では彼の才能も完全に持ち腐れとなっています。
キャストの代表作品と経歴
ビル・コスビー(Bill Cosby)
1937年生まれのアメリカのコメディアン、俳優、テレビプロデューサーです。
1984年から放送されたシチュエーション・コメディ『ザ・コスビー・ショー』で「理想の父親」を演じ、全米視聴率ナンバーワンを何年も獲得するなど、アメリカを代表する国民的エンターテイナーとして君臨していました。
本作は彼が映画界でさらなる成功を収めるための野心作でしたが、結果は前述の通りの大惨事となりました。
その後も映画には数本出演しましたが、彼の主戦場は常にテレビであり続けました。
近年になって過去の深刻な性的暴行疑惑が多数浮上し、有罪判決を受けるなど、彼の輝かしいキャリアと名声は完全に地に落ちてしまいましたが、1980年代の彼がアメリカのエンタメ界に与えていた影響力は計り知れないものがありました。
グロリア・フォスター(Gloria Foster)
1933年生まれ、2001年に没したアメリカの実力派舞台女優です。
ブロードウェイなどの演劇界で数々の賞を受賞するほどの名優であり、映画への出演はそれほど多くありませんでした。
映画ファンにとって彼女の最も有名な役柄は、間違いなく1999年の大ヒットSF映画『マトリックス』とその続編『マトリックス リローデッド』に登場した、預言者「オラクル」役です。
あのような知的で神秘的なキャラクターを演じた名優が、本作で「殺人カエルを操る狂気のベジタリアン」というB級映画丸出しの悪役を演じていたという事実は、多くの映画ファンを驚かせています。
トム・コートネイ(Tom Courtenay)
1937年生まれのイギリスを代表する名優です。
1960年代のイギリス映画のニューウェーブを牽引した俳優の一人であり、『長距離ランナーの孤独』(1962年)や『ドクトル・ジバゴ』(1965年)などで国際的な名声を獲得し、アカデミー賞にもノミネートされた実績を持ちます。
後にイギリス王室からナイトの称号(Sir)を授与されるほどの偉大な俳優が、なぜこのような破綻したアメリカのB級コメディに出演したのかは映画界の七不思議の一つとされていますが、どんな駄作であっても執事としての気品ある演技を崩さなかった彼のプロフェッショナリズムには敬意を表するしかありません。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『ビル・コスビーのそれ行けレオナルド』は、巨額の予算と大スターの才能が、間違った方向へとフルスイングしてしまった結果生み出された「映画史に残る大事故」です。
辛口映画批評サイトのRotten Tomatoesでは、専門家からの支持率が驚異の「7%」というどん底の数字を記録しており、「コスビーのキャリアにおいて最もぞっとするような最悪の作品」と評されています。
しかし、そのあまりの「ひどさ」と、主演俳優自らがテレビ番組でラジー賞の特注トロフィーを受け取るという歴史的なパフォーマンスのおかげで、本作は単なる忘れ去られた失敗作ではなく、「どれほどヤバい映画なのか一度は見てみたい」と思わせるカルト映画としてのステータスを獲得しました。
1980年代のハリウッドにおける「スターの権力とエゴが引き起こした大暴走」の象徴として、B級映画愛好家たちの間では今なお語り草となっている、ある意味で非常にエンターテインメントな一本です。
作品関連商品
現在、本作『ビル・コスビーのそれ行けレオナルド』は、その歴史的な悪名高さから、日本国内でのDVDやBlu-rayの再販は絶望的であり、完全に廃盤(絶版)状態となっています。
1980年代後半から90年代にかけてレンタルビデオ店に並んでいたVHSテープ(字幕版)や、過去に海外で極少数リリースされた輸入盤DVDが、現在ネットオークションや中古市場で高値で取引されるコレクターズアイテムと化しています。
現代の洗練された映画では決して味わうことのできない「純度100%の狂気とスベりっぷり」を目撃したい真の映画マニアにとっては、苦労してでも見つけ出して鑑賞する価値(?)がある幻のレア作品と言えるでしょう。

