【徹底解説】映画『キャットウーマン』はなぜ酷評された?あらすじから結末、ハル・ベリーの伝説的ラジー賞スピーチまで総まとめ
概要:アカデミー賞女優が挑み、そして散った愛すべきアメコミ・ヒロイン・アクション
映画『キャットウーマン』(原題:Catwoman)は、2004年に公開されたアメリカのスーパーヒーロー・アクション映画です。
DCコミックスの代表作『バットマン』に登場する人気キャラクター「キャットウーマン」をベースにしていますが、ブルース・ウェイン(バットマン)やゴッサム・シティといった本家の設定は一切登場せず、主人公の名前もセリーナ・カイルではなく「ペイシェンス・フィリップス」という完全なオリジナルストーリーとして再構築されています。
監督を務めたのは、フランス出身の視覚効果クリエイターであり、ヴィドックなどで独特のダークファンタジー世界を描き出したピトフです。
そして主演には、映画『チョコレート』でアフリカ系アメリカ人女性として初のアカデミー賞主演女優賞という歴史的快挙を成し遂げ、『X-MEN』シリーズのストーム役や『007 ダイ・アナザー・デイ』のボンドガールとしても絶頂期にあったハル・ベリーが抜擢されました。
さらに、悪役として『氷の微笑』のシャロン・ストーンが顔を揃えるなど、華やかなキャスティングと約1億ドルという巨額の製作費が投じられた超大作プロジェクトでした。
しかし、いざ公開されると、ツッコミどころ満載の破綻した脚本、過剰なCG演出、そしてバットマンの世界観から完全に乖離した設定などが、アメコミファンや映画批評家から「歴史的な大失敗」として猛烈なバッシングを浴びることになります。
興行収入は製作費を大きく下回り、その年の最低映画を決める第25回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)において、「最低作品賞」「最低監督賞」「最低脚本賞」「最低主演女優賞」の主要4部門を総なめにするという大惨敗を喫しました。
しかし、本作を映画史における「単なる駄作」から「伝説のカルト映画」へと昇華させたのは、他でもない主演のハル・ベリー自身の行動でした。
彼女はなんと、ハリウッドのトップスターとしては異例の「ラジー賞授賞式への直接登壇」を果たし、オスカー像を片手に自虐とユーモアに満ちた歴史に残る名スピーチを披露したのです。
この潔すぎる態度は世界中から大絶賛を浴び、映画自体の評価とは裏腹に、ハル・ベリーの株を爆上がりさせるという奇跡的な現象を引き起こしました。
本記事では、そんな良くも悪くも語り継がれる問題作『キャットウーマン』のあらすじや見どころ、魅力的な(そして奇妙な)キャラクターたち、そして伝説となったラジー賞の裏側までを徹底的に深掘りして解説していきます。
予告編:美しきヒロインの誕生と、スタイリッシュなアクションをチェック
詳細(徹底解説):気弱な女性の死と再生、そして美しき復讐劇
あらすじと世界観:毒化粧品の陰謀と、古代エジプトの猫の魔法
物語の主人公であるペイシェンス・フィリップスは、巨大な化粧品会社「ヘデア・ビューティー」で働く、才能はあるものの極めて気弱で自己主張ができないグラフィックデザイナーです。
彼女は常に上司である社長のジョージ・ヘデアや、その冷酷な妻ローレルから見下され、理不尽な要求にも文句一つ言えずに謝り続けるような、冴えない日々を送っていました。
ある夜、ペイシェンスは会社が新たに発売しようとしている画期的な若返りクリーム「ビューリン」の広告デザインを届けるため、深夜の工場へと足を運びます。
しかし、そこで彼女は偶然にも、恐ろしい秘密を知ってしまいます。
「ビューリン」は確かに肌を若返らせる効果があるものの、一度でも使用をやめると肌が崩壊してしまうという、極めて有害で中毒性のある欠陥商品だったのです。
会社の巨大な陰謀を知ってしまったペイシェンスは、警備員たちに見つかって執拗に追いつめられ、工場の排水管から廃棄物と共に海へと突き落とされて殺害されてしまいます。
しかし、息絶えた彼女の遺体の前に、「ミッドナイト」と呼ばれる不思議な力を持ったエジプトの猫(ロシアンブルー)が現れます。
ミッドナイトが彼女の顔に神秘的な息を吹きかけると、ペイシェンスは古代エジプトから伝わる猫の女神「バステト」の力を宿した「キャットウーマン」として奇跡の復活を遂げます。
蘇った彼女は、それまでの気弱な性格から一転し、超人的な身体能力、鋭い感覚、そして猫のように奔放で攻撃的な本能を持つ全く別の存在へと生まれ変わっていました。
自分の身に何が起きたのか戸惑うペイシェンスでしたが、ミッドナイトの飼い主である謎めいた女性オフィーリアから、自分が歴史上何人も存在してきた「キャットウーマン」の系譜を継ぐ者であることを教えられます。
夜の街へと繰り出したペイシェンスは、黒いレザースーツと鞭を身に纏い、自分を殺したヘデア社への復讐を開始します。
一方で、彼女は優しい刑事であるトム・ローンと惹かれ合っていきますが、キャットウーマンとしての自らの正体を隠さなければならないというジレンマに苦しみます。
そして、一連の事件の裏で糸を引いていた真の黒幕が、社長のジョージではなく、若さと美への異常な執着を持つ妻のローレルであったことが判明します。
ローレル自身もまた、長年にわたるビューリンの使用によって、大理石のように硬く痛みを感じない無敵の皮膚(と引き換えに人間性を失った体)を手に入れていました。
果たして、猫の超能力を得たペイシェンスは、ローレルの恐ろしい野望を打ち砕き、愛するトムとの未来を掴むことができるのでしょうか。
物語の展開と葛藤:正義のヒロインか、復讐の私刑執行人か
本作のストーリー展開において特徴的なのは、ペイシェンスが完全に「正義の味方」として描かれているわけではないという点です。
彼女の原動力はあくまで自分を殺害した者たちへの「復讐」であり、宝石店での強盗騒ぎに巻き込まれた際も、盗まれた宝石をそのまま自分の戦利品として持ち帰ってしまうなど、本能の赴くままに行動するダークヒーロー(アンチヒーロー)としての側面が強調されています。
トム・ローン刑事とのロマンスも、昼間は気弱なペイシェンスとして彼と愛を育みながら、夜はキャットウーマンとして警察(トム)から追われる身となるという、スリリングなすれ違いのドラマを生み出しています。
しかし、これらの設定はアメコミ映画の王道を行くものでありながら、演出のテンポの悪さや、あまりにも都合よく進むご都合主義的な脚本が災いし、公開当時は「薄っぺらい物語」として厳しい評価を受けてしまいました。
特に、最終決戦でキャットウーマンと対峙するローレルが、「化粧品の副作用で顔がカチカチに硬くなったから殴られても平気」という、物理法則を無視したトンデモ設定で肉弾戦を挑んでくる展開は、多くの観客を呆れ(あるいは爆笑)させました。
特筆すべき見どころ:ハル・ベリーの完璧な肉体美と、官能的なアクション
本作の批判の多くは脚本や演出に向けられたものであり、主演のハル・ベリーが体現したキャットウーマンのビジュアルそのものについては、「これ以上ないほど完璧でセクシーだ」と絶賛する声も少なくありません。
ブラジャーと切り裂かれたレザーパンツ、そして特徴的なマスクという、露出度の高い挑発的なコスチュームを見事に着こなした彼女のプロポーションは、まさに芸術品の域に達しています。
また、アクションシーンにおいては、ブラジルの格闘技「カポエイラ」の動きを取り入れた、猫のようにしなやかでアクロバティックな戦闘スタイルが披露されています。
特に、トム刑事とバスケットボールで1対1の勝負をするシーンでは、ペイシェンスの中に眠る猫の本能が覚醒し、官能的かつ挑発的な動きで相手を翻弄する姿が強い印象を残します。
さらに、寿司屋のカウンターで生の魚を貪り食ったり、キャットニップ(イヌハッカ)を嗅いで酩酊状態になったりと、猫の生態を人間の姿でコミカルに表現したシーンの数々は、ハル・ベリーのコメディエンヌとしての魅力も引き出しています。
ピトフ監督が得意とする、カメラが街中を猛スピードで駆け抜けるようなダイナミックなCGワーク(当時は「ゲームのムービーのようだ」と批判されましたが)も、現在の視点で見直すと、2000年代初頭の映像表現の試行錯誤として興味深く楽しむことができます。
制作秘話・トリビア:ハル・ベリーのラジー賞伝説と、オスカー像の重み
本作を語る上で絶対に外すことができないのが、2005年に行われた第25回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)授賞式でのハル・ベリーの伝説的なスピーチです。
ラジー賞は「最低映画」を揶揄する賞であり、プライドの高いハリウッドスターが自ら授賞式に出席することは極めて稀です。
しかし、最低主演女優賞に選ばれたハル・ベリーは、なんと片手に本作で受賞したラジー賞のトロフィーを持ち、もう片方の手には自身が『チョコレート』で獲得した本物のオスカー像(アカデミー賞)を握りしめてステージに登壇しました。
そして、アカデミー賞受賞時のような感極まった(ふりをした)泣き顔で、「この栄誉には本当に感謝しています!」と叫び、会場を大爆笑の渦に巻き込みました。
さらに彼女は、「ワーナー・ブラザース、私をこんなクソみたいな(piece of sh*t)最悪の映画に出演させてくれて本当にありがとう!」「私のキャリアがどん底に落ちるには、これくらいの出来事が必要だったのね!」と、スタジオやマネージャーを名指しで痛烈に皮肉りながらも、すべてを笑い飛ばすという最高のパフォーマンスを披露したのです。
このあまりにも潔く、ユーモアと自己肯定感に満ちたスピーチは世界中のメディアで大絶賛され、「映画は最低だが、ハル・ベリーは最高だ」という評価を決定づけました。
彼女のこの行動は、「失敗を恐れずに挑戦し、結果を笑って受け入れる」というハリウッドスターの真の器の大きさを証明する歴史的な瞬間として、今でも語り草になっています。
ちなみに、本作の企画はもともと、ティム・バートン監督の『バットマン リターンズ』でキャットウーマンを演じ、絶大な人気を博したミシェル・ファイファーを主演に据えたスピンオフ映画として1990年代から進められていたものでした。
しかし、監督の降板や脚本の度重なる書き直しにより企画は迷走し、一時はアシュレイ・ジャッドの主演で進められたものの、最終的にハル・ベリーに白羽の矢が立ったという複雑な経緯を持っています。
キャストとキャラクター紹介:猫の魔力に翻弄される善と悪
ペイシェンス・フィリップス / キャットウーマン:ハル・ベリー / 吹替:本田貴子
本作の主人公であり、理不尽な死から猫の女神の力で蘇った復讐のヒロインです。
復活前のペイシェンスは、他人の顔色ばかりをうかがう気弱で内向的な女性でしたが、キャットウーマンとして覚醒してからは、自信に満ち溢れ、欲望に忠実で、敵を容赦なく鞭で打ち据える強烈なダークヒロインへと変貌します。
夜の街を縦横無尽に飛び回り、盗みや戦いを楽しむ彼女の姿は、善悪の枠にとらわれない野生の本能を体現しています。
ハル・ベリーが、気弱なオタク女子から極上のセックスシンボルへと見事なコントラストで演じ分けており、彼女のキャリアにおいても圧倒的なビジュアルの美しさを誇るキャラクターです。
ローレル・ヘデア:シャロン・ストーン / 吹替:勝生真沙子
巨大化粧品会社ヘデア・ビューティーの社長夫人であり、本作の真の黒幕です。
かつては会社の看板モデルとして美貌を誇っていましたが、加齢に伴いその座を追われたことで、若さと美に対する異常なまでの執着と狂気を抱くようになりました。
有害な若返りクリーム「ビューリン」の秘密を守るためなら殺人すら厭わず、自らもクリームの副作用により「大理石のように硬く、痛みを感じない顔(皮膚)」を手に入れています。
『氷の微笑』で世界を魅了したシャロン・ストーンが、その美貌と冷酷さを武器に、完全に振り切った悪女ぶりを嬉々として演じています。
最終決戦での「顔が硬いから殴られても平気よ!」という狂気のドヤ顔は、映画史に残る迷シーンの一つです。
トム・ローン刑事:ベンジャミン・ブラット / 吹替:小杉十郎太
ペイシェンスと恋に落ちる、正義感に溢れた優秀な刑事です。
心優しいペイシェンスの素顔に惹かれる一方で、街を騒がせる謎の怪盗「キャットウーマン」の正体を追い続けるという、ヒーロー映画における伝統的なヒロイン(この場合は逆ですが)の役割を担っています。
キャットウーマンの正体がペイシェンスであると知った際の葛藤や、彼女を救おうとする真っ直ぐな愛情は、物語に人間的な温かみをもたらしています。
ベンジャミン・ブラットの誠実で男らしいルックスが、正統派の刑事役にぴったりとハマっています。
ジョージ・ヘデア:ランベール・ウィルソン / 吹替:諸角憲一
ヘデア・ビューティーの社長であり、ローレルの夫です。
冷酷なビジネスマンであり、会社の利益のためには手段を選ばない男ですが、実は妻であるローレルの底知れぬ狂気と野心に完全に利用され、コントロールされている哀れな存在でもあります。
『マトリックス リローデッド』のメロビンジアン役などで知られるフランスの名優ランベール・ウィルソンが、傲慢さと小物感が見事に同居する社長役を好演しています。
オフィーリア・パワーズ:フランセス・コンロイ / 吹替:沢田敏子
ペイシェンスに命を与えた不思議な猫「ミッドナイト」の飼い主であり、謎めいた知識を持つ老女です。
ペイシェンスに対し、彼女が古代から続く「キャットウーマン」の選ばれし後継者であることを伝え、その力との向き合い方を導くメンター(指導者)的な役割を果たします。
フランセス・コンロイのミステリアスで落ち着いた存在感が、荒唐無稽な物語にわずかながらの神話的な奥行きを与えています。
キャストの代表作品と経歴:実力派スターたちの愛すべき迷走
主演のハル・ベリーは、2001年の『チョコレート』で黒人女性初のアカデミー賞主演女優賞を受賞し、ハリウッドの歴史を塗り替えた偉大な女優です。
『X-MEN』シリーズのストーム役や、『007 ダイ・アナザー・デイ』でのボンドガールなど、アクション大作での存在感も圧倒的でした。
本作『キャットウーマン』での歴史的失敗とラジー賞受賞は、彼女のキャリアにおいて最大のピンチとなるはずでしたが、前述の神スピーチによってそのピンチを見事にチャンス(好感度の爆発)へと変えてみせました。
その後も『ジョン・ウィック:パラベラム』などでキレのあるアクションを披露し続け、トップスターとしての地位を揺るぎないものにしています。
悪役のシャロン・ストーンは、1992年の『氷の微笑』での大胆な演技で世界的なセックスシンボルとなり、『カジノ』ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた真の実力派です。
本作のようなB級テイスト溢れる作品であっても、一切手を抜かずに堂々たる狂気の悪女を演じ切る彼女のプロ意識には、賞賛を送るほかありません。
トム刑事役のベンジャミン・ブラットは、大ヒットテレビシリーズ『ロー&オーダー』のレイ・カーティス刑事役でブレイクし、『デンジャラス・ビューティー』などでサンドラ・ブロックの相手役を務めるなど、2000年代のハリウッドにおいて「最も頼りになるイケメン相手役」として重宝された人気俳優です。
まとめ(社会的評価と影響):失敗を笑い飛ばす強さを教えてくれるカルト作
映画『キャットウーマン』は、客観的な映画の完成度という指標で測れば、間違いなく「失敗作」の部類に入ってしまう作品です。
Rotten Tomatoesなどの評価サイトでは長年にわたり一桁台の支持率をさまよっており、「バットマンの世界観を破壊した」「薄っぺらいフェミニズム」「CGが安っぽい」と、アメコミ映画ファンからは長らく黒歴史として扱われてきました。
しかし、時間が経つにつれて、この映画が持つ「どうしようもないバカバカしさ」や「ハル・ベリーの圧倒的なビジュアルの良さ」が、一部の映画ファンから「最高のギルティ・プレジャー(罪悪感を伴うお気に入り映画)」として愛されるようになっています。
何より、ハル・ベリーがラジー賞授賞式で見せたあの伝説的なスピーチの存在が、この映画の価値を全く別の次元へと押し上げました。
「どんなに酷い結果に終わっても、それをユーモアに変えて笑い飛ばすことができれば、人はさらに輝くことができる」という、映画本編よりも遥かに素晴らしい人生の教訓を、本作とその周辺の出来事は私たちに教えてくれます。
DCコミックスの正史からは完全に切り離された「異端児」ではありますが、肩の力を抜いて、豪華な女優たちのキャットファイトやトンデモ設定を楽しむつもりで観れば、これほど贅沢で笑えるポップコーン・ムービーはそう多くありません。
作品関連商品:伝説のヒロインを自宅で堪能するためのアイテム
- 『キャットウーマン』Blu-ray / DVD:ハル・ベリーの完璧なプロポーションと、カポエイラを取り入れたしなやかなアクションを高画質で確認できる必須アイテムです。シャロン・ストーンの「硬すぎる顔」の狂気も鮮明に楽しめます。
- オリジナル・サウンドトラック(CD):クラウス・バデルトが作曲を手掛けた、ミステリアスでエッジの効いたスコアが収録されています。ヒップホップやR&Bのテイストを取り入れた楽曲の数々は、2000年代初頭のクラブカルチャーの空気を色濃く残す隠れた名盤です。
- 映画『バットマン リターンズ』Blu-ray:ティム・バートン監督が手掛けた、もう一つの伝説的なキャットウーマン映画です。ミシェル・ファイファーが演じた狂気と悲哀に満ちたキャットウーマンと、本作のハル・ベリー版を比較して観ることで、アメコミキャラクターの解釈の多様性(と方向性の違い)を深く味わうことができます。
