【徹底解説】映画『ディック・トレイシー(1990)』の評価は?あらすじから結末、キャスト、特殊メイクの秘密まで総まとめ
概要
映画『ディック・トレイシー』は、1990年に公開されたアメリカのクライム・アクション映画です。
1931年からアメリカの新聞紙上で連載され、絶大な人気を誇ったチェスター・グールドによる同名のハードボイルド・コミックを実写映画化しました。
監督、製作、そして主演を務めたのは、ハリウッドを代表する名優であるウォーレン・ベイティです。
彼は長年この作品の映画化を熱望しており、その並々ならぬ情熱が見事に結実した渾身の一作となっています。
共演には、アル・パチーノ、マドンナ、ダスティン・ホフマンといった、誰もが知る超大物スターたちが顔を揃えました。
特にアル・パチーノが演じたギャングのボス「ビッグ・ボーイ・キャプリス」は、その怪演ぶりが世界中で大きな話題を呼び、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされるほどの高い評価を獲得しています。
また、本作の最も大きな特徴として挙げられるのが、徹底的にコミックの世界観を再現した驚異的なビジュアル表現です。
赤、青、黄といった限定された原色のみを基調とした美術セットや衣装は、観る者の目を釘付けにします。
この芸術的なこだわりが高く評価され、第63回アカデミー賞では美術賞、メイクアップ賞、そして歌曲賞の3部門を見事に受賞しました。
当時の最先端の特殊メイク技術を駆使して再現された、個性豊かでグロテスクな悪役たちのビジュアルも必見です。
極上のエンターテインメント性にあふれながらも、細部までこだわり抜かれた芸術性の高い作品として、今なお多くの映画ファンから愛され続けている名作です。
オープニング
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
物語の舞台は、1930年代のアメリカを思わせる架空の巨大犯罪都市です。
ギャングたちが街の暗黒街を牛耳り、激しいマフィアの抗争によって日々血の雨が降る、暴力と欲望が渦巻く時代が克明に描かれています。
そんな警察すらも腐敗しきった街において、ただ一人揺るぎない正義を貫き、日夜悪党たちと激しい戦いを繰り広げているのが、敏腕刑事のディック・トレイシーです。
彼の最大の宿敵は、街を裏で操り、数々の犯罪の糸を引くギャングのボス、アルフォンス・“ビッグ・ボーイ”・キャプリスでした。
キャプリスは自身の果てしない野望を叶えるため、ライバルであるクラブオーナーのリップス・マンリスを無残にも殺害します。
そして、そのクラブの看板歌姫であり、絶世の美女であるブレスレス・マホニーを無理やり自分の愛人にしてしまうのです。
トレイシーは事件の真相を暴くため、偶然出会ったストリートチルドレンの少年「キッド」を相棒とし、危険な捜査を開始します。
やがてトレイシーは、事件の重要な鍵を握る目撃者として、ブレスレスに接触を試みます。
しかし、彼女は過酷な裏社会を生き抜くしたたかな一面を持っており、キャプリスに従うふりをしながらも、トレイシーに対して危険な誘惑を仕掛けてくるのでした。
心優しい恋人テスとの関係や自身の将来に悩みつつも、トレイシーは街の平和を取り戻すために巨悪へと立ち向かっていきます。
原作コミックが持つハードボイルドな探偵モノの要素と、カートゥーン特有のコミカルで誇張された表現が見事に融合した、唯一無二の世界観が本作最大の魅力です。
特筆すべき見どころ
本作を語る上で絶対に外せないのが、徹底して計算し尽くされた「圧倒的な映像美」です。
ウォーレン・ベイティ監督は、原作のサンデー・コミック(日曜版カラー漫画)の雰囲気を完全にスクリーンへ移植するため、非常に大胆かつ実験的な手法を取り入れました。
それは、映画全体の色彩を「赤、青、黄、緑、オレンジ、紫、黒、白」といった、極めて限定された色数のみで構成するという前代未聞の試みです。
セットの壁、小道具の車、さらには俳優が身にまとう衣装に至るまで、中間色を一切排除し、マットな原色で塗りつぶすことで、まるで動くコミックブックを観ているかのような錯覚に陥ります。
この視覚的なインパクトは映画史上においても特筆すべきものであり、第63回アカデミー賞において美術賞を獲得したのも当然の結果と言えるでしょう。
また、特殊メイクのクオリティも驚異的であり、映画史に残る画期的な業績として高く評価されています。
ジョン・カグリオーネ・Jrとダグ・ドレクスラーが手掛けた特殊メイクは、俳優の素顔が全く分からないほど立体的で、グロテスクかつコミカルな造形に仕上がっています。
ダスティン・ホフマン演じるマンブルスや、ウィリアム・フォーサイス演じるフラットトップなど、一度見たら忘れられない強烈なキャラクターたちが、熟練の技術によって見事に命を吹き込まれました。
音楽面においては、鬼才ダニー・エルフマンが劇伴を担当し、ミステリアスかつスリリングなオーケストラスコアで物語のテンポを牽引しています。
さらに、ミュージカル界の生ける伝説であるスティーヴン・ソンドハイムが書き下ろした劇中歌も素晴らしく、マドンナが艶やかに歌う「Sooner or Later」はアカデミー賞歌曲賞に輝きました。
視覚と聴覚の両面から、観客を1930年代のノスタルジックで危険なギャングの世界へと引き込む完璧な演出が見事です。
制作秘話・トリビア
本作の制作の裏側には、主演・監督を務めたウォーレン・ベイティの並々ならぬ情熱と執念が隠されています。
彼は1970年代半ばから『ディック・トレイシー』の映画化権を獲得しようと奔走しており、実際に制作が開始されるまでには10年以上もの長い歳月が費やされました。
企画の初期段階では、スティーヴン・スピルバーグやジョン・ランディスといった名だたるヒットメーカーたちが監督の候補に挙がる噂もありましたが、最終的にベイティ自身がメガホンを取る決断を下します。
キャスティングに関しても数多くの裏話が存在し、特にマドンナが演じたファム・ファタールのブレスレス役には、シャロン・ストーンやキム・ベイシンガーといったトップ女優たちも激しい役作り競争に参戦していたそうです。
しかし、マドンナ自身がこの役を熱烈に志願し、当時の彼女の世界的スター性からは考えられないほどの低ギャラ(俳優組合が定める最低賃金)で出演を快諾したという逸話は、ハリウッドの語り草となっています。
また、アル・パチーノ演じるビッグ・ボーイ・キャプリスのエキセントリックな演技は、その多くが彼自身のアドリブによって作り上げられました。
毎日3時間半以上かかる特殊メイクのテスト段階からパチーノは深く役に入り込み、狂気とユーモアが入り交じる独特のキャラクター像を自らの手で確立させていったのです。
さらに、特殊メイクの裏に隠された豪華キャスト陣の素顔を探すのも、本作ならではの楽しみ方の一つとなっています。
例えば、ダスティン・ホフマンは早口で何を言っているか全く分からない情報屋「マンブルス」を嬉々として怪演しており、名優ジェームズ・カーンもギャングのボスの一人としてカメオ出演しています。
一切の妥協を許さないベイティの完璧主義が、細部のディテールや役者の息遣いにまで宿っていることが伺えるエピソードばかりです。
キャストとキャラクター紹介
ディック・トレイシー:ウォーレン・ベイティ/玄田哲章
鮮やかな黄色のトレンチコートとフェドーラ帽がトレードマークの、本作の主人公である敏腕刑事です。
悪を激しく憎む強い正義感と、どんな危険な銃撃戦にも怯まないタフさを持ち合わせており、街の平和を守るために日夜ギャングたちと戦い続けています。
腕時計型の双方向無線機(2ウェイ・リスト・ラジオ)を駆使して最前線で捜査を行う姿は、当時の最先端技術を象徴する夢のガジェットとして多くの観客の心を躍らせました。
長年の恋人であるテスを深く愛しながらも、危険な仕事人間ゆえに結婚には踏み切れず、さらには事件の鍵を握るブレスレスからの誘惑にも翻弄されるという、ハードボイルドでありながら人間臭い一面も魅力的に描かれています。
ブレスレス・マホニー:マドンナ/幸田直子
ビッグ・ボーイ・キャプリスに乗っ取られた高級ナイトクラブ「クラブ・リッツ」で歌う、魅惑的な看板歌姫です。
圧倒的な美貌と色気を武器に男たちを意のままに翻弄するファム・ファタール(運命の女)であり、堅物なトレイシーに対しても積極的なアプローチを仕掛けて心を揺さぶります。
しかし、彼女の派手な行動の裏には、弱肉強食の過酷な暗黒街を生き抜くためのしたたかさと、誰にも理解されない深い孤独が隠されているのです。
劇中でマドンナ自身が披露する、ソンドハイム作曲のジャジーな圧巻の歌唱シーンは、彼女のミステリアスなキャラクター性をより一層際立たせています。
アルフォンス “ビッグ・ボーイ” キャプリス:アル・パチーノ/羽佐間道夫
トレイシーの最大の宿敵であり、街の裏社会を完全に支配しようと企む冷酷非道なマフィアのボスです。
敵対するライバルたちを次々と容赦なく粛清し、手段を選ばずに権力と富を拡大していく様は、まさに悪のカリスマと言えます。
特殊メイクによって異様に膨らんだ背中と歪んだ顔面を持ち、シェイクスピアの台詞を気取って引用しながら、突然狂気的なテンションで部下を怒鳴り散らす姿は圧巻の一言です。
名優アル・パチーノのオーバーアクト気味の振り切った怪演が、このキャラクターに強烈な個性とコミカルな恐ろしさを与え、映画の魅力を何倍にも引き上げています。
テス・トゥルーハート:グレン・ヘドリー/高島雅羅
トレイシーの長年の恋人であり、彼の良き理解者として常に寄り添う、知的で心優しい女性です。
いつ命を落とすか分からない危険な仕事に身を投じるトレイシーを案じながらも、彼の曲げない正義感を誰よりも尊敬し、献身的に支え続けています。
身寄りのない孤児であるキッドに対しても実の母親のような深い愛情を注ぎ、三人が疑似家族としての温かい絆を育んでいく上での重要な役割を担います。
自己主張の強い派手なブレスレスとは対照的に、純真で誠実な愛情をストレートに表現するグレン・ヘドリーの好演が光る、作品の癒やしとなるキャラクターです。
キッド:チャーリー・コースモ/亀井芳子
荒んだ街でスリや盗みを働きながら孤独に生きていた、身寄りのないストリートチルドレンの少年です。
ひょんなトラブルからトレイシーに保護され、最初は大人を信じずに反発しながらも、次第に彼を本物の父親のように慕うようになっていきます。
持ち前の機転の速さとストリートで培った勇敢さで、トレイシーの絶体絶命のピンチを救う大活躍を見せ、物語の展開における重要なキーパーソンへと成長していきます。
物語の結末で、彼がトレイシーから名誉ある正式な名前を与えられる感動的なラストシーンは、多くのアクションファンの涙を誘いました。
キャストの代表作品と経歴
本作の監督・製作・主演という大役を務め上げたウォーレン・ベイティは、『俺たちに明日はない』(1967年)でアメリカン・ニューシネマの旗手として一躍時代を築いたハリウッドの伝説的スターです。
超大作『レッズ』(1981年)では見事アカデミー賞監督賞を受賞するなど、俳優としてだけでなく映画制作者としても非凡な才能をいかんなく発揮してきました。
本作でも、彼の細部にまで至る妥協なき映像美学が、画面の隅々にまで行き渡っています。
妖艶なブレスレス役を演じたマドンナは、言わずと知れた「クイーン・オブ・ポップ」であり、世界中の音楽シーンを牽引してきたトップアイコンです。
ミュージカル映画『エビータ』(1996年)ではゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞するなど、女優としても確かな実績を残し、世界的な評価を得ました。
本作でのファム・ファタールぶりと魅惑のボーカル・パフォーマンスは、彼女の華やかな映画キャリアの中でも特に高く評価されている金字塔の一つです。
そして、狂気のビッグ・ボーイ役を務めたアル・パチーノは、『ゴッドファーザー』シリーズ(1972年〜)や『スカーフェイス』(1983年)、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)などで知られる、映画史に燦然と輝く名優です。
重厚なマフィアのドンから孤独な元軍人まで幅広い役柄を演じ分ける天才肌の彼ですが、本作のような分厚い特殊メイクを施した突き抜けた悪役演技は非常に珍しく、彼の演技の底知れぬ幅の広さを世界に改めて証明する結果となりました。
また、キッド役を演じたチャーリー・コースモは、その後スティーヴン・スピルバーグ監督の『フック』(1991年)にも出演して名子役として名を馳せましたが、後に俳優業を引退して弁護士・法学教授へと転身するという異色の経歴を持っています。
まとめ(社会的評価と影響)
映画『ディック・トレイシー』は、1990年の公開当時、その斬新でポップなビジュアルと超豪華スターの奇跡的な競演で大きな話題を呼び、興行的にも大成功を収めました。
批評家からの評価も概ね高く、特にその美術セットや特殊メイク、衣装デザインといった技術面での達成は、映画史における一つの到達点として今なお語り継がれています。
同年のアカデミー賞において7部門にノミネートされ、見事3部門(美術賞、メイクアップ賞、歌曲賞)を受賞した事実は、本作の芸術的な価値を裏付ける揺るぎない証拠です。
また、コミックのコマ割りのような独特の構図や、原色のみを使用するという大胆なアプローチは、その後の『シン・シティ』など、スタイルを追求したアメコミ映画の先駆けとして多大な影響を与えたと言われています。
一方で、個性的なビジュアル表現に重きを置いたため、ストーリー展開がやや単調であるといった一部の批判的な声もありましたが、それを補って余りあるほどの圧倒的な視覚体験とエンターテインメント性が本作には詰まっています。
Rotten TomatoesやIMDbなどの大手映画レビューサイトでも、その唯一無二の独特なスタイルや、アル・パチーノの振り切った怪演に対する賛辞が現在でも多く見られ、熱狂的なカルト的人気を誇る作品として定着しています。
現代の最新CGを駆使したリアル路線のスーパーヒーロー映画とは一味違う、当時のハリウッドの頂点を極めた手作り感と職人芸が光る、珠玉のエンターテインメント作品です。
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