概要
『愛の伝道師 ラブ・グル』(原題:The Love Guru)は、2008年に公開されたアメリカ合衆国のコメディ映画です。
大ヒットコメディシリーズ『オースティン・パワーズ』で世界中を爆笑の渦に巻き込んだ稀代のコメディアン、マイク・マイヤーズが主演・脚本・製作を務めた肝煎りのプロジェクトとして大きな注目を集めました。
メガホンを取ったのは、マイヤーズ作品で長年アシスタント・ディレクターを務め、本作が長編映画監督デビューとなったマルコ・シュナベルです。
物語は、インドの寺院で育った風変わりなアメリカ人スピリチュアル・アドバイザーのピトカが、低迷するプロアイスホッケーチームのスター選手を救うべく奔走する姿を、過激な下ネタとパロディ満載で描いています。
しかし、期待とは裏腹に、公開されるや否や批評家から猛烈なバッシングを浴び、興行収入も大惨敗を喫するという結果に終わりました。
同年の第29回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)では、最低作品賞、最低主演男優賞、最低脚本賞の3部門を受賞するという不名誉な記録を残しています。
さらに、インド文化やヒンドゥー教の戯画化を巡って、一部の宗教団体やコミュニティから強い抗議活動が起こるなど、作品の枠を超えて様々な物議を醸しました。
本記事では、マイク・マイヤーズのキャリアに大きなターニングポイントをもたらしたと言われる本作のあらすじや見どころ、無駄に豪華なキャスト陣、そしてなぜここまで評価が低迷してしまったのかを徹底的に深掘りして解説していきます。
予告編
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
本作の主人公は、アメリカ生まれでありながらインドのアシュラム(修道施設)で育てられたスピリチュアル・グル(指導者)、モーリス・ピトカです。
彼は高名な導師タギンマプッダのもとで教えを受けますが、世界ナンバーワンのグルの座を兄弟子のディーパック・チョプラに奪われており、常に二番手に甘んじていることに強いコンプレックスを抱いていました。
トップの座を奪い返し、憧れのテレビ番組『オプラ・ウィンフリー・ショー』に出演することを夢見るピトカのもとに、ある日、大口の依頼が舞い込みます。
依頼主は、NHL(プロアイスホッケーリーグ)のトロント・メープルリーフスの若き女性オーナー、ジェーン・バラードでした。
彼女のチームのスター選手であるダレン・ロアノークは、妻をライバルチームのスター選手であるジャック・“ル・コック”・グランデに寝取られたショックで極度のスランプに陥り、チームも崩壊の危機に瀕していたのです。
ピトカは、ダレンの夫婦関係を修復し、メープルリーフスをスタンレー・カップ優勝へと導くことで、自身の知名度を一気に高めようと目論みます。
インド哲学と西洋のポップカルチャーを独自にミックスさせた胡散臭い教え「D.R.A.M.A.(頭文字をとった独自の理論)」を武器に、ピトカの破天荒なカウンセリングが幕を開けます。
特筆すべき見どころ
本作の最大の特徴は、マイク・マイヤーズの真骨頂とも言える「強烈なキャラクター作り」と「徹底的なおふざけ」です。
『オースティン・パワーズ』の系譜を継ぐ、キャッチーなフレーズ(「マラスカ〜!」など)や、シモネタ、ダジャレ、そして無駄にクオリティの高いミュージカルシーンが全編にわたって散りばめられています。
特に、ピトカがシタールを片手に、ドリー・パートンの「9 To 5」やスティーヴ・ミラー・バンドの「The Joker」などのヒット曲をボリウッド風にアレンジして歌うシーンは、マイヤーズの多才ぶりを示しています。
また、脇を固めるキャストの怪演も見逃せません。
中でも、ライバル選手であるジャック・“ル・コック”・グランデを演じたジャスティン・ティンバーレイクのコメディエンヌぶりは必見です。
巨大な股間のモッコリを強調したユニフォーム姿で、セリーヌ・ディオンの曲を熱唱する彼の吹っ切れた演技は、本作で数少ない「純粋に笑えるポイント」として多くの観客から評価されました。
おバカ映画でありながら、無駄に豪華なカメオ出演者(ヴァル・キルマーやカニエ・ウェストなど)が顔を出すのも、当時のハリウッド・コメディならではの贅沢な見どころです。
制作秘話・トリビア
本作の着想は、マイク・マイヤーズが父親の死後に精神的な支えを求めて東洋哲学に傾倒し、実際に著名なスピリチュアル指導者であるディーパック・チョプラと親交を持ったことから生まれました。
劇中でライバルとして名前が連呼されるディーパック・チョプラ本人は、実は本作のアドバイザー的な役割も担っており、マイヤーズのユーモアを好意的に受け入れていたと言われています。
しかし、いざ映画が公開されると、ステレオタイプなインド人のアクセントや、宗教的シンボルを茶化した下ネタの連続に対し、全米のヒンドゥー教徒コミュニティから「文化の盗用であり、侮辱的である」という激しい抗議声明が発表されました。
さらに、批評家からの容赦ない酷評も相まって、興行収入は製作費を大きく下回る結果となりました。
この大失敗により、マイク・マイヤーズは実写映画の主演から長らく遠ざかることとなり、彼のキャリアにおいて非常に手痛いダメージを残した「呪われた作品」としてハリウッドの歴史に名を刻むことになってしまったのです。
キャストとキャラクター紹介
- モーリス・ピトカ:マイク・マイヤーズ
インド育ちのアメリカ人スピリチュアル・グルです。
兄弟子への強烈な嫉妬心と、名声への強い渇望を抱えながら、独自のトンデモ理論で人々の悩みを解決しようとします。
愛嬌と胡散臭さが同居する、マイヤーズならではのアクの強いキャラクターです。 - ジェーン・バラード:ジェシカ・アルバ
トロント・メープルリーフスの若き美しきオーナーです。
亡き父からチームを引き継ぎ、優勝に向けて奮闘する真面目な性格ですが、ピトカの破天荒なペースに次第に巻き込まれ、惹かれていきます。
物語のヒロインとして、華やかな魅力を放っています。 - ジャック・“ル・コック”・グランデ:ジャスティン・ティンバーレイク
ロサンゼルス・キングスに所属する、フランス系カナダ人のスーパースター選手です。
ダレンの妻を奪った恋敵であり、セリーヌ・ディオンを狂信的に愛するエキセントリックな男です。
ティンバーレイクの持ち前の歌唱力とコメディセンスが爆発しています。 - ダレン・ロアノーク:ロマニー・マルコ
メープルリーフスのエース選手ですが、妻の浮気によりメンタルが崩壊し、手が震えてシュートが打てなくなってしまいます。
ピトカの突飛な指導に戸惑いながらも、次第に心を開き、自分自身を取り戻していく重要な役どころです。 - 導師タギンマプッダ:ベン・キングズレー
ピトカを育て上げた斜視の偉大な導師です。
下ネタばかりを口にするふざけたキャラクターですが、オスカー俳優であるキングズレーが演じることで、謎の説得力と圧倒的なギャップを生み出しています。
キャストの代表作品と経歴
- マイク・マイヤーズ
アメリカの国民的コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で人気を博し、『ウェインズ・ワールド』で映画界に進出しました。
その後、スパイ映画のパロディ『オースティン・パワーズ』シリーズが大ヒットし、ハリウッドを代表するコメディアンとなりました。
また、大ヒットアニメ映画『シュレック』シリーズで主人公シュレックの声優を務めたことでも世界的に有名です。 - ジェシカ・アルバ
ジェームズ・キャメロンが製作総指揮を務めたTVシリーズ『ダーク・エンジェル』のヒロイン役で大ブレイクを果たしました。
その後、『ファンタスティック・フォー』シリーズのインビジブル・ウーマン役や、『シン・シティ』でのセクシーなダンスシーンで、世界中のセックスシンボルとしての地位を確立しました。 - ジャスティン・ティンバーレイク
ボーイズグループ「イン・シンク」のメンバーとして一世を風靡し、ソロアーティストとしてもグラミー賞を多数受賞している世界的ポップスターです。
音楽活動と並行して俳優業も精力的にこなしており、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』や『TIME/タイム』などで確かな演技力を高く評価されています。
まとめ(社会的評価と影響)
『愛の伝道師 ラブ・グル』は、総製作費6,200万ドルというコメディ映画としては破格の予算が投じられながら、全世界の興行収入が約4,000万ドルにとどまるという歴史的な大赤字を記録しました。
大手映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では、批評家からの肯定的なレビューがわずか10%台という壊滅的な数字を叩き出しています。
「ジョークが古臭い」「下品なだけで全く笑えない」「マイヤーズの才能の枯渇」といった辛辣なコメントが殺到し、前述の通りラジー賞の常連となってしまいました。
しかし、映画というものは不思議なもので、あまりに評価が低すぎると、後年になって「どれほど酷いのか確かめてみたい」という一部の好事家たちの好奇心を刺激することがあります。
現在では、ジャスティン・ティンバーレイクの狂気じみた名演や、ベン・キングズレーの無駄遣いとも言える怪演を楽しむための「ギルティ・プレジャー(罪悪感を伴う楽しみ)」的なB級コメディとして、密かに愛聴するファンも存在します。
成功の絶頂にいた天才コメディアンが、自らの作家性に溺れて壮大にスベってしまった記録として、ハリウッド史におけるある種の「教材」のような位置付けとなっている稀有な作品です。
作品関連商品
- DVD/Blu-ray
日本国内でもパラマウント・ピクチャーズからDVDやBlu-rayがリリースされています。
未公開シーンやNG集、マイク・マイヤーズによるキャラクター解説など、本編以上に笑えるかもしれない特典映像が豊富に収録されており、コメディファンには嬉しい仕様となっています。 - サウンドトラック
ピトカが劇中で披露するボリウッド風のカバー曲や、セリーヌ・ディオンの楽曲などが収録されたサウンドトラックは、映画の評価とは裏腹に、マイク・マイヤーズの音楽的センスの高さが窺える隠れた名盤です。
