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【徹底解説】映画『ラストエンペラー』(1987)の評価とあらすじ!溥儀の数奇な運命と坂本龍一の名曲、紫禁城の映像美を総まとめ

歴史
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【徹底解説】映画『ラストエンペラー』(1987)の評価とあらすじ!溥儀の数奇な運命と坂本龍一の名曲、紫禁城の映像美を総まとめ

概要

1987年に公開された映画『ラストエンペラー』(原題: The Last Emperor)は、清朝最後の皇帝であり、後に満州国皇帝となった愛新覚羅溥儀(あいしんかくら・ふぎ)の波乱に満ちた数奇な生涯を描いた歴史スペクタクル巨編です。
メガホンを取ったのは、『暗殺の森』や『ラストタンゴ・イン・パリ』などで知られるイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチ監督です。
本作は、西側諸国の映画製作陣として初めて中華人民共和国の全面的な協力を得て、北京の故宮(紫禁城)での大規模な長期ロケを敢行した歴史的な記念碑的作品でもあります。
主演の溥儀役に抜擢されたのは、類まれな美貌と気品を持つ香港出身の俳優ジョン・ローンです。
また、溥儀の人生に大きな影響を与えるイギリス人家庭教師ジョンストン役を名優ピーター・オトゥールが演じ、さらに日本からは坂本龍一が甘粕正彦役で出演するとともに、本作の音楽も担当しました。
第60回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、撮影賞、作曲賞など、ノミネートされた9部門すべてで受賞を果たすという、映画史に残る歴史的快挙を成し遂げました。
坂本龍一、デヴィッド・バーン、コン・スーの三人によって手掛けられたエキゾチックで壮大な音楽は、今なお世界中で愛され続けています。
一人の人間が「神(皇帝)」として祭り上げられ、やがて時代に翻弄されて「ただの平民」へと変わっていくまでの凄絶なドラマは、圧倒的な映像美とともに観る者の心に深い余韻を残す、永遠のマスターピースです。

予告編

詳細(徹底解説)

あらすじと世界観:紫禁城という巨大な鳥籠

物語は1950年、ソ連の捕虜収容所から中華人民共和国へと移送される戦犯たちの乗る列車の中から始まります。
その戦犯の中には、かつて絶対的な権力を誇った清朝最後の皇帝、溥儀の姿がありました。
絶望のあまり手首を切って自殺を図った溥儀の脳裏に、自らの波乱万丈な過去がフラッシュバックしていくという構成で物語は進みます。
時は1908年、わずか3歳の溥儀は、死の床にある西太后の指名によって、中国大陸を支配する清朝の第12代皇帝として即位します。
数千人の宦官かんがんや官僚が彼に向かって平伏する即位式のシーンは、紫禁城の圧倒的なスケールを見せつける映画史に残る名場面です。
しかし、紫禁城の巨大な城壁の外ではすでに辛亥革命が起こり、清朝は滅亡していました。
溥儀は「皇帝」としての称号と生活を保障されながらも、一歩も城外へ出ることを許されない、巨大な鳥籠の中の孤独な小鳥のような存在だったのです。
本作の世界観は、この「絶対的な権力者でありながら、実は何一つ自分の意志で決めることができない究極の無力さ」という矛盾を、ベルトルッチ監督特有の官能的かつ詩的な映像美で描き出しています。

章ごとの展開:皇帝から傀儡、そして一人の市民へ

成長した溥儀は、イギリス人家庭教師ジョンストンから西洋の知識や文化を学び、外の世界への強い憧れを抱くようになります。
辮髪(べんぱつ)を切り落とし、自転車に乗って紫禁城を駆け回る青年の姿には、自由を渇望する生々しい人間性が溢れています。
しかし、軍閥のクーデターによって紫禁城から追放された溥儀は、天津での退廃的なプレイボーイ生活を経て、やがて日本軍の甘言に乗せられ、日本の傀儡かいらい国家である「満州国」の皇帝へと祭り上げられます。
再び皇帝の座に返り咲いたと錯覚する溥儀でしたが、実際の権力は関東軍の影の立役者である甘粕正彦らが握っており、彼は以前よりもさらに狭く暗い鳥籠に閉じ込められたことに気づくのです。
日本の敗戦とともに満州国は崩壊し、ソ連軍に捕らえられた彼は、ついに「戦犯」として中国共産党の撫順ぶじゅん戦犯管理所へと送られます。
映画の後半は、皇帝としてのプライドを捨てきれない溥儀が、所長による粘り強い思想教育と労働を通じて、自分の犯した罪と向き合い、やがて「一人の平凡な人間」としての自由と尊厳を獲得していくまでの魂の再生が描かれています。

特筆すべき見どころ:ヴィットリオ・ストラーロの色彩設計と音楽

本作を芸術の極みへと押し上げているのが、名カメラマンであるヴィットリオ・ストラーロによる緻密な色彩設計(カラー・シンボリズム)です。
彼は溥儀の人生の各ステージに合わせて、画面を支配するテーマカラーを変化させています。
幼少期の紫禁城は皇帝を象徴する「黄色」、外界の知識をもたらすジョンストンとの交流は「緑」、満州国時代の暗く冷たい現実は「青」、そして共産党による思想改造と革命を象徴する「赤」といった具合です。
この色彩の移り変わりを意識しながら観ることで、溥儀の内面的な変化や時代背景をより深く理解することができます。
そして、坂本龍一らが手掛けた圧倒的なサウンドトラックも忘れてはなりません。
壮大でありながらどこか深い悲しみを帯びたメインテーマは、歴史の波に飲み込まれていく溥儀の孤独を見事に音響化しており、映像と音楽が完璧な次元で融合しています。
特に、ラストシーンで年老いた溥儀がかつての自分の家である紫禁城を「いち観光客として」訪れ、玉座に隠していたコオロギの壺を見つける場面の情感は、映画芸術の到達点とも言える素晴らしい余韻を残します。

制作秘話・トリビア:前代未聞の紫禁城ロケと坂本龍一の抜擢

本作の制作エピソードは、まさに桁外れです。
中国政府の全面協力を得たベルトルッチ監督は、本来であれば国賓しか立ち入れないような紫禁城の太和殿たいわでんなどの内部で、実際にカメラを回す許可を得ました。
即位式のシーンでは、中国人民解放軍の兵士をはじめとする約1万9千人ものエキストラが動員され、全員の頭を実際に剃り上げさせるという徹底したリアリズムが追求されました。
また、音楽と甘粕正彦役を務めた坂本龍一の起用についてのトリビアも非常に有名です。
当初、坂本は俳優としてのみオファーされていましたが、撮影現場でベルトルッチ監督から突然「満州国建国を祝うパーティのシーンの音楽を今すぐ書いてくれ」と無茶振りをされました。
さらに撮影終了後、プロデューサーから正式に映画全体の映画音楽を依頼され、たった2週間という驚異的な短期間で、アカデミー賞を受賞することになるあの歴史的名曲を書き上げたのです。
また、溥儀役のジョン・ローンは、その気高さと悲哀に満ちた熱演で絶賛されましたが、実は彼自身も孤児院で育ち、京劇の厳しい訓練を受けてハリウッドへ渡ったという、溥儀に勝るとも劣らない数奇な人生を歩んだ人物でした。

キャストとキャラクター紹介

愛新覚羅溥儀(プーイー):ジョン・ローン

  • 清朝第12代皇帝にして、後の満州国皇帝。
    絶対的な権力者として育てられながらも、時代の激流に翻弄され続け、生涯を通じて「本当の自由」を探し求めます。
    ジョン・ローンが持つミステリアスな色気と、高貴さを失わない絶妙な演技は、誰もが惹きつけられる圧倒的な魅力に満ちています。

婉容(ワンロン):ジョアン・チェン

  • 溥儀の正妻(皇后)。
    西洋の教育を受けた知的で美しいモダンガールでしたが、満州国時代に関東軍の監視下に置かれたことで精神を病み、アヘン中毒へと溺れていく悲劇の女性です。
    美しく咲き誇る花が枯れていくような、彼女の壮絶な崩壊の演技は胸に迫ります。

レジナルド・ジョンストン:ピーター・オトゥール

  • スコットランド出身の、溥儀の家庭教師。
    幼い溥儀にオックスフォード大学仕込みの教養や西洋の価値観を教え込み、紫禁城という閉ざされた世界に風穴を開ける父親代わりのような存在です。
    『アラビアのロレンス』の名優が、英国紳士の気品と温かさを完璧に体現しています。

甘粕正彦:坂本龍一

  • 満州国を実質的に支配する、日本陸軍の元大尉であり関東軍の暗躍者。
    隻眼(映画オリジナルの設定)で冷徹な表情を崩さず、溥儀を日本の都合の良い操り人形としてコントロールします。
    坂本龍一の放つ異端のオーラと冷酷な存在感は、俳優陣の中でも一際異彩を放っています。

文繡(ウェンシウ):ヴィヴィアン・ウー

  • 溥儀の第2皇妃(淑妃)。
    紫禁城での因習に縛られた生活や、婉容との三角関係に苦しみ、やがて中国史上初めて皇帝に対して「離婚」を突きつけて自由を求めて自立していく、進歩的で強い意志を持った女性です。

戦犯管理所の所長:イン・ルオチェン

  • ソ連から引き渡された溥儀たちを収容する、撫順戦犯管理所の所長。
    厳格な共産主義者でありながらも、深い人間愛を持って溥儀の思想改造と人間性の回復に根気強く向き合う、物語の重要なキーパーソンです。

キャストの代表作品と経歴

主人公を演じたジョン・ローンは、本作での大成功によって世界的スターの座を掴み、その後も『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』や『エム・バタフライ』などで、その唯一無二の中性的な美貌と演技力を発揮しました。
婉容役のジョアン・チェンは、中国で天才美少女としてデビューした後に渡米し、本作で国際的な名声を得た後、デヴィッド・リンチ監督の伝説的ドラマ『ツイン・ピークス』のジョシィ役でも広く知られるようになりました。
ジョンストン役のピーター・オトゥールは、言わずと知れた『アラビアのロレンス』の主演俳優であり、その長いキャリアにおいてアカデミー賞に8度ノミネートされたイギリス演劇界の至宝です。
そして坂本龍一は、「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」で世界的なテクノポップブームを巻き起こした音楽家であり、映画音楽の世界でも本作のアカデミー賞受賞を皮切りに、『シェルタリング・スカイ』や『レヴェナント:蘇えりし者』など、数々の名作を彩る世界的な巨匠となりました。

まとめ(社会的評価と影響)

映画『ラストエンペラー』は、公開されるやいなや世界中で社会現象となるほどの大ヒットを記録し、第60回アカデミー賞ではノミネートされた9部門(作品、監督、脚色、撮影、編集、美術、衣装デザイン、録音、オリジナル作曲)を完全制覇するという伝説を作りました。
ハリウッド資本ではなく、イタリア・イギリス・中国の合作による独立系映画がこれほどの成功を収めたことは、映画業界に巨大な衝撃を与えました。
歴史の教科書に記された「清朝最後の皇帝」「日本の傀儡」というステレオタイプなイメージを打ち破り、一人の孤独な人間が自己のアイデンティティを喪失し、そして再び取り戻すまでの普遍的なヒューマンドラマとして描き切ったベルトルッチ監督の手腕は、まさに圧倒的です。
また、この作品をきっかけに、世界中で中国の歴史や文化への関心が大きく高まりました。
東西の文化が激しく交錯し、個人の運命が国家の思惑によって飲み込まれていくスケールの大きさは、今の時代に観ても全く色褪せることのない、映画芸術の最高到達点の一つです。
一生に一度は必ず大画面と高音質の環境で体験すべき、至高の歴史スペクタクルです。

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    ヴィットリオ・ストラーロの計算し尽くされた色彩設計(黄色、赤、青のコントラスト)や、紫禁城の精緻な装飾を完璧に味わうためには、最新の技術で修復された4Kマスター版での鑑賞が絶対におすすめです。
    また、約3時間半に及ぶディレクターズ・カット版もソフト化されており、より深いドラマを堪能できます。
  • オリジナル・サウンドトラック:坂本龍一、デヴィッド・バーン、コン・スー作曲。
    東洋のエキゾチシズムと西洋のオーケストレーションが奇跡的な融合を果たした本作のサントラは、映画音楽史上に残る名盤として世界中の人々に愛聴されています。
  • 原作本:愛新覚羅溥儀著『わが半生』。
    溥儀本人が戦犯管理所での収容時代に執筆した自伝であり、映画の直接的な原作となった貴重な第一級の歴史資料です。
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