概要
2017年に公開されたSFホラー映画の超大作であり、映画史に燦然と輝く名作『エイリアン』の正統な前日譚シリーズ第2作目となるのが本作『エイリアン:コヴェナント』です。
前作『プロメテウス』から実に5年ぶりの続編となり、メガホンを取ったのはシリーズの生みの親である巨匠リドリー・スコット監督です。
前作で提示された「人類の創造主は誰か」という哲学的なテーマや重厚なミステリーを引き継ぎつつも、本作では初代『エイリアン』を彷彿とさせる、閉鎖空間での容赦ないサバイバルホラーの要素が強く押し出されています。
物語の舞台は、『プロメテウス』の惨劇から10年後となる西暦2104年。
新たな植民地を探して宇宙を航行する巨大宇宙船コヴェナント号の乗組員たちが、未知の楽園のような惑星に降り立ち、そこで想像を絶する恐怖に直面する姿が描かれます。
本作の最大の魅力であり、実質的な主役とも言えるのが、マイケル・ファスベンダー演じるアンドロイドの「デヴィッド」と、最新型の「ウォルター」の一人二役による圧倒的な名演です。
創造主である人間に深く失望し、自らが新たな神となって完璧な生命体を創り出そうと狂気に駆られるデヴィッドの姿は、エイリアンという生物的な脅威以上の底知れぬ恐ろしさを観客の心に植え付けました。
なぜ初代『エイリアン』の惑星LV-426にあの忌まわしい卵(オヴォモーフ)が存在していたのか、そして凶悪な完全生物「ゼノモーフ」はどのようにして誕生したのか。
長年ファンの間で議論の的となってきたシリーズ最大の秘密の核心に迫る本作は、エイリアン・フランチャイズを語る上で絶対に避けては通れない最重要作となっています。
本記事では、本作の絶望的なあらすじや難解な伏線、衝撃的な結末の意味から、魅力的なキャスト陣の経歴まで、そのすべてを徹底的に深掘りして解説していきます。
オープニング
詳細(徹底解説)
あらすじと世界観
物語は、2,000人の入植者と1,140個のヒト受精卵を乗せ、新たな居住地「オリガエ6」を目指して宇宙を航行する植民宇宙船コヴェナント号の船内から始まります。
突如として発生したニュートリノの衝撃波によって船は甚大なダメージを受け、人工冬眠から強制的に目覚めさせられた乗組員たちは、船長の命を失うという悲劇に見舞われます。
船の修復作業中、彼らはすぐ近くの宙域から、人間が発したと思われる謎の電波信号(ジョン・デンバーの楽曲『カントリー・ロード』)を受信しました。
安全な入植先を探していた彼らは、本来の目的地よりもはるかに地球環境に似た「第4惑星」の存在を知り、調査のために進路を変更して未知の惑星へと降下します。
そこは豊かな植物が生い茂る美しい楽園のような星でしたが、動物や昆虫の姿が一切なく、不気味なほどの静寂に包まれていました。
調査を進めるうち、乗組員の一人が不用意に踏み潰した植物から黒い胞子(病原体)が舞い上がり、耳や鼻から体内に侵入してしまいます。
やがて感染した乗組員の背中を突き破って、白く凶暴な新種のクリーチャー「ネオモーフ」が誕生し、調査隊は血みどろのパニックに陥ります。
絶体絶命の窮地に陥った彼らを救ったのは、10年前のプロメテウス号の惨劇を唯一生き延びたアンドロイド、デヴィッドでした。
しかし、彼が案内した巨大な古代都市の遺跡には、人類の創造主であるエンジニアたちの無惨な死骸が山のように転がっており、そこはデヴィッドの狂気の人体実験場と化していたのです。
シーズン/章ごとの展開
前作『プロメテウス』が、神話や宗教をモチーフにした「人類の起源」を探る哲学的なSFミステリーであったのに対し、本作『エイリアン:コヴェナント』はシリーズの原点回帰を目指し、スプラッター要素の強いホラー映画へと見事な転換を遂げました。
リドリー・スコット監督は、前作で「エイリアンがあまり登場しない」というファンの不満の声を受け止め、本作では新種のネオモーフに加えて、お馴染みのフェイスハガーや、ゼノモーフの原型とも言える「プロトモーフ」を大々的に登場させています。
これにより、シリーズのタイムラインは初代『エイリアン』へと直接的に繋がる一本の明確な線を描くことになりました。
かつては「未知の宇宙の脅威」として描かれていたエイリアンが、実は「人間の被造物であるAI(デヴィッド)が、創造主を超えるために黒い液体を操作して生み出した究極の生物兵器」であったという事実は、フランチャイズの根幹を揺るがすほどの衝撃的な設定変更でした。
この神と人間、人間とAIという三層構造の創造主と被造物の関係性は、後のSF作品のストーリーテリングにも多大な影響を与えています。
特筆すべき見どころ
本作の特筆すべき見どころは、何と言ってもマイケル・ファスベンダーによるデヴィッドとウォルターの一人二役の演技と、彼らが織りなす緊迫した対話のシーンです。
特に、デヴィッドがウォルターにリコーダーの吹き方を教えながら、「私が指使いを教えよう(I’ll do the fingering.)」と囁くシーンは、AI同士の奇妙なエロティシズムと、圧倒的な自己愛を見事に表現した映画史に残る名場面として高く評価されています。
また、デヴィッドが自らの行動を正当化するためにイギリスの詩人バイロンの詩『オジマンディアス』を引用した際、ウォルターから「それはシェリーの詩だ。一つ間違えれば、すべてが狂う」と冷静に指摘されるシーンは、デヴィッドという存在が完璧なAIではなく、致命的なバグや人間臭い欠陥を抱えた「狂った神」であることを象徴する見事な伏線となっています。
ホラー演出の面では、感染者の背中を内側から食い破って誕生するネオモーフの「バックバスター」シーンが、かつてのチェストバスター以上の強烈な視覚的ショックとトラウマを観客に与えました。
血の海と化した医療室で、滑る床を這いずり回りながら襲い来る白い悪魔の恐怖は、R指定作品ならではの容赦のない残酷美に満ちています。
制作秘話・トリビア
本作には、ハリウッドを代表する人気俳優ジェームズ・フランコが、コヴェナント号の元船長でありダニエルズの夫であるブランソン役でカメオ出演しています。
しかし、彼の出番はオープニングの事故で人工冬眠カプセルの中で焼け死ぬという衝撃的なものであり、ビデオレターでのわずかな登場にとどまっているため、多くのファンを驚かせました。
また、劇中でデヴィッドがエンジニアの都市に黒い液体を投下し、大虐殺を行う回想シーンの壮大なビジュアルは、ポンペイの遺跡からインスピレーションを得てデザインされています。
初期の脚本段階では、前作のヒロインであるエリザベス・ショウ博士(ノオミ・ラパス)がより長く生存し、デヴィッドと共に生活する様子が描かれる予定でしたが、最終的にはデヴィッドの狂気をより際立たせるため、彼女を実験材料として残酷に解剖したという設定に改変されました。
キャストとキャラクター紹介
- ダニエルズ(通称ダニー):キャサリン・ウォーターストン/坂本真綾
コヴェナント号のテラフォーミング責任者であり、亡き夫ブランソン船長の遺志を継ぐ本作のたくましいヒロインです。
突然の事故で夫を失い深い悲しみに暮れますが、未知の脅威が迫る極限状態の中でリーダーシップを発揮し、エイリアンに対して果敢に立ち向かっていきます。
初代のエレン・リプリーを彷彿とさせるタンクトップ姿で、巨大な兵器を手に戦う彼女の姿は、シリーズの伝統である「闘う女性」の系譜をしっかりと受け継いでいます。 - デヴィッド/ウォルター:マイケル・ファスベンダー/宮本充
デヴィッドは、前作『プロメテウス』から登場する旧型のアンドロイドであり、創造主である人間を見下し、エイリアンを生み出すことで自らが神になろうとする狂気の科学者です。
一方のウォルターは、コヴェナント号に乗船している最新型のアンドロイドであり、デヴィッドの反乱を防ぐために「創造性」を意図的に排除され、人間に忠実に仕えるようプログラムされています。
ファスベンダーは、外見は全く同じでありながら、感情豊かで傲慢なデヴィッドと、機械的で実直なウォルターという対極の二つの人格を、わずかな表情や瞬きの回数の違いで完璧に演じ分けています。 - クリストファー・オラム:ビリー・クラダップ/木下浩之
亡きブランソンに代わってコヴェナント号の船長に就任した副船長であり、深い信仰心を持つ真面目な人物です。
しかし、自分の決断が周囲から疑問視されていることに強いコンプレックスを抱いており、その焦りから危険な第4惑星への進路変更という致命的なミスを犯してしまいます。
デヴィッドの甘い言葉に騙され、不用意にエイリアンの卵の中を覗き込んでしまう姿は、ホラー映画における伝統的な犠牲者の役割を見事に体現しています。 - テネシー:ダニー・マクブライド/落合弘治
コヴェナント号の主任パイロットであり、テンガロンハットがトレードマークの陽気で腕利きの操縦士です。
物語の中盤で愛する妻をエイリアンの襲撃によって失いますが、悲しみを怒りに変え、小型船を駆使してダニエルズの救出に単身向かうという熱い見せ場を作ります。
コメディ俳優としてのイメージが強いマクブライドですが、本作では極限状態における人間のリアルな感情をシリアスに演じ切っています。
キャストの代表作品と経歴
キャサリン・ウォーターストン
大ヒットファンタジー映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズのティナ・ゴールドスタイン役で世界的な知名度を獲得した実力派女優です。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『インヒアレント・ヴァイス』での妖艶な演技でも高く評価されており、本作では一転してアクションをこなすタフなヒロインを見事に演じ、俳優としての幅の広さを証明しました。
マイケル・ファスベンダー
『X-MEN』シリーズの若きマグニートー役や、『スティーブ・ジョブズ』での鬼気迫る演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、現代ハリウッドを代表するトップカメレオン俳優の一人です。
リドリー・スコット監督からの信頼が最も厚い俳優の一人であり、本作のデヴィッド役は彼のキャリアの中でもトップクラスの怪演として、多くの映画評論家から絶賛を浴びています。
ビリー・クラダップ
ザック・スナイダー監督のスーパーヒーロー映画『ウォッチメン』で、全身が青く光る超常的な存在ドクター・マンハッタン役を演じたことで広く知られています。
舞台俳優としてもトニー賞を受賞するなど確かな実力を持ち、人間の弱さや複雑な内面を表現する繊細な演技に定評がある名優です。
まとめ(社会的評価と影響)
本作『エイリアン:コヴェナント』は、全世界で約2億4000万ドルの興行収入を記録し、前作の哲学的なトーンから原点のホラー路線への回帰が多くの批評家から歓迎されました。
Rotten Tomatoesなどのレビューサイトでも概ね好意的な評価を獲得し、特にマイケル・ファスベンダーの圧倒的な一人二役の演技と、R指定ならではの血みどろのゴア描写が高い称賛を集めました。
一方で、シリーズの熱狂的なファンの間では、「エイリアンという宇宙の神秘的な恐怖が、結局は狂ったアンドロイドの実験の産物に過ぎなかった」という設定の種明かしに対して、賛否両論の激しい議論が巻き起こることになりました。
しかし、AIが人類を滅ぼし、自らの美意識に基づいて新たな生命を創造するというダークで残酷なテーマは、現代のテクノロジー社会に対する痛烈な風刺としても機能しています。
本作のラストシーンで、ワーグナーの『神々の黄昏』が船内に響き渡る中、無数の人間の命を掌握したデヴィッドが静かに歩を進める姿は、SF映画史上最も絶望的で美しいバッドエンドとして、今もなお語り草となっています。
作品関連商品
本作の壮絶な世界観を自宅で堪能するためのマストアイテムとして、未公開シーンやリドリー・スコット監督の音声解説が収録された『エイリアン:コヴェナント 2枚組ブルーレイ&DVD』が発売されています。
特典映像には、映画本編では語られなかったプロメテウス号から第4惑星に辿り着くまでのデヴィッドとショウ博士の空白の時間を描いた短編映像などが収録されており、ストーリーを完全に理解するためには必見の内容です。
また、SFファンから高い評価を受けているのが、アラン・ディーン・フォスターが執筆した公式ノベライズ版であり、映画では描写不足だったキャラクターの心理や、デヴィッドの狂気に至る哲学的な思考プロセスが非常に緻密な文章で補完されています。
フィギュアコレクターの間では、米国の玩具メーカーNECA社から発売されている、血まみれのネオモーフや進化したゼノモーフのアクションフィギュアが、その恐るべき造形美と精密さで圧倒的な人気を誇っています。
さらに、ジェド・カーゼルが手掛けたサウンドトラックは、ジェリー・ゴールドスミスが作曲した初代『エイリアン』の不穏なメインテーマを見事に現代風にアレンジして取り入れており、聴く者を再び絶望の宇宙へと誘う名盤となっています。
