映画『羊たちの沈黙』で、ジョディ・フォスターが演じたFBI訓練生クラリス・スターリング。
あの“バッファロー・ビル事件”のあと、彼女はどう生きたのでしょうか。
その答えを描いたのが、2021年に米CBSで放送されたドラマ『クラリス』(原題:Clarice)です。
ところがこの作品、なぜか「レクター博士」の名前が一度も出てきません。
さらに、配信サービスへの移籍がほぼ決まりかけていたのに、全13話で幕を閉じています。
この記事では、英語圏のインタビューや業界紙の報道をもとに、作品の魅力から制作の裏側、打ち切りの真相までくわしく解説します。
- 『クラリス』のあらすじと、『羊たちの沈黙』とのつながり
- レクター博士の名前を出せない「権利」の事情
- シーズン2が実現しなかった本当の理由
- Rotten Tomatoes・IMDbなど海外の評価と、結末の考察(ネタバレ欄あり)
ドラマ『クラリス』の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | Clarice |
| 邦題 | クラリス |
| 制作国 | アメリカ |
| 放送年 | 2021年(米CBS:2021年2月11日〜6月24日) |
| ジャンル | クライム・サスペンス、サイコホラー、捜査ドラマ |
| 企画・製作総指揮 | アレックス・カーツマン、ジェニー・ルメット |
| 第1話監督 | マヤ・ヴルヴィロ |
| 原作 | トマス・ハリス『羊たちの沈黙』 |
| 音楽 | ジェフ・ルッソ |
| 制作会社 | CBSスタジオ、MGMテレビジョン、シークレット・ハイドアウト |
| シーズン数・話数 | 全1シーズン・13話(1話約43分) |
| 撮影地 | カナダ・トロント |
| 日本での視聴方法 | 日本初放送はWOWOW(2022年1月)。現在はAmazonプライム・ビデオで配信(2026年11月時点。見放題かレンタルかは配信ページでご確認ください) |
作品の概要
『クラリス』は、1991年の映画『羊たちの沈黙』から1年後の1993年を舞台に、FBI捜査官クラリス・スターリングの「その後」を描いたドラマです。
映画と2001年の続編『ハンニバル』のあいだを埋める物語で、いわば“空白の時間”に光を当てた作品になっています。
企画したのは、『トランスフォーマー』シリーズや『スター・トレック』シリーズで知られるアレックス・カーツマン(Alex Kurtzman)と、脚本家ジェニー・ルメット(Jenny Lumet)の二人です。
2020年1月にCBSスタジオがこの二人を起用し、続編シリーズの開発が始まりました。
同年2月には主演にオーストラリア出身のレベッカ・ブリーズが決まり、5月に正式なシリーズ化が発表されています。
開発の時期は、ちょうど新型コロナウイルスの流行と重なりました。
CBSが発注した14本のパイロット(試作回)の1本でしたが、撮影が止まったため、試作を飛ばして一気にシリーズ化が決まったという経緯があります。
カーツマンによると、二人はもともと配信向けのドラマとして構想していたそうです。
しかしCBSが「うちの地上波で放送してほしい。そのかわり作りたいものを作ってかまわない」と強く求め、配信ドラマのような作り方で地上波に乗せることになりました。
放送中も、CBSから「よくある刑事ドラマに寄せてほしい」という注文は一度もなかったと語っています。
作品のテーマは、男性中心のFBIで自分の声を取り戻そうとする女性の物語と、心の傷(トラウマ)との向き合い方です。
ルメットは、映画のクラリスが自分のヒーローになった瞬間を覚えていると語り、「闇の底へ降りていき、人間らしさを見つけて戻ってくる」彼女の姿に強くひかれたといいます。
映画『羊たちの沈黙』のファンはもちろん、『クリミナル・マインド』のようなプロファイリング系の捜査ドラマが好きな方、重いテーマの人間ドラマを見たい方におすすめです。
ただし、暴力描写や心理的に重い場面が多いので、苦手な方は注意してください。
予告編・オープニング映像
あらすじと世界観(ネタバレなし)
物語の出発点
1993年、ワシントンD.C.。
バッファロー・ビルを倒し、上院議員の娘キャサリン・マーティンを救ったクラリスは、一躍「時の人」になっていました。
しかし本人は事件のトラウマを抱え、FBIの地下の部屋でデータ分析をしながら、義務づけられたカウンセリングを受ける日々を送っています。
そんな彼女を呼び出したのが、新しく司法長官になったルース・マーティンでした。
キャサリンの母親でもあるルースは、川で女性2人の遺体が見つかった事件を連続殺人とにらみ、クラリスを特別捜査チームに加えます。
舞台となる「ViCAP」とは
クラリスが配属されるのは、ViCAP(バイキャップ:凶悪犯罪逮捕プログラム)の機動チームです。
州の管轄に縛られず、司法長官の指示があればどこへでも派遣されるのが特徴だと、レベッカ・ブリーズは説明しています。
チームを率いるのは、クラリスを「カメラ向けのお飾り」と見下すポール・クレンドラーです。
ちなみに、実在のViCAPはFBIが1985年に設立した組織で、劇中のように1990年代に新設されたわけではありません。
史実を少しアレンジした設定だと知っておくと、より楽しめます。
シーズン1の流れと評価の変化
序盤は「リバー・マーダーズ(川の連続殺人)」と呼ばれる事件を軸に、クラリスが少しずつチームの信頼を勝ち取っていく展開です。
事件は単なる猟奇殺人ではなく、もっと大きな陰謀へとつながっていきます。
カーツマンは、シーズン1の犯人像を「より広がりがあり、複雑で、時代性のある連続殺人犯」と表現していました。
並行して、クラリスの子ども時代の記憶や、警察官だった父親の死をめぐる家族の秘密も描かれます。
救出されたキャサリンとの関係、FBI内の人種差別や性差別も重要な柱です。
放送開始時はおよそ400万人が視聴しましたが、回を追うごとに数字は下がり、最終回は約199万人でした。
一方で、後半にかけて物語の密度が上がったと評価する海外レビューもあります。
見どころ
見どころ1:レベッカ・ブリーズの“ウェストバージニア訛り”
ジョディ・フォスターの演技は、アカデミー主演女優賞を受けた伝説的なものです。
そのあとを継いだレベッカ・ブリーズは、クラリスのアパラチア地方の訛りを丁寧に再現しました。
本人は「訛りを見つけたとき、クラリスを見つけた」と語っています。
物まねではないのに、映画のクラリスと地続きに感じられる。
この絶妙なバランスは、辛口の批評家からも高く評価された部分です。
見どころ2:トラウマを正面から描く心理描写
本作は、事件を解決したヒロインの「その後」を、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の問題として真剣に描いています。
悪夢や幻覚、フラッシュバックの演出は、ホラー作品のような不気味さです。
ブリーズは「トラウマのためのトラウマではなく、女性を痛めつけるだけの仕掛けにもしていない」と語っています。
見どころ3:映画ファンにはうれしい“あの人たち”の再登場
キャサリン・マーティン、母親のルース・マーティン、親友のアーディリア・マップ、そして原作で重要な役を担うポール・クレンドラー。
映画や原作でおなじみの人物たちが、新しい俳優で再登場します。
特に第6話の、クラリス・キャサリン・ルースの3人による緊迫した夕食の場面は、映画ファンなら見逃せません。
見どころ4:1990年代の空気と不穏な音楽
舞台は1993年。
ポケベルや紙の資料が飛び交う捜査は、スマホ時代の刑事ドラマとはひと味違います。
音楽は『FARGO/ファーゴ』や『スター・トレック:ディスカバリー』で知られるジェフ・ルッソが担当しました。
予告編では、ジョン・デンバーの名曲「カントリー・ロード」の不気味なアレンジが使われ、クラリスの故郷ウェストバージニアを思わせる演出になっています。
制作秘話・トリビア
「ハンニバル・レクター」の名前は言ってはいけない
本作最大のトリビアは、ハンニバル・レクターが登場しないどころか、名前すら出せないことです。
トマス・ハリスの小説の登場人物は、映像化の権利がMGMと「ディノ・デ・ラウレンティス・カンパニー」に分かれています。
レクター博士の権利は、1986年の映画『刑事グラハム/凍りついた欲望』(原作『レッド・ドラゴン』)を手がけたデ・ラウレンティス側が持っています。
一方、『羊たちの沈黙』で初めて登場したクラリスやクレンドラー、バッファロー・ビルなどはMGM側です。
そのため劇中では、レクター博士を「前のセラピスト」と遠回しに呼ぶなどの工夫がされています。
逆に、NBCのドラマ『ハンニバル』(マッツ・ミケルセン主演)にクラリスが登場しなかったのも、同じ理由です。
カーツマンは「権利の分け方はいまだによくわからない」と苦笑しつつ、「ハンニバルはすでに見事に描かれてきたので、新鮮味を感じなかった。かえって自由になれた」と語っています。
原作者トマス・ハリスと語った「クラリスの瞳の光」
ジェニー・ルメットは制作にあたって原作者のトマス・ハリスに連絡を取り、「クラリスの瞳の中の光」について話し合ったそうです。
ルメットは「ハンニバルは3人の名優と少なくとも3人の名監督によって命を吹き込まれたが、クラリスはまだそこまで掘り下げられていない」とも語っています。
ジェニー・ルメットとジョナサン・デミの縁
ジェニー・ルメットは、映画『レイチェルの結婚』(2008年)の脚本家です。
この作品を監督したのは、『羊たちの沈黙』を撮ったジョナサン・デミでした。
つまり本作は、デミ監督と組んだ脚本家が、デミ監督の代表作の続きを書いた作品でもあるのです。
ブリーズは映画を「一度だけ」見て封印した
ブリーズは、フォスターやジュリアン・ムーア(映画『ハンニバル』でクラリスを演じた)の演技が頭に残りすぎないよう、映画は一度だけ見て脇に置き、原作小説の読み込みに時間を使ったそうです。
訛りについても、クラリスはウェストバージニアで育ち、10歳でモンタナに移ったという原作の設定から、強さの加減を考えたといいます。
米インタビュー誌では「クラリスには一つの“歌”がある。メロディーは同じでも、演じる人の楽器によって響きが変わる」という印象的なたとえも語っていました。
カル・ペンの役名は最初、別の名前だった
キャスト発表当初、カル・ペンの役名は「エミン・グリゴリャン」と報じられていました。
しかし放送版では「シャーン・トリパシ」という名前になっています。
また、ブリーズとカル・ペンは2013年のCBSのコメディ『We Are Men』でも共演しており、本作は再共演でもありました。
コロナ禍のトロントで撮影
撮影は2020年9月21日にカナダのトロントで始まり、2021年3月23日に終わりました。
放送開始が2月なので、放送しながら撮影を続けていたことになります。
シーズン2が消えた「大人の事情」
視聴率が低迷した本作は、2021年5月、CBSの姉妹配信サービス「パラマウント+」へ移籍してシーズン2を作る方向で交渉が進みました。
同じくCBSから移籍した『EVIL』や『SEAL Team』と同じ流れです。
ところが、共同制作のMGMとの交渉がまとまりませんでした。
米業界紙デッドラインの報道によると、1話あたりのライセンス料はCBSでの約120万〜130万ドルから、パラマウント+では約380万ドルに跳ね上がる計算でした。
さらに、パラマウント+側は10話を提案し、MGM側はシーズンあたり最低15話を求めたといいます。
MGM傘下の有料チャンネル「Epix」での二次放送をめぐる対立もありました。
この交渉のさなか、2021年5月17日にAmazonによるMGM買収の話が表に出ます。
ただしデッドラインは、買収そのものが決裂の直接の原因とは考えられていないと伝えています。
CBSの翌シーズンの編成もすでに埋まっていたため、本作は事実上の打ち切りとなりました。
業界のベテランが「見たことがないほど異常な状況」と評したほど、こじれた結末だったのです。
キャストとキャラクター紹介
クラリス・スターリング(演:レベッカ・ブリーズ/吹替:瀧本美織)
バッファロー・ビル事件を解決し、全米の注目を集めたFBI捜査官です。
強さと、もろさと、賢さをあわせ持ち、心の傷を抱えながらも真実を追い続けます。
礼儀正しく、上下関係を重んじる「ウェストバージニアの娘」でありながら、正しいと思えば上司にも逆らう芯の強さが魅力です。
日本語吹替は女優の瀧本美織さんで、本作が海外ドラマ吹替への初挑戦でした。
トマス・エスキヴェル(演:ルッカ・デ・オリヴェイラ/吹替:浅沼晋太郎)
ダートマス大学に予備役将校訓練課程の奨学金で進み、湾岸戦争「砂漠の嵐作戦」で狙撃手を務めた元軍人です。
FBIの古い体質を変えるべきだと考えており、チームの中では早い段階でクラリスの味方になります。
冷静さと行動力をあわせ持ち、終盤では強引な手段も辞さない一面を見せます。
ポール・クレンドラー(演:マイケル・カドリッツ)
ViCAP機動チームのリーダーで、司法省の腕利きの捜査官です。
当初はクラリスを「カメラ向けのお飾り」と言い放ち、政治的な計算を優先する人物として描かれます。
原作ではクラリスの宿敵として知られるキャラクターですが、本作では少しずつ違う顔を見せていくのが見どころです。
シャーン・トリパシ(演:カル・ペン)
図書館学の博士号を持つ捜査官で、ViCAPの膨大なデータベースとチームをつなぐ「生き字引」のような存在です。
クラリスの行動科学とは違う角度から事件に迫ります。
ユーモアのある語り口で、重いドラマの中のほっとする存在でもあります。
マレー・クラーク(演:ニック・サンドウ)
警察一家に育った叩き上げの捜査官で、クレンドラーからはチームの「うそ発見器」と呼ばれています。
昔ながらの捜査手法を信じていて、クラリスの行動分析には懐疑的です。
クラリスに一番きつく当たる人物ですが、現場では頼れる仲間でもあります。
アーディリア・マップ(演:デヴィン・A・タイラー)
FBIアカデミー時代からのクラリスの親友でルームメイトです。
映画ではカシ・レモンズが演じた役で、本作では司法省で連邦検事補として働いています。
クラリスを支える一方、自分自身も職場での差別と闘う姿が描かれます。
キャサリン・マーティン(演:マーニー・カーペンター)
映画でバッファロー・ビルに拉致され、クラリスに救出された女性です。
事件から1年たっても心の傷が癒えず、家から出られない状態が続いています。
クラリスとは「同じ傷を持つ者」として、複雑な関係を築いていきます。
ルース・マーティン(演:ジェーン・アトキンソン)
映画では上院議員だったキャサリンの母親で、本作では合衆国司法長官に就任しています。
「どの家族にも自分たちと同じ苦しみを味わわせたくない」という思いから、クラリスを現場に呼び戻しました。
政治家としての顔と、娘を案じる母親としての顔のあいだで揺れ動く人物です。
主要キャスト・スタッフの経歴と代表作
レベッカ・ブリーズ(Rebecca Breeds)
1987年、オーストラリア・シドニー生まれの女優です。
オーストラリアの長寿ドラマ『ホーム・アンド・アウェイ』のルビー役で知られ、渡米後は『オリジナルズ』のオーロラ役、『プリティ・リトル・ライアーズ』のニコル役などで活躍しました。
本作は彼女にとって初めての主演級の大役で、ジョディ・フォスター、ジュリアン・ムーアに続く3人目のクラリス役になります。
米バラエティ誌の批評家は、彼女の演技がこの作品を大きく支えていると評価しました。
マイケル・カドリッツ(Michael Cudlitz)
『バンド・オブ・ブラザース』や『サウスランド』、そして『ウォーキング・デッド』のエイブラハム役で知られるアメリカの俳優です。
屈強な男性像を得意とし、本作でも威圧的な上司を存在感たっぷりに演じています。
テレビ批評家のマット・ラウシュは、彼を「いつでも歓迎したい俳優」と評しました。
カル・ペン(Kal Penn)
映画『ハロルド&クマール』シリーズのクマール役や、『Dr.HOUSE』のカトナー役、『サバイバー:宿命の大統領』などで知られる俳優です。
俳優業を一時休止し、オバマ政権のホワイトハウスで働いた異色の経歴の持ち主でもあります。
本作では、知的でユーモアのある分析担当を軽やかに演じています。
デヴィン・A・タイラー(Devyn A. Tyler)
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『グレート・ディベーター 栄光の教室』などの映画のほか、ドラマ版『パージ』『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』『ウォッチメン』に出演してきた女優です。
本作では、親友を支えながら自分の闘いも抱えるアーディリアを力強く演じています。
ニック・サンドウ(Nick Sandow)
『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の刑務所長ジョー・カプート役で知られる俳優です。
『サード・ウォッチ』などでも活躍してきたベテランで、本作では頑固な古参捜査官を味わい深く演じています。
アレックス・カーツマン&ジェニー・ルメット(企画・製作総指揮)
アレックス・カーツマンは、映画『トランスフォーマー』『スター・トレック』の脚本や、ドラマ版『スター・トレック』シリーズの統括で知られるヒットメーカーです。
制作会社シークレット・ハイドアウトを率いています。
ジェニー・ルメットは、名匠シドニー・ルメット監督の娘で、映画『レイチェルの結婚』で脚本家として高く評価されました。
『スター・トレック:ディスカバリー』ではショーランナー(制作現場の責任者)の一人も務めています。
二人は本作のほか、ドラマ『地球に落ちてきた男』でもコンビを組んでいます。
結末と考察(ネタバレあり)
⚠️ここから先はネタバレを含みます
リバー・マーダーズの真相
川で見つかった女性たちの殺人は、猟奇殺人に見せかけた口封じでした。
被害者たちは、製薬会社アラスター・ファーマシューティカルズの新薬「リプリゾル」の臨床試験に参加し、生まれた子どもに先天的な障害が出ていた女性たちです。
会社の顧問弁護士ジョー・ハドリンが殺し屋を雇い、告発しようとする人を次々に消していたことが明らかになります。
最終回「Family Is Freedom」
第12話で、クラリスは怒りに任せて同僚を殴り、自らバッジと銃を返上します。
最終回では、アラスターのCEOニルス・ハーゲンの息子タイソン・コンウェイが、海外から女性たちを連れてきて父親に差し出していたことが判明します。
クラリス自身も拉致され、廃墟となった動物実験施設に監禁されてしまいます。
施設でクラリスは、ハーゲンが新しい「息子」をもうけようとしていた恐ろしい計画を知ります。
父親から「この女を殺して忠誠を示せ」と迫られたタイソンに、クラリスは父親の非道を突きつけます。
その結果、タイソンは父親を殺し、自らも命を絶ちました。
救出作戦ではクレンドラーが重傷を負い、ルース・マーティンは記者会見で、アラスターから献金を受けて捜査を妨害した議員たちの存在を示唆します。
考察:クラリスは「裁き」を選んだのか
注目したいのは、クラリスがタイソンを止めるのではなく、彼が父親に手をかけるよう言葉で後押ししたように見える点です。
海外のレビューでも、彼女が父子を逮捕せず、より原始的な正義を選んだことに驚く声がありました。
映画でバッファロー・ビルを撃ったクラリスが、ここでも「法」より「裁き」を選んだと読むこともできます。
もう一つの軸は「父親」です。
クラリスは、ヒーローだと信じていた警察官の父親が、実は罪を犯していたという記憶にたどりつきます。
父を盲信してきたタイソンと、父の真実に向き合ったクラリス。
二人を鏡のように対比させたことで、タイトルの「家族こそ自由」という言葉が強い皮肉として響きます。
シーズン2が実現していれば、クレンドラーとの関係や、議員たちの闇、そして逃亡中のレクター博士の影が描かれた可能性があります。
未回収の要素が残ったまま終わったことは、本作最大の心残りといえるでしょう。
海外の評価と反響
評価スコア(2026年11月時点)
| サイト | スコア |
|---|---|
| Rotten Tomatoes(Tomatometer/批評家) | 43%(レビュー49件) |
| Rotten Tomatoes(Popcornmeter/観客) | 57%(250件以上) |
| IMDb(ユーザー評価) | 6.6/10 |
| Metacritic(Metascore/批評家) | 56/100(レビュー33件) |
| Metacritic(ユーザースコア) | 3.5/10 |
| Amazon(日本・Prime Video) | 3.9/5 |
なお、Rotten Tomatoesの批評家スコアは集計時期によって37%〜43%と幅があり、参照する資料によって数字が異なります。
主な賞の受賞・ノミネートは確認できませんでした。
褒められた点
もっとも高く評価されたのは、主演レベッカ・ブリーズの演技です。
米バラエティ誌は、彼女の存在が作品を大きく助けていると評価し、TVガイドも「クラリスというキャラクターに敬意を払った作品」として5点満点中4点をつけました。
ジョディ・フォスターの物まねに見えず、ちゃんと「クラリス本人」に見えるという声も多く寄せられています。
暗く重い雰囲気や、トラウマの描き方を評価する批評もありました。
批判された点
一方で、Rotten Tomatoesの批評家総評は「効果的に陰惨だが、物語は平凡」とまとめ、無難な刑事ドラマに収まってしまい、キャストと原作の力を生かしきれていないと指摘しています。
ロジャー・イーバート・ドットコムは、設定を複雑にしすぎていると批判しました。
また、レクター博士を出せないのに映画の出来事をくり返し思い出させる作りが、かえってその不在を目立たせているという意見もありました。
批評家アラン・セピンウォールは「悪くはないが、もっといいドラマはある」という趣旨の評価で、配信向けのR指定版ならもっと大胆になれたはずだ、という声も出ています。
SNSでの反響と日本での評価
打ち切りが報じられると、ファンからは「よくできた作品ほど打ち切られる」「シーズン1で終わらせないで」といった声が上がりました。
米国ではテレビ放送の数字は低迷しましたが、配信ではそれなりに見られていたと報じられており、テレビと配信の評価のずれが表れた作品ともいえます。
日本ではAmazonの評価が5点満点中3.9と、海外の批評家スコアよりも好意的な傾向です。
映画『羊たちの沈黙』への思い入れが強いファンほど、「その後」を見られること自体を楽しんでいる様子がうかがえます。
よくある質問(FAQ)
シーズン2はありますか?
2026年11月時点で、シーズン2の制作は発表されていません。
パラマウント+への移籍交渉が決裂し、事実上の打ち切りとなりました。
正式な打ち切り発表はないものの、続編の可能性はきわめて低いと見られています。
どこで見られますか?
日本では2022年1月にWOWOWで初放送・配信されました。
2026年11月時点では、Amazonプライム・ビデオで配信されています。
見放題の対象かどうかは時期によって変わるため、配信ページで確認してください。
レクター博士は登場しますか?
登場しません。
映像化の権利の関係で、本作ではハンニバル・レクターの名前を出すことすらできないためです。
ただし物語の中では、映画での出来事はすべて起きたことになっています。
映画『羊たちの沈黙』を見ていなくても楽しめますか?
ドラマ単体でも話は追えます。
ただ、キャサリンやルース・マーティンとの関係、クラリスのトラウマの重さは、映画を見ておくとより深く理解できます。
時間があれば、先に映画を見ておくことをおすすめします。
全部で何話ありますか?
全1シーズン・13話です。
1話あたりおよそ43分なので、全体で約9時間半で見終えられます。
まとめ
『クラリス』は、映画史に残るヒロイン、クラリス・スターリングの「その後」を、トラウマと再生の物語として描いたドラマです。
レクター博士の名前を出せないという大きな制約がありながら、クラリス自身の内面、家族の秘密、そして男性社会での闘いに焦点を当てた挑戦的な作品でした。
海外の批評家の評価は賛否が分かれ、刑事ドラマとして無難すぎるという声もありました。
一方で、レベッカ・ブリーズの演技は高く評価され、後半にかけて物語が盛り上がっていく構成を楽しんだ視聴者も少なくありません。
業界の複雑な事情でシーズン1だけで終わってしまったことは、本当に惜しまれます。
映画『羊たちの沈黙』が好きな方、ジョディ・フォスターのクラリスにもう一度会いたい方には、ぜひ見てほしい作品です。
全13話と見やすい長さなので、映画と合わせて一気に見るのもおすすめです。
関連商品
- 小説『羊たちの沈黙』(トマス・ハリス著/新潮文庫) ドラマの原作となった小説です。
- 映画『羊たちの沈黙』(1991年)Blu-ray/DVD クラリスとレクター博士の出会いを描いた原点です。
参考リスト
- Clarice (TV series)(Wikipedia英語版)
- Clarice: Season 1(Rotten Tomatoes)
- Clarice(Metacritic)
- ‘Clarice’ Silenced: A Negotiations Stalemate Dooms CBS Series’ Move To Paramount+(Deadline/Yahoo!)
- ‘Clarice’ To End After One Season On CBS(/Film)
- Silence of the Lambs CBS Sequel Finds New Clarice(The Hollywood Reporter)
- ‘Clarice’ Offers New Take on ‘Silence of the Lambs’(Next TV)
- ‘Clarice’ EPs On Why “It’s Her Time To Speak Now”(Deadline/Yahoo!)
- ‘Clarice’ Won’t Be Able To Mention Hannibal Lecter(/Film)
- Why You Won’t Hear About Hannibal Lecter In Clarice(Looper)
- How ‘Clarice’ Will Face Her Demons(TV Insider)
- Clarice star Rebecca Breeds says to watch the darkest episode yet ‘with the lights on’(Entertainment Weekly/Yahoo!)
- Clarice: Rebecca Breeds interview(Dazed)
- Rebecca Breeds on Life at the Top of the Call Sheet(Interview Magazine)
- Clarice Review(TV Guide)
- Clarice TV Review(RogerEbert.com)
- Clarice Episode 13 Review: Family is Freedom(Den of Geek)
- Clarice: Who’s Who in CBS’s Silence of the Lambs Reboot(Primetimer)
- 『羊たちの沈黙』スピンオフドラマ『クラリス』WOWOWで初放送 瀧本美織が吹替初挑戦(リアルサウンド)
